20041219日改訂版
(初版2002127日)
著作:長澤壽一

ヨットレース勝利への道

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その1−まずはヨットの癖を理解する
その2−海面などから風を見る
その3−タクティックス

 1、ヨットの勝敗は何によって決まるか
  (1)ボートスピードの差
  (2)コースの取り方
  (3)他艇の影響
 2、スタート
 3、第一上マークへのレグ
  (1)クローズ・ホールド
  (2)クローズのコースのとり方
  (3)上マーク攻略
 4.第一マーク回航
 5、サイドマークへのレグ
 6.サイドマーク回航
 7.下マークへのレグ
 8.下マーク回航
 9.第二上マークへのレグ
 10.第二上マーク回航
 11.ランニングコース
 12、最終上マークへのアプローチ
その4―走らせ方
 1.クローズホールド
 2.ランニング
 3.サーフィング
 4.プレーニング
その5−練習方法
 (1)スタート練習
 (2)停止、横流れ練習
 (3)帆走練習

 (4)競り合い
 (5)タック練習
 (6)ジャイブ練習
 (7)プレーニング練習
 (8)編隊帆走
 (9)マーキング練習
 (10)360度、720度回転練習
 (11)コース練習

  

その6−ヨットのための陸でできるトレーニング
 1、精神力のトレーニング
  (1)考える=やる気の育成
  (2)知識の吸収+経験=判断力

  (3)計画実行=集中力
 2、感覚のトレーニング
  (1)スピード感
  (2)バランス感
  (3)集中力
 3、体力トレーニング
  (1)大腿筋
  (2)広背筋
  (3)上腕二頭筋
  (4)腹筋
  (5)背筋
 4、イメージ・トレーニング
 5、チューニング
  (1)艇体と心身
  (2)マスト・ベンド
  (3)セール・コントロール
  (4)マスト・レーキ
  (5)ブーム・トラベラー
  (6)ジブ・フェアリーダー
  (7)セール・スロット
  (8)その他
(編集後記)




その1−まずはヨットの癖を理解する

ヘルム修正

強風クローズはウエザーヘルムを消すように

強風フリーではややリーヘルムで下に引っ張られるように

軽風クローズは軽いウエザーヘルムを感じながら

軽風フリーではジャストヘルムを心がける

超微風クローズはウエザーヘルムを意識的に作りながら

超微風フリーでセールが膨らまないときは、ヘルム修正よりセールの形状を保たせることを優先

超微風クローズで向かい潮が強いときは、オーバーヒールは禁物

リーヘルムヘ

マスト位置

前に

マスト・レーキ

前方に傾斜

セール・ドラフト位置

前に

カニンガムを引く

リーチを開く

センター位置

後ろに傾斜

ラダー位置

無用

乗員位置

後ろに

メイン・ジブのバランス

ジブを深く、メインを浅く

ヒール・バランス

逆ヒール気味に

ヨットのスピードによって艇体の接水抵抗が変化する。特にプレーニング状態になると大幅に抵抗が後方に下がり、ウエザーヘルムが軽減、ないしは解消でき、強風下の操船を容易くする。このことは、タック、ジャイブのスピードロスを如何に早くリカバリーするかが重要な要素であることを教えている。プレーニングボートでは、スピード感を養い、スピードの微妙な変化を感じ取りながらハンドリングできるかが勝敗を左右する。プレーニングさせる技術の上に、プレーニングを持続させる技術、プレーニングをより速くするパワーが求められている。



その2−海面などから風を見る

 強風で海面が荒れているときはブローを見つけにくいが、海面を観察するトレーニングを重ねることにより風が見えてくる。うねりを打ち消すように小波がざわめいて見えるところがブローで、その動きを探すことがポイント。荒天下では波で遠方海面のブローの観察は不可能なので、波の形、波の光の反射などから風の角度の違いを読み取ることで十分である。ブローはせいぜい200メートル程度の風上が観察できればよい。

静水面では1キロぐらいの範囲は十分観察できる。海面が他より黒く見えるところがブローである。しかし、よく間違えるケースが3つほどある。一つは雲の陰であるが、これは上空の太陽と雲の位置ですぐに見分けられる。もう一つは潮である。潮の場合は風の強いところと同じ漣が立つので波の形からは判別できない。漣は空気と海面の摩擦によって表面が変化する現象で、風の流れ、あるいは潮の流れに対して垂直方向の縞模様が表れるものである。潮か風かを判別するには、そのブローが動いているかを観察することである。動いていれば風であり、ほとんど同じ場所でできている縞模様ならば潮であると断定してよい。

