ジェイド名波の毎週温泉!

11.稲取温泉(2000.05.01)

静岡県賀茂郡東伊豆町

 仕事で伊豆稲取に行ってきた。わずか30分強の記者会見で、しかも会社が休業日の日曜だったので、無理して行かなくてもいいのだが、業界の大物が出席するので、担当記者としては外せない。我ながら仕事熱心だ。
 しかし改めて思ったが、東京から手軽な行楽地であるはずの伊豆も、南端の方へ行くと遠い。直通の特急踊り子で稲取まで二時間二〇分。名古屋へ行くより時間がかかるではないか。

 はるばるやってきて、30分の仕事でとんぼ帰りするのは惜しい。稲取は伊豆東海岸では下田とならぶ漁港の町。同時に温泉の町でもある。宿は温泉と磯料理を自慢に掲げるところが多い。
 駅前の小奇麗な店の小上がりで、同じ仕事で来ていた記者仲間数人と、ビールとともに店自慢の「いなとり丼」を食する。その日に稲取港に上がった魚を使った丼だ。店内には横浜ベイスターズ谷繁捕手などの色紙が飾ってある。アジが美味だった。
 帰りが遅くなるからと早々に帰る連中を駅で見送り、私は稲取温泉の外湯探し。駅前の観光協会で情報を仕入れると、海辺の宿を紹介してくれた。公衆浴場はないとのこと。「隣りの河津や今井浜には日帰りの温泉センターがあるんですけれどもね」と協会のおばさん。
 伊豆急行の伊豆北川〜河津間は、各駅前に温泉が沸いている。気軽に入れる温泉はあちこちにありそうだ。稲取温泉は昭和31年に沸いた新しい温泉。湯量は随一だが、バナナワニ園の熱川や、海水浴の今井浜、伊豆の踊り子の河津などに比べると、稲取は観光資源に乏しい。バイオパークぐらいか。あとはやはり魚だ。地味な温泉で、仕事でもなければなかなか降りる機会もない。今日は何としてでも稲取温泉に入浴する。
 温泉街をぶらりぶらり。どの宿も外観、規模ともにそこそこで、しっかりした温泉街なのだが、どことなくひなびた感じがするのはなぜだろう。ある店内にずらりと並ぶスマートボール。その向こうには指ではじく昔のパチンコ台もずらり。しかし人の気配がない。ガラスの引き戸も閉ざされている。
 「パチンコ・射的・スマートボール」の看板を掲げた店が何軒かあるのだが、現役で商売しているところがひとつもない。「関西ストリップ」おお、これぞ温泉街。しかし「関西」と頭につけると、なぜかスゴイものを見せてくれそうなヘンな期待感がある。「関西お座敷ショー歌磨呂」まだ昼間なのでやっていないが、現役で営業中らしい。
 時代とズレてしまったが、あまり気にせず、なるがままにすたれて行く。何か流浪の生き様をこの温泉街には感じる。ジャグジーやサウナのある温泉センターを造り、現代の客に媚を売ろうとする気配が何も感じられない。潔いと言えば潔いが、やはり寂寥感は否めない。どんより曇った空と、伊豆七島を臨める海辺の展望台に立つと、余計そう思うのだ。

 観光協会で教えてもらった「石花海」は、海辺に面した中規模のしっかりした宿だ。日曜でも団体宿泊客が何件も入っているらしく、稲取で最も繁盛している宿かもしれない。フロントが二階で、一階が大浴場、屋上にあたる五階が露天風呂と二つに分かれている。もちろん露天風呂に行く。
 展望露天風呂はすばらしかった。 視界を遮る塀がなく開放的だ。湯船に浸かった状態で、相模湾や伊豆大島がよく見える。よくできた造りだ。
 幾分天気がよくなってきて、空も青くなってきた。宿泊客が到着するには、まだ少し早く、露天風呂には私一人。何とも贅沢だが、私の場合こういうパターンは結構多い。温泉ブームとは言われるが、人々が集中するのは一部の温泉だ。今日あたり、河津や今井浜の温泉センターは混雑しているだろう。

 町のあちこちで見かけた「金目鯛の味噌漬け」を自分用の土産に買って帰った。駅の売店が1050円、駅前の土産物屋が1250円、ばあさんが一人でやっている海産物屋が900円だったので、ばあさんの店で買った。ばあさんの手造りらしい。「おいしいよ」というばあさんの話によると、稲取の名物とのこと。確かに味噌にコクがあってうまい。日本酒に合うぞ。白いご飯にも合う。(入浴日2000.04.16)

 稲取温泉・磯の宿「石花海」
 伊豆急行伊豆稲取駅より徒歩15分
 入浴料1200円
 


「毎週温泉」バックナンバーはこちら

      

このホームページに関する御意見、御感想は名波義久namewave73@ybb.ne.jpまでお願いします。

ホームへ