中野文庫 海軍刑法

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海軍刑法(明治41年法律第48号)

  第一編 総則

第一条 本法ハ海軍軍人ニシテ罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス

第二条 本法ハ海軍軍人ニ非スト雖左ニ記載シタル罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス
 一 第六十二条乃至第六十五条ノ罪及此等ノ罪ノ未遂罪
 二 第七十二条ノ罪
 三 第七十八条乃至第八十五条ノ罪
 四 第八十六条乃至第八十九条ノ罪
 五 第九十一条乃至第九十三条ノ罪及第九十一条、第九十二条ノ未遂罪
 六 第九十五条、第九十六条、第九十七条第二項、第九十八条及第百条ノ罪

第三条 本法ハ前二条ニ記載シタル者帝国外ニ於テ罪ヲ犯シタルトキト雖之ヲ適用ス

第四条 帝国軍ノ占領地ニ於テ海軍軍人刑法又ハ他ノ法令ノ罪ヲ犯シタルトキハ之ヲ帝国内ニ於テ犯シタルモノト看做ス
2 海軍軍人ニ非スト雖帝国臣民、従軍外国人及俘虜ノ犯シタルトキ亦前項ニ同シ

第五条 帝国外ニ在ル海軍官衙団隊ニ属シ若ハ従フ者又ハ之ニ俘虜タル者其ノ官衙団隊ノ所在地ニ於テ刑法又ハ他ノ法令ノ罪ヲ犯シタルトキ亦前条ニ同シ

第六条 海軍ト共同作戦ニ従フ陸軍軍人ニ対スル行為ハ其ノ職務、官等、等級又ハ階級ニ相当スル海軍軍人ニ対スル行為ト看做ス

第七条 海軍ト共同作戦ニ従フ外国ノ陸海軍ニ属スル者ニ対スル行為ハ其ノ職務、官等、等級又ハ階級ニ相当スル海軍軍人ニ対スル行為ト看做ス但シ其ノ外国ニ於テ同一ノ取扱ヲ為スコトヲ保セサル場合ハ此ノ限ニ在ラス

第八条 海軍軍人ト称スルハ海軍ノ高等武官、候補生、見習尉官、准士官、下士官及兵ニシテ左ニ記載シタル者ヲ謂フ
 一 現役ニ在ル者但シ未タ入営セサル者及召集中ニ非サル帰下士官兵ヲ除ク
 二 現役以外ノ兵役ニ在リテ召集中ノ者及召集中ノ身分取扱ヲ受クル者
 三 前二号ニ記載シタル者ノ外海軍制服著用中ノ者

第九条 左ニ記載シタル者ハ海軍軍人ニ準ス
 一 海軍所属ノ学生、生徒
 二 海軍軍属
 三 海軍ノ勤務ニ服スル陸軍軍人
2 前項第一号ニ記載シタル者ノ中特ニ除外スヘキ者アルトキハ命令ヲ以テ之ヲ定ム

第十条 海軍軍属ト称スルハ海軍文官、同待遇者及宣誓シテ海軍ノ勤務ニ服スル者ヲ謂フ

第十一条 陸軍軍人ト称スルハ陸軍刑法ニ於テ陸軍軍人ト為ス者ヲ謂フ

第十二条 上官ト称スルハ命令関係アル海軍軍人間ニ於テ命令権ヲ有スル者ヲ謂フ
2 命令関係ナキ者ノ間ニ於テハ官等、等級又ハ階級ノ上ナル者ハ之ヲ上官ニ準ス但シ兵ハ総テ同等トス

第十三条 指揮官ト称スルハ艦船、軍隊ヲ指揮スル海軍軍人ヲ謂フ
2 陸海軍用船又ハ拿捕船舶ニ乗組ミ之ヲ監督スル海軍軍人ハ指揮官ニ準ス

第十四条 守兵ト称スルハ儀仗又ハ警戒ノ為守所ニ在ル海軍軍人ヲ謂フ

第十五条 事変又ハ一地方ノ騷擾ニ際シ其ノ鎮定ニ従事スル艦船、軍隊ニハ戦時ノ規定ヲ適用ス

第十六条 海軍ニ於テ死刑ヲ執行スルトキハ海軍法衙ヲ管轄スル長官ノ定ムル場所ニ於テ銃殺ス

第十七条 多衆共同ノ暴行ヲ鎮圧スル為又ハ敵前若ハ艦船危急ノ際ニ於テ軍紀ヲ保持スル為已ムコトヲ得サルニ出テタル行為ハ之ヲ罰セス
2 必要ノ程度ヲ超エタル行為ハ情状ニ因リ其ノ刑ヲ減軽又ハ免除スルコトヲ得

