断崖絶壁に棺桶が懸かっている
「ボウ人故里」という石碑が立つ

【四川省の秘境】

2006年5月、ミャンマーとの国境にあるメーソート(タイ側)という町へ行った時、私は「かめ」という名前のゲストハウスに宿泊した。日本人経営らしく、ドミトリーは畳で雑魚寝というスタイルだったが、旅行者が気軽に訪れるような場所ではないうえ、生憎の土砂降りで部屋は一人占め状態だった。朝からミャンマーへ行き、一日入国を済ませたので昼過ぎにはやることがなくなり、宿の本棚に置いてある日本語の本を読み漁っていた。

その中で「旅行人ノート(季刊誌)」の「読者投稿」に目が留まった。詳しい内容は忘却したが、確か四川省の情報として「ボウ人懸棺、洛表、Y字のロータリーを右折して1時間ほど進むと無数の棺桶が絶壁に懸かっている、老鷹岩は必見」などという文字が並んでいたと思う。これまでに聞いたこともない情報に魅力を感じた私はいつか自分で行って見ようと思い、小さな紙切れの裏にメモを取った。しかし、それ以上の情報が入らず、また、バンコクで過す日々が続いたため、いつしかそのメモは実在するかどうかも定かではない「宝の地図」として私の記憶から遠のいて行った。

しかし、2007年12月、上海から成都を経由してバンコクへ向かうルートの途中に「四川省の秘境を訪ねる」という予定を組み入れ、実際に断崖に懸かっている棺桶を見学することに成功した。

四川省の秘境!ボウ人・懸棺

まず四川省の主要都市である成都、または重慶から列車で宜賓を目指す。「成都→宜賓」行き普通列車(硬座)で7時間、25元。その他には「成都→昆明」行き列車に乗り、宜賓で途中下車する方法もある。また、成都の北門バスターミナル(シムズ2号店近く)からは宜賓へ行くバスが発車している(宜賓では西岸バスターミナルに到着するので、5番の市バス「西客駅(戒州橋)南客駅」に乗って南岸バスターミナルへ移動する)。宜賓駅を出ると左手に緩い下り坂があり、両側に宜賓名物、「燃面」の店が並んでいる。

坂を下ると大通りに出るので、そこから上記の通り5番の市バスに乗り、南岸バスターミナルまで行く。バスターミナルに到着したら「王+共」という漢字、つまり、「王共 県」行きバス(6時15分から18時まで15分毎に頻発)で「巡場」下車、料金は13.5元、所要2時間。「王共 県」からは「洛表」行きバス(所要3時間)が頻発しているので簡単に接続できる。「洛表」まで行けば、懸棺のあるポイントまで歩いて行ける。

【成都or重慶から宜賓、そして洛表まで】

燃面はスープなし激辛麺だ
成都→宜賓へ向かう列車 深夜3時ころ
「洛表」方面へ向かうバスターミナル

洛表は小さな町だが、バスターミナルのすぐそばとY字になっているロータリー(ここに「ボウ人故里」の石碑がある)付近に20〜30元の安宿が5件ある。バスターミナル付近の宿は比較的清潔でシングル30元(ディスカウント不可)、Y字ロータリーにある @裕興食旅館は値切ってシングル20元、そこから右手へやや進んだ場所にある A泰来住宿は言い値でシングル10元。

私は最初に@へ行きチェックインしてしまったが、内容はAの方が良い。値段を聞いて部屋まで見せてもらったのに、「洛表」で連泊しなかったので泊まることが出来なかったAへ、私の代わりに是非行ってあげて下さい。

Y字ロータリーを左へ進むと右手に市場があるが、町全体の食事事情は悪い。日中ならともかく、夜になると炒飯、麺など以外は棚に並んだ食材を指差しオーダーすることになり、料金も高い。食事は宜賓の駅前の方がはるかに豊富なので、「洛表」へ向かう前に済ませておくことを勧める。

【洛表での宿泊&食事】


洛表中心部のY字ロータリーをバスターミナルを背に右へ、緩やかなカーブが続く下り坂を30〜40分ほど歩くと右手の竹林の根元に「全国重点文物保護単位・ボウ人懸棺」の石碑が立つ。薄汚れて目立たないが、2つ目の学校を過ぎた辺りである。その先には両側に廃墟となった建物が並んでいるのだが、最初の懸棺はその左手に突然、姿を現す。

3個の懸棺と一ヶ所に集められた木棺群、それから無数の棒杭が見上げるばかりの高さに設置されている。壁はややオーバーランしているので見上げていると首が痛くなるほどである。こんな場所にいつ、どのように、何の目的で棺桶を置くことにしたのだろうか?と本気で悩んでしまうほど、その光景は奇抜なのだが、道路の正面に聳える山の頂部付近にも3つの懸棺を視認することができ、興奮は増すばかり。

そこから更に2分ほど進むと本格的な風景区となり、入口にゲートがある。在郷の農民にとっては帰り道なので自由に通過しているが、観光客は20元の入場料を払う。入口ゲートへ向かわず、一旦右折して畑の畦道を迂回してタダで風景区へ入ることも可能だが、ここは次に展開する光景に期待して素直に正規ルートを進もう。舗装道路を行き、ふと左手の断崖を見上げると想像を超える懸棺が貼り付いている光景に驚愕するだろう。

この周辺には他にも「珍珠傘」「老鷹岩」と呼ばれる2ヶ所の懸棺ポイントがあるが、入口から徒歩数分の場所にあるこのポイントが最も数が多く、保存状態も良い。ここには展望台もあり、どのようにして崖に懸棺を安置しているのか肉眼で観察することが出来る。
る。

