Special Education in Pakistan
−パキスタンにおける特殊教育−

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修士論文執筆プロセス

●2005年5月〜6月:パキスタンにて調査

●2005年 4月発表:パキスタンの障害者関連施設の職業訓練を中心とした課題とJICAの支援

●2005年 1月発表:パキスタンの障害者職業訓練所における−職業訓練指導を中心に−

●2004年10月発表:パキスタンの障害者職業訓練所における訓練指導者の資質に関する研究

問題

  パキスタンにおいては、大きく分けて連邦政府、州政府、NGOの3つの運営主体によって、障害児教育教育機関がそれぞれ運営を行っている。パキスタン全体における地方分権制の流れにより、障害児教育機関に関しても、州政府からDistrictおよびTahsilレベルへの運営の移行が進められているが、これらの地方政府運営による教育機関は実質的な権限は州政府にあると考えられる。また、連邦政府および州政府側を公共セクター、その他を民間セクターとし、ここに含まれる協会、財団等の組織、および、個人によって運営される全ての教育機関をNGOとする。公共セクターにおいては、同じ障害児教育という分野にありながらも連邦政府と州政府では異なった方針で教育機関の運営が行われている。障害者国家政策2002におけるストラテジーの中で「関連する省(連邦)・州政府の局、およびNGOの連携」が推奨されていることからも、これまでの連携の不足が問題となっていたことが読み取れる。また、民間セクターにおいては、運営主体が多様であることから明らかなように、公共セクターとは異なり、運営主体によって方針、規模等に大きな違いがあると考えられる。

  障害児教育の歴史的背景を踏まえれば、パキスタンにおける障害児教育機関の発展は、公共セクターに視点をおいた場合、以下の3段階に分けられる;

@依存型:公共セクターでのサービスが存在しないため、サービス提供は民間セクターで誕生し発展する。
A援助型:公共セクターにおいて必要性が高まるが、サービス提供の技術・知識が無く、民間セクターへの資金援助を行うことでサービスを補助する。
B自立型:公共セクターにおいてサービスの提供を開始する。

  1980年代以降の3つの運営主体である連邦政府、州政府およびNGOによる障害児教育の歴史においては、それぞれの運営主体が互いに影響しあいながら発展し、現在に至っている。特に、地域性、および障害種に関しては、障害児教育におけるニーズの高まり、海外による影響等により、特徴や課題が存在していると考えられる。以下、この二つの観点に関して述べていく。

  UNによる都市部での人口比率は、1990年において人口の約1/3に当たる32.0%であり、南アジア7国中で最も高い比率である(Silva. W. I., 2005)。一般的に途上国において、障害を有する者の2/3は、サービスの行き届かない農村部に住んでいるとされているが、パキスタンにおいても同じ状況にあると言える。世界で6番目、南アジアではインドに続いて2番目の人口(約1億5千万人)を擁するパキスタンは、大きく分けて4つの州から構成されており、それぞれの州において異なった言語、民族、文化を持っている。また、全国民の97%がイスラム教徒であるが、マイノリティーであるキリスト教徒、ヒンドゥー教徒、シーク教徒、仏教徒等に加え、イスラム教内での宗派の違いが存在し、これらは地域性を有する。国語としてウルドゥー語が採用されたが、一般的にはそれぞれの地域における言語が使われており、手話に関しても地域性があることからも明らかなように、様々な面で国全体での標準を設定することは難しい。よって障害児教育においても、中央で政府が講じる政策にはかなりの危険性を伴うことが指摘されている(Miles, 1998)。

  途上国では一般的に、都市部と農村部の地域格差や経済格差が激しいとされるが、都市部といえど、首都および地方の大・中・小の都市による格差や地域性も大きいことは明らかである。障害者関連機関に関しても、都市の規模によって機関数も当然異なっている。障害児教育の今後に関して、サービスの提供が特に公共セクターによってまったく行われていない人口の2/3を占める農村部における対策を行う場合、インクルーシヴ教育の導入を考慮して、様々な地域的な特性を持った公共および民間セクターの既存の障害児教育機関が専門的な役割を果たすセンター的な機関となっていくことが予想される。よって、地域性という観点は、障害児教育機関の現状を把握するために重要であると考えられる。

