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 16.疑問語・不定語

         16.1 疑問語           16.2 不定語  16.1 疑問語 16.1.1 ダレ・ドナタ 16.1.2 ナニ(ナン)   16.1.3 ドレ 16.1.4 ドコ 16.1.5 ドチラ・ドッチ 16.1.6 イツ 16.1.7 ドノ・ドンナ・ドウイウ・ドノヨウナ 16.1.8 ドウ・ドウヤッテ・ドノヨウニ 16.1.9 ナゼ・ドウシテ・ナンテ゛ 16.1.10 ドンナニ・イクラ・ドレクライ・ドレホド・ドレダケ 16.1.11 イクツ・イクラ  16.1.12 その他   16.2 不定語          16.2.1 +カ、+モ 16.2.2 +デモ/ダッテ

16.1疑問語

「疑問語」とは、ある物事が不明の時に、それをたずねるために使われるこ とばです。よく「疑問詞」とも言われますが、一つの品詞と考えるには都合の 悪いものです。英語などでは独立した品詞としていますが、他の品詞とは分類 の基準が違い、そのために交差分類となってしまうのです。 それで、品詞として「疑問詞」とするよりは、ある機能を持った単語のグル ープとして、「疑問語」と呼んでおくことにします。  この章で扱うのは疑問「語」です。疑問「文」をめぐるさまざまの問題は、 「42.疑問文」で扱います。  ではまず、基本的な疑問語を品詞別に並べてみましょう。   名詞 だれ・どなた 人 なに(なん) 物 どれ 選択(物) どこ 場所 どちら(どっち)方向、場所、選択(二者の比較) いつ 時 いくつ 数 いくら 値段 連体詞 どの 選択(人、物) どんな 性状 どういう 性状 どのような 性状 副詞 どう 様子 どのように 様子 なぜ・どうして 理由 どんなに 程度    疑問語の中で多いのは「こそあど」の体系の「ど」のものです。上にあげた 中で、「どれ・どこ・どちら・どの・どんな・どう」とそれと他の語との複合 した形「どういう・どのような」などがあります。それ以外のものと言うと、 「だれ・なに・いつ・いくつ・いくら・なぜ」だけで、数が多くありません。  日本語の疑問語は、指示語の体系の中に位置付けられ、指示語に対応する意 味の疑問表現となっているというのが大きな特徴です。 なお、「だれか・なにか・どれか」などと一まとめにして「不定語」とする 考え方(つまり「疑問語」と呼ばない)もありますが、「疑問詞」という言葉 に慣れている点も考慮して、この本では「疑問語」と呼んでおくことにします。  では、一つ一つの用法を見て行きましょう。

16.1.1 だれ・どなた

   名詞の中の[ひと]名詞に対応する疑問語は「だれ・どなた」です。  この二つの違いは、言うまでもなく丁寧さの違いです。     あの人はだれですか。     おまえはだれだ。     あの方はどなたですか。    あなたはどなたですか。 よく言われるように、最後の例は不審な人に対する詰問の調子があり、実際に はあまり使われないでしょう。失礼でないようにすると、     あの、失礼ですが、御名前は・・・ のような、どうもはっきりしない聞き方になってしまいます。「名前の丁寧な 聞き方」が型として確立していないのは、日本語教師にとっては不便なことで す。  さて、「だれ・どなた」は基本的には名前を聞く疑問語ですが、例えば、ボ ヤ騒ぎがあった現場での会話で、     「責任者はだれですか。」「田中一郎です」「その人はどこにいます     か」「私です」 というのは少し変な応答です。     「責任者はだれですか」「私です」 というのが自然でしょう。つまり、ここでの「だれですか」は名前を聞いてい るのではありません。その当事者を探し出し、特定したいだけです。ある内容 をもったものを特定する、というと「どれ」「どのN」が思い浮かびますが、 ここで、     「責任者はどの人ですか」 とすると、「この場にいる」ことを前提とした聞き方になってしまいます。い るかどうかわからないなら、やはり「だれですか」とすべきです。「どのN」 は、ある範囲の中に該当するものがある場合に、それをたずねる疑問語です。  名前がわかっても、その人が特定できない場合もあります。     「この年賀状の田中よし子って、誰だい?今年もよろしく、って。」     「え?ああ、隣のうちのおばあちゃんよ。」  人に関して使われる疑問語は、「だれ・どなた」「どのN」以外にもまだあ ります。     「今度のPTA会長はだれですか」「山田和夫さんです。」「その山     田さんというのはどういう人ですか」  名前がわかっても、その人物の社会的地位・性質・特徴などはわかりません。 「どういう人」「どんな人」などの疑問表現が必要になります。上の例の「ど ういう人」は、何を聞いているのでしょうか。「どんな人」とすると、予想さ れている答えはどう違ってくるでしょうか。重なる部分が大きいと思いますが、 多少の違いはありそうです。     「どういう人ですか」「農協の理事ですよ」     「どんな人ですか」「物腰の柔らかそうな人ですよ」  [ひと]名詞の連体修飾の疑問表現の中で、「どの」は指示作用のみ、「ど ういう」は経歴・社会的地位などその名詞にまつわるさまざまのこと、「どん な」は人柄・体格などその名詞そのものの性質などを求める表現のようです。  連体修飾の疑問表現は、「どの・どういう・どんな」のほかに「どのような」 もあります。これらの使い分けが、学習者には難しいところです。[ひと]名 詞だけでなく、一般の[もの]名詞の場合も見てみましょう。

