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電磁波と地震の前兆現象について


1.電磁波による地震前兆現象の検出


 地殻の活動に由来するガス、熱水,マグマなどの電気伝導性をもつ流動物質が地下深部に存在することが知られています.これらの流動物質の流動や地表への上昇による酸化、地殻物質との化学的反応や地殻圧力による電気伝導度変調など、電磁気的,電気化学的,電気機械的な多くの作用によるとみられる微弱な電磁(電波)放射が火山性群発地震、火山噴火、直下型地震、海溝型地震のいずれについても活動の前後に存在することが、極超長波(ELF帯223Hz)を用いた観測装置で検出できるようになってきました。
 図1は平成5年の雲仙普賢岳の観測におけるセンサーの設置状況を示す。現在、地表で磁界3軸成分の観測を24時間レベルで、図2に示すごとく、北海道釧路から九州熊本まで40数箇所において実施し、地震の発生との対応を調査している。図3は直下型の山梨県東部地震M4.9の前兆電磁波を10kmの近距離で検出した記録であり、図4は同じく山梨県東部地震M5.8を50km離れた遠距離から受信し、処理によって求めた前兆放射を示す。


図1


図2



図3



図4




2. 地殻からの電磁放射の検出、窓周波数としての極超長波帯

 各種の雑音の影響を受けない高感度な観測装置の開発が課題です.主な雑音として考慮しなければならない事項は以下のようです。
(1) 太陽からの紫外線や太陽風の照射に基因する磁気圏・電離層の乱れや変動によって生じる地球環境での放射雑音

(2) 電離層と地球大地間の空洞共振によって蓄えられている電磁波エネルギーによる放射は、数十Hz以下の低周波域で卓越していることが知られています.それらの周波数帯の放射にも局地的な前兆放射が含まれている可能性は十分に考えられるが、地球レベルの放射が大きいため前兆放射の分離が一般的に困難である。

(3) 観測周波数を高くすると前兆放射の持つスペクトラム密度が小さくなることが予測され、検出性能が低下することが心配されますが、雑音がそれ以上に改善されるならば、逆に信号対雑音比のよい観測が可能になります.

(4) 受信増幅器の雑音は100Hz以下ではゆらぎ雑音が大きくなります。極超長波帯で検出すべき局地的な地殻起源の電磁波放射レベル(ヘルツ当りの磁束密度)は1ピコテスラ以下が求められます。

(5) 1kHzより高い周波数帯では、1,000kHz(1MHz)程度まで、前線性の雷雑音が極めて強く存在します。これらの周波数帯では、全国的な雷雑音が広く受信されるため、安定で高い感度の実現が困難になります。

(6) 風や大地の振動でセンサーが揺れ、地球磁場を切るために生じる揺れ雑音(ムービング雑音)があります。数10Hz以下では設置工事が大掛かりとなります。
以上のように、極超長波ELF帯(30−300Hz)は大気環境での各種の雑音レベルが小さく、地殻起源の微弱な電磁波観測にとって有利な窓周波数であることが確かめらています。

(7) ELF周波数帯では地殻に対する表皮深さが大きいため、大地の電流による垂直磁界成分の検出が可能となる利点があります。ELF帯より高い周波数帯ではこれらの成分の検出は困難です。マグニチュドM6未満の地震の場合でも、震源域に数10kmに近接した観測点では、明瞭な垂直磁界成分の異常放射を検出できます。垂直磁界成分の変化から地下の電磁界現象の検出・解明が期待できます。

(8) 水平磁界成分は、近接した前兆電磁波源(地震の早期活動域)からの水平磁界成分のほか、遠方の前兆電磁波源からも低損失で到来する水平伝搬磁界成分の両者を併せて検出します。このため、東西・南北の水平2成分と垂直の3軸3成分磁界の観測によって複数信号の分離を行います。すなわち、垂直磁界成分は大地の電気伝導度のために近接した波源の信号しか検出しないので、垂直磁界に対応する近接水平磁界成分を分離識別できます。さらに近接した他の観測点についての同様な情報から信号の分離や、距離の推定、放射メカニズムの解明などについて豊かな情報が得られる利点があります。

