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10月31日 百物語第四夜其の参 夏の蜩 秋の姫君
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9月24日 百物語第三夜其の参 スク水少女と夏の始まり
百物語第三夜其の四 スク水少女と夏の途中
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百物語第四夜其の参

夏の蜩 秋の姫君


  虫の声は崖の上から絶え間なく零れ落ち泡の如く積もり積もりてしまいには谷を埋め尽くしてしまうのではないかと思われた。音の封じ込まれた泡の粒を指に挟んで潰して見たらば今しがた聞いていたばかりの新しく冴えた音が過たず放たれるだろうか。そういうもので埋まった谷はしまいには一体どうなるだろうか。踏みしめるたびに尊い音色で足元が震える透んで輝かしい結晶の地層となりて今よりよほど渡りやすくなるのだろうか。
 谷近くには口のない洞があり、そこには秋の姫君が従者に世話されながら一人棲まっていた。秋の姫君には役目はなかった。ただ秋になれば目を覚まし秋を見守り冬になれば眠り次の秋を待つ、そればかりであった。
 姫は深いまなざしを伏せたままむき出しの神経のような見かけをした菌糸の匂いを聞いていた。見渡せば姫の住まいのそこここから新しく生白く瑞々しい菌糸が滴り落ちていた。そうして崖から先を争うように届けられる虫たちの鳴き声は例年と変わらず秋の姫君の耳を慰めたけれども、その表情が少しばかり曇っていることに従者が心付かぬはずもなかった。

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