16.1.2 なに(なん)

 [もの]名詞の基本的な疑問語は「なに(なん)」です。     1「これは何ですか」「データベースです」     2「データベースというのは何ですか」「ええと、コンピュータソフ      トの一種で、・・・」     3「このお金は何ですか」「いわゆるワイロです」  名前を聞く場合(1)と、名前はわかっていても、その具体的な内容が分か らない場合(2・3)にも使われます。後者は上の「どういう人」の例に似て います。      データベースというのはどういうものですか。 と近い言い方です。  「どんなもの」とすると、大きさ・形などを聞くときにも使えます。      CD-ROMというのは 何/どういうもの/どんなもの ですか。  「何/どういうもの」なら、「データを記録するための媒体の一種で、・・・」 となり、「どんなもの」なら、「見たところは音楽CDと同じですが、データ を・・・」となるでしょうか。  「何」は[もの]だけでなく[こと]の名詞にも使えます。      恋とは何か。      人生で、いちばん大切なことは何ですか。         「何」は状況の原因や説明を求める場合にも使われます。      何だ。どうしたんだ。      その笑い方はいったい何ですか。      この騒ぎはいったいどういうことですか。  この「何」は「もの」ではなく、「(どういう)こと」に置き換えられます。      何を 怒ってるの/そんなに焦っているんだい?  この「何を」は「怒って/焦っている」原因を聞いています。つまり、「ど うして」に近い意味合いになっています。      「あの人、いったい何?あの態度は。失礼じゃない。」「まったく      ねえ。何なんだろうね。」  ここまでくると、情報を求めるというより、「理解をこえている(つまりわ からない)」という単なる非難の気持ちを表すものと言っていいでしょう。ま た、「あの人、何?」と人に関して「何」が使われています。  感嘆表現の「なんと/て・・・」は疑問から大きく離れています。  なお、「何」の読み方は、「の・と・で」などが続く場合、「なん」になり ます。つまり「n/t/d」が続く場合です。どうしてかは、音声学の本を見 てください。それ以外は「なに」です。ただし、「と」の場合は「なにと/な んと」のどちらもあります。助数辞が付いたり、複合語になる場合はまた別で、 「なん」と読むことが多くなります。

16.1.3 どれ

 「どれ」は、ある限定された範囲の中に該当するものがあると知っていて、 聞く場合に使われます。知らなければ「なに・なん」が使われます。ちょうど 「×どのもの」という表現に当たります。      この中でどれがいちばんいいですか。      果物の中で何がいちばんすきですか。(?どれ)  「Nのドレ」という言い方もできます。      この中のどれがいちばん好き?      A、B、C、Dのどれを選びますか。  述語を含んだ文相当のもの(「名詞節」)も受けられます。      大金持ちになるのと、美女にもてるのと、ノーベル賞をもらうのと、      どれがお望みですか。(アラジンのランプ?)

16.1.4 どこ

   何かの所在がわからないときと、ある場所の名前がわからないときに使いま す。ちょうど「だれ」が名前を聞く場合と、人を指示する場合があるのと同じ です。      田中さんはどこにいますか。      ここはどこですか。    「どこ」は場所を尋ねるのが基本ですが、会社名や学校名を聞いたりする場 合にも用いられます。      「お勤めはどこ?」「ソニーです」  「Nのどこ」「どこのN」という言い方もあります。      「お住まいは?」「東京です」「東京のどこですか」「八王子です」      これはどこの車ですか。(生産国または製造会社)      あの人、どこの人? (国籍、所属など)  具体的な場所だけでなく、人の性格なども指すことができます。これは形式 名詞の「ところ」の用法の反映と考えられます。(→「14.3 ところ」)      彼女のどこ(どんなところ)が好きなんだい?

