天神の森        
                                                      名誉宮司 木村 照
( 7 )  珍木カゴ(鹿子)の木           上へ 1へ 2へ 3へ 4へ 5へ 6へ
 
 数寄者が茶室の床柱等に珍重される、カコの木が天神の森、稲荷社の周辺に群生していることが、植物に詳しい石井氏子総代によって発見された。この木は植栽される木でもなく、自然林の中に自生する特質の珍木で、自然林を誇る金華山でも、稀にしか見られない珍しい木であると云う。
 この木は楠木科の植木で、コガノ木・カゴカシ・カノコガとも呼ばれて、樹皮は灰黒色で斑に剥がれて、白い鹿の子模様になっていることが特徴で、木に雌雄の別があって雌樹は九月中頃、梢枝に黄色の小さな花を咲かせる。
 稲荷社は「稲荷塚古墳」の上に鎮祭されており境内全体が自然林の様相を保っている。面積は僅か二七五坪(九〇八平米)であるが、この森の中に大小二十六本が自生している。根周り六尺三寸を筆頭に、一尺以上の木が見事に点在している。
 この外に、社務所南の森の中に三本、本殿背後の森に四本のカゴの木が自生しており、何れも根周り三尺を越え、中でも本殿背後の一本は、根周り七尺で三本立の太い幹を空に広げて繁った姿は、過去の伊勢湾台風にも耐え抜いた、カゴの木の生命力の逞しさを誇示しているようで、天神の森の自然性価値を高めている。
本殿背後のカゴの木
( 6 )  中庭のモチの木                  上へ 1へ 2へ 3へ 4へ 5へ 7へ

 神社の森には、ときとして常識を越えた、不思議な樹木を見かけることがある。その一つとして社務所の中庭のモチの木に、見ることが出来る。

 このモチの木は、中庭の造園に植えられ、刈り込み仕立てにされていたが、長年の間に樹高も六米程となり枝張りも大きくなって、他の庭木を圧するようになったので、刈り込みを止めて枝仕立てにしたところ、枝と幹とが密着して中程に三ヶ所、上部に二ヶ所鎖のように連なっており、作業の庭師もこんな現象は珍しく初めてと驚いていた。 自然現象の徒らと云えばそれまでであるが、神苑を彩る木と思えば漫ろ神秘を感じさせるものがある。
中庭のモチの木
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 拝殿前左に、三十数本のロープで枝吊りした、堂々たる枝垂れ桜が、冬はすっかり葉を落とした無数の枝がしなやかに垂れ下がっている。その姿は葉の茂っていたときよりも更に優美な趣を湛えて参拝者の目を引き付けている。
 この桜は三月末頃より蕾が綻び初めて、四月五日の例祭にはちょうど見頃となって社頭を飾り、その下を子供神輿が練り廻って、お祭り情緒を盛り上げるのである。
 この枝垂れ桜は、昭和五十九年に、安八郡の七野明子さんが奉納されたもので、その当時は根幹周り約二尺五寸位地上二尺程から尺五寸程の幹二本が伸びた若木であったが、今では根幹周り六尺六寸を越え二本の幹も四尺を上廻り、枝笠も大きく広がって、堂々たる風格を備えて、花時にはカメラマンが方々から撮影に訪れて、すっかり天神の森の人気を背負っている。
枝垂れ桜
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 西参道の鳥居を潜り、神門に至る中程の釈迦堂の前に、約三十度傾斜して、空高く聳えている杉の大木がある。
 目通り一米九六、樹高三十米、樹齢約三百年で、根幹部分に大きな亀裂があって、中は空洞化しているが樹盛は衰えず、まさに懸命に生き続けている姿で、参拝者も思わず仰ぎ見て通るのである。
 この杉が傾斜したのは、昭和三十四年の伊勢湾台風で、大木の殆どが傾伏した中で、辛うじて持ち耐えたもので、台風禍の生き証人として、思い出の杉である。
 あれから四十年、その当時倒木に囲まれた神社の社務所に居住していた筆者は、この杉を仰ぎ見る度に、災害体験の友のような、親しみを感じるのである。
 台風禍共に凌ぎし老木杉  堪えて生きよと祈りて仰ぐ

