魅惑の温泉NEW2作

 山間にあるこの大きな温泉旅館は、バブル時代に建てられたと言う。 開業当時は二十もの大浴場があったが、今は地元の村が最低限の施設を 維持管理し、現在使えるのは露天風呂がひとつだけだ。さらにこの地方で 起こった地震の影響で名湯と言われた温泉の成分が変わってしまったらしい ということ、この付近で大量の不法投棄により地下水や温泉が汚染されている かもしれないということ、それに加えてこの旅館に泊まったものが行方不明に なるという噂話が広まった。しかもそれなぜか男性に限られるということも ミステリー性を増した。マスコミは取材に来るものの、すぐに忘れ去られ 結局客足は減る一方だった。そんな旅館に大勢の泊り客がやってくること になった。宿泊費の安さに目をつけた近くの高校が、運動部の合同合宿所に 選んだのである。
 そして第一日めの夜、たった一つの露天風呂に女子生徒たちが入浴していた。 一つしかない入浴施設、男女で時間を分けて使わざるを得ないのは当然である。 そこに近づく幾つもの影が有った。同じ宿に泊まっている男子生徒たちである。
「おい、今夜は女子が先じゃないのか。」
「そんなことはわかっているよ。」
「おい……。まさか……。」
「決まっているだろ。」
「もし顧問の東舞鶴に見つかったら……。」
「まだ見回りにはこないよ。」
 ひそひそばなしをするふたりが露天風呂近くで見たものは……。
「えっ、なんなんだ。」
「何でおまえたちここにいるんだよ。」
 砂糖に集まるありのように、男子生徒たちが次々と女子生徒たちの 入っている露天風呂に集まっていたのである。この露天風呂の中には 大きな岩があり、男子生徒たちがいるところは死角になっている。その岩で 露天風呂の一部が区切られているのだが、まだ女子生徒たちの集団はそこには いなかった。無論、女子生徒たちは男子生徒たちの集団がきていることには 気づいていなかった。そしてその後の異変にも……。
「ねえ、ここなんか変なにおいしない!?」
「この温泉特有の成分じゃない?ここは神経痛、糖尿病、痴呆症に効くらしいわよ。」
「あのねー(-_-;)」
「おばあちゃんになったら、またここに来ればいいじゃない。それにお肌に いいのよ。」
「あ、二人ともここにいたの、なんかこの温泉に浸かっているとなんか気分が よくなってきたわ『癒し』っていうのかなー。」
「そうねー。ずいぶん長く浸かっているように思うけど、のぼせるような気が ぜんぜんしないね。」
「そうかなぁー。」
 一方、男子生徒たちは一人が服を脱ぎ、露天風呂に飛び込んだ後に 続くように次々と裸になって飛び込んでいった。先頭を行くのは水泳部の 部員だ。
「やっぱり俺たちが一番乗りだ。水泳部に入って よかったな。」
「それにしてもこの露天風呂、こんなに広かったか?」
 異変に最初に気づいたのは先頭集団である水泳部である。水泳部の 部員たちは先ほどの大きな岩に向かって泳いでいたのだが、なかなか岩が 近づいてこないのである。
「ねえ、ほかの場所行って見ない?」
「え〜っ、まじーっ、温泉で汗かいた上にまだ運動するキー。」
「ちょっと移動するだけじゃない。あそこに大きな岩があるでしょ。 あの向こう側に行って見ない?」
「いいけど、あの岩の向こう側みんなのいるとこから見えないわよ。」
「えっ、あっちのほうへ行くの?私も一緒にいっていい?」
「いいわよ。みんなで岩の向こう側へ行きましょう。」
 そういって、何人かの女子は岩に向かって移動し始めた。 同じころ、その岩に水泳部もたどり着いていた。その一人が岩に上がって 休憩していた。
「ああ、もう少しでのぼせるところだった。 それにしてもこんなにでかい岩だとは思わなかったな。みんな早く あがって来い。おい、どうした!」
「せ、先輩〜。」
「早く降りろ!!」
「みんなどうしたんだ。早くあがらないとのぼせちまうぞ。」
「先輩、上、上」
「上?」
 