(9) 垂直電界成分の観測については、磁界成分との相互関連を評価できますが、近接界(波長の2π分の1以下)の波源になるほど、空間のインピーダンスが電界成分に対して高くなります。このため、アンテナの設計や観測方法にも配慮が必要です。電界成分の観測では近接した各種の原因による大気電界の影響を大きく受けるため、一般的に安定な観測が困難となります。しかし、時として前兆の効果が検出できる場合があります。それは、空間のインピーダンスが極端に低下したことを知らせる観測状態が存在することです。この期間では、一般に各種のノイズは著しく減少し、静かな受信状態となり、この状態で受信レベルが増加方向に変動する。このような場合は、空間の電離度が高く電界に対してインピーダンスが著しく下がった状態であり、アンテナが電荷でシースされた状態とみなされます。このような状態は近接雷でも発生しますので評価が大切ですが、前兆解明のためのひとつの重要な観測です。

(10) 磁界成分に対しては、近接界の空間インピーダンスは逆に低くなるため、人工的な波源からの放射効率は低下します。このため磁界雑音はその分小さくなります。
したがって、この面からもELF帯の磁界は安定な観測が可能である。 

〔用語説明〕
ELF:Extremely Low Frequency の略で極超長波と言われます。周波数帯としては、10-300Hzをさす場合と30-300Hzをさす場合があります。
表皮効果:Skin Depth効果といわれます。直流でない変動電流は導体の表面に集中し、導体の中には浸透できません。浸透する電流の大きさが1/eとなる厚さを表皮厚といいます。周波数と導体の電気伝導度の平方根に逆比例します。


3. 人工雑音、受信感度、前線性雷雑音について


 最近、商用電源系には、サイリスターなどの各種の非線型制御素子が用いられているため、50,60Hzの倍調波のみならず、各成分周波数の混変調によって発生する高調波雑音まで考慮する必要があります。これらを考慮して観測周波数を電源系と素な周波数である223Hz、波長約1,330kmに選定しました。また受信帯域を小さく選び隣接雑音スペクトラムの排除を極力行いました。
 以上の考慮をおこない各種の雑音を軽減した状況において、受信感度を決定するのは背景雑音であります。それらは、熱帯地方や太平洋東方海域など遠方の雷多発地域から到来する多数の雷(熱帯雷または熱雷といわれる)雑音成分からなっています。
大地と電離層で形成される導波路の電波伝播特性は、電離層高度(D-E層では70−250km)で決定されます。また、電離層の電子密度によって定まるプラズマ周波数は観測周波数よりずっと高いため、電離層はほぼ完全な反射特性を持ちます。さらに、観測信号の波長が電離層高度の2倍よりも長いため、ELF帯の信号は狭い導波路を透過できず伝播上の減衰が大きくなります。このため、ELF帯では、微弱ながら零次伝搬モードで到来する雷雑音成分のみが受信されます。この到来波の一つ一つの振幅は小さいのですが、数多く合成されて受信される雑音(熱雷雑音といわれる)は、統計的に正規振幅分布を持つガウス雑音と成ります。そのヘルツあたりの磁束密度は冬季において0.5ピコテスラ、夏季においては、1.5ピコテスラ程度であることが明らかになりました。季節変動のほか、日日の太陽の照射により、電離層の高度と密度が変化するため、背景雑音レベルが特徴的な日変化を持ちます。図5は観測された背景雑音レベルの季節による変化を零時から24時に対して示します。なお、7月から12月までの特性は省略されていますが、1月から7月までとほぼ逆の経過をたどります。なお、受信機雑音はセンサーや増幅器の熱擾乱からなる雑音ですが、それは背景雑音の3分の1程度に設計されています。このため、背景雑音の日変化が明瞭に検出されます。これは受信系統の感度が高く正常であることを意味しますので、多地点で観測する際の受信機の相互評価や感度校正信号として、この日変化を利用しています。 


