中野文庫 叙勲基準

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総説−叙勲等の発令までの流れ

 終戦後の昭和21年5月3日、「官吏任用叙級令施行に伴ふ官吏に対する叙位及び叙勲並びに貴族院及び衆議院の議長、副議長、議員又は市町村長及び市町村助役に対する叙勲の取扱に関する件」を閣議決定し、明治以来の現行制度のもとでの叙位叙勲を一部を除き停止した。昭和22年5月3日の日本国憲法施行に際しては金鵄勲章が廃止された。これに先立つ同年4月末に大東亜戦争に係る論功行賞(死亡者)は打ち切られている。このため、勲章を授与すべき功労ある者に対しては、叙勲にかえて黄綬・紫綬・藍綬褒章を賜与することになった。なお、緊急を要する者についてのみ、昭和28年に「生存者に対する叙勲の取扱に関する件」が閣議決定され、叙勲が行われた。

 その後、さまざまな議論の中、新しい栄典制度を目指して法案が国会に提出されたものの、いずれの法案も成立するに至らなかった。そこで政府は、閣議決定によって停止したものであるから、同様に法律によらずとも再開できるとの判断により、昭和38年7月12日、「生存者叙勲の開始について」、および「勲章、記章、褒章等の授与及び伝達式例」を閣議決定し、翌39年4月21日には「生存者叙勲の開始について(昭和三十八年七月十二日閣議決定)第二項に基づく叙勲基準について」を閣議決定し、「勲章等着用規程」を総理府告示第16号として公示した。これに伴い、昭和21年5月に文化勲章を除く勲章について叙勲を停止して以来、18年ぶりに75歳以上の生存者に対する叙勲が4月29日の天皇誕生日(現みどりの日)に再開された。

 叙勲及び賜杯は、栄典に関する有識者の意見を聴き内閣総理大臣が決定した春秋叙勲候補者推薦要綱に基づいて行われる。この要綱により、両院議長(議院事務局庶務部)、最高裁長官(人事局)、各省大臣(大臣官房)、会計検査院長(事務総長官房)、人事院総裁(管理局)、内閣府の外局の長など各省各庁の長は候補者を推薦する。各省庁に推薦を求めたのち、さらに各省庁は地方自治体ほか公の機関や関係団体に推薦を求めて、これらを集約して内閣府に推薦する。この推薦に先だって候補者の功績調書、履歴書、戸籍抄本、刑罰等調書(刑罰の有無、破産宣告等の有無を記載した本籍地の市町村長作成のもの)、叙勲審査票、叙勲候補者名簿、団体の規模及び事業概況等調を、春の叙勲は前年の12月下旬(褒章はその1か月前)までに、秋の叙勲は6月下旬までに提出して、内閣府とあらかじめ協議を行い、推薦される。

 紺綬褒章については、国に寄付がなされた場合はその寄付の目的に関する業務を所管する官庁に、地方公共団体に寄付がなされた場合は(市町村のときは都道府県を経由して)所管官庁に、公益団体(例えば日本育英会、財団法人交通遺児育英会など)に寄付がなされた場合は主務大臣の認可した公益団体のときは主務大臣に、都道府県知事が認可した公益団体のときは知事を経由して所管官庁に、それぞれ申請する。申請された候補者の推薦は、寄付をした日(収納手続完了日)から1年以内に各省大臣から内閣総理大臣に関係書類を送付することになっている。候補者審査には、寄付取調書・申込書・受領書、物件の場合は価格評価書、履歴書、定款、戸籍抄本などを提出する。

 内閣府賞勲局は候補者につき審査を行い、さらに内閣官房長官、内閣法制局長官、内閣官房副長官、総理府政務次官および総理府次長(省庁再編前の例)で構成する叙勲等審査会議(以前は内閣官房長官、総理府総務長官、内閣法制局長官による三長官会議)を経て、最終的に内閣総理大臣の了承を求めた上で、内閣府案を決定する。各省庁に案の内示が行われ、叙勲等の受諾の確認や候補者本人の経歴等の確認、犯罪歴の有無の調査を経て、各省大臣から正式に内閣総理大臣へ候補者の推薦が行われる。

 春秋の定期叙勲のほか、死亡した者に対して行う死亡叙勲、高齢者叙勲、緊急叙勲・危篤叙勲があり、死亡叙勲の場合は候補者の除籍抄本若しくは死亡診断書、危篤叙勲の場合は候補者が勲四等以上に叙され得る者、もしくは春秋叙勲の候補者になっている場合で、医師の診断書等を提出して発令する。褒章については、死亡叙勲ではなく遺族追賞として桐紋銀杯・木杯若しくは褒状を遺族に賜与する。候補者本人(故人)と遺族との関係を示す戸籍抄本等を死亡から3か月以内に提出して発令することになっている。

