2004年10月22日 

 


予備自補訓練記 〜そこにどんぐり第1週〜
 

◇秋の武山

◇初めての実弾射撃

◇どんぐりの謎

必死で早駆け


◇秋の武山

7ヶ月ぶりの武山はもう夏を通り越していた。9月も半ばにさしかかり、秋晴れの高い空の下、戦闘訓練場の草も種をつけて30cmほどに伸びている。くすんだ色が多い駐屯地の中に、彼岸花の赤が鮮やかだ。ついに第3段階。武山での最後の2週間、I・Jタイプの訓練を共にするのは12期生合わせて21名。担当の327中隊は前回と同じなのだけれど、大隊長・中隊長が代わり、班長もけっこう入れ替わっている。

初日の月曜日、いきなり戦闘訓練の補備があった。いつものことながら、訓練初日の銃はやけに重い。細かい動きもかなり忘れているし、不安だなあ。まあ、そのブランクを取り戻すための「補備」なのだけれど。

草の海を泳ぐ

 

薄れた記憶をたぐりよせながら1本。伏せると、視界はすっかり草で塞がれてしまった。匍匐(ホフク)すると、まさに草の海を泳いでいる感じ。前進した堆土の陰で身を潜めて号令を待っていたら、視界に草とその上の青空しか入らなくなったことがあった。声も聞こえない。あれ?ひょっとして……。

 
かくれんぼで隠れていたはずがいつのまにかみんなに忘れられ置き去りにされた子どものような気分。こうやって訓練で草や土の香りを間近にかいでいると、自然と子どもの頃を思い出す。いつもこうやって、日が暮れるまで遊んでいたっけ。

……などと郷愁に浸っていられるのはほんの一瞬で、すぐに厳しい現実に引き戻される。空気が乾いているため、地面が剥き出しになっているところは砂埃が半端じゃない。草や砂が遠慮なしに口に入ってくる。鉄帽は傾き体はよれよれになる。

第4匍匐

1本を終え、肩で息をしながら戻って来ると、区隊長に付き添われ、じっと固まっている人がいた。立ち眩みをおこしたらしい。ふだん運動をしていない人にはかなり堪えたらしく、気が付けば、木陰に3人のリタイヤ組が息を整えていた。

翌火曜日の朝、服装チェックがあった。よりによって私はそんなときに、弾帯を忘れるという大胆なミス(着物を着て帯を締めていないようなもの)を犯してしまい、罰として腕立て40回を宣告されてしまう。がーん。その後も靴紐の掛けまちがいや課業中の罰ゲームなどでこの日は通算70回の腕立て。とほほほほー。そういや前回までの所見に「もっと厳しく」的なことを書いたよな。それが実現しているのは歓迎したいところだけれど、し、しかし……。自分で自分の首を絞めてしまったあ〜。


☆     ☆     ☆

◇初めての実弾射撃

今回の最大の山場は射撃だ。まずは、野外での空砲射撃から。最初に班長による展示5発を見学。目の前で1発目の乾いた銃声が響いたとき、「耳栓を忘れないように」と口うるさく言われた意味がよくわかった。

5発目は威力展示。至近距離でジュースの缶を狙う。その瞬間、缶はめくれるように破れ、中味の液体が飛び散った。間近で見せてもらうと、細かいつぶつぶのような穴がいっぱい空いている。空砲でもこの威力。おそるべし。

そして、いざ自分の番に。伏射ち(ネウち)の姿勢をとり、引き金を引く。反動がすごいとはよく聞いていたけれど、どーんと弾が出た瞬間、私は肩よりも頬に強い衝撃を感じた。目の前にはもやもやと煙が漂っている。


翌日。ついに実弾射撃の日がやってきた。長かったこれまでの道のりを思う。初めて手にした銃は、重かった。それを「責任の重み」と習った。分解結合では何度も手に傷を作った。銃の扱いにてこずりながら木枯らし吹き荒ぶ中、また陽射しが照りつける中で基本教練を繰り返し、行進し、戦闘訓練をした。腿には銃尾をぶつけた痣がいくつできたかわからない。そして今日ようやく、この銃で銃本来の目的である射撃をする。
冬の訓練で


射距離は
25m。長坂射場は本来200mの射場なので、コンクリートで囲まれた奥深くほの暗い空間の途中に的がしつらえてある。2射群だった私は、1射群の人たちがやっているのを後ろからまず見学。伏射ちの姿勢をとっている5人の射手の隣りには、それぞれ班長が膝を付いて指導している。