図5


 一方、日本列島周辺の前線雷は西より東に通常時速50Km前後で移動します。これらの雷雑音はこの観測周波数では数十分程度の期間だけ、すなわち雷との距離が10Km程度以内にあるときのみ顕著に受信され、離れるに従い伝播上の減衰が大きいため急速に減衰します。したがって、雷が近接したときのみの電磁界放射成分が大きく受信されので、三角状の先鋭的な放射ピークとして検出されます。図6はかなり大きい規模の近接雷の電磁放射(6秒平均値)を示します。このELF帯の観測では、雷放射の影響が極めて限定的であることがわかります。このことが大きな特徴となっています。また、到来方位が時間とともに変化するので近接雷放射であることが識別されます。なお、規模の大きな前線雷が停滞する場合には、継続的に前線雷が通過するため夏季に数日に及ぶ乱れが生ずる場合があります。

東西磁界
南北磁界
垂直磁界
図6


4. 火山・地震活動による前兆電磁放射

 地震や火山活動に関連して放出される電磁波は、観測距離にもよりますが、通常の観測状態において、ヘルツ当たり数分の1ピコテスラから大きくても数十ピコテスラのオーダーです。それは、人間の放射するこの周波数帯の磁気雑音とほぼ同程度の小さな値です。ただ、放射面積が大きいため放射電力は膨大なものとなります。数km離れて同じレベルの放射磁界を人工的に発生させるには、小都市が使用する電力でも不足するほどです。
また、放射レベルの変化の様態も独特なものがあります。前線性の雷雑音や人工雑音とも大きく異なっています。パルス的な放射も時に出現しますが、前兆的な放射としては数十分程度から数時間周期の変動を伴いながら、だらだらと数日から数週間継続し、それらがまた長期間に渡って不規則に変化し断続しながら続くといったフラクタル的な側面をもつことが判ってきました。これらの特徴を信号解析に織り込むことで、前兆信号の部分のみ抽出する研究も行っています。
一般的に,マグニチュードM3-4クラスの直下型の地震の場合には、数日から1週間程度の放射異常があった後に発生することが多いのです、規模がM5‐6と大きくなるにつれ、電磁波前兆の期間も1−2週間からさらに長くなる様です。なお、観測が近接して行なわれている場合には、小さな放射から検出されるため、規模の割に長期間の前兆が存在することになります。また、火山性群発地震の場合には、近接して観測される場合が多いこともあって、一般的に半年から数年に及ぶ放射期間がある場合が多いのです。
このように、前兆放射が検出される状況は震央距離などの観測条件や震源の深さ、地震にいたる地殻の状態によっても変化します。一般的に、観測距離が長くかつ震源が深くなる海溝型の地震や、陸域でもプレートのもぐり込み先の深い場所で発生する地震の場合には、規模に対して検出電磁波のレベルが一般に低く、変化波形もなだらかで,前兆の検出日数も短くなる傾向があります。
 また、静岡県伊東市におけるマグマ活動による群発地震や雲仙普賢岳の噴火活動の観測から、火山性の群発地震や噴火活動では、一般的に長い放射活動が存在し、数ヶ月から数年に及んでいます。
 雲仙噴火活動では、マグマが帯水層を通過するときと見られる特異な垂直磁界異常を4.5km離れた地点から観測しましたが、それらの後45〜60日してマグマドーム〔第9,10ドーム〕が形成される関連が示されました。また、ドーム崩落時には特異な放電状の水平磁界放射が検出されました。電磁放射の減少、解消とともに噴火活動も収まっていきました。