第十八条 前条ノ規定ハ刑法又ハ他ノ法令ノ罪ト為ルヘキ行為ニ亦之ヲ適用ス

第十九条 本法及陸軍刑法ニ於テ倶ニ罰スヘキ正条アリ且其ノ刑ニ軽重ナキトキハ海軍軍人ニ準スル者ト雖陸軍軍人ニ対シテハ陸軍刑法ヲ適用ス

  第二編 罪

   第一章 叛乱ノ罪

第二十条 党ヲ結ヒ兵器ヲ執リ反乱ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 首魁ハ死刑ニ処ス
 二 謀議ニ参与シ又ハ群衆ノ指揮ヲ為シタル者ハ死刑、無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他諸般ノ職務ニ従事シタル者ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 三 附和随行シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第二十一条 反乱ヲ為ス目的ヲ以テ党ヲ結ヒ兵器、弾薬其ノ他軍用ニ供スル物ヲ劫掠シタル者ハ前条ノ例ニ同シ

第二十二条 左ニ記載シタル行為ヲ為シタル者ハ死刑ニ処ス
 一 軍隊又ハ艦船、兵器、弾薬其ノ他軍用ニ供スル場所、建造物其ノ他ノ物ヲ敵国ニ交付スルコト
 二 敵国ノ為ニ間諜ヲ為シ又ハ敵国ノ間諜ヲ幇助スルコト
 三 軍事上ノ機密ヲ敵国ニ漏泄スルコト
 四 敵国ノ為ニ嚮導ヲ為シ又ハ地理ヲ指示スルコト
 五 敵国ニ降ラシムル為指揮官ヲ強要スルコト
 六 敵国ノ為ニ俘虜ヲ奪取シ又ハ之ヲ逃走セシムルコト

第二十三条 敵国ヲ利スル為左ニ記載シタル行為ヲ為シタル者ハ死刑ニ処ス
 一 艦船、兵器、弾薬其ノ他軍用ニ供スル場所、建造物其ノ他ノ物ヲ損壊シ又ハ使用スルコト能ハサルニ至ラシムルコト
 二 水陸ノ通路、橋梁、灯台、浮標ヲ損壊又ハ壅塞シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ艦船、軍隊ノ往来ノ妨害ヲ生セシムルコト
 三 指揮官其ノ艦船、軍隊ヲ率ヰテ守所若ハ配置ノ場所ニ就カス又ハ其ノ場所ヲ離ルルコト
 四 艦隊、隊兵ヲ解散シ又ハ其ノ潰走混乱ヲ誘起シ又ハ艦船、隊兵ノ連絡集合ヲ妨害スルコト
 五 兵器、弾薬、糧食、被服其ノ他軍用ニ供スル物ヲ欠乏セシムルコト
 六 命令、通報若ハ報告ヲ詐リ伝ヘ又ハ虚偽ノ命令、報告若ハ報告ヲ為スコト
 七 造言飛語シ又ハ敵前ニ於テ叫呼喧操スルコト

第二十四条 前二条ニ記載シタル以外ノ方法ヲ以テ敵国ニ軍事上ノ利益ヲ与ヘ又ハ帝国ノ軍事上ノ利益ヲ害シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ五年以上ノ懲役ニ処ス

第二十五条 反乱者又ハ内乱者ヲ利スル為前三条ニ記載シタル行為ヲ為シタル者ハ死刑、無期若ハ三年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第二十六条 前六条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス

第二十七条 第二十条乃至第二十五条ノ罪ノ予備又ハ陰謀ヲ為シタル者ハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第二十八条 第二十条又ハ第二十一条ノ罪ノ予備又ハ陰謀ヲ為シタル者未タ事ヲ行ハサル前自首シタルトキハ其ノ刑ヲ免除ス

