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第921話

「おおう、こいつは見たことない生き物だな。 どんな味してるんだぁ?」
巨大なおじさんは掴んだベルをそのまま口の方に運んでいく。
部長は、
「アイテムで呼び出したやつに食われてもゲームオーバーになるのか?」
ダイちゃんは、
「わからないけど、この雰囲気じゃ食われたらアウトっぽいね。」
大ちゃんも、
「じゃあ助けないと!」
ダイちゃんが、
「助けるってどうやって。」
大ちゃんは、
「どうすればいいかは・・・わからないけど。 このままじゃベルさんが。」
そんなことを言ってるうちにベルはおじさんの巨大な口の前に運ばれていた。
「そんじゃ、いただきまーーー」

ドカーーーン!

その瞬間、何かがおじさんにぶつかった。
その衝撃でおじさんはベルを放してしまい、ベルが落ちていく。
部長が、
「落ちてくるぞ。 受け止めるんだ!」

ドサッ

ベルは下にいた仲間に無事受け止められた。
部長は、
「ふう、何とか助かったな。 でもいったい何があったんだ?」
ダイちゃんが、
「石本たちが戦ってる魔法か何かの流れ弾がこっちに飛んできて、それが当たったんだ。」
すると巨大なおじさんは、何かがぶつかってきた方に向きを変えた。
「んー? おおっ! 石本じゃないか。 おーい、こっちだ石本ー! 久しぶりだなー。」
だが、石本とダボは気づかずに戦い続けている。 

第922話

 それを見ていた部長たち。と、言うか今は見ていることしか出来ない。
 部長は、
「うーむ、反応がないな。声は聞こえてるはずなんだが……
 やはりあいつのことは忘れてしまっているのか?」
 ベルは、
「しかしあの巨人は記憶から生み出されたはず。
 もし忘れていれば出てくるはずがない。」
 そう言っているうちに巨大なおじさんはかなり
石本とダボに近づいている。巨大なおじさんは、
「なんだ石本、お前ら双子だったのか?どっちがお兄さんだぁ?」
 やっと巨大なおじさんの声が聞こえたのか、
石本とダボは戦うのをやめた。
「おいこいつ誰だ? 知り合いか?」
 ダボが言うと石本は、
「今取り込んでるんだ。後にしてくれ……ん?ちょっと待て。」
 巨大なおじさんは、
「なんだ?わしの事忘れたのか?」
 石本は、
「ちょっと待て、今思い出す。」
 ダボは、
「じれったいやつだな。
 なんか俺までこいつに昔会った様な気になってきたじゃないか。」
 その様子を見ていた部長たちだが、大ちゃんが、
「ちょっと見て……。」
 見ると巨大なおじさんは、足元から消え始めていた。ニショブが、
「もう効果が切れ始めているのか……早く気づいてくれないとまずいぞ。」
 巨大なおじさんは石本とダボに、
「久しぶりだからな。うまいものでも食えば思い出すだろ。
 ついさっき珍しい生き物を見つけた。きっと食ったらうまいだろう。」
 ダボは、
「一時休戦だ。そこへ案内しろ。」
 石本も、
「しょうがないな。」
 石本とダボは巨大なおじさんについていく。ダイちゃんは、
「なんとかうまくいったみたいだね。」
 部長は、
「ちょっと待て。こっちへ向かってくるぞ。
 珍しい生き物って俺たちのことじゃないか?」 

第923話

部長が、
「まずいぞ。 このままじゃまた食われる。 どこかに隠れるぞ!」
ダイちゃんが、
「隠れるって言ったって、僕たちが隠れられそうな場所なんて周りにないよ。」
石本たちに比べればかなり小さいが、部長たちもこの世界では巨大なのだ。
周りの木々や岩陰に隠れることは無理だった。
けっこう離れた場所のはずだが、石本たちのサイズの歩幅ではすぐにたどり着く。
部長たちが慌てて隠れ場所を探していると、巨大な影に覆われた。
部長が、
「わっ、もうきやがったのか。」
大ちゃんも、
「このままじゃ食べられちゃうよ。」
巨大なおじさんは、部長たちを見つけて言った。
「ほれ、これを見ろ。 変わった生き物だろ。 脂ものっててうまそうだ。 食ってみろ。」
すると石本が、
「ん? なんだこいつらのことか。」
巨大なおじさんは、
「なんだ、知ってるのか?」
石本は、
「俺様の奴隷みたいなもんだ。 まぁ、どんな味がするのかは気になっていたから食ってみるか。」
石本は巨大な手を伸ばしてベルを摘みあげた。 

