フェイ・グレン・アブデラ   「21の看護問題」

 

1.フェイ・グレン・アブデラ

  フェイ・グレン・アブデラはニューヨーク市に生まれた。 1942年フィトキン記念看護学校(現在のアン・メイ看護学校)を次席で卒業。

 

 その後コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジで理学博士号(B.S)、文学修士号(M.A)、教育学博士号(E.D.)を取得した。博士号取得は1955年である。

 

 1970年にアブデラは合衆国公衆衛生局の主任看護官に任命され、以来17年間その地位にあった。これと平行して1982年には、副医務長官に選出された。これは看護職従事者としても、女性としても初めてのことであった。この職位につくことによってアブデラは、アメリカ看護界の中心的存在となり、また医務局では長期ケア施策の主席顧問官の役割を果たすことになった。

 

アブデラは看護が専門職としてそれにふさわしい地位と自律性を獲得するためには、しっかりとした知識基盤が不可欠と考えた。また、看護は医学の支配を離れて、包括的な患者中心のケアを理念とする方向を目指す必要があると考えた。こうしてアブデラとその同僚は、21の看護問題を明らかにし、それを学生の教育および評価に適用した。

 

この21の看護問題というタイプ分類は「患者中心の看護」(Patient-centered Approaches to nursing)の1960年版において初めて紹介され、看護界に大きな影響を与えた。

 

 

 

2.理論開発の背景

アブデラの業績を考える上で、21の看護問題というタイプ分類が生まれた背景を無視することは出来ない。

 

アブデラは、看護が専門職の地位を獲得することを阻んでいる最大の要因の一つは、看護独自の科学的な知識体系が欠けていることであると考えた。既存の教育システムでは、学生や実践家にテクノロジーの変化に対応する手段を教授することが出来なかった。

 

 アブデラのモデルの基本にあるものは、問題解決法(Problem-solving method)である。このモデルは、看護が直面している諸問題を解決するために考案された。

 

 アブデラは、「看護とは、個々の看護婦の態度、知的能力、および技能を形成することにより、病気・健康を問わず、人々が自分自身の健康上のニードに対処できるように援助したいと思う気持ち、およびその援助に必要な能力を生み出すアートであり、サイエンスである」と述べている。

 

 アブデラの21の看護問題は、ヘンダーソンが提唱した14の基本的看護ケアの構成要素、および看護問題を分類するためにアブデラ自身が行った諸研究に端を発している。

 

アブデラは、看護問題に対して問題解決法を応用すれば、テクノロジーの発展に対応していけると考えた。

 

 

 

3.主要な概念と定義

アブデラは、看護を次のように定義している。

(看護は)個人と家族に対するサービスであり、ひいては、社会に対するサービスである。看護は、個々の看護婦の態度、知的能力、および技能を形成することにより、病気・健康を問わず、人々が自分自身の健康上のニードに対処できるように援助したいと思う気持ち、およびその援助に必要な能力を生みだすアートとサイエンスの上に築かれている。

看護は一般的な、あるいは特定の医学的方針に沿って行われることもある。

 

 このようにアブデラは、親切で愛情深いだけではなく、知識にあふれ、有能で、確かな技術を備え、患者にサービスを提供する、という看護婦像を描いている。

 

 アブデラの著書における第二の主要概念は看護問題である。ここでいう看護問題とは患者ケアにおける看護婦の役割を明確にするために用いるものである。

 

「患者がもたらす看護問題とは、患者あるいは家族が直面している状態であり、看護婦は専門的機能を働かせることにより、彼らがそれに対処できるよう援助できる。」問題には顕在的なものと潜在的なものがあると述べている。

 

アブデラは患者中心のアプローチを打ち出しているが、問題を明確化して解決するのは看護婦であると考えている。そこで問題を明確化して分類したものが、21の看護問題として提示されたものである。

 

この21の看護問題は大きく三つの要素から構成されている。その三つの要素とは@患者の身体的・社会的・情緒的ニード、A看護婦と患者の間の対人関係のタイプ、B患者ケアに共通の要素、である。

 