5. 観測電磁波−極超長波の伝搬特性

 電磁波前兆を解明するためには、その放射域と放射電力量を特定することが必要になります。放射域が特定できると近接界放射か遠方界放射かの区別ができます。したがって、逆問題として波源の放射強度やエネルギーが特定でき、電磁波前兆現象の解明に重要な情報が求められます。
 波源と観測点間の距離によって検知レベルは大きく変化します。すなわち、観測距離によって波源の強さに対する到来レベル、到来方向、空間のインピーダンス、電離層の影響が異なってくるのです。
 観測波長が約1,330kmと長いため、波源に近い30km以下では近接界放射領域でも特に誘導電磁界領域といわれ、電磁界レベルは距離の3乗や2乗に半比例して大きく変化します。またこの近接界では、磁界成分が波源の方向を向く場合が多くあります。一方、波源から波長にして2π分の1、約200km以上離れると遠方界といわれ、進行方向に対して電磁界が垂直面に存在する横波となります。また電磁界レベルの観測距離に対する変化は緩やかとなり、距離に半比例して減衰します。この領域がいわゆる電波といわれる領域です。また、空間のインピーダンスも近接界では電界に対して高く、磁界に対して低くなります。遠方界においては、電界と磁界の振幅比は自由空間の固有インピーダンス377オームで規定されます。 
 また、電離層による反射の影響で伝搬特性が昼間と夜間で異なってきます。昼間の電離層であるD層(高度70‐90km)の最下部の反射による影響は、電離層高度より遠い場所で現れてきます。それより短い距離においては、入射角の関係で電離層を透過するため、電離層の影響はなく直接波(近接波)のみが受信されることになります。
 電磁波源との距離が電離層の高度と同程度以上となると、電離層の反射によって距離に対する減衰は大幅に減少し、距離の平方根に半比例する特性となります。自由空間を想定した距離に半比例する特性よりも減衰はかなり小さくなります。
 ELF帯では、低いD層の存在によって、減衰の大きい昼間でも、1,000km(Mm)当り4‐5dBの低損失で伝播します。実際、強い放射に対しては、九州の前兆電磁放射が北海道の観測点でも観測されます。夜間はD層が消滅しより高いE層が反射に寄与するため、夜間の伝播上の減衰は昼間より小さくなります。
 Waitらによる大地と電離層の反射によるモード解析理論の結果を用いて、垂直電気ダイポールに対して求めた水平磁束密度を図7に示します。なお、1,000kmを超えた領域では、反射による打消し効果が現れて来ることと、さらに地球の曲率のために急速に減衰します。


図7

6. 前兆電磁波の放射源

 地殻活動による電磁波がどのような仕組みで放射されるのかは、まだ完全には解明されていませんが,特徴的な放射の様子がいくつか明らかになってきました。観測をはじめた10年あまり前、最初に気付いたことは、地震発生時にはこの周波数帯の放射が検知されず、1−2週間前に放射があり、それらが収まってから1日から数日して地震が発生する場合が多いことです。
電磁放射源が存在するのは地殻の深部なのか、地表なのかそれとも大気中なのか、またはそれらの混在なのかは議論があり、まだ確定していません。放射源の位置がわかるだけでも電磁波前兆発生のメカニズムに大きく迫ることができます。われわれの観測結果によると、地表に近い部分からの電磁放射が重要な存在のひとつであることが判明してきました。別の機会に、地表近い個所からの電磁放射であるとする推定根拠を示し、その電磁放射のメカニズムについて考察します。


7. 放射源位置の特定


 放射源位置の特定が電磁放射と地殻活動の対応を検証する上において重要です。しかし、観測周波数が極超長波帯であるため空間波長が約1330kmと長く、受信信号の位相差による到来方位の測定が波長近く離れた観測点間でないと正確に行うことが出来ません。このため、東西と南北方向の2つのセンサーアンテンナの振幅比から到来方位を求めています。しかし、地殻よりの電磁放射レベルが小さく、受信信号の信号対雑音電力比が小さいので、測定誤差が出ます。このため、複数の観測点からの観測で推定方位の誤差を改善しています。なお、近接誘導域(30km以内)と放射域(200km以遠)で到来方位に対する磁界成分の方位が90度変化しますので、これらを考慮した放射源の位置を評価しました。
図8は、1997年11月16日午前6時30分頃に九州南方のトカラ列島周辺の海域(海溝)から全国的に検知される強い電磁放射の検知を示しています。各観測点の放射振幅を放射域から観測点までの距離に対して図9に示します。ほぼ距離の平方根に比例しており、図7の解析結果とも一致しています。また、1,000km(Mm)当たりの減衰は早朝時で約3.6dBであり、この値も理論値に近い結果です。また、放射源のソースモーメントは放射レベルを理論値と比較して、223HzにおいてHz当たり0.6〜1.0×10^3 Amと推定されました。