第924話

「うわぁぁぁ!」
 摘み上げられたベルは思わず大声で叫んで暴れるが、
どうにもならない。部長は、
「くそっ、こんなときに誰か都合よく助けに……来るわけないか。」
 助けどころか遅れてダボがやってきたのだ。ダボは、
「おい、なんだ?もう何か見つけたのか?」
 そう言って巨大なおじさんに近づいたときに異変に気づいた。
「なんだこいつ……消え始めてやがる……。」
 一方、ベルを摘み上げた石本はベルを
自分の口のすぐ前にまで持ってきていた。ベルは、
「や、やめろぉぉ、食うなぁぁぁ!」
 摘み上げられて宙ぶらりんになった石本の口をキックしたが、
効果があるどころか、
「思ったより元気がいいな。踊り食いも悪くないな。」
 石本は舌を出し、ベルをペロッとなめた。ベルは、
「わぁぁぁ!もうだめだぁぁ!」
 石本は、
「悪く思うな。ゆっくり味あわせてもらう。」
 そのときダボが石本に、
「おい、そんなの後にしてちょっと来い。」
 石本は、
「何だ。どうした?まあいい、いつでも捕まえて食えるからな。」
 石本はベルを自分のちかくの岩山の上に降ろした。
少しはなれたところでダイちゃんは部長達が何とか入れそうな
洞窟の入り口を見つけた。ダイちゃんは、
「今のうちにここに入っちゃおう。」
 すると大ちゃんは、
「ちょっと待って、ベルさんが……。」
 消えかけている巨大なおじさんに石本とダボが
気を取られているうちに部長たちは何とかそこにはいって
隠れられそうなのだが、ベルが下ろされた場所からはかなり遠かった。 

第925話

巨大なおじさんは、
「おいおい、食うんじゃないのか? さっさと口に入れろ。」
石本は巨大なおじさんの消えてる部分を指差して言った。
「自分で気づいてないのか? お前、消えてきてるんだぞ。」
すると巨大なおじさんは、
「なんのことだ? そんなことより早くしろ。」
ダボも、
「そうだな。 こいつが消えても俺たちの戦いには関係ないからな。」
だが石本は、
「それはそうだが。 なぜかこいつに消えて欲しくない気持ちがあるんだ。」
石本たちがそんな話をしているとき、部長たちもベルを助けに行くべきかを迷っていた。 

第926話

「何とか、これ以上時間稼ぎは出来ないか?」
 部長が言うとニショブが、
「よし、私がおとりになろう。」
 すると大ちゃんが、
「ええっ、危険すぎるよ。」
「このままではベルがまたつかまって食べられてしまう。」
「でももしかしたらニショブさんがつかまって
 食べられてしまうかもしれないよ。」
 部長も、
「これ以上仲間は危険な状態にするべきではない。
 何とかベルを助ける方法を考えよう。」


 一方、消えていく巨大なおじさんを前にしたダボと石本、
「変わったな。何もかも。おまえはそんなやつだったのか?」
 巨大なおじさんは石本に言った。石本は、
「オイ、ちょっと待てよ。
 以前から俺様を知っているようなことを言って……。」
 ダボは、
「おいおいどうした。
 まさかこいつと知り合いだったなんて言うんじゃないだろうな。」
 石本は、
「知り合い……。」
 石本の頭の中で封印されていた何かが開放された。


 その頃部長たちは、自分たちが洞窟に向かいながら
ベルに気づいてもらえるよう合図を送り続けた。ベルも気づいたらしく
部長たちのほうへ向かってきた。大ちゃんは、
「早く早く、こっちだよー。」
 部長たちはもうすぐ洞窟というところまでやってきていた。 

