わき毛のはなし
私は4月3日生まれなので、幼い頃は非常に体格がよかった。
「デカい女だった私」で書いたように、背も高かったし、体つきの成長もすこぶる早かった。
男子より女子のほうが発育がよい幼年時代。
おまけに女子の中でもめちゃめちゃ発育がよい私。
足が速くて、喧嘩も負けない。口も達者で、腕相撲も強い。
そんな利点の代わりに、悩みもやっぱりあった。
それは成長が早すぎることである。

忘れもしない小学校5年生の頃。
私は「わき毛」が生え始めていた。

最初は脇がジョリジョリ。
おかしいなぁと思いながら、不安な面持ちで脇を毎日観察(!?)していると、それはどんどん伸びてきた。

周囲の少女たちはみな、脇をおおっぴらにして、走り回っている。
おおっぴらにしてるつもりはないのだろうが、私にはそう見える。
私は校庭の隅のジャングルジムに絡まりながら、じっと自分の脇と友人の脇を、羨ましげに見比べる。
小学校五年生で腋毛が生える女の子は、そうはいない。みんな中学くらいから私に追いついてきた。
だが当時は、周囲で腋毛が生えているコなんて私だけであった。なんという腋毛の孤独。

私はお道具箱のハサミで、日夜腋毛をカットしていた。
小学生なので、脱毛用のハサミやカミソリや、シートがあるなんて知りもしない。毛抜きで抜くという発想もない。
今みたいにネットでサクッと検索すれば、処理の仕方がわかるような時代でもない。
どうしよう、どうしよう・・・。
私は困り果てながら、日夜部屋でコツコツと、腋毛と格闘していた。
だが所詮、工作用のハサミ。しょっちゅう肉もいっしょに切ってしまい、ワキは血だらけ。非常にいたい思いをしていた。

こんなこと友人に相談できるような年頃でもなかった。
今ではずいぶん汚れてしまい、どんな下世話な話もできるようになってしまったが(どぶ水のようになってしまいました・・)、当時はそんなこと少しも友人に話せない。
第一打ち明けられたところで、友人もそんなこと言われてもどーすりゃいいのか知らんのだ。
母や姉に相談すればよいだろうというものだが、私は当時ひどい癇癪モチだった。
こんなこと相談すると、恥ずかしさのあまり家族に暴力をふるい、喧嘩になる虞があったし、相談することを想像するだけで恥ずかしさで体が身震いした。

季節は夏である。
いくら寒い北海道でも、みんなTシャツくらい着る。長袖はヘンである。
私は、少し腋毛が残る脇のまま、Tシャツで学校に通わねばならなかった。どれだけ恐ろしかったことだろう。

そんなあるとき、クラスの隣の男の子が、私をじっと見ていて、おもむろに、言った。
「おまえ、わき毛はえてるぞー」

・・・・!!!

もう言葉にもならない。なんという直球勝負かっ!
「は・・・はえてないよ・・」
「うそだよ。みしてみろよ」
「はえてないよ!!」

子供は残酷である。人間は残酷である。
私はこのとき、性悪説を悟った。人間の残酷さをここに見ていた(こんなところに・・)。
見て見ぬフリしてくれりゃーいいのに、その人は私の脇を見んとす。
私は今まで生きてきたが、後にも先にも、このときほど激しく人に抵抗したことはなかった。「いやじゃあああーー!!いやぁじゃああああ〜〜!!

やがてその人は、私のあまりの拒否にドン引き、脇を見ることを諦めた。
私は急いでその日家に帰ると、姉の部屋をあさり、「毛の剃れるモンはいねぇがー。。毛の剃れるもんはいねぇがー・・・」とナマハゲのごとく、姉の部屋を物色した。
困ったときの姉頼みである。
私はよく、何か困ったことがあると、姉の部屋に忍び込んで、物品を漁っていた(一家に一台、いてほしくない妹)。
かくて私は姉の「わきそり用カミソリ」を発見した。
それを発見したときの心の平安は、コロンブスにも勝てるくらいだ。

以後私は、姉のわきそり用カミソリで、わきを剃るようになった。
姉の部屋に私のわき毛を落としてゴメン。(←それだけかよ)
隣の席の少年は、私にわきげが無いのを納得はしたが、剃ったのがバレているようで、いつも毛の話をしては私のほうを見たり、私が手を上げるときには私の脇を見たりしていた。
その人に「わき毛」というアダ名をつけられやしないかと私は恐れていた。
好きな人にわき毛がバレたらと思うと、きが気じゃなかった。
だいいちワキ毛は、十分イジメにあってもおかしくないインパクトである。

だが私は、そんな百余ものワキ毛に関する恐怖に耐えた。
ワキ毛に負けない強い子の私は、隣の席の視線など気にもしないぞと、がんばった。
のちその少年は私のことを好きだという噂が立ったが、きっと「腋フェチ」だったのだろう。

そうして私は、そんな苦しみや恐ろしさを乗り越えてすくすくと育ち、今に至る。
このあいだ下宿に帰ったら、下宿の後輩に言われた。
「あ、先輩。このまえ腋毛に剃り残しがありましたよ」
「うるさいっ!バカー!バカー!。人間わき毛くらい生えてるんだよー!バカー!バカー!」

あんなにワキ毛におびえていたのに。
ずいぶん私も強い子に育ったものである。(でも怒り方が子供だ・・・)

2007/5/16