「成功したい人形劇人に役立つ本当に大事なこと」

テリー・リー[i]

…国際マリオネット協会、国際人形劇研究所、 国立高等人形劇芸術学院(ESNAM[ii]『次の世代に伝えていくために』2009pp. 230-5

Lee, Terry: Top Tips for Aspiring Puppeteers. in Passeurs et complices (Passing It On). Ed. Institut international de la marionnette, Ecole nationale supérieure des arts de la marionnette and others, Charleville-Mézières, 2009, pp. 230-5.

翻訳・訳注 石川 幹洋(人形劇団京芸)

 

 ぼくのような田舎育ちにとってシャルルヴィルiii]は大都会に思えた。28年前、国際人形劇フェスティバルにフォルクスワーゲンのキャンピングカーで乗り入れた時のことだ。(招待参加ではなかった。)デュカール広場を中心にして、どんな店先にも人形が飾ってあって、まるで精巧なパリの模型のようだった。でも、いつも、フェスが終わり、テントが畳まれると、町の小ささが露わになる。

 

 もし、親が子に教わるということがあるのなら、先生が生徒に教わることもあるだろう。ぼくのESNAMでの経験(3回の介入を含む)は、人形劇と劇場一般について、本当に多くのことを教えてくれたし、お互いの裏も表も知ってしまう集団の中での力関係の変化についても教えてくれた。こういった経験から照らし合わせて、ぼくによる成功したい人形劇人に役立つ本当に大事なことをお教えしましょう。

 

 自分より優れた人と働くこと…学生は集団で動かなければならないとなると、当然のことだが、友だちをそこに入れようとする。学生と一緒に新しい計画を立ち上げる時はいつでもそうだ。創意工夫にあふれる世代には、対立は有用であること、相手を羨む能力はより豊かな混交を生み出すということを助言したい。人形劇はあまりにも「素人の」芸術形態になりやすいのだし、資金繰りの制限内で、計画を立てる人、物を作る人、コメディアンといった中でも一番良い人たちと働くことに必死になっている。彼氏彼女にポスターを描かせてはダメ。

 

 知っていることについて書くこと…ぼくたちが商うのはぼくらのノイローゼであって、それこそがぼくたちを他者と区別している。逆説的に言えば、具体にこそぼくたちは普遍を見つけるということだ。君が母親に腹を立てている、ならばそれを君のピノッキオに投影しよう! 主題の自由を与えられた学生たちは、芸術家でありたい、受け入れてほしいと必死になるあまり、彼らの芸術に政治や環境問題や道化師の死を語らせたがる。

 

 失敗は必修である…危険を冒して何ができるかを見つけ出すために学生は存在している。悪趣味の限界はどこにあるのか? 瞬間の長さはどれくらいか? それを人前でするつもりなのか? こういった疑問は境界を踏み越えることでしか答えを見つけられない。見も知らぬ人の前で危険を冒すのは難しい。ESNAMでは実験を奨励して勇気を歓迎するとても協力的な家族といったものを作り上げている。このコインの裏側は実際にやってみた後の厳しく率直な評価だが、これは時にこの機関による自己表現の奨励には欠けている。

 

 人形劇は街頭のもの…人形劇は視覚的な表現方法である。ぼくが思うに、修業の間は、アナログなところから初めて、目の前の公衆とのやり取りを受け入れ、騒音や予期しないことで人の注意が離れることを予測するのが役に立つ。混雑した場所でも生き残る創意工夫を何もかもが可能な小劇場のために書くという贅沢の前に想定しておこう。

 

 誰のためのものかを決めること…ぼくは「全年齢対象」という設定に大きな疑問を抱いている。学生は必ずそれを選ぶけれど、ぼくは彼らがもっと具体的にするように試みている。演し物は道具であって、もちろん、親御さんも楽しませたいだろうけど、それは本当に子ども向けになっているだろうか? 青少年向け? ずばり、対象年齢は何歳? 他の年齢層がその演し物を好まないということではないけれど、子どもたちだって彼ら向けの演し物を持つ権利がある。

 