  医療面での発展により、障害の診断がある程度可能となったが、公共セクターにおいて公式に認可されている障害は、視覚・聴覚・知的(精神)障害および肢体不自由に加え、近年ようやく重複障害が含まれることとなったばかりの状況である。公共セクターによるサービスの遅れた障害カテゴリーでのNGOの誕生と発展、それに伴う公共セクターでの各障害カテゴリーでのサービス提供の開始と発展により、各障害カテゴリーに対する機関数の偏りがあることに加え(表1−8)、規模の違いは大きいと考えられる。また、これらは地域性とも密接に関わっていると考えられる。公共セクターにおいて限られた障害カテゴリーでの教育機関のみが存在しているのに対し、NGOにおいては、公共セクターでサービスの行き届いていない「重複障害」「重度障害」等のカテゴリーでの活動が行われていると考えられる。また、障害種に依存したサービスへのアクセスの不均等は依然として存在しており、運営主体側の対応の遅れとして捉えられる。これらの不均等は、障害の種類と程度による、機会均等や完全参加の基本的人権への制限に関連する問題といえる。

  以上の問題を踏まえ、パキスタンの障害児教育の今後のあり方を考察するために、同国における障害児教育機関の実態を調査し、運営主体による課題と特徴を明らかにするが重要と言える。ここで、地域性と障害種がキーワードとなる。

研究の目的

社会・文化・経済、および歴史的背景を踏まえた上で、運営主体に関した実態を明らかにすることは、今後、関係する公共および民間セクターでの運営の方針、通常教育におけるインクルージョンの方針、および海外による支援の方針に加え、関連する分野である、医療、福祉、ジェンダー、基本的人権、貧困、社会的弱者等に関する諸問題に対する政策の方針を決定するための重要なデータとなる。国際協力の視点においては、ニーズにあった支援を実施するために、実態調査とニーズ把握が急務と言える。特にパキスタンでは、国外および国内ですら情報収集が困難なため(Miles, 2002)、フィールドワークが有効な手立てとなる。ただし、ニーズ概念を基礎にしたサービス提供指向アプローチは、一時的に相手先のニーズを満たすことができても、その問題が起こっている原因そのものを解決していく取り組みとはならないため(久野・中西, 2004)、実態調査、ニーズ把握に加え、問題の根本の探求が必要である。開発の課題として捉えることによって、ニーズ概念を基礎とした短期的な目標を定めたプロジェクトに加え、長期的な目標を定めた開発計画を実行していくことが望まれる。国連レベルで2003年に採択された「障害者の権利条約」の作成、および、アジア太平洋地域で新たに決議された「新アジア太平洋障害者の十年(2003-2012)」によって、「インクルージョン」が最も強調されるキーワードである。インクルージョンを目指したアプローチとして、地域に焦点を当てたCBRプログラムが多くの途上国で実施されている。パキスタンにおいては、5歳から29歳までの教育を必要とする障害を有する者は、全体の5割を占めている(GOP, 2002)ことから、CBRにおいても教育は非常に重要であると言える。また、インクルーシヴな社会を作り上げる際の、学齢期でのインクルージョンがもたらす効果は大きいと考えられるという議論がAPISSE 25thにおいてなされた。同国における障害児教育は、質的にも量的にも不足しているにもかかわらず、国際的な動向によりインクルーシヴ教育の導入も行われようとしている。インクルーシヴ教育を実現させるためには、国内の障害児教育における専門的なセンター的機関が最低限必要である。これらの役割を果たす機関として、公共セクターの既存の障害児教育機関が挙げられる。通常教育との連携によるインクルーシヴ教育を進める一方で、障害児教育機関の発展は必要不可欠である。障害児教育機関の質的向上と量的増加は、分離教育を目指したものではなく、ソーシャルインクルージョンにおいて多く比重を占めるインクルーシヴ教育を進めるための、主要な手段の一つである。また、公共セクターに先駆けて誕生、発展し、公共セクターを支えてきたNGOの障害児教育機関は、今後も重要な役割を果たすと考えられる。

  以上の問題を踏まえた上で、本研究では、パキスタンの障害児教育機関の実態を調査し、3つの運営主体である、連邦政府・州政府・NGOに関し、障害種および地域性を観点にして、特徴と課題を明らかにすることを目的とした

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