中野文庫 朝鮮海員懲戒令

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朝鮮海員懲戒令(大正3年制令第11号)

   第一章 総則

第一条 海技免状ヲ受有スル者其ノ職務ヲ行フニ当リ左ノ事項ニ該当スルトキハ海員審判所ノ裁決ヲ以テ懲戒ヲ加フヘシ
 一 正当ノ理由ナクシテ船舶ヲ放棄シタルトキ
 二 過失懈怠又ハ不当ノ所為ニ因リ自他ノ船舶ヲ問ハス之ニ損害ヲ加ヘ又ハ之ヲ沈没セシメタルトキ
 三 過失懈怠又ハ不当ノ所為ニ因リ人ヲ殺傷シタルトキ
 四 海難ニ罹リ船舶又ハ船客乗組員ヲ救助スルノ方法ヲ尽ササルトキ
 五 海難ニ罹リタル船舶アルコトヲ認メ正当ノ理由ナクシテ其ノ船舶又ハ船客乗組員ヲ救助スルノ方法ヲ尽ササルトキ
 六 職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リタルトキ
 七 乱酔粗暴其ノ他ノ失行アリタルトキ

第二条 懲戒ハ左ノ三種トス
 一 免状行使ノ禁止
 二 免状行使ノ停止
 三 譴責

第三条 前条懲戒ノ適用ハ所為ノ軽重ニ従ヒ海員審判所之ヲ定ム

第四条 免状行使ノ停止ハ一月以上三年以下トス

第五条 海員審判所ハ左ノ原因アルトキハ審判ヲ行ハス
 一 裁決
 二 時効
2 第一条各号ニ該当スル者ハ廃業ノ故ヲ以テ懲戒ヲ免ルコトヲ得ス

第六条 時効ノ期間ハ審判ヲ受クヘキ事件ノ生シタル日ヨリ五年トス

第七条 海員審判所ノ審判ニ関シ本令ニ規定ナキモノニ付テハ朝鮮刑事令ヲ準用ス

   第二章 審判前ノ手続

第八条 海事官吏、地方官又ハ警察官吏若ハ其ノ職務ヲ行フ者審判ニ付スヘキ事実アリタルコトヲ知リタルトキハ直ニ其ノ事実ヲ詳記シ理事官ニ報告スヘシ

第九条 理事官審判ニ付スヘキ事実アリタルコトヲ知リタルトキハ証憑ヲ集取シ必要ニ応シ実地臨検ヲ為スコトヲ得

第十条 理事官ハ審判ノ開始ヲ海員審判所ニ申立ツヘシ
2 前項ノ申立ヲ為ストキハ証憑其ノ他必要ノ書類ヲ添附スヘシ

   第三章 審判

第十一条 海員審判所ハ理事官ノ申立ニ因リ又ハ職権ヲ以テ審判ヲ開始スヘキヤ否ヤヲ決定ス其ノ職権ヲ以テスル場合ニ於テハ理事官ノ意見ヲ聴クヘシ
2 開始決定ハ理事官及被審人ニ之ヲ通知スヘシ

第十二条 海員審判所ニ於テ下調ヲ必要ナリト決定スルトキハ審判長ハ審判官ニ其ノ下調ヲ命スヘシ

第十三条 下調ノ命ヲ受ケタル審判官ハ被審人ヲ呼出シテ之ヲ訊問スルコトヲ得
2 受命審判官ハ必要ナル証憑ヲ集取スヘシ
3 受命審判官ハ証人鑑定人ヲ呼出シ通事ヲ命シ又ハ臨検ヲ為スコトヲ得

第十四条 被審人又ハ証人正当ノ理由ナクシテ受命審判官ノ呼出ニ応セサルトキハ受命審判官ハ引致状ヲ発シテ引致セシムルコトヲ得
2 引致状ハ理事官ノ命令ニ因リ勾引状執行ノ手続ヲ準用シテ之ヲ執行ス