さて、女子生徒たちは言うと……。
「この岩、近くで見るとそんなに大きく ないわね。」
「この辺に座ってみましょう。」
「ちょっとまって〜。」
「何よ。」
「見間違いかな、虫かなにか居たようだけど。」
「やだ〜、気持ちわルーい。」
 
その頃、男子生徒たちはパニックに陥っていた。彼らの前に突然、 何人もの巨人が現れたのだ。目的の岩に一番乗りを果たした男子生徒は、 巨人につぶされる寸前に逃げ出し、今まで泳いできたお湯の中に飛び込んで 難を逃れたのだ。
「ああ、危なかった。いったいあいつらは……。」
 
巨人を目撃した先頭集団に、後から遅れてきた男子生徒たちが 追いついたのだ。
「おい、何であがらないんだ?」
「あれをみロー。」
「何なんだあれはー。」
 
一塊になった男子生徒たちは、目の前にの巨人の集団に右往左往した。
「わー、岩のむこっかわだ〜れもいないジャン、 ラッキー。」
「ちょっと〜、だからって飛び込むことないじゃない。しぶきがかかったわよ。」
「気にしない気にしない。」
 
しかし、「気にしない気にしない。」ですまない集団がいた。 先ほどの男子生徒たちである。巨人の起こした大波にのまれ、露天風呂の お湯の中に飲み込まれてしまったのである。さらにそれを見た巨人の一人が、 波が起こるのを面白がってあたりをかき回し始めたのだ。難を逃れた一部の 男子生徒たちも、その渦の中に飲まれてしまった。話を女子生徒に戻す。
「何であんたまでお湯をかき回すかなぁー。」
「だって面白いんだもん……」
「あ、止まっちゃった。」
「反省してるのかぁ?」
「違う」
「反省しロー。」
「何かが私の手に……。」
「やだ〜、痴漢?」
「そういえば男子生徒たちの動きが変だったよねー。」
「その辺で覗いてるかも。ここ、死角になってるし。」
「私の話聞いてよー。」
「はいはい、どうしてかき回したりしたの」
「そうじゃなくて、私の手に……。」こびとさん 捕まえようよ かわいいよ
「じゃあ見せてよ。」
 
同じ頃、巨人の起こした大波と大渦に飲み込まれた男子生徒の 一人は、必死で上に上がろうとした。が、彼の体の自由は突然奪われた。 両足が何か強い力ではさみつけられたのだ。その直後、彼は急速に下のほうに 引きずり込まれた。-もうだめだ-彼がそう思った瞬間今度は逆に水面というか、 お湯面に向かって昇り始め、空気のあるところに出ることが出来た。
「これ……だけど……。」
「何、これ……」
「あれ、人形じゃない。」
「うわ〜、よく出来てる。」
「なんか動いてない。」
「ロボットじゃない?」
「ふーん、そうかぁ……。」
「あんた何かいった?」
「ううん。」
「やだ〜、気持ち悪〜い。」
「この人形かな?」
「腹話術してるんじゃない?」
「違うわよ。」
 
先ほどの男子生徒はかってない恐怖に襲われていた。水面というか、 お湯面から持ち上げられた彼が見たものは、自分を見つめる巨人たちの 顔であった。彼は巨人の一人につかまったのだ。巨人たちは全員女性でその顔は 彼の見覚えのある顔も有ったはずなのだが、彼にはソんな余裕はなかった。
「く……くる……し」
 
彼の体は巨人の手にわしづかみにされ、息をするの困難な 状態だった。ウェイトリフティング部だった彼は、自分の分厚い胸板を 押さえつけている巨人の親指を必死で押しのけようとしたが、彼の胴回りより 太い指はまったく動こうとはしなかった。
「この人形、動いてない?」
「やっぱロボットじゃない?」
「こんなにちっちゃいのに?」
「もっといろいろやってみたら?」
 
女子生徒の一人は、自分の手に持っていた「人形」をつかんでいた 手を開いた。
「ねーねー、そんなところでなにやってるの?」
「わっ、おとしちゃったー。」
「ええーっ」
 