 「勲章受章者及び受杯者名簿」を作成し、叙勲等の閣議決定がなされ、宮中において内閣総理大臣から天皇陛下へ上奏ののち、ご裁可を経て、春はみどりの日(4月29日)に、秋は文化の日(11月3日)に発令される(候補者が発令前に死亡した場合で、死亡叙勲を行うときはその日付で発令する。遺族追賞のときは春秋叙勲の日とする)。紺綬褒章については、毎月末の閣議においてまとめて閣議決定し、閣議後に上奏してご裁可を経て、その翌日に発令する。

 大勲位および勲一等は、午前中、皇居正殿松の間において天皇陛下より勲記とともに親しく授与される。御前から一旦退出して勲章を佩用し、再び松の間へ夫人同伴で参進して御言葉を賜る。勲二等は、午後、松風の間で内閣総理大臣より伝達される(伝達式例改正前は総理官邸)。勲章を佩用し豊明殿で夫人とともに拝謁の栄を賜り、最年長者からお礼の言上ののち、御言葉を賜る。このあと、勲一等と勲二等の受章者は皇居内で記念撮影を行う。勲三等以下の勲章、褒章または銀杯・木杯は各省大臣から伝達される(自治省に関しては勲四等以下、厚生省に関しては勲五等以下、その他の省庁に関しては伝達式欠席者について、都道府県知事からの伝達にかえる)。なお、文化勲章はこれまでの文化勲章伝達式を改め、勲一等以上と同じく親授式が行われることとなった。

 勲三等以下の勲章および褒章について、各省大臣・都道府県知事による伝達が終ったのち、受章者は指定された日程に従って上京して各省庁に集合のうえ参内し、豊明殿または春秋の間において拝謁の栄を賜る。このあと記念撮影を行い、御紋章の入った記念品を下賜されて退下する。

 定期叙勲において、おおむね勲章受章者(賜杯を含む)は4500名超であり(平成12年春は総数4607名。うち勲一等23名、勲二等83名、勲三等359名、勲四等923名、勲五等1618名、勲六等1210名、勲七等387名、銀杯2名、木杯2名)、褒章受章者は700名超である(平成12年春は総数758名。うち黄綬褒章293名、紫綬褒章31名、藍綬褒章434名)。

 なお、現行制度は明治初期の太政官布告やさまざまな勅令・政令で法定されているものの、多岐に渡りすぎていて制度として分かりにくく、また等級制度は現代にそぐわないから単級の勲章に統一すべきとの意見や、勲章の改廃は明治以来の伝統を捨て去るものであるから反対との意見もあって、長い間、政府部内で検討されていたが、平成15年秋の叙勲より新しい制度が施行されている。

【制作者からお知らせ】

●平成15年秋の叙勲・褒賞より新栄典制度が導入されたため、記述が最新のものではない場合があります。旧制度と新制度について随時記述を変更していきますが、その際に文書を移動させたり、ファイル名を変更する場合があります。


叙勲等の候補者選考と基準

 叙勲等の基準年齢としては、叙勲については国家または公共に対して功労ある70歳以上の者とされ(第1・2回昭和39年は75歳以上、第3回昭和40年以降は70歳)、退職後おおむね3年が経過している者は68歳となっている(第10回昭和43年秋以降、特例適用は原則として勲四等以下)。ただし、警察官や消防士など著しく危険な職務に従事する者、一般に従事することを好まれない職務に従事する者、または人目につかない領域であって苦労の割には報いられることが少ない者(例えば僻地の医師・看護婦、特別養護老人ホームの寮母、船員、水防団員、消防団員、とび職・左官業等の専門工事業者、鉱山保安員、保護司、民生委員など)については、55歳以上の者が候補者たりうる(第5回昭和41年春以降)。賜杯については、原則として75歳以上とされる。

 叙勲等で評価される功労は、日本国憲法のもとでの栄典であるという性格上、日本国憲法施行の日(昭和22年5月3日)以後を「戦後」とし、「戦前」(同2日以前)でその活動が終わっている場合は叙勲の対象外となる。ただし、「戦前」に発見の功績を挙げて戦後もその効用がある場合や、貴衆各院の議員として新憲法制定の審議に参画した場合などは例外的に対象となる。なお、公選の職にある場合は戦前戦後の区分が若干ずれるため、衆議院議員にあっては昭和22年4月25日、参議院議員は同5月3日、地方自治体の首長は同4月5日、地方自治体の議員は同4月30日以後を「戦後」としている。

 第11回(昭和44年春)以降、帯勲者にも再び叙勲され得ることとなった。抜群の功労を挙げ、先の叙勲からおおむね7年以上経過している者のうちから選考される。ただし、原則として勲三等以上を再び授与されるものに限っている。褒章受章者で叙勲候補者となるには、褒章の受章からおおむね5年以上の経過を要するものとしている。