(潮)

潮は周りと違う流れ、速度の違う流れがあるとそこが違った縞模様を生じる。そこの境目が潮目といわれるところである。強く現れる場合は小さな渦を生じることがある。

(本来、潮は月と太陽の引力に左右される定時的な流れを指すが、ヨットレースで対象と考える潮は、この他にも、地球の自転と季節の温度差による海流、気圧の変化による潮位、降雨による川の水量変化、風波によって運ばれる表面海水の反流、海底の形状など多くの要因によって左右されるすべてのものである。潮は陸地から1キロ以上離れ、水深が20mを越えていれば大局的に捉えた潮を考えておけば十分である。ただし、陸に近い、防波堤に近い、川の河口にある場合などは、川の水の行方、押し寄せられた水の反流がどこにあるかを観察しておく必要もある。)

潮による縞模様は潮の流れの角度に対して垂直にできるものであるから、そのときの潮の角度が頭の中に入っていればこのことからも判断できよう。漣が想定される潮の角度に対して垂直に立っていて、その位置が動いていなければ潮と思ってよい。

さて、もう一つは、魚の群れである。いわしなどの群れは、不規則な動きをし、現れたり消えたりするので長く見ていれば簡単にそれと判断できる。

実際のヨットレースで風をじっくり観察している時間はほとんどなく、直感的な判断を迫られる。ブローは割と円に近い長円形で風に対して横に広がるような形状で動いている。この長円形の下のふちが線状により黒く見える。これに対し、潮は風の方向とは別の角度で漣が現れており、黒く見えている部分も風の動きとは別の方向に長く伸びていて動かないものである。優れたヨットレーサーになりたければ、海面をいつも観察するトレーニングを重ね、一瞬に見えた海面の変化を、自分の蓄積されたイメージと照合し、戦術に活用できる能力を備えることである。


その3−タクティックス

1、ヨットの勝敗は何によって決まるか


(1)ボートスピードの差

絶対的なスピード差があれば他のことは考えず、スピードをいつでも最大に引き出すことを意識するだけで十分である。そして、タック、波、上り過ぎ、振動、ヒール・バランスの崩れ、ブローの合間に減速してしまうので、スピード感を研ぎ澄まし、人より早く最速の状態に戻すようリカバリーに努めることである。ボートスピードの差で勝負が決まる傾向は、操船の難易度の高い艇種、より高速な艇種、ダブルハンドよりシングルハンドに強く表れる。ほんの僅かなスピードの差が、スタート、マーキング、その他競り合いの場面では、確実に何艇身かの差を広げることになる。


(2)コースの取り方

よく複数の艇種が混ざったレースが行われることがあるが、同じクラスの船が必ずしも近い順位に集まるものでもない。学生の練習などでは、スナイプが470に勝つこともよくある。このことはボートスピードよりも他に勝敗を左右する大きな要因があるということである。また、レベルが高いレースになればなるほど、ボートスピードの差がほとんどないのが実際である。そこで、風の変化がある場合はコースのとり方が勝敗を大きく左右する。しかし、完璧な風の読みができる人はまずいないと考えてよい。よって、コース選択の基本は、危険の少ないコースを選ぶことが条件である。ベタなぎの海面に、風が急に入ってくるときは、それまでのコース選択はほとんど徒労に終わり、吹き出しに近づけたかどうかで勝負がつくことがよくある。ベタのときは、風の吹き出しを探し、マーク位置はある程度無視しても、そこに早く近づくコースが最善である。
風の振れによる差


(3)他艇の影響

ブランケット、他艇のセール反流、艇首波、艇尾波によって荒れた海面状況が生じる。また、ルール上の航路権があり、他艇を攻撃することが可能である。これらを戦術として活用することによって勝機が到来する。

2、スタート


スタートの3要素プラスアルファ

3要素とは、位置、スピード、時間であるが、もっとも大事なことは、他艇の影響を受けずに最初の行きたいコースが取れるかということである。止むを得ず他艇の影響を受けながらでも、行きたいコースがとれる場合は良いが、行きたいコースはとれず、他艇の影響を受けっぱなしの状態にはなりたくないものである。スタート時の操船技術は走り出しの速さ、デッドゾーンを越えた上り技術、横滑り、停止など、あらゆるものが求められる。また、他艇の位置、速度、状況の判断、フェイントを含めた駆け引き、他艇を上でキープする、他艇の下に割り込む、他艇を誘引するなどの戦術が駆使される場面である。ヨットレースで最も緊張感のある場面である。