その頃、温泉地を離れた某研究施設。
「これは国会議員の有勝先生、よくいらっしゃいました。」
「例の温泉の詳しい分析は進んでいるかね。」
「これがすごいことになっているんですよ。」
「私はちょっとやそっとでは驚かんぞ。」
「そのちょっとやそっとのことではないんです。」
「そのパターンも経験済みだ。」
「先生、とにかくこちらへ。」
「なんだこの水槽は。」
「例の温泉のお湯が入れてあります。その中にオスメス、五匹ずつの マウスを入れてあります。」
「マウスに温泉治療をさせているのかね。」
「ここに、最近問題のこの汚染物質を混ぜると……。」
「何も変わったように見えんが。」
「このようにメスはほとんど影響を受けません。」
「で、何か害は有るのかね。」
「ありません。」
「そうか。影響はメスだけなのか。」
「そんなこと一言もいってませんよ。」
「オスだけがいつのまにかいなくなっている。逃げたのか?」
「いえ、この場所から逃げていませんよ。よくごらんください。」
「小さな虫が五匹……。違うぞ。」
「マウスのなれの果てです。オスは先ほどの温泉で縮小してしまうのです。 このルーペでよくごらんください」
「そんなばかな。これは、何かのトリックか。」
「確かに信じられないでしょう。さらに……。」
「まだ有るのかね。」
「生物というものはきわめて多数の複雑な機能が巧妙なバランスの組み合わせに よって成立しているのです。単純に大きさを変化させただけでもその影響は 計り知れません。巨大化すれば重力の、縮小すれば周りの温度の影響を受けやすく なるのです。」
「と……いうと。」
「縮小した生物はまったく別な生物として作り変えられているのです。 姿も、経験もそのままに……。」
「それは、いったいどういうことなのかね。なぜそうなるのかね?」
「知りたいですか。」
「もちろん。」
「残念ながら、わかりません。」
「おい(-_-;)」
 詳しいことはわからないまま先ほどの温泉の露天風呂。 例の岩の付近に女子生徒たちがどんどん集まってきた。
「ねー〜ねー、何があったの?」
「虫がいたの?人形?」
 
どんどん集まってきた女子生徒たちによってお湯はかき回されて いった。一方、男子生徒たちは巨人の集団によって起こされた大波や渦に かき回され、おぼれるものが続出した。その中の1グループが、岸らしきところに たどり着いた。
「ふう、助かった。」
「もう……およげません。」
「早くあがって来い。」
「なんか妙に滑らかだ。岩にしては変だな。」
 
その一団は、不審に思いつつも次々と「陸地」に上がり、 そこにごろんと寝転がった。
「向こうの方が騒がしいわね。」
「何か有るのかしら?」
 
岩から少しはなれたところにいる女子生徒の一人が、自分の太ももが 浸かるくらいの浅いところで後ろに両手をつきリラックスしていた。彼女は 脚を組替えようとした。それを見ていた別の女子生徒が、
「あ、ちょっと……。」
「何よ。」
「あ……脚。」
「脚がどうしたの?」
「虫みたいなのが……。」
「何言ってるのよ。」
 
そう言って彼女は足を組替えた。
「うわぁぁぁっ!」
「なんだぁっ!」
「逃げろおっ!」
 
休憩しようと男子生徒たちが陸地だと思ってあがった所は巨人の 太ももの上だった。彼らの一団の上にもう一方の足が襲い掛かってきたのだ。
「苦しい!」
「助けてくれ!」
 
男子生徒の何人かは逃げ遅れ、巨人の太ももの下敷きになった。 逃げるのに成功した男子生徒たちは下敷きになった男子の救助に戻ってきた。
「1.2.3!行くぞ!」
 
男子生徒たちは、力を合わせて巨大な肉の塊を押し上げようとした。 男子生徒たちは全身の力をこめ、顔がゆがむ。だが巨大な肉隗はまったく 動く気配はない。一方女子生徒は、
「虫なんていないじゃない。」
 
そう言って彼女はわずかに足を動かした。
「うぎゃぁぁぁ!」
 
彼女がわずかに太ももを動かしたため、救助にあたった男子生徒たちは 二次災害に巻き込まれ、全員が彼女の太ももにプレスされてしまったのだ。 動かした当の本人と回りの女子生徒たちは、
「さっき女子バレー部の小淵沢さんから 聞いたんだけど、出たんですって。」
「ええ〜っ、幽霊とか!?」
「え?何?何?」
「何が出たの?」
「妖精を見たらしいの。」
「何言ってるのよ。」
「そういえばソフトボール部の西宮名塩さんが動く小さな人形を見つけた んだけど、落としたって言ってたわよ。」
「ちょっと、紀伊勝浦さん足動かしてくれない?」
「何でよ?」
「さっき虫みたいなのがいたって……。」
「居ないっていってるでしょ。」
「では確認を。」
「何するのよ。」
「うっそー。」
「ほんと〜。」
「かわいい〜。」
「こびとだわ。」
「死んでるのかしら。」
「私に触らないでよ。」
「こびとさん、逃げたわ。」
 