 観客を驚かすこと…見て簡単にわかることを取り除くこと。このドラマのこの段階では観客が何を期待するだろうと自分に尋ね、何かそれと他のことをすること。繰り返しには、よっぽどの理由が無い限り、注意すること。終わり方はわかりやすくかっこよくすること。

 

 ドラマを感じないように努めること…ぼくたちは技術者であって、最低限の感情でもって物事を正確に繰り返すよう学ぶ。どのくらい、操演者の感興に満ちた(彼らが操っている人形より興味深い)顔の方に目が奪われてきたことだろう。

 

 単純なことが一番…機械は使おう、けれど、ある上演中に動かなくなるかもしれない。事前にプランBを考えておくこと。人形劇においては、大層な出来事を表現するのに選んだ単純な方法の中にこそ笑いがあることが多い。

 

 どんな人生を送りたいか考えること…何でもできるけれど、全てはできない。世界を旅してまわるスターになりたい? それなら、庭を持つのは忘れよう。自分の子供との関係が大事なら、本当に自分が追い求める生活について熟慮しよう。

 

 貧乏であるのを覚悟すること…フランスは人形劇人に対しては特別寛容な国だ。しかし、ヨーロッパ中の芸術が刻々と変化している。多くの一流の人形劇人は補助を受けていないし、時に公的な資金というのは罠だ。助成金は、たいてい、繰り返し新しい作品を作るという意味合いがある。本当に優れた演し物は発展するのに何年もかかるものなのに。シャルルヴィルで学校に通う3年間を終えてみると、名のある劇団と仕事をする、ということだけが成功をはかる物差しになりがちだ。自分にしかない狂気を開花させる勇気を持とう。

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i] テリー・リーはグリーン・ジンジャー(GREEN GINGER/青生姜)という、フリーの人形劇人が集まってアニメーション、影絵、特殊効果等を使い、超現実的で風刺的で不条理な大人向けの人形劇を上演する劇団の創設者の一人である。1978年に英国人形劇協会から奨学金を授与された彼は西ウェールズで劇団を創設し、海岸沿いの人形劇小屋で上演をすることで評判を高め、テレビではスピッティング・イメージ(Spitting Image/イギリスの政治、マスコミ、王室、スポーツなどあらゆる分野に容赦ない風刺を浴びせかけ一大旋風を巻き起こした人形劇番組。詳細は以下を参照(全編英語) https://youtu.be/0qaJ2L1QVTw )、映画ではジム・ヘンソンの『ダーク・クリスタル』(Dark Crystal/1982年にヘンソンが発表した長編ファンタジー映画)等に人形使いとして出演する。その後、『スラップヘッド』(Slaphead/「スウィニー・トッド」のパロディ)、『バンビ』(Bambi/2D3D、新旧技術を組み合わせて作成され、成功を収める)等で世界各地を巡演。劇団の支持者にはモンテイ・パイソンのテリー・ギリアムおり、彼はグリーン・ジンジャーについて「やばい病気の心が生みだした狂気の産物…我が国のためにも彼らは街路に追いやっておくのがふさわしい」と賛辞を送っている。詳細はhttp://www.greenginger.net/newstory.htmlのドロシー・マックス・プライアーの論文、または同内容の論文が掲載されたAnimated Bodies, A Review of Puppetry and Related Arts, Animations in Print Volume 3, Ed. Dorothy Max Prior, Puppet Center Trust, London: pp. 52-3.を参照。

 

[ii] École Nationale Supérieure des Arts de la Marionnette。フランスのシャルルヴィル・メジエールにある人形劇の国立高等人形劇芸術学院。本論文は学校設立20年を記念して出版された、学校創立までの経緯、教える立場からの発言や論文などを集めた記念誌である。本論文も、リーが教授した経験を基に執筆されているので、広く人形劇人に向けてと言うよりは学生、もしくは人形劇を始めたばかりの人に向けての発言として読まれたい。

 

[iii] シャルルヴィル・メジエールでは3年に一度(近年は2年に一度)世界人形劇フェスティバルが開催される。また、ウニマ【国際人形劇連盟】(Union Internationale de la Marionnette/UNIMA)の本部がある。