中野文庫 勅語(昭和59年)

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大韓民国全斗煥大統領歓迎の宮中晩餐会のおことば(昭和59年9月6日)

 このたび、大韓民国大統領閣下が、国務御多端の折にもかかわらず、令夫人とともに、国賓として、我が国に御来訪になったことに対し、私は、心から歓迎の意を表します。大統領閣下の御来訪は、貴国元首の初めての公式御来日として、両国の関係史上、画期的なことであり、両国の友好増進のため、誠に喜ばしいことであります。ここに、御一行をお迎えして、宴席をともにできるのは、喜びに堪えません。
 顧みれば、貴国と我が国とは、一衣帯水の隣国であり、その間には、古くより様々の分野において密接な交流が行われて参りました。我が国は、貴国との交流によって多くのことを学びました。例えば、紀元六、七世紀の我が国の国家形成の時代には、多数の貴国人が渡来し、我が国人に対し、学問、文化、技術等を教えたという重要な事実があります。永い歴史にわたり、両国は、深い隣人関係にあったのであります。このような間柄にもかかわらず、今世紀の一時期において、両国の間に不幸な過去が存したことは誠に遺憾であり、再び繰り返されてはならないと思います。
 今日、両国の努力と協力により、将来に向かって益々友好と親善が深められ、ともに繁栄する時代が開かれつつあることは、私の深く喜びとするところであります。このたびの大統領閣下の御来訪が、新しい日韓関係の一層の発展と強化をもたらす大きな契機となることを希望いたします。
 閣下が、大統領御就任以来、貴国民の期待を担い、国運の進展のため内政に外交に日夜努力しておられることに対し、私は、深く敬意を表します。また、大統領閣下の卓越した御指導の下に、貴国が、政治、経済、文化、社会等の各分野においてめざましい発展を遂げていることは、国際社会から高い評価を受けております。先般のロスアンゼルス・オリンピックにおける貴国選手の活躍は、貴国の国運隆昌の象徴であり心から祝意を表します。四年後には、ソウルで、平和の祭典オリンピックを開催されると伺っておりますが、その御成功をお祈りいたします。
 閣下御夫妻の御滞在は極めて短く、また、御多忙の御日程でありますが、どうか快適に、また、有意義にお返しになりますよう希望いたします。
 ここに杯を挙げて、大統領閣下並びに令夫人の御健康と御多幸をこい願い、併せて、大韓民国国民の繁栄を祈ります。

(参考) 大韓民国全斗煥大統領の答辞

 天皇陛下、
 総理大臣閣下ご夫妻、ならびに、
 内外貴賓のみなさん。
 私は本日、私たち夫妻と私たち一行を心から歓迎して下さり、かつ、このように盛大な晩餐会を催して友誼にみちたお言葉を賜わりましたことに対して、衷心より感謝の意を表するものであります。
 合わせて、貴国政府の指導者と国民が、私と私たち一行をあたたかく迎えて下さったことに対しても、深い感謝の意を表するしだいであります。
 私は、有史以来初めて貴国を公式訪問した大韓民国の国家元首として、陛下とともに交歓する歴史的な機会を得ましたことを、なによりも意義深いものと考えております。
 歴史的な韓日関係の新たな幕開けに際して、陛下が過ぐる日の両国関係史における不幸だった過去について述べられるのを、私はわが国民とともに厳粛な気持ちで傾聴しました。
 われわれ両国には、「雨降って地固まる」という共通のことわざがあります。
 親しい仲どうしは、一時争うことがあっても、その瞬間が過ぎたらたがいに胸襟を開きあい、前よりももっと親しくなる、という意味に使われることわざであると私は承知しております。
 われわれ両国のあいだにあった不幸な過去は、今や、より明るく、より親しい韓日間の未来を開拓していくうえで、貴重ないしずえにならねばならないと信じております。
 われわれ両国を結束させる原動力は、平和を目指すわれわれの意志にあります。
 わが国は近世以降だけでも、数多くの戦争の惨禍を経験しました。
 もっとも最近の例だけをあげても、一九五〇年から三年間、私たちは同じ民族どうしの戦争を体験しました。
 戦争の被害による苦痛が人一倍大きく、その傷痕がいまなお治らずに続いているため、わが大韓民国は平和がすなわち信仰であり、それを守るための実践意志もまた、だれに劣らず強烈であると申し上げることができます。
 私と大韓民国政府が非暴力平和主義を国家指標の一つとし、また、民族統一問題においても平和的達成のために努力しているのは、そのような歴史を通じて鍛えられた平和意志に基づくものであります。
 日本は、その憲法に明示された平和主義に立脚して、今日の富強な国を建設しました。
 そのため、平和の理想は、世界のどの民族よりも切実な韓日両国の共同の理想として、それを指向する韓日両国の真摯な献身が要求されているのであり、このような事実は、われわれ両国と国民を善隣と相助で結束させる強力な絆になっている、と私は確信しております。
 私は、戦後の日本が今日の自由と繁栄を享受するようになるまで、貴国の政府と国民が一致団結、勤勉と誠実で忍苦し努力してきたのをよく承知しております。
 その結果として日本が成し遂げた驚くべき発展相を直接目にしながら、私は短期間のうちにこのような偉大な業績を積み上げた日本国民の努力に対して、深い敬意を表するとともに、汗を流さずにはいかなる幸福も手に入れることはできないという真理を、あらためて吟味しております。
 わが大韓民国は今、五千年の歴史の正統性を継承、民族の底力を躍動させるべく、あらゆる努力を傾けております。
 私たちは祖国の発展と平和的統一のための前進に拍車を加えており、世界の平和と繁栄に寄与する国際社会の責任ある一員として、献身的な努力を尽くしています。
 今や、われわれ両国は自由と民主、そして平和と繁栄という共通の理念のもと、この地球村でもっとも親しい隣人どうしとして、全世界の亀艦となる善隣関係を樹立していかねばなりません。
 そのようにして、両国の国民がともに未来を開拓していく新たな同伴者時代を強力に築いていかねばなりません。
 地球の生成とともにはじまった両国の近隣関係は、この地球が消滅しないかぎり変えることのできない宿命なのであり、また、今日のわれわれはもちろんのこと、われわれの遠い子孫に拒否できない摂理でもあります。
 したがって、われわれは地球の堅固さを信じているのと同様に、両国同伴者時代の開幕に対する当為性をわれわれの確信たらしめてともに努力することを提言しながら、きょうのこの席がそのような約束の場となるよう、心から祈ってやみません。
 内外貴賓のみなさん。
 天皇、皇后両陛下の万寿と日本国の無窮な繁栄のために、そして、新たな韓日両国同伴時代の開幕のために、ともに祝杯を挙げましょう。


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