16.1.5 どちら・どっち

 「どちら」「どっち」は方向を示します。「どっち」は話しことばです。      南はどちら/どっち ですか。      出口はどっち?  「どちら」は方向だけではなく、「どこ」の丁寧な言い方として、場所を示 したり、さらには会社や学校の名前を聞いたりする場合にも使われます。  部長は今どちらですか。(×どっち)      「大学はどちらですか」「千葉大です」(×どっち)  また、二つのものを比較する文型でも使われます。このほうが初級の学習者 にはなじみの深いものでしょう。この場合は「どっち」の丁寧な言い方です。      りんごとみかんとではどちら/どっち が好きですか。  「どちらのN」「Nのどちら」の言い方があります。      どっちの女の子が好み?      AとBの/この二つの どちら/どっち がいいですか。      どちらの大学ですか。(A大学かB大学か/大学の名前を聞く)  「AかBか」の意味なら、「どっちの大学」と言えます。  人の名前を改まって聞くときの、      どちら様ですか。(×どっち様) という使い方もあります。

16.1.6 いつ

 [とき]の名詞の疑問語です。「×どのとき」という表現に当たり、時間の 一点を指すのが基本です。時間の長さを表すには、「いつからいつまで」とい う言い方があります。      いつ出発しますか。      「先生はいつ研究室にいらっしゃいますか」「月曜日から金曜日ま      で毎日います」(答えは長さ)      いつからいつまでが春休みですか。  「何時・何日・何月・何年」などの「何+序数辞」の表現と対応します。      何時に出発しますか。      休館日は何曜日ですか。(いつですか)  期間の場合は、「何時間・何日(間)・何ヶ月・何年」となります。      春休みは何日ありますか。  時の疑問表現としては、「どんな時・どういう時・どのような時」という言 い方もあります。      「いつ国の家族に電話をしますか」「日曜日にします」      「どんな時に国の家族に電話をしますか」「寂しい時にします」      どういう時に、自分のことを「おれ」と言いますか。      人は、どのような時に自分の過去を振り返るのか。  時の一点を示すよりも、その「時」の特徴を聞きます。「場合」の意味に近 くなります。なお、「どんなN」はふつうその名詞自体の性質を聞いています が、「どんな時」はその「時」自体の性質ではありません。(時が寂しい?) したがって「どういう時」でも同じです。「どんな」と「どういう」の違いは あまりありません。「どのような」は改まった表現です。(→16.1.7)  いくつかの中から選ぶ場合も、「どれ」ではなくて「いつ」です。      来週、再来週、その次の週があいていますが、いつがいいですか。 ただ、「時」というより「場合・機会」というような意味合いだと、「どれ」 も使えるようです。      上映時間は3時・5時・7時の3回ですが、どれ/いつ/何時の       にしますか?

16.1.7 どの・どんな・どういう・どのような

 連体修飾の疑問語で、初めの三つの使い分けが少し面倒です。「どのような」 は「どんな」の改まった形と言っていいでしょう。  「どの」は「×どのもの、どのところ、どのとき」という言い方がありませ ん。かわりに「どれ、どこ、いつ」を使います。指示語の「−の」の類は指示 作用そのものを表すわけで、「どれ、どこ、いつ」は、「選択・ところ・とき」 という基本概念と「−の」の持つ指示作用が結合した疑問語だといえます。  一方、「どんな・どういう」は、「もの・ところ・とき」と組み合わせた形 で使えます。その性質や由来・背景などを尋ねる疑問語です。  「だれ」は[ひと]であるだけでなく、「名前を聞く」という別の要素が加 わっています。それで、「どの人」と対立します。  「どんな」は、前に述べたように、形・性質などそのもの自体に重点を置い た疑問語です。  形容詞の連体修飾に対応する疑問表現は「どんなN」です。その名詞の外的 特徴・性質・状態などを聞きます。      「どんなカバンですか」「赤いカバンです」       「どんな人ですか」「ちょっとかわった人です」  また、「どんな」は「例えば・・・」という意味合いを持つこともあります。      「どんな食べ物が好きですか」 という問いに対して、      「甘いものが好きです」      「なっとうやつけもの、佃煮などが好きです」 という二つの答え方があります。後のほうは、「日本的な食べ物」ということ でしょう。      「どんな人が来ましたか」「お医者さんに、弁護士さん、大学の先      生や、企業の研究所の人などです。」  「どんなこと」は、その事柄の内容・特徴、あるいは一例を聞いています。      それはどんなことですか。  「どういう」は「どんな」と似ていますが、もう少しひろがりがあります。      「その人はどういう人ですか」「ええと、若いときに反戦運動をや       っていて、それで、・・・」 その名詞の現在の状態だけでなく、背景や来歴なども含められます。  また、「こと」とともに使って、      それはいったいどういうことですか? とすると、事柄の内容だけでなく、そのことの背景、どうしてそんなことにな ったのか、をたずねるという意味合いも持っています。  しかし、「今までどういうことをやりましたか」の場合は、「どんなこと」 とあまり違いません。