普段は厳しい班長も、射手である予備自補が固くなりすぎないようにと心を配ってくれているのがわかる。撃ち終わって「弾抜け安全点検」をする際には、弾抜けが確認できると班長が「よし」と言いながら射手の肩をポンとたたく。この光景が、なんだか私はとても好きだった。

各自の25m先には3つの的が並んでいて、左から点検射9発、教習射撃5発、同じく5発と撃っていく。まず、「点検射」で3発を3回に分けて試し射ち。私は、ほとんどの弾が的の上に固まってしまった。指摘されたことに注意し、クリック修正(弾着を補正するため上下左右に照門を移動させる)をしてもそうだったので、班長から「下際(カサイ)照準(的の中央にある人型の中央でなく下の際を狙う)するように」とアドバイスを受ける。

続いて5発入り弾倉を込め、いよいよ教習射撃。「射撃用意。撃て」の号令で5発を撃ち終わっても、今度は先ほどまでのように弾着を確かめるための双眼鏡を覗かせてくれないし、結果も教えてくれない。

煙に巻かれたような気分のまま弾倉を交換し、さらに5発。今度は途中で2度も弾詰まりしてしまい、班長が弾倉を交換してくれた。射撃を終え、薬きょうを拾って、その熱さにびっくり。

人生初射撃の興奮を抑えつつ射場を後にすると、外の明るさが眩しい。ほっとしたところで、お互いにいろいろ感想を述べ合った。周りが気になったという人が多い。隣り人の銃声、その後に来る煙や衝撃波、それから自分の耳栓などが気になったという。うーん、私はどれもまったく気にならなかったなあ。なんだか楽しかった。

しばらくして、外に待機していた区隊付が回収された的を見ながら、
2射群4的、誰?」
と聞いてきた。わ、私だ。
「はい」
と手を挙げたら、
「ふーん……」
と、めちゃくちゃ気になる反応。なんか、またやらかしてしまったんだろうか?

後になってわかったのだけれど、この時の私はけっこう弾が集まっていた。的は中央から5点圏、4点圏、3点圏という同心円3つで描かれている。教習射撃最初の5発では、その5点圏に3発、4点圏に1発、3点圏に1発入っていて、しかも弾着が最大4.5cmしか離れていなかったことから、何人かの班長が、
「弾が良く集まっていた」
とほめてくださった。

「大雑把な人の方が当たる」とは聞いていたけれど、確かに萎縮せず周りのことも気にならなかったのがよかったのかもしれない。今振り返れば、無心だったこのときの射撃が一番よくできていたのだった……。

 

☆     ☆     ☆

◇どんぐりの謎

武山はどんぐりの季節を迎えていた。戦闘訓練場とグランドの境に植えられているマテバシイの木には、細長くて大きなどんぐりの実が鈴なりだ。休憩時間に木陰に入ったところ、地面にたくさん落ちていたので、いくつか拾って作業服のポケットに入れた。

突撃


この週は連日戦闘訓練があった。初日には危機的状況に陥ってしまった人たちも、体は徐々に慣れていくらしく、日を追うごとに調子を取り戻している。金曜日の練度判定では、これまでと違い、班長ひとりが向こうから撃ってくるのに加え、スピーカーからも射撃音が流された。聞こえたら敵の射撃、ということで前進中でも直ちにその場に伏せなければいけない。ところが、……。
 

残念ながらこれ、シューシューしてどうにも射撃音ぽくないのだ。私ときたら、前半は自分の発する声と息遣いでぜんぜん耳に入らずどんどん進んでしまったし、後半は余計な小さな音まで射撃音だと思い込んでやたらと伏せてしまった。おまけに、集中力を欠いて動くべきところでぼーっとしてしまったり、銃剣が腰から外れなくて伏せたまま四苦八苦したり、まちがいなくこれまでない最悪な練度判定だったのだけれど、そんな中、思いがけないものを見て、ちょっと癒されてしまった。


息を荒げながら堆土の陰に身を潜めようとしたところ、そこにどんぐりがばらばらとたくさん散らばっていたのだ。とっさに、「あ、弾だ!」と思った。大きくて細長いマテバシイのどんぐりは、かなり弾っぽい。どんぐりが自分たちで草の海を渡ってくるわけはないから、誰かの仕業だろう。臨場感を出すことを狙ったのか、もしくは、このレーンを使う人の肘にどんぐり型の模様(痣)を作ることを狙ったのか。真意は謎のままだけれど、……いいなあ、この遊び心。ふふふ。

どんぐりたち


つづく



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