<民宿『とらぶる☆メ〜カ〜』> 偽旅団シナリオ『遠き日の誓い』後編プロローグ



―真実からは偽りを。
 偽りからは真実を。
 そして僕らはいつしか“ほんと”を見失う。

「さて…どうするか」
溜め息混じりに夕飛鴉・ディナーハ(a12596)が呟く。
セフィーナから緊急の連絡を受け、慌てて民宿に訪れたものの、そこはもぬけの殻だったのだ。
騒がしいはずの民宿。そのあまりの静寂さに、ふと不安がよぎる。
事情は知っているつもりだが…。試練とやらを、果たして無事に乗り切って還って来れるのかが少々気がかりだ。
しかし、人を呼び出しておいて、セフィーナ本人の姿が見えないのは妙だ。
そしてなにより―。
「なぁ〜ん♪」
―無邪気に腕にぶら下がっているヒトノソリンの少女の対処方法を教えて欲しい。
「他の皆は?」
「皆、恐い顔してお出掛けしたなぁ〜ん…」
ディナーハの問いかけに、腕にぶら下がった少女―蒼翼の紫花姫・リヤ(a20925)は淋しげに顔を曇らせる。
そのリヤの表情、そしてこの民宿の状況。何かあったと考えて間違いないだろう。
『―嫌な予感がする』
それは確信だった。テーブルの上。無造作に置かれた一枚の地図。
状況から見て、皆、出掛ける前にここでその地図を見ていたに違いない。そこに記された“断罪の森”と書かれた文字。聞いた事がない名だ。これが話に聞いた、試練なのだろうか?
となると、皆はここに向かったのだろう。
だが、文字通りの意味を持った森ならば―。
「ボス。拙者少々嫌な予感が―」
ディナーハの隣にいた高速戦隊・シオン(a12390)も、同じ事を考えていたのだろう。その顔を渋めている。
分かっている。セフィーナからの緊急の連絡が入った時点で、何か自分達で対処仕切れない出来事が起こったのだろう。
ならば私達もすぐにでもこの森へと赴き、一刻も早く皆を探し出した方がいい。
だが。なぜかこの地図に漠然とした違和感を感じる。大切なモノを見落としているような気が―。
「あれ?」
ふと。
二人を覗き込むように前から地図を覗き込んでいた白き闇に咲く緋く赫い月・シャム(a20438)が声を挙げる。
「なんか変じゃないですか?この地図…」
「……!!」
シャムの一言に、ディナーハが慌てて地図を逆に見る。
“森に囲まれた集落を中心とした周辺の地図”。そしてその集落から“最北”に書かれた断罪の森という文字。
「…誰の案内だ?」
「…なぁ〜ん?」
ディナーハはリヤに問いかける。
「誰の案内で。皆はこの森へと向かった?」
はやる気持ちを抑え、ディナーハは再び問いかける。
「トウカさんなぁ〜ん」
「…やはりそうか。少し…不味いな」
予想通りのリヤの答えにディナーハが顔を渋める。
「え?何がです?」
そんなディナーハを見て、シャムが首を傾げる。
「森へ向かう手段を絶たれている」
そうディナーハは宣言した。
「あぁ…。すまない。まず…そうだな。この地図は何を描いている?」
その場にいた一同が一斉に首を傾げる。
「“森に囲まれた集落を中心とした周辺の地図”…ですね?」
「そうだ」
シャムの答えに満足気に頷くディナーハ。シャムは再び首を傾げる。
「それをもう一つ…違った視点で見てくれ」
「………?」
「つまりはこの地図は“森への道を描いた地図では無い地図”だという事さ」
ディナーハは顔を再び渋め、そう告げた瞬間。

―ほぉ。驚いたな。気がつく奴がいるとは。

突然開いた扉の奥。
1人の男が立っていた。
全身黒を纏い、禍々しい剣を片手に携えながら。それは例えるならば闇。純粋に人を殺すために研ぎ澄まされた殺意だけが、その男のすべてだった。
その場にいた全員が素早く臨戦態勢をとる。
肩に剣を叩きつけリズムをとりながら、男は愉快そうに破顔した。
「ふん」

トン、トン、トン、トン…。

刻むリズム。その音だけが静寂を支配していた。
「俺として穏やかに道案内を務めたかったが…」

トン、トン、トン、トン…。

「まぁいい。仲間を死なせたくないなら―」
そう言って男は、顔を歪める。笑った、のだろうか?

―死ぬ気で俺に抗え。

トン、トン、トン、トン、ト―

音が止む。その刹那、全身を走る悪寒。
「―避けろっ!!」
ディナーハとシオンが、シャムとリヤへと駆ける。
だが。

「―遅い」

一閃。光が奔った。
そしてまるで忘れていたかのように、爆音が響き渡る―!!

爆風と共に立ち上がる土煙から、姿を見せたのはシオンとシャム。そしてシオンに抱えられたリヤ。
「ディナーハさんっ!?」
「大丈夫だっ!!」
シャムの問いかけに、土煙の中から返事と同時に、何かが投げ出された。それを手にして広げる。
「…地図」
「それを皆に届けるでござるよ」
リヤをシャムに預け、シオンが微笑み、土煙へと姿を消した。
だが、まだ肝心な答えをディナーハから聞いていない。仮に渡せたとしても、先程の答えを知らなければ無意味になってしまう。
だが―。

「こいつらの命と引き換えだ。せいぜい足掻け」

呟かれる解呪。同時に意識が混沌としてくる。
「……駄目なぁ〜ん」
気力を振り絞って、リヤが癒しの光を放つ。土煙の中にいる2人に向けて。
そして。そこで二人の意識は途絶えた…。


「ボス。大丈夫でござるか?」
「ああ」
シオンの問いかけに苦笑い混じりにディナーハが答える。
先程の初撃。明らかに手を抜いていた。わざと私達があの2人を助け出せるように、間をおいてからの斬戟だった。
「舐めるな」
ディナーハが射抜くような目で相手を睨む。
「拙者をなめたこと。後悔してもらうでござるよ」
そして戦闘態勢をとる2人。
男はそんな眼前に立つ2人の姿を確認し、口の端を吊り上げ、心底愉快そうに笑った。

―存分に楽しめそうだ、と。