16.1.8 どう・どうやって・どのように

 連用修飾の疑問語のうち、まず「様子」を表すものから見ていきます。      この漢字はどう書きますか。      駅へはどう行きますか。      この二つはどう違いますか。  「どう」はある動作のやり方・物事の様子を聞くものです。また、言語・思 考の内容を聞く場合にも使われます。      その時、相手はどう答えましたか。(何と)      現在の日本語教育についてどう思いますか。  何かのやり方を聞くことが、正しいやり方を指示してもらうことになる場合 は、「どう〜したら/すればいいですか」の形で聞くことが多くなります。      ここのところはどうつなげばいいんですか。      そうですね。どう言ったらいいでしょうか。  「どう+する」は、具体的な動作だけでなく、相手の判断や、状況の説明な どを聞く場合にも使われます。      ホームシックになった時、どうしますか。      困りましたね。どうしましょうか。      どうしましたか。気分が悪いんですか。      どうしたら上手に日本語が話せますか。  方法の聞き方として固定したものが、「どうやって」です。「どうして」は 理由を聞くのがふつうになってしまいました。      この荷物はどうやって運びますか。      これはどうやって作りますか。  「どうやって」は動きの様子などを表すことはできません。      相手はどう動いたか。(×どうやって動いたか)     ×この二つはどうやって違いますか。  「どのように」は「どう」の改まった言い方です。      古代人はどのように(して)巨石を運び、積み上げたのか。      どのようにすれば、顧客の満足が得られるか。      この書類は、どのようにいたしましょうか。  名詞文の述語となる「どう(です)か」は、相手の評価を聞いたり、慣用的 な言い方として、何かを勧めたりするときに使われます。この場合は「いかが ですか」という丁寧な言い方もできます。      彼のスピーチはどうでしたか。      これはどうですか。      飲物はいかがですか。  次の例は、「判断保留」でしょうか。      「この仕事は彼に頼みますか?」「さあ、どうですか・・・。彼が      何と言うか・・・」  それから、複文の用法で、「〜かどうか」という形があり、疑問文を名詞節 にするときに使われます。(→「57.4 か(どうか)」)      できるかどうかわかりません。      

16.1.9 なぜ・どうして・なんで

 理由・原因を聞きます。      なぜ/どうして 日本語を勉強しますか。      なんでそんなこと言うの?  「です」をつけて短い文にすることができます。      なぜ/どうして ですか。 これは、「日本語を勉強するのは〜」という形の省略と考えれば、「57.5 強調 構文」になります。  「どうして」はもともとは「どう+する」ですが、現在は理由専門と言って いいでしょう。「どうしても」という不定語では元の意味がいくらか残ってい ますが。      どうしても/どうやっても 持ち上がらなかった。  「なんで」は「手段」の補語を聞く形と同じです。この「理由」では、かな りくだけた話しことばです。      この細い線はなんで書いたんですか。鉛筆ですか。(手段)      こんな文章、なんで書いたの?あたしへの当てつけ?(理由)

16.1.10 どんなに・いくら・どれ/どのくらい・どれほど・どれだけ

 程度の連用修飾の疑問表現です。形容詞や状態性の動詞の一部を修飾します。 これらは従属節の中で、別の用法で使われることが多いのが特徴です。   「どれ/どのくらい」は主節で使えます。      今度の試験はどのくらい難しいですか。先学期ぐらいですか。  「どれ/どのくらい」は「程度」以外に「数量」を表します。「11.副詞」のところでも 見たように、程度と数量は密接な関係があります。      深さはどれくらいですか。      お金はどのくらいありますか。      どのくらい勉強すれば、合格するだろうか。 最後の例は従属節に疑問語が入っている例です。  「どれ/どのくらい」は連体修飾にも使えます。      どのくらいの大きさでしたか。      どれくらいの(数の)人が来てくれるでしょうか。  「どんなに」はふつうの疑問文には使われません。感嘆文や修辞疑問、それ に「〜ても」を使った従属節に使われます。その場合は疑問語とは言えません。 (→「41.感嘆表現」「42.疑問文」「49.条件」)     ×どんなに 大きい/大変ですか。      どんなに美しかったことか。      来てくれれば、どんなにうれしいことでしょう(か)。      どんなに忙しくても、家族に手紙を書いた。      どんなに努力しても、たぶんできないだろう。  程度を表す「いくら」は単文では使えません。複文で「〜ても、〜」の文型 でよく使われます。     ×いくらがんばりましたか。      いくらがんばっても、できなかった。      いくら難しくても、じっくり考えれば(そのうち)わかるよ。      いくら難しいといっても、何とかなるでしょう。  次の例は「程度」とは言い難いですが、似た用法です。      いくら大学生でも、そのくらいの常識はあるだろう。  「どれだけ」「どれほど」は用法が近いものです。単文の疑問文では数量を 表します。「どれほど」のほうが改まった言い方です。      材料の残りはどれだけ/どれほど ありますか。      残りはどれだけですか。      どれほど御用意いたしましょうか。  程度を表す場合は、修辞疑問的です。      この本のために、どれほど多くの時間を使ったことか。      お前のせいで私たちがどれだけ苦労させられたことか。  複文で「〜ても、〜」と共に使われますが、「どんなに」の方がふつうです。      給料がどれほど/どれだけ 少なくてもがまんします。      どれほど/どれだけ(たくさん)お客が来ても大丈夫です。      外国人にとって、漢字がどれほど/どれだけ難しいか、日本人には      わからないだろう。