第927話

「お、おじさん・・・。 おじさん消えないで!」
石本が突然叫んだ。
ダボは、
「おい、さっきからおかしいぞ。 別人になったような。」
すると巨大なおじさんは、
「ん? どうした石本。 おじさんが消えるわけないだろう。」
石本は、
「だって、もうこんなに消えてる。」
石本の言うとおり、巨大なおじさんの体はもう半分以上消えてしまっていた。
だが、本人は自分が消えてることに気づいてないようだった。
巨大なおじさんは、
「おかしなやつだな。 早くさっきの生き物食って来い。」
石本は、
「うん、食べてくるから消えないでね。 せっかく久しぶりに会えたんだから。」
巨大なおじさんは、
「ああ、わかったわかった。 ここで待ってるから行ってこい。」
ダボは、
「おい、俺をほったらかしにするな。 どういうことだかさっぱりわからん。」
石本は巨大なおじさんに言われたとおり変な生き物(部長たち)を探した。 

第928話

 そのころ、部長たちはベルと洞窟で合流できそうだというところだった。
そこへ石本が戻ってきた。部長は、
「おい、戻ってくるぞ。早くしろ。」
 大ちゃんは、
「あれ、なんかさっきと様子が違うよ。」
 ニショブが、
「なんだと。」
 大ちゃんは、
「なんかいつもの石本のお兄ちゃんに戻ったって感じかな……。」
 部長は、
「どっちにしろ危険なことには変わりない。あいつは素でも何をするか
 わからないからな。」


 石本が部長たちを見つけたときには、
全員洞窟に入ろうとしていたところだった。石本は、
「あ、いた。早く捕まえておじさんのところへ戻らなきゃ。」
 石本はしゃがんで洞窟に入ったメンバーを捕まえようと、
中に手を入れた。


 洞窟に逃げ込めた部長たち。
「ふう、何とか間に合ったようだな……。」
 部長が言うとダイちゃんが、
「でもすぐ行き止まりになってるよ。この……。」
 そのときだった。石本の巨大な手が捕まえようと洞窟に入ってきた。
部長たちは何とか洞窟の一番奥まで来たが、
石本の手が届くか届かないかというところだ。ベルが、
「これじゃせっかく助かっても意味がないぞ。」
 その時だった。
「よ、久しぶりだな。」
 堕天使の声だった。部長は、
「今まで何やってたんだ。この状況わかってるだろ。」
 堕天使は、
「プログラムをいじってたんだ。とりあえずお前たちの特殊能力を
 このゲーム内でもある程度使えるようにしておいた。」
 ダイちゃんは、
「やった、巨大化できる。」
 大ちゃんは、
「ここじゃまずいよ……。」
 大ちゃんはダイちゃんとテレポートして洞窟の外へ出た。大ちゃんは、
「よかった。できるようになってる。」
 洞窟の外では石本が中のみんなを捕まえようと
しゃがんで手を入れている。ダイちゃんは、
「ヨシッ、巨大化して一気に片付けるぞ。」
 すると大ちゃんは、
「ちょっと待って、あの数字何?」
 警告メッセージこそ出なかったが、空中に大きく「60」と
いう文字が浮かんでいた。そのすぐ下に、メッセージが現れた。

[ゲーム中の特殊能力使用は一日1回、最大60秒です]
 ダイちゃんは、
「ちょっと待てー。短すぎるだろ。」
 大ちゃんは、
「それじゃ、僕はさっきので1回分使っちゃったんだ……。」
 ダイちゃんは、
「まあいいや、巨大化できればすぐに倒せるから。」
 そう言って石本の方へ向かっていった。 

第929話

「よし、この辺でいいだろう。
 あんなやつら、僕が巨大化して踏み潰せば60秒なんていらないね。
 1秒で決着つくよ。」
ダイちゃんはそう言って、いつものポーズで張り切って巨大化した。
「きょだーーい、変身!」
ダイちゃんの体がぐんぐん大きくなっていく。
「よーし、このままもっと巨大化してあいつらを追い抜くぞ。」
と思ったら、ダイちゃんの巨大化は石本たちと同じサイズで止まってしまった。
「なんで巨大化が止まるんだ。 もっとだ。 きょだーい、変身!」
ダイちゃんはもっと巨大化しようとしたが、
どうしてもこれ以上大きくならなかった。すると空中にメッセージが現れた。
[ゲーム内での最大サイズに達しました。]
「え? ゲーム内ではこれ以上大きくなれないってこと?
 これじゃ巨大化できるようになっても意味ないじゃん。」
石本は洞窟に入れた手を止めて、ダイちゃんの方を見た。
「だ、ダイちゃん。 どうしたの突然現れて。」
ダイちゃんは、
「も、もちろんお前をやっつけにだ。 僕にはその力があるんだからね。」
ダイちゃんは焦った。
60秒たてば元に戻ってしまう。
そうなれば石本は当然ダイちゃんをまっさきに潰しにくるのが予想できたからだ。 