  21の看護問題とは

   1)適切な衛生状態および身体的安楽を維持する。

   2)最適な活動を推し進める:運動、休息、睡眠

   3)事故、傷害、その他の外傷、および感染の予防を通じて、安全を促進する。

   4)適切なボディ・メカニクスを保ち、身体の変形を予防矯正する。

   5)身体の各細胞への酸素供給の維持をはかる。

   6)身体の各細胞への栄養供給の維持をはかる

   7)排泄機能の維持をはかる。

   8)体液・電解質バランスの維持をはかる

   9)疾患によってひきおこされる諸状態に対して、身体が示す生理的反応を理解する。

     病理的・生理的・代償的反応

   10)身体の調整機構および機能の維持をはかる。

   11)感覚機能の維持をはかる。

   12)肯定的および否定的な表現、感情、反応を明らかにし、受け入れる。

   13)情緒と器質的疾患の相互関係性を明らかにし、受け入れる。

   14)効果的な言語的・非言語的コミュニケーションの維持をはかる。

   15)生産的な対人関係の発展を促す。

   16)個人の精神的目標を達成する。

   17)治療的環境をつくり出す、そして/または、それを維持する。

   18)さまざまな身体的・情緒的・発達的ニードをもつ人間としての自己への認識を高める。

   19)身体的・情緒的制約のなかで、最大限可能な目標を受け入れる。

   20)病気から生じる諸問題を解決する助けとして、コミュニティの資源を活用する。

   21)病気の発生に影響を及ぼす因子として、社会的問題の役割を理解する。

 

  そして、アブデラの著書における第三の主要な概念は問題解決である。

 問題解決とは「顕在的あるいは潜在的な看護問題を明確化して解釈・分析し、それらを解決するため の適切な方策を選択する過程」である。看護婦は最良の専門的看護ケアを提供するために問題解決能力を持たなくてはならない、とアブデラは述べている。

 

  問題解決の過程は、看護過程の諸段階と相通じる物があり、問題の明確化、データの選択、仮説の立案・検証・修正、という手続きからなっている。アブデラは問題解決の過程が適切に展開されないと、患者は質の高い看護ケアを受けることが出来ない、と述べている。

 

  看護は、援助を専門とする職業である。アブデラのモデルでは、看護ケアとは、対象者のニードの充足、自助能力の回復、障害の軽減を目標として、その人に対して、あるいはその人に代わって何らかの行為を行なったり、その人に情報を提供することである、とされている。

 

 方略としてどのような看護ケアを用いるかは、問題解決方法に即して決定される。看護過程は問題解決過程であり、看護問題を正確に明確化することが最も重要である。

 

アブデラは患者中心のアプローチを打ち出しているが、問題を明確化して解決するのは看護婦であると考えている。つまり、アブデラの研究の焦点は患者自体ではなかった。アブデラは人々が経験している問題を看護婦が明確化し、看護婦がその明確化した問題の緩和をはかることによって、援助の過程が進行すると考えている。

 

 

 

4.理論上の主張

アブデラの主張には次のようなことが繰り返し述べられている。

 1)「看護問題および看護行為のタイプ分類は看護実践の原則であり、これこそが看護独自の知識を構成するものである。」

 

 2)「看護問題の正確な明確化は、看護婦が患者の問題を解決するための手段を選ぶ際の決め手となる。」

 

 3)看護の核心をなすものは、患者/クライエントの問題であり、それは患者の問題として患者に現れているものである。

 

 

 

5.看護界による受け入れ

  1960年に「患者中心の看護」が出版された当時、看護は、専門職としての自らの実践領域と、看護という科学的知識に基づく活動の理論的根拠を明確にしようと苦闘していた。こうした時期に21の看護問題という考え方が発表され、実践、教育、および研究の全分野に絶大な影響を及ぼすことになったのである。そしてその考え方は、現在の看護診断へとつながっている。

 

 

 

6.実践

  アブデラが提示した21の看護問題は、看護実践の組織化と系統化に寄与している。21の看護問題という科学的基盤に基づくことにより、看護婦は、自分の行為の根拠を理解できるようになった。

 

臨床に携わる看護婦は、21の看護問題を用いて、患者のアセスメント、看護診断、実施方法の計画ができるようになった。

 

 こうした問題解決過程を通じて、看護婦は、患者の病状ではなく、患者自身を中心に考えるようになった。21の看護問題というタイプ分類と問題解決過程を臨床の現場で用いることにより、看護婦は実践に科学的基盤を与えたのである。

 

 

 

7.結論

問題解決の重要性は時間と空間を超えており、ゆえに、それを重視することによって、看護ケアに絶えず変化や進歩をもたらすことが出来るのである。問題解決過程は今日の看護過程の前身であり、21の看護問題は、今日の看護診断の前身であることは明らかである。

 

 

 

引用・参考文献

 1)F.G.Abdellah著、千野 静香訳、患者中心の看護、医学書院

 2)都留 伸子監訳、看護理論家とその業績、医学書院

 3)ライト州立大学看護理論研究グループ著、南 裕子・野嶋 佐由美訳、看護理論集-看護過程に焦点をあてて

 

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