図8

ついで、内陸で発生した地震について評価します。1998年2月21日冬季オリンピックの開催地に近い新潟県小千谷でM5.0深さ20kmの地震が発生しました。図10に示すごとく、この地震の前兆は2週間ほどの前の2月7日にはじまり、5日前から強さをまし4日連続し、地震の前日には低下しました。放射の強さと放射域の規模ともに限られた内陸型のローカルな電磁放射を持つ地震でした。観測距離に対する放射レベルを図9に併記しています。この放射のソースモーメントを理論値と比較し、223HzにおいてHzあたり0.8〜1.1×10^2 Amと推定されます。距離の逆2乗の減衰領域である半径200km以内で検知されましたが、地域的な放射としては強度が強く、九州を除き大阪府茨木市から宮城県北部若柳町までの広い範囲で受信されました。特に、岐阜県萩原町、新潟県笹神村(震央距離105km)では明瞭に受信されました。約20箇所の観測点から放射方位を評定したところ、図11に示すごとく、放射域は2月8日頃糸魚川・静岡構造線の北部地区でありましたが、5日前からは西に移動し、飛騨山地や阿寺断層北部地域と推定されました。
これらの放射異常は地震の前兆と判断されましたので、地震の主な研究機関と研究者にFAXで小千谷の地震の数日前に地震の予想地域を示し連絡いたしました。図10に示すごとく、2月10日岐阜県郡上八幡でM4.3、2月21日には小千谷でM5.0と放射域と推定された領域の西南と東北地域で地震が発生しました。推定放射域の中心部で地震の発生はありませんでしたが、地震の発生はひずみと地殻の強度関係などによって決定されることを考えると、必ずしも放射中心に限られないものと考えられます。


図9





図10



図11


8. 海溝よりの大規模な放射

 電気伝導度の高い海面域から強い電磁放射が存在するとは当初予想されませんでした。それらの強い全国的な放射は、太陽照射の影響を受けた地球環境の電磁波レベルの上昇と考えていました。しかし、10箇所を超える観測点から到来方位を求めることによって、小笠原海溝や南西諸島海溝など日本周辺海溝やそれに沿う諸島周辺から放射されているらしいことがわかってきました。これらは太平洋プレートとフィリッピン海プレート、およびフィリッピン海プレートとユーラシヤア大陸との衝突の起きている場所に対応しております。それらの衝突活動の結果を反映するものとしますと、その後の周辺の地震活動や日本列島の地震活動とも関わっている可能性が考えられます。トカラ列島周辺からの放射は、1997年春以来活動した薩摩地域の地震とも近い位置関係にあります。
図12は平成9年12月7日12:50福島県沖M5.7深さ80kmの地震に関連する電磁放射を宮城県若柳町(震央距離129km)で補足した結果です。上段は6秒平均値による詳細な放射を6,7両日の水平磁界放射について示します。次段はその到来方位角を示し、最下段の3図は150秒平均値による3軸の放射磁束密度を地震の発生日を含む1週間について示しています。
水平磁界が6日から8日まで大きくなっていますが、このうち、福島県沖の地震に関連した前兆放射とみられるのは、一番下の垂直磁界放射が示す地震13時間前の放射部分です。深さが80kmと深い地震の放射は減衰のためか放射期間が短く単純な放射形状である場合が多いです。対応する水平放射は上から2番目の到来方位角データによって他の放射と区別分離されている事がわかります。また、同時刻を含む12時から翌朝の6時までの放射は、到来方位角が異なっています。

図12


これらは、図13に示すごとく、他の観測点での到来角を参照にして、九州五島列島周辺からの放射と見られます。また、地震後6時間してから現れ始めた大きな放射は、富士火山帯の明神礁から父島周辺海域の放射であることが図13の到来角から推定されます。このように、3つの混在して受信された福島県沖の局地的な放射と、離れた2つの海溝からの異なる放射が到来方位角によって分離できることがわかりました。
以上の例は、局地的な地震が日本列島周辺の海溝の活動が活発化した状況の中で発生していることを示す一例です。海溝周辺からの電磁放射は、地下深部の地殻活動や地震活動を推測するためにも有効な情報であり、その後に日本列島で活発化するかも知れない地震の予測情報としても期待されます。今後、統計的な評価を重ねることが求められますが、このように広域的な地殻活動を観測する上で電磁波観測は大きな潜在力を期待できそうです。また海面からの大規模な電磁放射の存在は、放射メカニズムを考える上でも大きな示唆を与えてくれるものです。