第930話

 大ちゃんがそんなことを考えているうちにさきほどの数字は
カウントダウンされ、どんどん時間は過ぎていく。
「オイ、どうした?ん?なんだお前は?」
 石本を追ってダボがやってきたのだ。もし、
何も出来ずに60秒が過ぎてしまったら……。すると石本は、
「大変だよ。あ、えーっと。逃げたほうが……。」
 するとダボは、
「お前さっきから何かおかしいぞ。」
 ダイちゃんは、
「今回は友達もいるみたいだから警告だけしておくよ。
 僕が怒ったらいつでも一瞬でひねりつぶせるんだからね。」
 ダイちゃんがそういい終わった後、60秒が過ぎダイちゃんは元に戻った。
 石本はダボに、
「ほら、言ったとおりだろ。」
 ダボは、
「なーるほど、そうか、なんだか様子が変わったと思ったら
 さっきのやつが怖いんだろ。」
「そうだよ。今までいろいろひどい目にあったんだからね。」
「ふーん。」
 ダボはしばらく考えると。
「そいつを倒せば俺様の勝ちだな。そいつにはどうしても勝てないだろ?」
「止めたほうがいいよ。」
「さっきのやつが巨大化する前に踏み潰せばいいだけだろ。」
 石本とダボが話しているうちにダイちゃんと大ちゃんは
みんなの隠れている洞窟に戻って今までのことを簡単に話した。部長は、
「石本に命令することが出来るが、
 だとしても1日1回だけだし、あれ以上巨大化は出来ない。」
 ベルは、
「1人1回だけか。慎重に考えないといけないな。」 

第931話

部長は、
「1日一回、60秒・・・。 このことは絶対に石本に知られるわけにいかないな。
 バレたらそのときが俺たちの終わりだ。」
ベルも、
「そうだな。 あいつも仲間のはずなのに・・・」
部長は、
「まぁ、石本は単純だから騙しやすいが。 問題はダボってやつだ。
 あいつは俺たちの脅しは通用しない。 何か考えないと。」
ダイちゃんも、
「たしかにあいつは僕たちのこと知らないもんなー。」
そんなことを話し合っていたときだった。
「おい! そこの穴に隠れてるんだろ。 出て来い。」
ダボの声だった。
部長は、
「まずいな。 まだ何も作戦たてられてないというのに。」
ダイちゃんが、
「とにかく、今は石本をうまく騙して
 僕たちを守らせるしかないんじゃない?」
ベルも、
「そうだな。 だが、くれぐれも慎重にいかないと。」
部長が、
「よし。 俺が石本に命令しよう。
 俺たちを守らないと縮めて踏み潰すとな。」
ダイちゃんは、
「でも60秒だけ守られてもなー。」
部長は、
「いや、石本は効果が60秒しかもたないということは知らないんだ。
 つまり、60秒すぎても俺たちを守らないと縮められると思い込むはずだ。」
ベルは、
「なるほど。 それはいい考えかもしれん。」 

第932話

「おい、何やってるんだ。そこから出て来い!」
 再びダボの声が響く、すると外から石本の声が、
「止めたほうかいいよ。何されるかわからないよ。」
「それを今から確認するんだろ。とにかく出て来い。」
 そのとき部長が、
「おい石本、聞こえてるだろ。
 そいつが諦めて立ち去るまで俺たちを守れ!
 出来なければ縮めて踏み潰してやる!」
 ダボは、
「こいつらの命令なんか聞くなよ。今から引きずり出してやる。
 あ、おいっ!何をする!!」
 四つんばいになって洞窟の中に手を伸ばして部長たちを捕まえようと
していたダボだったが、石本に止められたのだ。
洞窟の中では、ダボの手が部長たちのすぐそばまで来ていたが
石本のおかげで助かった。ニショブは、
「ふう、ぎりぎりだったな。」
 洞窟の外ではダボが石本に引きずられて洞窟から離されて行く。
すでに1分は過ぎていたが縮められて踏み潰されるのが怖くてひたすら
遠くへ遠くへと引きずっていく。ダボは、
「オイこら、いくらなんでもびびりすぎだろ。」
 石本は汗だくになりながら、
「だってあいつらの怖さを知らないから……。」
 するとダボは、
「まあいい、ちょうどいいところに来た。根性つけてやる。」
「なんかいやだなぁ。」
「心配するな。痛いとか、そういうのじゃないから。すぐそこだ。」
 石本とダボは人間の住む町の近くまで来ていたのだ。 