第十五条 被審人逃走シ又ハ逃走ノ虞アルトキハ受命審判官ハ免状行使ノ仮停止ヲ為シ又ハ之ヲ差押フルコトヲ得

第十六条 被審人又ハ証人疾病其ノ他正当ノ事故アリテ呼出ニ応スルコト能ハサルコトヲ疏明スルトキハ受命審判官ハ其ノ所在ニ就テ之ヲ訊問スルコトヲ得

第十七条 受命審判官下調ヲ終リタルトキハ調書及一切ノ証憑ヲ審判長ニ差出シ審判長ハ直ニ之ヲ理事官ニ送付スヘシ
2 理事官ハ三日内ニ意見ヲ附シ其ノ書類ヲ審判長ニ還付スヘシ

第十八条 海員審判所ハ下調ヲ十分ナリト思料スルトキハ審判ヲ継続スルヤ否ヤヲ決定スヘシ
2 審判ヲ継続スヘシト決定スルトキハ審判期日ヲ定メ被審人ヲ呼出スヘシ
3 審判ヲ継続セスト決定スルトキハ審判ヲ閉鎖スヘシ

第十九条 審判ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ海員審判所ノ決定ニ依リ其ノ公開ヲ停止ス

第二十条 第十三条乃至第十六条ノ規定ハ審判ノ場合ニ之ヲ準用ス

第二十一条 開廷中秩序ノ維持ハ審判長ニ属ス
2 審判長ハ審判ヲ妨クル者又ハ不当ノ言行ヲ為ス者ヲ退廷セシムルコトヲ得

第二十二条 被審人又ハ証人ノ訊問ハ審判長之ヲ為ス
2 審判官及理事官ハ審判長ニ告ケ被審人又ハ証人ヲ訊問スルコトヲ得

第二十三条 理事官ハ審判ニ立会ヒ其ノ意見ヲ述フルコトヲ得

第二十四条 被審人ハ補佐人ヲ用ウルコトヲ得但シ海員審判所ノ認許シタル者ニ限ル

第二十五条 海員審判所ハ呼出ヲ受ケタル被審人審判期日ニ出頭セサルトキハ闕席裁決ヲ為スヘシ但シ被審人ノ疾病其ノ他ノ故障ニ因リ審判ヲ行フコト能ハサルトキハ決定ヲ以テ其ノ審判ヲ延期又ハ中止スルコトヲ得

第二十六条 刑事裁判手続中ハ被審人ニ対シ審判ヲ開始スルコトヲ得ス
2 被審人刑事訴追ヲ受ケタルトキハ其ノ事件ノ判決確定スル迄審判ヲ中止スヘシ

第二十七条 理事官及被審人ハ本案ノ裁決アル迄何時ニテモ審判ヲ行フヘカラサルノ申立ヲ為スコトヲ得
2 海員審判所ハ職権ヲ以テ審判ヲ行フヘカラサルノ言渡ヲ為スコトヲ得

第二十八条 裁決ニハ其ノ理由及証憑ヲ明示スヘシ

第二十九条 裁決及裁決始末書ノ原本ハ海員審判所之ヲ保存スヘシ

   第四章 執行処分

第三十条 懲戒ハ裁決言渡ノ後之ヲ執行ス

第三十一条 免状行使ノ禁止ヲ言渡シタルトキハ海員審判所ニ於テ免状ヲ取上ケ之ヲ朝鮮総督府ニ送付スヘシ
2 免状行使ノ停止ヲ言渡シタルトキハ海員審判所ニ於テ免状ヲ取上ケ期間満了ノ後之ヲ本人ニ還付スヘシ
3 免状行使ノ禁止又ハ停止ヲ言渡サレタル者海員審判所ニ免状ヲ差出ササルトキハ海員審判所ハ其ノ免状ヲ無効ト為シ其ノ旨公示スヘシ

   第五章 罰則

第三十二条 証人、鑑定人又ハ通事正当ノ理由ナクシテ海員審判所又ハ受命審判官ノ呼出ニ応セス又ハ其ノ義務ヲ尽ササルトキハ四十円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス

第三十三条 証人虚偽ノ陳述ヲ為シタルトキ又ハ鑑定人若ハ通事虚偽ノ鑑定若ハ通訳ヲ為シタルトキハ一年以下ノ懲役ニ処ス
2 前項ノ罪ヲ犯シタル者其ノ事件ノ裁決言渡前自首シタルトキハ其ノ刑ヲ免ス

  附 則

本令ハ大正三年六月一日ヨリ之ヲ施行ス


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