2005年3月27日 

 


初めての予備自訓練(前編)


◇春の雪

◇大ちゃん

◇救急法

福寿草


◇春の雪

200534日(金)、季節外れの大雪で東京は一面銀世界だった。昨秋予備自衛官補(民間人がの所定の訓練を受けて陸上自衛隊の予備自衛官になる制度。訓練期間は、一般コースの場合3年以内に50日、技能コース場合2年以内に10日)の訓練を終えた私は、毎年5日と定められている予備自衛官(従来、元自衛官に限られていた)の訓練に初参加すべく、この朝、和光市駅に降り立った。まだ止まぬ雪が冷たい風にのって吹き寄せる中、駅前にはタクシーを待つ人が長蛇の列を作っている。

朝霞駐屯地までは徒歩25分。足元を濡らすこの湿った雪と10kgはあるだろうスポーツバッグさえなければ迷わず歩いたのだけれど、やむなく私も列の尻尾につくことにした。出頭時刻の10時にはまだ45分もあったのでなんとかなるだろうと思いきや、遅々として列は進まない。

15分待って私は決意した。このままでは遅刻する。前の方にいる、同じ臭いのする人に声をかけよう。それらしい人は数人いたのだけれど、荷物の量からしてもっとも可能性の高そうな若い男性に聞いてみた。
「朝霞駐屯地へ行かれる予備自の方ですか?」
一瞬きょとんとしながらも頷いてくれたのを幸い、
「私も訓練に参加する者なので、よろしければ、ご一緒させていただけませんか?」。
すると、彼は数人後ろにいた、もうひとりの男性にも声をかけた。
「予備自ですよね?」。
短く刈り上げた髪がそれらしい雰囲気だけれど、その割りに荷物が少ないなと思っていたその男性は、今回
2日間のみの出頭なのだという。そうか、予備自では分割出頭もできるんだっけ。

後で知ったことには、この列には他にもたくさんの予備自がいたそうだ。が、私の知る限り、みんなそれぞれ同類らしき存在を意識しながらも、辛抱強くひとりで待ち、ひとりで乗り、そのために遅刻したりしたらしい。俄か3人組みを編成した甲斐あって、私たちは余裕で出頭時刻に間に合い、しかもタクシー代もひとりにつきたったの
220円で済んだ。小さな勇気を出して、本当によかった。むふふ。

☆   ☆   ☆

 

◇大ちゃん

着隊してまず驚いたのが、一緒に訓練を受ける予備自の人数。これまで補の訓練は
20名程度で受けることが多かったのに対し、今回は100名余(内、女性は5名)。実は、これでも雪のため、出頭者数が予定より激減したらしい。その事実にも唖然としたのだけれど、訓練開始式で要員紹介を受けた際、
「決められた日程で、決められた訓練を受けてください」
と、中隊本部の方が言われた。
「?」
キツネにつままれた気分だったのだけれど、続く言葉で少し見えてきた。
「途中で嫌になっちゃったら、……それでもがんばってください」
つまり、途中で嫌になっちゃって帰っちゃう人が、それなりにいる、ということか。うーむ……。

一同に会した予備自の背中の第一印象は、「大きいなあ」ということ。平均年齢が高いせいだろうけれど、概して線の細かった補の仲間に比べるとかなり迫力がある。逞しいのとはちょっと違う。物理的に大きいのだ。

中でも大きかったのは、大ちゃんだ。山のような大ちゃんは寝息も大きく、そのため居眠りをするとすぐ注目を集めてしまう。なのに、人一倍よく寝る。救急法の実習で教官を囲んでいたとき、大ちゃんは左手をつき横座りしていた。例によってほどなく意識を失った大ちゃんの左腕は、かくんかくんと彼の呼吸に合わせて揺れ始めた。大ちゃんのすぐ後ろにいた私を気遣って、仲間が手まねきしてくれる。その目が無言のうちに物語っていた。「そこにいたら、潰されちゃうよ」

私が待避してまもなく、大ちゃんの寝息は次第に調子付き、ついに教官が振り返った。教官もそこはかとない愛嬌のある方だったので、その間がおもしろくてみんなが笑った。すると、なんと大ちゃんも顔の下半分だけで一緒に笑ったではないか。「えへへ」。ちなみにその間も、上半分はほとんど眠り続けている、ように見えた。

見かねた仲間が大ちゃんを起立させた。けれど、そこはさすが大ちゃん。数分もすると、今度は立ったまま、いつもの寝息を立て始めたのだ!これには周囲も呆然。誰かが言った、「気道確保しなきゃ!」。

☆    ☆    ☆



◇救急法

そんなこんなで大ちゃんのことは大いに気になったけれど、それはさておき救急法はおもしろかった。補でも教育を受けていたので、その焼き直しかなと思っていたら、ところがどっこい新しい情報が盛りだくさんだ。

まずは、心肺蘇生法。人工呼吸と心臓マッサージを教官が人形で実演する。ここで新しかったのは、最近では助ける側の人が感染症などになることを避けるため、救急用の手袋やフェイスシールドを着用して直接肌が触れないようにすること。こうしたキットが販売されていて、教官はふだんからそれを持ち歩いているという。いざというときのために、私たちも携帯することを勧められた。

わかりやすかったのは、
「心臓マッサージは、中島みゆきの『地上の星』(NHK『プロジェクトX』テーマ曲)のスピードで」
というもの。「毎分
100回で」と言われてもピンとこないけれど、これならとっさのときでも思い出せそう。

また、AED(自動体外式除細動器)という昨夏から一般人の使用が解禁された電気ショックについても習った。これまでまったく聞いたこともなかったけれど、試してみると驚くほど簡単で、しかも次に何をすればいいか機械が判断し指示してくれるので、素人でも誤用の不安が少ない。それでいて、心停止から3分以内に使えば70%以上が助かるとされる大変な優れものなのだ。現在、空港やスポーツ施設、学校などへの配備が進められつつあるという。


訓練から
1週間後、新聞で「除細動器が心肺停止ランナーを救った」という記事を見つけた。教育を受けていなければ見過ごしてしまっただろうけれど、思わず目に留まり、なんだか無性にうれしくなってしまった。予備自の訓練という場を一般にはまだほとんど知られていないこうしたものの認知・普及に役立たせるのは、とても意味あることだと思う。教官への質問も次々に出たところを見ると、年齢層が幅広いだけに身近に必要性を実感している人も多いんだろう。

予備WAC(女性自衛官)の仲間たち

(つづく)



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