16.1.11 いくつ・いくら

 「いくつ」は数を聞く疑問語です。年令を聞く場合にも使われます。      リンゴはいくつありますか/いくつですか。      もうおいくつになられましたか/おいくつですか。  「いくら」は値段を聞く疑問語です。(上の「程度」の例も見てください)      これはいくらですか。      これはいくらで売っていますか。      ミカンをいくら買いましたか。 「いくらのN」の形にもなります。      いくらのパソコンを買ったんですか。

16.1.12 その他

 その他の疑問表現として、「なん」と助数辞の組み合わせ「何人・何枚・何 キロ・何日」などがまずあります。これらは助数詞つまり名詞ですから、「N の+」「+のN」のどちらの形にもなります。      人は何人来ましたか。      これは何キロですか。      何枚の紙がなくなりましたか。      彼らのうちの何人が賛成しましたか。 ただし、助数詞としてのふつうの位置、つまり動詞の前に置くのがふつうです。      紙は何枚なくなりましたか。      彼らのうちで、何人(が)賛成しましたか。  それから、「なに」のものがいくつかあります。      あの人は何人(なにじん)ですか。      何事があったのですか。      お前は何者だ。  その他、「幾人、幾日、幾たび、いかほど」などいろいろありますが、文法 的にはそれほど問題がなさそうですので、説明は加えません。

16.2 不定語

疑問語に「か・も・でも」をつけたものを不定語と呼ぶことにします。何を 指すかが定まっていない、不定である、という意味の呼び名です。 具体的な例は、次のようなものです。 だれか・だれも・だれでも なにか・なにも・なんでも どこか・どこも・どこでも どれか・どれも・どれでも      どちらか・どちらも・どちらでも 疑問語との組み合わせによっては、「×なぜも」のように存在しない場合も あり、また「どうも・どうか」のように「どう+も/か」とは考えにくいもの、 つまりもう分割できない一語と考えられるものもあります。 「+か」は、不定であること、はっきり指定(指示)できないことを表しま す。「+も」は全部がそうであること、「+でも」は任意の対象がそうである こと、を表します。と言ってみてもよくわかりません。「+でも」の用法は後 で考えてみることにして、まず「+か」と「+も」を考えてみます。

[格助詞との接続]

 「+か」に格助詞が付く場合(つまり補語になる場合)、「が」「を」は省 略できます。そのほかの格助詞は「か」の後ろに付きます。      だれか(が)来ました。      何か/どれか(を)買います。      どこかへ行きました。(話しことばでは「へ」の省略可)      どこかにあります。      だれかに渡しました。      どちらかで行います。(場所・方法) 「から」は二つの形が使える場合があります。      どこかから/どこからか 鐘の音が聞こえます。  「〜からか」の形は、「〜からかわからないが」のような述語の省略とも考 えられます。そう考えると、この「〜からか」は名詞節の一種になります。 (→「57.4 〜カ(ドウカ)」)  「+も」「+でも」の場合は、「が」「を」は削除されます。ただし、「だ れもが」という形も使われます。そのほかの格助詞は「も」「でも」の前に付 きます。      だれもいません。       だれでも知っています。   だれもが賛成しました。      どれも読みました。      どれでも使えます。      どこへも行きません。     どこへでも行きます。       (話しことばでは「へ」の省略可)      だれにも頼みません。     だれにでもあげます。      どちらからももらいました。  どちらからでも入ります。

16.2.1 「+か」「+も」

[基本的用法]