第933話

ダボは、
「ほら、足元をよく見ろ。」
石本は、
「え? 足元?」
石本たちの足元には人間たちの町があった。
だが、部長たちのサイズでも人間から見ればかなり巨大なのだ
その部長たちを摘み上げられるほど超巨大な石本たちには
人間の町はものすごく小さく見えた。
石本は、
「小さい! これが人間の町?
 僕ってそんなに巨大だったんだ。」
ダボは、
「お前、気づいてなかったのか?
 今まで俺たちより巨大なやつなんて見たことない。」
石本は、
「うーん、いつの間にこうなったのかよく思い出せないな・・・」
ダボは、
「そんなことより。 この町を破壊しろ。
 まぁ、破壊するって言ってもこんな町足を何度か踏み下ろすだけで壊滅だがな。」
石本は、
「え、いいの? ほんとにやっちゃうよ?
 やる直前でやっぱりダメって言ってもやめないよ?」
ダボは不思議そうに、
「なぜそんなこと聞くんだ。
 モンスターが人間の町を破壊するのは基本だろ。
 ま、俺たちのレベルになると普通は弱い人間なんて相手にしないがな。」
石本は目を輝かせて、
「それじゃ、やっちゃうよー。 みんな潰れちゃえー!」

ズシーーーーン

石本が足を踏みおろした。
たった一度足をおろしただけで、町の4分の1が踏み潰されてしまった。
石本は、
「き、気持ちいい〜。
 部長たちがいるといっつも止められて結局できなかったんだよ。」
ダボは、
「どうだ? お前はさっきからモンスターの心を忘れてしまったようだ。
 人間の町を踏み潰せばモンスターの心を取り戻すんじゃないかと思ったんだが。
 取り戻せそうか?」
石本は、
「言ってる事がよくわからないけど、
 僕ははじめから人間たちを踏み潰すのは大好きだよ。
 でもこんなに小さいんじゃ、ちょっと張り合いがないなぁ。」
ダボは、
「そうか。 なら巨人族の町を案内してやろう。
 あいつらなら人間どもよりはでかいからな。」 

第934話

「大体こんなもんか。そろそろ休憩するか……。」
 山の中で一人仕事する男がいた。彼の名はサゼ、彼の仕事は
山の中から石を切り出して加工することだ。
「うん?なんだ?」

-ドン、ドン、ドシーン-

 遠くのほうから地響きのような音が聞こえてきて、
だんだんこっちへ近づいてくる。
「何なんだ?地震?それとも……まさか……。」
 サゼは実は巨人族でかなり体も大きいほうで、
自分より大きな巨人やモンスターはあまり見たことがなかった。
「それにしてもいったい何が……。」
 サゼは音のするほうを見ると、何かがこっちへ向かって近づいてくる。
しかもかなり大きなものだ。
「なんか知らんがこっちに来る。
 これは早く逃げたほうがいいかも知れん……。」


 さて、ダボに案内され巨人族の町へ向かっていた石本だが、
「なんか疲れたよ。ちょっと休もう。」
「仕方のないやつだ。ちょっとだけだぞ。」
 ダボが言うと石本はその辺の出っ張った岩に腰掛けた。そのとき、

−ぱりぱり−

 何かが石本のおしりの下で潰れた。


 サゼは今、信じられないものを見上げていた。
自分よりはるかに巨大な巨人というかモンスターがいる。しかも2体も。
幻覚ではない。その1体は自分の作業小屋をおしりで
一瞬のうちにつぶしてしまっているのだ。 

第935話

ダボは、
「それにしても、こんな少し歩いただけで疲れたとは・・・。
 やはりさっきまでのお前とは違うな。」
石本は、
「さっきまでの僕って、ぜんぜん覚えてないけどどんなだったの?」
ダボは、
「俺と互角の強さを感じた。 こんなやつに出会ったのは初めてだった。
 だが、今のお前にはライバル視する価値もない。」
石本は、
「えー、価値がないなんてひどいよ。 僕だって、こう見えてけっこう強いんだよ。」
石本は拳を振り上げて、すぐ横にあった岩を叩き崩した。

ズガアアアアアン!