                              宮司 木村 照
西参道の傾いた大杉
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 昭和三十四年の伊勢湾台風の被害によって、森の大半の樹木が倒滅したことは前にふれたが、もちの木・楠木・欅等の大木は櫛の歯の抜けたように辛うじて残ったのである。
 その中で本殿の両脇に聳えていたスギの大木が、本殿を守るように、毅然と立っていたことが強い印象に残っている。
 この杉の大木は、向かって右が目通り一丈一尺七寸樹高六間、左が目通り一丈三尺一寸樹高五問の巨木で、神木と崇められていたのである。
 この杉はもともと平地に生えていたのを、天正年間(1573〜92)池田輝政が社壇を寄進したとき、その儘一丈余を埋め立てて社壇を築いたと云う古木で台風にも微動もしなかった原因が、ここにあったかも知れないのである。
 しかし此の神木も台風を境にして、先ず右側の杉が昭和三十九年頃社壇埋め立て部分に空洞が出来て枯死、危険となったので止むなく伐採したが材質が優良であったので、これを製材し社務所建設に当たり、玄関の格天井板・座敷の長押材に使用され、神木の生命が社務所の構造の中に今も生き続けているのである。 残る左の神木も樹勢が衰え始め枯死の様相となつたが、根元が完全であったので、そのまま保存する方針で見守ることになった。
 然るに枯死が進むと共に、梢枝が強風に折損して近家の屋根に飛び、危険の状態になったので、昭和四十五年に至って、伐採の止むなきにいたった。
 今は撫き神木の杉、移り変わる天神の森の中でも、忘れ難い思い出の木である。
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伊勢湾台風の被害復興の御造営が始まり用杉御木伐行事を行った昭和三十八年三月二十七日の記念写真本殿の両側に御神木の大杉二本が厳然と奪えていた。
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昭和三十四年の伊勢湾台風の被害で倒れた樹木は
  杉    六八本   一三五石
  槍   一三五本  二二〇石
  雑木   六四本  一二〇石
  計   二六七本  四七五石
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樹齢五百年 檜
 殊に杉檜は三・四百年の大木が全滅し、残ったのは昭和天皇御成婚記念に植樹された若木が若干と云う惨状であった。
 雑木の中では、椎・樫の木が全滅し、子供等の椎の実拾いも消滅してしまって、もちの木の大木のみが点々と残ったのである。
 この台風過の中で、稲荷神社の森は、僅か樫の大木が一本倒れた以外は、さしたる被害を受けることなく、比較的安泰で昔の面影を残していることが、せめての幸いであった。
 この稲荷神社の森の中で、一際目立つのが社殿の腋に聳える一本の槍である。
  目通 三米十糎
  樹高 三十五米
  樹齢 約五百年
 まさに天神神社の歴史を象徴している大木である。
 尚この稲荷神社の森で、忘れてならない事は、鎮座されている境内が小高い土盛になっており、歴然とした古墳で、岐阜市の旧跡として狐山古墳と登録されている。
 周囲がまだ桑畑であった昔、この古墳に横穴があって、狐が住んでいたと云われており、よく油揚げをお供えしたと、古老の話が伝えられており、そうした因縁からか、何時頃からか詞が建てられ、文久元年九月に京都の吉田家から 「正一位辰山稲荷大明神」 の神号が授けられたと云うことが、川出家の記録に残っているのである。
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 長良天神の森は、背後は真福寺山、前は長良川の殆どその中間辺り、即ち長良平野の中央に位置して、約五千坪の境内の社叢である。
 昔は西側を南北に高富街道が長良川まで延びており、街道筋に家が立ち並び、森の背後は天神川、前と東及び高富街道の西は耕地が広がって、武家時代は尾張藩に属し、二千六百十石(六千五百二十五俵)の美田地帯であった。
 戦後長良地域は、岐阜市の住宅地帯の政策によって、順次家屋が増加し、耕地が次第に蚕食されて減少することになり、特に環状道路の工事が進むにつれて、美田地帯は市街地帯へと、変容の速度を早めているのが現状である。
 この時代の流れの中で、天神の森は、少しも変わることなく、昔の姿を保っているように見えるが詳細に観察すれば、やはり歴史の流れのなかで、昔の森といまの森とは変化しているのである。
 最初の変革の危機は終戦後の農地解放の波が起こった時で、森が広大であるので一部を開墾開放すべきと言う意見が、委員会の中で発言されたのである。しかしこの時は一意見に止まり、実現に至らなかったことは幸甚であった。
 然るに昭和三十四年九月二十六日、突如として襲来した台風により、森の樹木は大半が倒伏し、社叢は無残に壊滅したのである。
 ときの氏子総代は取り敢えず岐阜県農林課より、杉・檜苗の払下げを受け植栽するも、社叢の復元には程遠く、遂に昭和大造営が企画されることになった。
 台風被災より三十六年、植栽された杉・檜も、いまは立派な森を形成するように成長したが、造営のため森の面積は半減し、昔の幽邃な森相は見ることが出来なくなって、僅かながら末社稲荷神社の周辺に、その面影が残っているのみである。
 しかしながら年毎に都市化して長良地域の自然環境が希少化して行くなかで、その中央に位置する天神の森は、益々貴重な存在性を持つようになると思うのである。

造営前の森

造営後の森
昭和62年6月
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