不定語は、初級教科書の存在文の所でよく出されます。 箱の中に何かありますか。    教室に誰かいますか。 はい、あります。     はい、います。 何がありますか。    だれがいますか。 古い本があります。    学生がいます。 という応答が基本的(古典的?)な使い方です。  「何かありますか」は「あるかないか」を聞いているので、「はい」または 「いいえ」で答えます。「何がありますか」は「何かがある」ことを前提にし て、それが不明なので聞いているのです。  実際の応答では、      「箱の中に何かありますか」「はい、古い本があります」 と答える場合が多いと思いますが、これは上の応答を「縮めた」ものと考えら れます。「あるかないか」を聞いたとき、その含みとして「何が」も聞いてい るのだと考えるからです。  これは例えば、      時計、お持ちですか。 と言われたら、時計の有無ではなくて時間を聞かれたのだと考えて、      えーと、4時半です。 と答えるのに似ています。 もちろん、「何か・だれか」は疑問文だけでなく、平叙文にも使えます。 教室にだれかいます。(よく見えませんが、・・・) 否定文には使えません。否定疑問なら使えますが。     ×だれかいません。      だれかいませんか。

[も+否定]

否定の答えで、 いいえ、何もありません。 いいえ、だれもいません。 のように「+も」の形が使われると、 いいえ、ありません。 いいえ、いません。 と言うのとは違って、まったくないことが強調されます。 上の「だれも」「何も」は否定と共に使われます。 ×何もあります。   ×だれもいます。  ただし「だれもが」という形は肯定と使える例外です。「みんなが」と同じ になります。「だれもかれも」「だれもみな」なども肯定と使えます。      だれも(かれも)が知っていました。 (×何もがありました)  同じように「何もかも」は肯定と使えます。      彼女は何もかも知っていた。 (×彼女は何も知っていた)  「どこ」の場合は少し複雑です。      どこにもありません。 (×どこにもあります)      どこへも行きません。 (×どこへも行きます) ああいうやつらはどこの世界にもいますよ。      行楽地はどこも満員だった。  基本的には否定とともに使われますが、肯定と使える場合があります。その 条件はわかりません。「どこもかしこも」は肯定と使えます。  肯定で言えない場合、どう言うかというと、あとでとりあげる「+でも」を 使います。      何でもあります。      どこにでもあります。      どこへでも行きます。  「で」「と」「から」や「より」などでは特に否定と関係ありません。      この安売りはどこでもやっています。      誰ともすぐ仲良くなります。      彼女は誰からも愛されています。      どこよりもわが家がいちばん落ち着きます。      誰よりも誰よりも君を愛す 「どれも」「どのNも」「どちらも」などは補語の種類に関係なく、肯定と も使えます。対象が限定されているということが関係しているのでしょうが、 よくわかりません。「どんなNにも」も肯定と使えます。 どれもおいしくありません。 どれも(みな)おいしいです。 どちらも知りませんでした。  どちらも食べてみました。      どれにも付録が付いている。  どれからも検出されなかった。      どの家にもクーラーがある。  どの国の政治も安定していない。 どんな方にも合います。    どんな人にも欠点はある。  「どれもが」という形もあります。      作品はどれもがすばらしかった。  「どこ」も場所が限定されていると、肯定と使えます。      このリストの中の場所は、どこも行ったことがあります。 ただし、「どこへも」では言いにくいようです。 「いつも」は、一つの副詞と考えます。否定に限りません。意味的には「全 部」を示してはいますが。「いつか」も一つの副詞です。       いつもいます/いません。       いつか行きます。  疑問語「どう」に「か」「も」を付けた形は、ふつうは副詞と考えられます。      どうかお願いします。      どうもありがとうございます。  しかし、次のような使い方もあります。      「どうかしたの?」「どうもしないよ」 これらの例は、「どうか」「どうも」の不定語としての用法と言えるでしょう。 「どうも」は否定とともに使われます。次の例の「どうにか」「どうにも」も 不定語と言えるでしょうか。「どうに」ということばはありませんから。      「困りましたね。どうしましょうか。」      「どうにかなるでしょう。いや、どうにかしましょう。」      「いやあ、どうにもなりませんよ」  「どんなにか」という言い方もあります。「とても」の意味です。      そんなことを言ったら、お母さんがどんなにか悲しむことだろう。  「どうしても」とか「なぜか」などは不定語とは言えません。一つの副詞と考えます。

[連体の疑問語]