 紺綬褒章については、公職の候補者および候補者となろうする者の寄付は、原則として受章の対象とはならない。

 黄綬褒章および藍綬褒章を再び賜与する場合、異なった分野や種類の功績があるときはおおむね5年以上、同じ分野の功績があるときは10年以上の更なる積み重ねが必要であり、同じ功労に対しては再度以上の賜与は行わない。また、紫綬褒章の受章者について、新たに黄綬若しくは藍綬褒章を賜与する場合も上述の期間の経過を必要とする。

 昭和48年5月10日以降、高齢者に対する叙勲等は、春秋の叙勲で対象とならなかった88歳以上の者につき、毎月叙勲できることとなった。発令日の前月の15日までに関係書類を提出し、春秋叙勲と同様に行われる。

 春秋の叙勲以外に、突発的な天災や事件事故に際して行われる「特別叙勲」があるほか、先の大戦の戦歿者に対する「戦歿者叙勲」も昭和39年に「戦没者の叙位及び叙勲について」の閣議決定により再開され、戦死した軍人軍属のほか、シベリアなどへ戦後抑留され死亡した軍人軍属、軍の要請によって参加した一般人も叙勲対象とされる。約200万人の戦歿者のうち、半数は発令がなされたものの、6分の1程度しか伝達されていなかったもので、再調査のうえ、「大東亜戦争軍人軍属死歿者賞賜内規」(昭和17年9月閣議決定)に基づいて行われることになった。


現行の叙勲基準(「生存者叙勲の開始について(昭和三十八年七月十二日閣議決定)第二項に基づく叙勲基準について(昭和39年4月21日閣議決定)」)

 公益功労者の場合

  1. 内閣総理大臣、衆参両院議長、最高裁判所長官の職にあって功績のあった者には、初叙を等しく勲一等瑞宝章とする。
  2. 国務大臣、衆参両院副議長、最高裁判所裁判官、内閣官房長官(昭和41年から国務大臣が兼任)、総理府総務長官(昭和40年から国務大臣が兼任、59年総務庁発足に伴い廃止)の職にあって功績のあった者には、初叙を等しく勲二等瑞宝章とする。
  3. 国会議員の初叙は勲四等瑞宝章とし、内閣官房副長官、政務次官、衆参両院常任委員長、同特別委員長に就いた者の初叙は勲三等瑞宝章とする。
  4. 認証官等職務内容が特に重要と認められた職にあって功績のあった者は、勲二等または勲三等瑞宝章とする。
  5. 都道府県知事、政令指定都市市長の初叙は勲四等瑞宝章、人口25万人以上の都市の市町村長の初叙は勲五等瑞宝章、25万人未満の市町村長の初叙は勲六等瑞宝章とする。
  6. 都道府県議会議員、市区町村議会議員の初叙は勲六等瑞宝章とする。

 民間功労者の場合

  1. 学術及び芸術等の分野において業績を挙げ、文化の発展に寄与した者
  2. 新聞その他報道の業務に従事し、公益に寄与した者
  3. 学校教育または社会教育に従事し、教育に寄与した者
  4. 社会福祉事業または納税に尽力した者
  5. 発明発見その他の創意工夫により、公衆の福祉の増進に寄与した者
  6. 治山治水事業、砂防事業及び土地改良事業等公共工事に尽力した者
  7. 地方鉄道事業、軌道事業、海上運送業、道路運送業、航空運送業、電気事業及びガス事業等公共的事業に従事し、公衆の福祉の増進に寄与した者
  8. 医師及び薬剤師等の業務に従事し、国民保健または環境衛生に寄与した者
  9. 弁護士、弁理士及び公認会計士等公共的職務に従事し、公益に寄与した者
  10. 調停委員、人権擁護委員及び民生委員等の職務に従事し、公共団体の業務に寄与した者
  11. 農林業、畜産業、水産業、商工業、鉱業、貿易業、銀行業、保険業、信託業、倉庫業、建設業及び観光事業等の業務に従事し、経済もしくは産業の興隆を図り、または公益に寄与した者
  12. 労働界において経済の興隆と国民生活の安定に寄与した者
  13. 体育界において業績を挙げ、または体育の振興に寄与した者
  14. 前各号に掲げる以外の者で、公益に寄与した者

 以上に該当する者であって、公益または公共に対し功労ある者には勲六等瑞宝章、著しい功労ある者には勲四等瑞宝章以上、特に著しい功労ある者には勲二等瑞宝章以上の勲章を授与する。

 その他の場合

  1. 風水害、震火災その他非常災害に際し、身命の危険をおかして、災害の防止、救援又は復旧につとめ、功労のあった者
  2. 身命の危険をおかして、現行犯人の逮捕等犯罪の予防又は鎮圧に功労のあった者
  3. 生命の危険を伴う公共の業務に従事し、その職に殉じた者
  4. その他前各号に準ずる者

 以上に該当する者には、相当の勲章を授与する。  


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