第二十九条 本章ノ規定ハ戦時同盟国ニ対スル行為ニ亦之ヲ適用ス

   第二章 擅権ノ罪

第三十条 指揮官外国ニ対シ故ナク戦闘ヲ開始シタルトキハ死刑ニ処ス

第三十一条 指揮官休戦又ハ媾和ノ告知ヲ受ケタル後故ナク戦闘ヲ為シタルトキハ死刑ニ処ス

第三十二条 指揮官権外ノ事ニ於テ已ムコトヲ得サル理由ナクシテ擅ニ艦船、軍隊ヲ進退シタルトキハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ禁錮ニ処ス

第三十三条 命令ヲ待タス故ナク戦闘ヲ為シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ禁錮ニ処ス

第三十四条 本章ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス

   第三章 辱職ノ罪

第三十五条 指揮官其ノ尽スヘキ所ヲ尽サスシテ敵ニ降リ又ハ其ノ艦船若ハ守所ヲ敵ニ委シタルトキハ死刑ニ処ス

第三十六条 指揮官敵前ニ於テ其ノ尽スヘキ所ヲ尽サスシテ艦船、軍隊ヲ率ヰ逃避シタルトキハ死刑ニ処ス

第三十七条 指揮官其ノ艦船危急ノ時ニ当リ故ナク救護ノ方法ヲ尽サス又ハ衆ニ先チテ其ノ艦船ヲ退去シタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ死刑ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ無期又ハ三年以上ノ禁錮ニ処ス

第三十八条 指揮官敵ノ船舶ヲ拿捕スヘキ場合ニ於テ故ナク之ヲ拿捕セサルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス

第三十九条 指揮官敵前ニ於テ帝国又ハ帝国ト共同作戦ニ従フ外国ノ艦船ヲ救護スヘキ場合ニ於テ故ナク之ヲ救護セサルトキハ一年以上ノ有期禁錮ニ処ス

第四十条 指揮官護衛ノ命ヲ受ケタル艦船ヲ故ナク委棄シタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ死刑ニ処ス
 二 戦時ナルトキハ五年以上ノ有期禁錮ニ処ス
 三 其ノ他ノ場合ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス

第四十一条 指揮官其ノ艦船、軍隊ヲ率ヰ故ナク守所若ハ配置ノ場所ニ就カス又ハ其ノ場所ヲ離レタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ死刑ニ処ス
 二 戦時ナルトキハ五年以上ノ有期禁錮ニ処ス
 三 其ノ他ノ場合ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス

第四十二条 指揮官又ハ乗員故ナク其ノ艦船ヲ覆没又ハ破壊シタルトキハ死刑ニ処シ之ヲ損壊シタルトキハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ処ス

第四十三条 指揮官出兵ヲ要求スル権アル官憲ヨリ其ノ要求ヲ受ケ故ナク之ニ応セサルトキハ二年以下ノ禁錮ニ処ス

第四十四条 指揮官衝突、坐礁其ノ他ノ危難ニ罹リタル艦船アルニ当リ救護ノ請求ヲ受ケ故ナク之ニ応セサルトキハ二年以下ノ禁錮ニ処ス

第四十五条 部下多衆共同シテ罪ヲ犯スニ当リ鎮定ノ方法ヲ尽ササル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス

第四十六条 艦船当直将校、守兵其ノ他緊要ナル勤務ニ服スル者故ナク其ノ勤務ノ場所ヲ離レタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ死刑又ハ無期ノ禁錮ニ処ス
 二 戦時又ハ擱岸、坐礁其ノ他艦船危険ノ場合ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
 三 其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以下ノ禁錮ニ処ス

第四十七条 艦船当直将校睡眠又ハ酪酊シテ其ノ職務ヲ怠リタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ処ス
 二 戦時又ハ航海中ナルトキハ二年以下ノ禁錮ニ処ス

第四十八条 守兵其ノ他緊要ナル勤務ニ服スル者前条ノ罪ヲ犯シタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以下ノ禁錮ニ処ス

