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■ レ ニ ー ・ エ ア ー ス ■
(Rennie Airth 1935~)
1935年、南アフリカ連邦ヨハネスブルグ生まれ。1957年英国に渡りロイター通信社に勤務、ジュネーヴ・ブリュッセル・ワシントンなどに駐在した後、クレタ島に移住。その頃から執筆活動を始めたらしいが、1969年発表の『赤ちゃんはプロフェッショナル』以来の次回作が1999年発表の『夜の闇を待ちながら』という寡作家。しかし、両作品とも評価は高く、特に『夜の闇を待ちながら』は2000年度MWA賞、マカヴィティ賞、アンソニー賞最優秀長編賞のミステリー主要3賞にノミネートされた。


作 品 I N D E X 




NEW
■ 夜 の 闇 を 待 ち な が ら ■
(原題:River of Darkness 1999年)
★★★★☆

2000年度フランス警察小説賞グランプリ受賞作


第1次大戦で負った心の傷がいまだに癒えぬスコットランド・ヤードの警部補マッデンが猟奇殺人犯を追う
優れた警察小説にして、第一級のサイコ・サスペンス、そして癒しと鎮魂の物語




文庫 田中 靖:訳

講談社 2001.10 \1,020 ISBN  4062732831

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■ 内 容
第1次大戦の記憶も生々しい1921年のイギリス。イングランドの美しい田園地帯に建つマナー・ハウス(領主屋敷)で主夫妻と使用人の計4人の死体が発見された。強盗目的か、それとも猟奇殺人なのか。スコットランド・ヤードから派遣されたマッデン警部補らは事件解決に奔走するが、手掛かりは少なく捜査は難航を極める。
地道な捜査を粘り強く続けるマッデン。第1次大戦の激戦地からの数少ない生還者の1人だった彼は事件に同じ軍隊経験者の臭いと、そして犯人の精神の異常性を感じ取る。
精神医学と犯罪の関係に無理解な警察内部の守旧派との対立や、マッデン自身のどうしても消えない心の傷に対する懊悩などを重層的に描いた読み応えのあるサイコ・サスペンス。

■ 奥行きのある作品
一般的な推理小説がプロットと言う骨をちょっとしたエピソードでつないだだけの骨格標本だとしたら、この作品は細部までが人間そのものに見えるよく出来た人体標本だと言えます。ちょい役にまで性格付けを施したり、サイドストーリーを加えるなど多面的にストーリーを語ったりなどディテールにも気を配った描き方は、作品にリアリティーと奥行きを与えています。最初から最後までそんな調子で描かれた作品は一瞬たりとも読み手の興味を逸らすことはありません。600ページに及ぶ長編が短くさえ感じます。

■ 警察小説としての面白さ
主役はあくまでもマッデンですが、ヤードの上司や新米刑事、村の駐在、各地の警察署の刑事など、彼に捜査協力する面々がとても個性的に描き分けられています。彼らは皆、地味な職務もコツコツとこなし、更に、どんな些細なものでも手掛かりになりそうなものは見逃すまい、という意欲に溢れています。そんな彼らの真摯な姿がこの作品の良い清涼剤となっています。マッデン1人をヒロイックに扱うのではなく、彼らみんなで主役集団と言った感じで、血の通った警察モノになっています。
また、時は精神医学の黎明期で、まだ犯罪捜査に精神病理学の導入など考えられてもいない時代のこと、その導入の必要性を肌で感じている現場の捜査陣と、精神医学など、占いかまやかしだと思っている守旧派との軋轢など、如何にも当時ありそうなことで、とても興味深く読めました。

■ サイコ・サスペンスとしての醍醐味
決して派手ではありませんが、スリリングな展開やどんでん返し、謎解きなど、くすぐりどころもたくさん用意されています。
また、犯人の冷酷さ、周到さ、それと同居するたけり狂う狂気が何度となく繰り返して描かれ、恐ろしさを募らせます。一方で、マッデンの戦地での恐怖もほんの些細なことが引き金となって、こちらも何度となく蘇って来るのですが、対立的な立場にある2人の精神の闇の根っこは同じなのだと感じさせられもします。この2人の心の闇もまた、読みどころの一つです。

■ 癒しと鎮魂
マッデンの心に負った傷は事件を切っ掛けに知り合った女医ヘレンによって徐々に癒されて行きます。その彼女がフランスの激戦地に眠る弟の墓に参り、隣に眠る砲兵と上等兵の墓にも一輪ずつ白薔薇を捧げるシーンは、第1次大戦で亡くなった者、心に傷を負った者、全ての鎮魂を象徴しているように思え、とても感動的でした。それは、心の闇に支配されて残忍な犯行に及んだ犯人にさえ捧げられます。そんな温かくて広い心を持った彼女とマッデンの交流が描かれているからこそ、この物語は単なるサイコ・サスペンス以上の評価を受けているのだと感じられました。
(2005.1.24)


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