【最初の懸棺ポイント】

長閑な田舎の風景が続く
Y字ロータリーを右に曲がり、徒歩1時間
洛表には古い建物が残る
ボウ人・懸棺の入口ゲート
木材加工が盛んらしい
笑顔の小学生たち

一言で言うと、「謎」である。そもそも「ボウ人」とは、明の時代に明軍によって滅ぼされた古代人であるため、末裔が存在しない。現在、この周辺で生活しているのは漢民族であるため、古代ボウ人の記録は残されていない。ボウ人の「ボウ」は「棘(とげ)」という字の下に「人」と書く。今でも交通が不便な四川省の奥地に暮らしていたこと、民族を示す漢字に「棘」という鋭いイメージの文字を当てるところなどから想像すると、文化的、人間的な交流を嫌う閉鎖意識の強い民族だったのではないだろうか。

そして、独自の文化を構築していく中で最も特異な存在が「天空に鎮座する古代人の棺」である。文献資料や口伝が残っていないので推測する以外にないが、崖などの高い場所に棺を安置する習慣はフィリピンや台湾、インドネシア(スラウェシ島)、日本では沖縄県の一部など、広く東南アジアに分布していることを考えると共通の意識が感じ取れる。

即ち、遺体をより高い場所に葬ることにより、魂がより高い場所まで昇っていけるようにとの願い、遺体が動物などによって荒らされないようにと祈る気持ち、埋葬品を盗難から守ろうとする思い、などである。しかし、そのような願いも空しく殆ど全ての懸棺は盗難に遭っていて、歴史の謎を解明する手がかりとなる副葬品を発見することは困難だと言う。

チケット売り場の男性に質問したところ、「懸棺風景区」には毎月10人ほどの外国人が訪れ、日本人は年間30人ほど見学に来るという。



【ボウ人・懸棺とは?】

崩落した懸棺も多い
入場料以上の見応えがある
赤丸印の部分に懸棺が2基ある
被葬者はどんな人物だろうか?
材質の硬い木で作られている
最初の懸棺がある断崖には
一ヶ所に棺桶を集めた痕跡が残る
2008年5月12日に発生した四川大地震の影響が心配だ
神秘的&不気味さが混ざった光景である

「懸棺風景区」の最も懸棺が密集している壁面には左側に8個、右側に11個、全部で19個の懸棺が見られる。一番見応えがあるのはここだが、このエリア一帯に懸棺は広範囲に亘って分布している。例えば風景区を更に直進して、砂利道を暫く行くと左手の崖に3個の懸棺が残っている。ここには赤く塗られた人物壁画も見られる。そこを更に進むと同じく左手の山の上に展望台施設が見える。

展望台からは今まで歩いてきたルートが確認できるばかりではなく、次の目的となる「珍珠傘」のある壁面がやや左正面に見える。展望台を降りて、石橋を渡らずに川の堤防の上(コンクリートで固められている)を200メートルほど右へ進むと舗装された道路に出るが、そのずぐ正面に「珍珠傘」が見られる。

「珍珠傘」とは現地のパンフレットに書いてあった名前だが、縦にキレイに5個の懸棺が並んでおり、ビジュアル的には最も美しいだろう。草の生えた天然の鍾乳石に岩蓋を頂く姿は計画的で、懸棺の位置も他より低い場所にあるので見学しやすい。

【懸棺の分布】


今にも落ちてきそうな・・・
赤い塗料で描かれた人物壁画
風景区の先に3個の懸棺がある壁面がある
山の上にある展望台
美しい瓦屋根の民家が多い
苔生した瓦屋根
辿って来たルート
展望台からの眺め。左から斜め右に川が
走っている。堤を歩いて反対側へ渡ろう。
未舗装道路は泥がぬかるむと歩き難い

【珍珠傘】

本来は8個ほど並んでいたらしい
独特のビジュアルをした「珍珠傘」
珍珠傘から「老鷹岩」へ続く道路
天然の傘を被っている
懸棺の手前には決まって展望台
のような岩があり、絶好の撮影場所
となる

午後3時を過ぎていたが、「珍珠傘」見学後、もう一つ有名な「老鷹岩」を探すことにした。簡単に見つかるだろうと思っていたが、想像より遠くて村人に何度も道を訊ねた。結果、「珍珠傘」からは舗装道路を10〜15分ほど進み、左手にコンクリートで囲った池があるレストラン(そこを過ぎると大きな左カーブになる)のところで右折(小さな橋を渡る)、そしてすぐに左折して畦道を20〜25分くらい進むと「老鷹岩」に辿り着く。「老鷹岩」は高さ100メートルもある垂直の断崖の頂部付近に11個の懸棺が安置されているのだが、高すぎて豆粒のようにしか見えない。あんな場所にどうやって!?という人間の凄さを感じることは出来るが(最初、この場所に懸棺を安置しようという案が出たとき、反対する人はいなかったのだろうか?)、被写体としてはイマイチ。

【老鷹岩】


11個の懸棺が残っている。
あんな場所に凄い!!
老鷹岩、遠景
老鷹岩、全景

庭先をアヒルの群が行く
同じく、ボウ人の末裔ではなく、
漢民族の女の子
民間信仰であり、ボウ人との
関係はない
夕暮れが迫り、ボウ人・懸棺を
探す旅は幕を閉じた
元気な女の子たちに出会った
エサの時間だよ!

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