「うわあああああ!!」
「ん? なんだ?」
石本が叩き崩した岩には、サゼが隠れていたのだ。
サゼは、突然目の前の岩が簡単に崩されて腰を抜かしてしまった。
石本は、
「あ、こびとだ。 こんなとこにこびとがいた。」
ダボは、
「こびとじゃない。 そいつは巨人だ。」
石本は、
「なんでこんな小さいのが巨人なの。 どう見てもこびとでしょ。」
ダボは、
「俺たちがでかいから小さく見えるだけだ。
 さっき踏み潰した町の人間どもに比べたら、こいつもかなりでかいだろ?」
石本は、
「そう言われてみると、さっきのゴマ粒みたいな人間よりだいぶ大きいね。」
ダボは、
「ちょうどいい。 巨人族の町を襲う前に、こいつで練習だ。」 

第936話

「じゃあ、早速やってみるよ。」
 石本はそういうと大きく片足を上げた。

(こ……こいつオレを踏み潰すつもりか……)
 巨大な石本たちを見上げていたサゼだが、石本が大きく片足を上げるのを
見て身の危険を感じ、その場から逃げ出した。

−ズドォォォーン−

 サゼの目の前に石本の巨大な足が下ろされた。
彼がそれなりの距離を必死で走っても、石本にとっては一歩で充分なのだ。
サゼはひるむことなく別の方向へ逃げる。
すると再びサゼの目の前に石本の巨大な足が下ろされる。

「おい、何やってるんだ。こんなやつ早く踏み潰せ。」
 石本の行動にダボが言う。すると石本は、
「だって、すぐに踏み潰しちゃったら、面白くないでしょ。」
 ダボは、
「なるほど、そういうのもありだな。」
「そうでしょ。」
「だが、それだけではモンスターの心を取り戻したとは言えないぞ。」

(くそ……なんて連中だ……ん……)
 はるか上から聞こえる石本とダボの会話を耳にしたサゼだが、
手の届くところに作業に使う斧が落ちているのに気づいた。
斧を手にしたサゼは、思いっきり石本の巨大な足に振り下ろした。
「いたたたっ!」
 石本は痛がる。サゼは、何度も斧で石本の足に攻撃を続けた。石本は、
「これで効いてると思ったの?本当はそんなに痛くないんだよー。」
 そう言ってしゃがみ、サゼをつかもうと手を伸ばした。 

第937話

サゼは逃げようとしたが、さすがに石本の巨大な手から逃れるわけもなく
あっけなく摘み上げられてしまった。
石本はサゼを顔の前まで持ち上げて言った。
「そんな爪楊枝みたいな斧で僕を倒せると思ったの?」
石本はサゼからひょいっと斧を取り上げて、ピンッと弾き飛ばした。
巨人族の使う斧、ほんとうならものすごく巨大で重く
普通の人間が何十人集まってやっと持ち上がるほどのものなのだが
今の石本には重さを感じないほどちっぽけなものだった。
「さーて、どうしてやろうかなー?」
横で見ているダボは、
「じわじわ弄ぶのもいいが、さっさとやっちまえ。
 どうもお前のやりかたはもどかしい。」
石本は、
「だって、こんなに自由にこびとをいじめられるのってはじめてなんだよ。
 いっつも部長たちに邪魔されるんだもん。 だからゆっくり楽しみたいんだ。」
ダボは、
「お前の事情はよくわからんが、そいつはただの練習だ。
 これからそいつみたいなのがいっぱいいる巨人の町に行くんだぞ。
 そこに行けばいくらでも楽しめるだろ。」 

第938話

「ほんとう?」
 石本は思わずサゼを放り出して答えた。
空中にいきなり放り出されてしまったサゼだったが、
たまたま近くにあった湖の中に投げ込まれる形となったため、無傷だった。
湖を泳いで何とか岸にたどり着いたサゼだったが、
「なんてやつだ。しかも2体もいやがる……。」
 彼は立ち去る石本とダボの姿を見ていることしか出来なかったが、
何を思ったかある方向へ向かって歩き始めた。


 一方、ダボを必死で引きずって立ち去った石本を確認した部長たちだが、
「こんなにうまくいくとは思わなかったね。」
 ダイちゃんが言うと、大ちゃんは、
「でもちょっとかわいそうな気がする……。」
「あのままもどってこないみたいだし、どうする?」
 ベルが言うと部長は、
「一応 追い払ったことになったみたいだからな。
 石本がどうするか気になるが、魔王の情報も欲しい。
 ゼドーの所にもどるか。」