 なお、連体詞の疑問語は不定語になりません。(×どのか・どのも、など) そのかわり、連体詞が修飾する補語の後に「も」をつけます。 どの小説もおもしろかったです。      どんなお酒も飲みません。      どんな人にもあげません。    同様に「疑問語+の+N+も」の形でも使えます。      どこの店にもありません。      だれの小説も読みません。      私には何の力もありません。  しかし、「か」は使えません。 ?どの小説か読みましたか。      cf. 漱石の小説をどれか読みましたか。     ?どの部屋かにありましたか。      cf. どこかの部屋にありましたか。  次のものは、形はにていますが、不定語の用法ではありません。      どんな小説か読んでみましたか。  これは「どんな小説(です)か」という疑問文が名詞節になったものです。 (→「57.名詞節」)

[Nの[+か]]

 不定語は「Nの」などの連体修飾を受けることができます。その不定語が指 し示す範囲を限定することになります。      この中のどれかを差し上げます。      AとBのどちらかが正しい答えです。      学生たちのだれかに聞いてください。      ここにいただれかが持っていったらしい。      物理と化学のどちらも勉強したくない。      (物理も化学もどちらも勉強したくない。)      本棚に並ぶ本のどれもがほこりをかぶっていた。      そのニュースを聞いただれもが驚いた。  「+か」はいいのですが、「+も」のほうはちょっと言いにくいようです。

[[+か]のN]

 「+か」は「の」をつけて連体修飾に使うこともできます。      教室にだれかのカバンがおいてあります。      これは何でしょう。何かのふたでしょうか。      彼女は今ごろどこかの町で幸せに暮らしているだろう。      先ほどのカードはどちらかの箱に入っています。

[連用修飾として]

 これまでの例はすべて「+か」「+も」が述語の補語になっている例でした。 初めに、「+か」が「補語になる場合」と書きましたが、もともとは数量詞の ような連用修飾の要素です。      あそこにだれかいます。      ふくろの中に何か入っています。 というのは、      あそこに(人が)だれかいます。          ふくろの中に(ものが)なにか入っています。 あるいは、      あそこにだれか(人が)います。          ふくろの中になにか(ものが)入っています。 だと考えられます。ちょうど、      この作業には3時間かかります。      この作業には(時間が)3時間かかります。      この作業には3時間(の時間が)かかります。 に似ています。  数量詞のように、「+か」も名詞(句)の前後に来ることができます。ただし、 「の」は使いません。      あそこにだれか怪しい男が立っています。      ふくろの中に何か固い物が入っています。      だれか手伝ってくれる人はいませんか。      次の会はだれか珍しい人を呼びましょう。      どこか遠くへ行きたい。      どちらか好きな方をとってください。      甘い物は何かありませんか。(何か甘い物)       お菓子を何か買ってきます。      この方面の専門家を誰か呼ぶつもりです。  「+も」の場合は、否定になりやすいので「Nは」とともに使われることが 多くなります。      私の知り合いはだれも来ていませんでした。      食べ物は何もありません。      そこにいた人はだれもその漢字が読めませんでした。      その箱はどれも開けることを禁じられていました。  「Nか+不定語(+か)」という形もあります。「Nか」は一つの例として出 されています。「どれか」「どちらか」は使えません。      お菓子か何か買ってきましょう。      ラーメンか何か、食べる物はないかなあ。      田中さんかだれかに聞いてみましょう。      駅前かどこかで売っていますよ。  2つ並べることもあります。        せんべいか、クッキーか、何か食べたいなあ。      佐藤か、加藤か、誰かいなかった?  数量詞の疑問語も「+か」「+も」の形があります。      男の人も何人か来ていました。      あのお金はもう何日かまってください。      何カ所かで同時に火事が発生しました。      ボールペンを何本か買いました。      いくつか問題があります。       パーティーにお客さんを何百人も呼びました。      兄とは何年も会っていません。      この制度には問題点がいくつもあります。  「+か」は、複数だがその数が特定できないことを表します。否定の述語と も使えます。ただし、その場合は「ある特定の数の中の、ある不特定の数」を 示します。      委員が何人か出席していませんでした。 ?映画館に客が何人か来ませんでした。  「委員」の数はわかっています。その中の「何人か」です。映画館の「来る べき客」の数は、全席前売り指定席でもない限りわかりませんから、「来なか った」人数はわかりようがありません。いくら「不特定」でも、ぜんぜんわか らないのでは、不定語は使えません。  「+も」は、上の例では数の多いことを表します。「何年も」は、複数年で その数が特定できないこと、そしてその数がとても多いということを示します。 次の例は、また違う用法です。こちらは日数が少ないことを表します。否定と ともに使われます。      レポートの締め切りまで、何日もありません。 数量+「も」の微妙な使い方は「18.副助詞」で考えてみます。  数量表現の不定語は、数量詞と同じように「前・後・上・下」などとともに 使われます。      地表から何キロか下まで掘る   何メートルも後ろのほうに      何日か後で         十何年か前にそんなことがありました。  次の「何も」は不定語ではなく、副詞と考えたほうがいいでしょう。      何もそんなにひどく言わなくてもいいじゃないか。