賢明な読者諸君はお分かりだろうが、こびとになってしまい先ほど 紀伊勝浦さんの太ももで押しつぶされた男子生徒の一人は、殴られたような 衝撃で気がついた。当の女子生徒にとってはちょっとつついただけなのだが。
「うわぁ!」
 
こびととなった男子生徒は、とっさに逃げようとしたが、 足元が柔らかかったことでうまく走れなかったため、あっさりつ かまってしまった。まあ必死で走ったとしてもこのサイズではつかまることには 変わりないのだが。
「ほーら、捕まえたわ。」
「佳奈美ちゃんすごーい。」
「わー、ちっちゃくてかわいい(^^)」
「見せて見せて。」
「わぁ、こびとさんが佳奈美ちゃんの指を必死でひっぱたいてるよ。痛くない。」
「全然。」
「今度は指を押しのけようとしてるよ。無駄なのに。」
「私もこびとさんほしいなー。」
「まだ紀伊勝浦さんの脚に……あ、もういなくなってる。」
「まだどこかにいるわよ。」
「捕まえてペットにしチャオ。」
「みんなで探しましょう。」
「テレビ局に知らせたら私たち有名人よ。」
「馬鹿ねー、そしたらテレビ見た人がたくさん来て、こびとさんたちみんな 連れてっちゃうわよ。」
「たくさん捕まえてインターネット通販で売って大もうけ。」
「私、捕まえておもちゃにする。」
 
かくして、露天風呂に入っている女子生徒たちの小人狩りが始まった。
「一匹泳いでいるのみーつけ。」
「いただきっ。」
 
当然、当のこびとにとってはたまったものではない。巨人たちから 必死で逃げようと泳いでいると突然泳いでいる後ろのお湯が急に持ち上がったと 思うと女巨人の胸の谷間にいたのである。にげたくても片足を はさまれているのだ。自由の利くもう片足で必死にキックしているが、 当然のごとく効果がない。
「私が最初に見つけたのに。」
「越後湯沢さんは胸おっきいからねー。その胸でそのままサンドイッチに してみたら。」
「いやよー。つぶしたら死んじゃう。ペットにするのよ。」
「ペットは最初のしつけが大切なのよ。」
「きゃっ、何するのよ木曽川さん。」
「いいぞー、木曽川はるみ〜。」
「いいじゃない。女どおしだしぃー。」
「はるみー。ゆっくりよー。」
「こびとさんが胸の間にうもれていくー。もう出てるの頭だけになっちゃった〜。」
 
女子生徒たちはあっちでキャーキャー、こっちでキャーキャーと 大声を出していた。そこに、その騒ぎを聞きつけた体操部顧問の東舞鶴先生が やってきた。
「おい、おまえら何……」
 
-ばきぃぃっ-
 顧問の東舞鶴は痴漢と間違えられ、回りの女子生徒たちに袋叩きにされたのだ。
 -ばっしゃーん-
 そして東舞鶴は女子生徒たちに露天風呂の中に投げ込まれた。
「ちょっと、誰よ痴漢っていったの。体操部顧問の東舞鶴先生じゃないー。」
「どうしよう。」
「アッ……。」
「うっそー。」
「ちっちゃくなっちゃった。」
「あ、こっち見上げてるよ。」
「あ、驚いてる。驚いてる。」
「ちょっと捕まえてみてよ。」
「いやよ。」
「これって……。」
「男がはいるとちっちゃくなっちゃうの!?」
「私たちは何ともないのに。」
「別れたい彼氏を連れてきちゃオー。」
「いやな男にお仕置きするとか。」
「んで、どうやったら戻る……。」
「そーユーこまかい事は気にしないの。」
 
かくして、この温泉は別れたい男、いやな男を連れたカップルの デートスポットとして繁盛したという。

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