図13


9. 電磁波前兆の検出性能


 電磁波前兆がどの程度の距離から検出できるのか、また地震の規模との対応について検討しました。平成9年7月から平成10年5月までの10か月間にマグニチュードM5を越える地震が日本列島北海道から沖縄まで51個存在しました。地震の発生個所を図14左図に示し、同中図にはそのうち電磁波前兆が検出され事前に一部の研究者に概略の場所を示して地震の発生を予想したFAXを送信したもの9個を黒丸で示します。白丸は地震発生後に前兆の存在が確認されたもの17個を示します。また、同右図は電磁波前兆が検出できなかった25個の地震発生場所を示します。この評価時点では、観測点が北海道と九州熊本以南には存在しなかったため、これらの地域で前兆の検出ができなかった地震が多くあります。
 図15には、前兆を検出した26個の地震について、前兆の発生状況を示します。殆ど2週間以内の前兆が多く、また直前の半日程度には前兆が消える場合が多いことが示されました。また図16には、地震の規模に対する最近接観測点からの震央距離を示します。バツ印は前兆の検出できなかった地震を示し、黒丸と白丸は上に述べた前兆を検出した地震を示します。地震の規模に対しほぼ2の冪乗で検知距離が大きくなることが示されました。この観測データから、M6の規模の地震に対して、観測点が約100kmの震央距離にある場合にはかなりの信頼度で前兆の検知が可能であることがわかります。Mの値が1つ増す毎に検知距離がほぼ2の冪乗(2倍)となります。
 本年、平成12年10月6日に鳥取県西部地震M7.3が発生しました。大阪府の熊取町と茨木市の2観測点が最も近接した電磁波観測点でした。ともに震央距離は約200kmであり、図16の検知保証ライン内であり、実際前兆放射を観測できましたが、事前に予測するには距離があり、群を抜いて大きな異常放射の検出には大阪府からでは至りませんでした。先の放射レベルの検討や図3の例が示すように特定の観測点で群を抜いたレベルの異常検出を行うためには、近接誘導界である30km以内に観測点が存在することが求められます。近接誘導界では電磁放射レベルが距離の2乗に逆比例して著しく増加するためです。したがって、予知予測を目的とする観測には、危険が予測される地域を間隔30km未満の観測点でカバーすることが、観測の信頼度を向上するために求められます。


図14



図15



図16


10. 地震予知への期待と課題

今後のより長期間の統計に待たねばなりませんが、ELF帯を用いて自然環境電磁波レベルの日変化レベルを基準として異常放射検出を行う高感度な観測においては、地震の電磁波前兆を検出する確率が高い事がわかってきました。
また、電磁波前兆観測からその放射域の特定や放射レベルの特定が可能であることがわかってきました。したがって、地震の前駆現象が観測されだした地域とその規模の推定の可能性が示されたことになります。  
しかしながら、地震の発生時期の特定については現状では極めて困難であります。というのも、地震の発生域に近接した観測点ではかなり早い段階から予兆が検出される可能性が高いのですが、予兆のどの時点が地震の直前であるという特徴がまだ明確に掴めていません。
予知情報としてはいかに信頼度が高くとも、時間的な余裕が与えられなければ、防災上の効果を発揮できません。しかし、地震の発生する日時を特定することは、大きい地震であればあるほど電磁波前兆が消長を繰り返しながら長期に検出されることによって、どの時点で警報を発するかが困難と成ります。地震発生のマーカたる直前前兆信号の検知・識別が電磁波でもまだ出来ていません。それは他の領域の観測と合わせて総合的かつ信頼度高く行なわれなければならないことです。
電磁波前兆の研究も今緒についた段階であり、今後の研究の進展の必要性とともに、前兆の信号解析的な研究、また新たな前兆事象の獲得、他の分野との連携など多くの重要な課題が存在しています。
今後の期待としまして、信号解析の面では、音声分析手法、信号処理手法を用いて電磁波前兆の特徴抽出とそのパターン化と分類が進められています。