16.2.2 「+でも/だって」

次に、「+でも」について考えてみましょう。初めに「任意の対象がそうで あること」などというよくわからないことを書きました。「任意の対象」をふ つうのことばで言えば、「どれでもそうであること」というしかありません。 あるいは、「どれをとっても」です。人や場所の場合は、「だれでも」「どこ でも」になります。外のことばで説明するのが難しいことばです。  さて、述語が肯定の場合は、「任意の対象」が「そうである」のですから、 つまりは全部がそうだということにもなります。      ここには何でもあります。(Nが)      パパは何でも知っている。(Nを)      この虫はどこにでもいます。      どこからでもかかってこい!(ただし、全部一度に、ではない?)  これらの表現が、「何も・・・ない」に対応するはずの「×何も・・・ある」の代 わりの表現になります。次の三つを比べてみてください。      ここには何もありません。     ×ここには何もあります。      ここには何でもあります。      私はどこにも行きません。     ?私はどこにも行きます。      私はどこにでも行きます。  しかし、やはり「+でも」は「ぜんぶ・すべて」というのとはちょっと違い ます。それは、「+も」が肯定文で使える場合を考えるとわかります。     どちらも差し上げます。      どちらでも差し上げます。  「どちらでも」の場合は、「任意の一つ」です。両方ではありません。  逆に、「みんな・全部」の意味がはっきり出ている場合は、      この店のケーキは、どれも食べたことがある。     ?この店のケーキは、どれでも食べたことがある。 となります。しかし、「一つ一つ」なら、       この店のケーキは、どれも百円です。       この店のケーキは、どれでも百円です。 「+でも」もよくなります。なかなか微妙です。  基本的に、「+でも」のほうは「一つ」を選ぶ感じです。そうでなくて単に 全部を言う場合は、「+も」のほうが適当です。  「+でも」はふつう否定とは使われません。「+も」を使います。     ×だれでも行きません。 (だれも)     ×何でも飲みません。 (何も)     ×ここには何でもありません。 (何も)  ただの「何でもありません」は、      「どうしたの?大丈夫?」「何でもありません。大丈夫です。」 という答えとしてなら使われます。これは「Nではありません」+「も」と考 えられます。      「犯人は誰ですか」「誰でもありません。そもそも犯人などいない      のです。これは殺人に見せかけた自殺です。」  「Aではない。Bでもない。だれでもない。」ということで出てきた「だれ でも」で、「だれ+でも」ではありません。上の「何でもありません」もこれ と同じと考えられます。      だれでもかまいません。 はまた別です。これは「V−てもかまわない」という、「V−てもいい」と同 じ意味の文型です。(→「35.禁止・許可」)  また、      あなたがどんな人でも、私は気にしません。 の場合は、「AがBだ」の「だ」が「でも」に変わった例で、すぐ下で触れる 「〜ても」の名詞述語の例です。      この問題は歴史的な難問です。どんな学者でもできません。  これも、ちょっと苦しいかもしれませんが、同じように考えておきます。  以上の「+でも」の表現は、複文の「〜ても」とも深い関係があります。      何でも食べます。      何を出されても食べます。  「何を〜ても」の部分が「何でも」と対応しています。この表現は「49.条 件」で扱います。 [+だって] 「+でも」は話しことばでは「+だって」という形になることが多いです。      だれだって  何だって  どこだって  いつだって      皆さんの欲しい物は何だってありますよ。      何だって知ってるよ、あいつは。      誰にだって、嫌いなものはある。      どこからだって入れるよ。  否定と使える場合があるところが「+でも」と少し違います。      あんな所へは誰だって行きません。(×誰でも行きません)      万葉仮名なんて誰だって読めませんよ。(?誰でもよめません) 誰だって言いたくないけどさあ、言わなきゃならないのよ。      いつだって暇なんかありません。   「でも」も「だって」も、ふつうの補語を受ける副助詞としての使い方があ ります。(→「18.副助詞」)      ビデオでも借りてこよう。      あしたでも間に合います。      子どもにだってわかります。

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参考文献
三尾真理「疑問詞とその用法」「日本語教育」36号1979(73-90)
尾上圭介「不定語の語性と用法」渡辺実編「副用語の研究」1983明治書院(404-431)
三上章 1953『現代語法序説』刀江書院(復刊 1972 くろしお出版)
三上章 1955『現代語法新説』刀江書院(復刊 1972 くろしお出版)
奥津敬一郎「不定詞の意味と文法」「続・不定詞の意味と文法」『拾遺 日本文法論』