第四十九条 戦時又ハ事変ニ際シ偵察ノ勤務ニ服スル者虚偽ノ報告ヲ為シタルトキハ七年以下ノ懲役ニ処ス
2 戦時又ハ事変ニ際シ軍事ニ関スル命令、通報又ハ報告ノ伝達ヲ掌ル者其ノ命令、通報若ハ報告ヲ詐リ伝ヘ又ハ故ナク之ヲ伝達セサルトキ亦前項ニ同シ

第五十条 軍事機密ノ図書、物件ヲ保管スル者危急ノ時ニ当リ之ヲ敵ニ委セサル方法ヲ尽ササルトキハ五年以下ノ禁錮ニ処ス

第五十一条 戦時又ハ事変ニ際シ兵器、弾薬、糧食、被服其ノ他軍用ニ供スル物ノ運搬又ハ支給ヲ掌ル者故ナク之ヲ欠乏セシメタルトキハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処ス

第五十二条 健康ヲ害スヘキ飲食物ヲ配給シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処ス因テ人ヲ死ニ致シタル者ハ無期又ハ五年以上ノ懲役ニ処ス

第五十三条 従軍ヲ免レ又ハ危険ナル勤務ヲ避クル目的ヲ以テ疾病ヲ作為シ、身体ヲ毀傷シ其ノ他詐偽ノ行為ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ死刑又ハ無期若ハ五年以上ノ懲役ニ処ス
 二 戦時ナルトキハ六月以上七年以下ノ懲役ニ処ス
 三 其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ懲役ニ処ス

第五十四条 第三十五条乃至第三十七条、第四十条乃至第四十二条、第四十六条、第四十九条及第五十一条乃至第五十三条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス

   第四章 抗命ノ罪

第五十五条 上官ノ命令ニ反抗シ又ハ之ニ服従セサル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ禁錮ニ処ス
 二 戦時又ハ艦船救護ノ為緊要ノ方略ヲ為ス際ナルトキハ一年以上十年以下ノ禁錮ニ処ス
 三 其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ処ス

第五十六条 党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ首魁ハ死刑ニ処シ其ノ他ノ者ハ死刑又ハ無期禁錮ニ処ス
 二 戦時又ハ艦船救護ノ為緊要ノ方略ヲ為ス際ナルトキハ首魁ハ無期又ハ七年以上ノ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ一年以上ノ有期禁錮ニ処ス
 三 其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ三年以上ノ有期禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ七年以下ノ禁錮ニ処ス

第五十七条 暴行ヲ為スニ当リ上官ノ制止ニ従ハサル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス

   第五章 暴行脅迫及殺傷ノ罪

第五十八条 上官ヲ傷害シ又ハ之ニ対シ暴行若ハ脅迫ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第五十九条 党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ首魁ハ無期若ハ十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ六月以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十条 兵器又ハ兇器ヲ用ヰテ第五十八条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ死刑、無期若ハ十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ無期若ハ二年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十一条 党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ首魁ハ死刑ニ処シ其ノ他ノ者ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ死刑、無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十一条ノ二 前四条ノ罪ヲ犯シ因テ上官ヲ死ニ致シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ死刑ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処ス

第六十一条ノ三 上官ヲ殺シタル者ハ死刑ニ処ス

第六十一条ノ四 前条ノ罪ヲ犯ス目的ヲ以テ其ノ予備ヲ為シタル者ハ二年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十二条 守兵ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ四年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十三条 党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ首魁ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十四条 守兵ニ対シ兵器又ハ兇器ヲ用ヰテ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十五条 党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ首魁ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ無期若ハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ首魁ハ死刑、無期若ハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ無期若ハ二年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十六条 上官又ハ守兵以外ノ海軍軍人其ノ職務ヲ執行スルニ当リ之ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ四年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
2 党与シテ前項ノ罪ヲ犯シタルトキハ首魁ハ六月以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十七条 上官又ハ守兵以外ノ海軍軍人其ノ職務ヲ執行スルニ当リ之ニ対シ兵器又ハ兇器ヲ用ヰテ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
2 党与シテ前項ノ罪ヲ犯シタルトキハ首魁ハ無期若ハ三年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ一年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十八条 多衆聚合シテ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 首魁ハ三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 他人ヲ指揮シ又ハ他人ニ率先シテ勢ヲ助ケタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 三 附和随行シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第六十九条 職権ヲ濫用シテ陵虐ノ行為ヲ為シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第七十条 第五十八条乃至第六十一条、第六十一条ノ三及第六十二条乃至第六十八条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス

   第六章 侮辱ノ罪

第七十一条 上官ヲ其ノ面前ニ於テ侮辱シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
2 文書、図画若ハ偶像ヲ公示シ又ハ演説ヲ為シ其ノ他公然ノ方法ヲ以テ上官ヲ侮辱シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第七十二条 守兵ヲ其ノ面前ニ於テ侮辱シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

   第七章 逃亡ノ罪

第七十三条 故ナク職役ヲ離レ又ハ職役ニ就カサル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ死刑、無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 戦時ニ在リテ三日ヲ過キタルトキハ六月以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 三 其ノ他ノ場合ニ於テ六日ヲ過キタルトキハ五年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第七十四条 党与シテ前条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ首魁ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ死刑、無期若ハ七年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 二 戦時ニ在リテ三日ヲ過キタルトキハ首魁ハ無期若ハ五年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 三 其ノ他ノ場合ニ於テ六日ヲ過キタルトキハ首魁ハ二年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ六月以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第七十五条 艦船ノ乗員故ナク其ノ艦船発航ノ期ニ後レタルトキハ其ノ経過日数ヲ問ハス前二条ノ規定ヲ適用ス

第七十六条 敵ニ奔リタル者ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処ス

第七十七条 第七十三条第一号、第七十四条第一号及前条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス

   第八章 軍用物損壊ノ罪

第七十八条 海軍ノ艦船、航空機、戦車、工場、戦闘ノ用ニ供スル建造物、汽車、電車、自動車若ハ橋梁又ハ海軍ノ軍用ニ供スノ物ヲ貯蔵スル倉庫ヲ焼燬シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ懲役ニ処ス

第七十九条 露積シタル兵器、弾薬、糧食、被服其ノ他海軍ノ軍用ニ供スル物ヲ焼燬シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 戦時ナルトキハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ無期又ハニ年以上ノ懲役ニ処ス

第八十条 火薬、汽缶其ノ他激発スヘキ物ヲ破裂セシメテ前二条ニ記載シタル物ヲ損壊シタル者ハ焼燬ノ例ニ同シ

第八十一条 海軍ノ艦船ヲ覆没又ハ破壊シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
2 海軍ノ航空機ヲ墜落、顛覆若ハ覆没セシメ又ハ破壊シタル者亦前項ニ同シ

第八十二条 第七十八条ニ記載シタル物又ハ海軍戦闘ノ用ニ供スル鉄道、電線若ハ水陸ノ通路ヲ損壊シ又ハ使用スルコト能ハサルニ至ラシメタル者ハ無期又ハ二年以上ノ懲役ニ処ス

第八十三条 兵器、弾薬、糧食、被服其ノ他海軍ノ軍用ニ供スル物ヲ毀棄又ハ傷害シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第八十四条 第七十八条乃至第八十二条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス

第八十五条 本章ノ規定ハ海軍ト共同作戦ニ従フ外国陸海軍ノ軍用物ニ対スル行為ニ亦之ヲ適用ス

   第九章 掠奪及強姦ノ罪

第八十六条 戦地又ハ帝国軍ノ占領地ニ於テ住民ノ財物ヲ掠奪シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス
2 前項ノ罪ヲ犯スニ当リ婦女ヲ強姦シタルトキハ無期又ハ七年以上ノ懲役ニ処ス

第八十七条 戦場ニ於テ戦死者又ハ戦傷病者ノ衣服其ノ他ノ財物ヲ褫奪シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス

第八十八条 前二条ノ罪ヲ犯ス者人ヲ傷シタルトキハ無期又ハ七年以上ノ懲役ニ処シ死ニ致シタルトキハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス

第八十八条ノ二 戦地又ハ帝国軍ノ占領地ニ於テ婦女ヲ強姦シタル者ハ無期又ハ一年以上ノ懲役ニ処ス
2 前項ノ罪ヲ犯ス者人ヲ傷シタルトキハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ処シ死ニ致シタルトキハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ懲役ニ処ス