 巨人族の村にもどった部長たちだったが、なにやら住民たちが騒がしい。
ある男の話を聞きに集まって騒ぎ出しているようだ。部長は、
「なんなんだ?いったい……。」
 すると住民の一人が、
「なんか時々ここに来るサゼってのがやたらでかい
 モンスターにつかまって、湖に投げ込まれたらしい。」
「もう1体、同じくらいでかいのがいたとか……。」


 さて、こちらは石本とダボ、ダボは、
「ついたぞ。ここが巨人族の町だ。思いっきり暴れていいぞ。」 

第939話

石本は巨人族の町をうれしそうに見下ろして言った。
「うわー、これだよこれ。 僕が暴れるのに一番理想のサイズ。
 こびともいっぱいいるみたいだし、おもいっきり楽しめそう。」
ダボは、
「だからこびとじゃなくて巨人族だって言ってるだろう。
 まあ、どうでもいいか。
 ここでひと暴れしてさっきまでのお前に戻ってくれりゃな。」


そして部長たちは、超巨大モンスターに襲われたというサゼに会って話していた。
サゼは、
「あんなでかいモンスターがいるなんて・・・。
 この俺を指で軽々と摘み上げたんだ。 しかも2体だぞ。
 助かったのがほんとに奇跡だと自分でも思う。」
部長は、
「そいつらの姿は似ていたか?」
サゼは、
「あのときはそんなこと気にする余裕はなかったが・・・、
 そう言われればそっくりだったかもな。」
部長は、
「やっぱり石本たちで間違いないようだな。
 それでそいつら、今どこにいるか知らないか?」
サゼは、
「そ・・そうだ! 一番重要なことを言い忘れていた!
 あいつら巨人族の町に行くと言っていた。
 あいつら巨人族の町を襲うつもりなんだ。」
ベルは、
「その巨人族の町って言うのは、ここから遠いのか?」
サゼは、
「俺たちの足なら1日歩いて着くぐらいの距離だが・・・。
 だめだ、あいつらのでかさならもう町に着いてる頃だ。」
大ちゃんは、
「大変じゃない。
 早く助けに行かないと、巨人さんたちの町が潰されちゃう。」
ダイちゃんは、
「別にゲームの中の町が1つぐらいなくなってもいいじゃん。
 それより、今は魔王のこと。」
部長は、
「それはそうだが・・。
 この状況で魔王のこと教えてくれる状況には見えないな・・。」
ベルは、
「だが、巨人族の町に行くのに1日もかかっては遅すぎる。」
ダイちゃんは、
「そうそう、それに行ったところで今の僕たちじゃ何もできないよ。」
部長は、
「むー・・、何かいい方法はないのか。」 

第940話

 部長たちの心配をよそに、石本とダボは巨人族の町を見下ろしていた。
「あれ?何か聞こえてこない?」
 ダボは、
「まだ町の連中が俺達のことに気づかずに騒いでるんだろう。」
「ちょっと、脅かしてみようか。」
 石本が足元をよく見ると町の広場に巨人たち
(もちろん石本たちから見れば小人)が酒盛りをしていた。ダボは、
「こいつらどこかで酒を飲んでい騒いでいるうちに、外に出てきたんだろう。」


 さて、自分たちよりはるかに大きなモンスターに見下ろされているのに
気づかない酔った巨人たち、
「うーん、今日はよく飲んだなー。」
「ところで誰か話してない?」
「こんな時間に俺たち以外に出歩いてるやつなんかいない……
 あれ?こんなところに山なんか有ったっけ?」
「いつもの広場じゃなく、別のところに来ちまったのかぁ〜?」
「変だなぁ〜、ま、いっか……。」


 石本は足元の足元の酔っ払った巨人たちに話しかけた。
「ずいぶん飲んでるみたいだねー。酔いを醒(さ)ましてあげようかぁ〜。」
 足元の酔っ払った巨人たちは、
「オイ、誰かなんか言ったか?」
「さっきの山のほうから聞こえてきたような……。」
「んなわけないだろう。まさか、山がしゃべった……とかねぇ……。」
「そうそう。」
 石本たちに気づくことなく、酔っ払った巨人たちは騒いでいた。
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