11. むすび

 観測事実を重要視して極超長波帯の電磁波前兆を研究することが極めて重要です。その中で地震の姿を正しく理解できるようになることが期待出来ます。そのことはまた、私たちに効果的な防災のあり方を示してくれる有効な道と考えられます。
以上のまとめとしまして、極超長波帯は地殻活動や地震の前駆的な観測に適した周波数帯であることが明らかになりました。また、前兆電磁波の伝播特性を理論と実験より明らかにするにより、規模の推定が出来ることがわかりました。さらに多観測点によるメッシュ観測によれば、異常放射の振幅と到来方位角を相互比較することにより、電磁波放射域の推定が可能なことが示されました。
電磁波観測の特徴として、早期の異常検出が可能であることが示されるとともに、全国的な観測による放射異常から日本列島を取り巻く広域的な地殻活動が把握できる可能性が示されました。しかし、地震発生の直前の状況については十分把握するまでには至っていません。このことが可能かどうかも現状では不明ですが、大きな課題が私たち投げかけられております。ともに挑戦しようではありませんか。

          参 考 文 献

(1) M.Hata and S.Yabashi: Observation of ELF radiation related to volcanic and earthquake activities, 159-174, in Electromagnetic phenomena related to earthquake prediction,Edited by M.Hayakawa andY.Fujinawa,
Terra Scientific(TERAPUB), Tokyo, 1994.
(2) T.Okada and A.Iwai: Natural VLF radio waves, Research studies press Ltd., John Wiley & Sons Inc. 1988.
(3) 佐尾和夫:空電、成山堂書店 1981.
(4) M.Hata, X.Tian, I.Takumi, S.Yabashi and A.Imaizumi : ELF horizontal magnetic flux precursor of the moderate M5.8 Yamanashi '96 inland earthquake-A general approach to electromagnetic wave precursor,
J.Atmos. Electricity, 16.3.1996.
(5) M.Hata, I.Takumi, S.Yabashi and X.Tian: An anomaly of ELF band vertical magnetic flux as a precursor of dome formation at Unzen volcano and its model analysis, Physics of the Earth and Planetary Interiors 105(1998) 271-277.
(6) 畑:低周波電磁界による前兆検出について、平成11年電気学会シンポジュウムS32-3.
(7) 畑, 宇野:熱水の酸化・還元反応と電磁波放射および地震の発生との関連、地球惑星科学関連学会1996合同大会21‐11。
(8) 畑、宇野、今泉:破砕帯から湧出する地下水中の2価鉄イオンの酸化による電荷の生成と電磁波放射について、日本火山学会1997秋季大会A16.
(9) 畑、内匠、矢橋:ELF帯地殻活動監視と地震予知システムの研究について、
電気学会高電圧研究会HV-98-17、1998.
(10) 高橋、北村、内匠、畑:音響学的信号処理に基づく環境電磁波の解析―音声分析手法による―、電気学会高電圧研究会HV-00-36, 2000.
(11) 畑、足立、安川、内匠:電磁波前兆の抽出処理―信号処理手法による―、電気学会高電圧研究会HV-00-37、2000.
(12) M.Hata, I.Takumi and Y.Yamada : GM counting anomaly preceding volcanic swarm was existed and tells preparing mechanisms of quantum and geochemistry, IUGG99, JSA15/E/59, Birmingham, England, July 1999.
(13) 畑、内匠、矢橋、森田:浅海底における地震電磁波前兆の観測、1999地球惑星科学関連学会合同大会、Sj−006, 6月、1999. 



(本解説は著者に依頼して電気学会を初めとして地震学会、火山学会などで発表された内容に一部手を加えてまとめていただき、観測の概要と観測結果の評価に役立つよう掲載させていただきました。)

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