第八十九条 本章ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス

   第十章 俘虜ニ関スル罪

第九十条 俘虜ヲ看守又ハ護送スル者其ノ俘虜ヲ逃走セシメタルトキハ三年以上ノ有期懲役ニ処ス

第九十一条 俘虜ヲ逃走セシメタル者ハ十年以下ノ懲役ニ処ス
2 俘虜ヲ逃走セシムル目的ヲ以テ器具ヲ給与シ其ノ他逃走ヲ容易ナラシムヘキ行為ヲ為シタル者ハ七年以下ノ懲役ニ処ス
3 前項ノ目的ヲ以テ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処ス

第九十二条 俘虜ヲ奪取シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ処ス

第九十三条 逃走シタル俘虜ヲ蔵匿シ又ハ隠避セシメタル者ハ五年以下ノ懲役ニ処ス

第九十四条 第九十条乃至第九十二条ノ未遂罪ハ之テ罰ス

   第十一章 違令ノ罪

第九十五条 守兵ヲ欺キテ守所ヲ通過シ又ハ守兵ノ制止ニ背キタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ一年以上五年以下ノ禁錮ニ処ス
 二 戦時ナルトキハ三年以下ノ禁錮ニ処ス
 三 其ノ他ノ場合ナルトキハ一年以下ノ禁錮ニ処ス

第九十六条 帰休下士官兵及現役以外ノ兵役ニ在ル者故ナク召集ノ期限ニ後レタルトキハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 戦時ニ際シ又ハ事変ノ為召集ヲ受ケタル場合ニ於テ五日ヲ過キタル者ハ二年以下ノ禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ニ於テ十日ヲ過キタル者ハ一年以下ノ禁錮ニ処ス

第九十七条 兵役ヲ免ルル目的ヲ以テ疾病ヲ作為シ、身体ヲ毀傷シ其ノ他詐偽ノ行為ヲ為シタル者ハ五年以下ノ懲役ニ処ス
2 帰休下士官兵及現役以外ノ兵役ニ在ル者召集ヲ免ルル目的ヲ以テ前項ノ行為ヲ為シタルトキハ三年以下ノ懲役ニ処ス

第九十八条 艦船ノ危急ニ際シ指揮官ノ指揮ヲ待タス其ノ艦船ヲ退却シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 一 敵前ナルトキハ三年以上ノ有期禁錮ニ処ス
 二 其ノ他ノ場合ナルトキハ五年以下ノ禁錮ニ処ス

第九十九条 戦時又ハ事変ニ際シ軍事ニ関スル虚偽ノ命令、通報又ハ報告ヲ為シタル者ハ五年以下ノ懲役ニ処ス

第百条 戦時又ハ事変ニ際シ軍事ニ関シ造言飛語ヲ為シタル者ハ七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

第百一条 礼砲、号砲其ノ他空包ヲ発スヘキ場合ニ於テ弾丸、瓦石其ノ他ノ物ヲ装填シテ発シタル者ハ二年以下ノ禁錮ニ処ス

第百二条 守兵故ナク銃砲ヲ発シタルトキハ二年以下ノ禁錮ニ処ス

第百三条 戦時又ハ事変ニ際シ急呼ノ号報アリタル場合ニ故ナク来会セサル者ハ二年以下ノ禁錮ニ処ス

第百四条 政治ニ関シ上書、建白其ノ他請願ヲ為シ又ハ演説若ハ文書ヲ以テ意見ヲ公ニシタル者ハ三年以下ノ禁錮ニ処ス

第百五条 服従ノ義務ニ違フヘキ事ヲ目的トシテ党ヲ結ヒタルトキハ首魁ハ六月以上五年以下ノ禁錮ニ処シ其ノ他ノ者ハ二年以下ノ禁錮ニ処ス

  附 則

1 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
2 明治十四年第七十号布告海軍刑法ハ之ヲ廃止ス

  附 則 (昭和十七年法律第三十六号

1 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
2 本法施行前刑法第二十二章ノ罪ヲ犯シクル者ニシテ第八十八条ノ二第一項ノ改正規定ニ該当スルモノハ本法施行後ト雖モ告訴アルニ非ザレバ其ノ罪ヲ論ゼズ


制作者註


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