スタートの技術を高めるには、基礎的な部分ごとの練習に加えて、レベルの高い相手に混じってさまざまな経験を積むことである。そして精神面で絶対に他者に負けない戦闘意識と、ゼネラルリコールが繰り返される場合に、高い緊張を持続させることである。

スタート前には風がどちらに振れていくか、どこまで振れるか想定しておかなければならない。風の周期的変化があるか、その周期はどれぐらいか(通常、ディンギーのレースでは5分から10分の周期を目安に考えておけば良い)、あるとしたらこれからどちらにシフトするかを予測しなければならない。潮があるときは、ライン上を潮によって押し上げられたり、流されたりすることも計算に入れておくのは常識だ。固定されたマークなどのそばで小さな泡を立ててみたりして潮の角度と速さを確認しておこう。

これらを総合的に判断して、右寄りにコースをとるか、左寄りにとるか、どこのブローを利用するか、ロングレグを引くか、振れタックでいくか、最終アプローチをどちらからとるかを決めておかなければならない。
スタート02:ポートで入れそうな位置を確認する

スタート03:後方からの攻撃に対して

スタート04:前方の船に対して攻撃し失敗したとき

スタート05:前方の船に対する攻撃

スタート06:上スタートのレイライン確認

スタート07:上スタート時のレイライン上の船に対して

スタート08:上スタートの下からのポジショニング

スタート09:上からのポジショニング

スタート10:上スタート上からのポジショニング

スタート11:ラインが狭いとき

スタート12:ラインの傾向

スタート13:上スタートのポートからのポジショニング

スタート14:上スタートの上からのポジショニング

スタート15:下スタートのポートからのポジショニング

スタート16:下スタートの上からのポジショニング

スタート17:下ポートスタート

スタート18:下ポートスタートのタイミングが合わないとき



3、第一上マークへのレグ



(1) クローズ・ホールド
リーバウタック

抑えの位置(マーク位置を考慮)

他艇を利用した抑えからの抜け出し


(2)クローズのコースのとり方


相手をまとめて抑える方法


(3)上マーク攻略
スターボーで相手のタックをけん制する

けん制しても相手を充分上に追いやらないと失敗する

マークアプローチ・ジャスト
マークアプローチ・オーバーセール

マークアプローチ・不足

マークアプローチ・幻惑戦法

最終アプローチの考察


1/2抑え戦法

スターボー艇が来るがタックできない

スターボー艇の下を通りたい

スターボー艇の後ろを通るとき相手のタックをけん制

同時タック攻撃を避けるときは

小さな振れが繰り返しやってくる場合は、振れタックが有効であるが、マークへの最終アプローチをどちらのラインからとるかは決めておかなければならない重要なことである。成り行きでタックを繰り返していたら、マークへの最終アプローチが落とされるコースとなってしまうことがあるので要注意である。

風の弱いときは潮のことも計算しておく必要がある。通常、第一マークは風に対して真上にセットされるのが一般的である。しかしそこに潮が風軸と違う方向で流れていたとすると、左右のタックで走る距離が同じでも、時間が違ってくることに気が付く筈である。つまり、時間的に見ると、第一マークの方向がどちらかに偏っているのと同じと考えられる。クローズのコースでは始めに長いレグを走ること(=マークに近づくレグを先に)が鉄則である。これを置き換えて考えてみると、時間的に見て長くかかるレグを先に消化しておくべきか、物理的距離を先に詰めておくべきかだが、これは予想する風の状況によって違う。風が強くなることが考えにくく、振れが短い周期であるか、陸地に近いなどによって、ヘッダーとリフトが繰り返しやってくる場合は、時間的に長いレグを先に消化しておくべきである。つまり、向かい潮のコースを先に引けということだ。逆に、風が強まる予測が立つときは物理的にマークに近づくコースを先にとるべきである。何分か後には潮の影響がなくなっていくと考えられるからである。風の変化にコース設定が間に合わず、その振れが戻ることはあってもこれ以上振れることはない(振れきった状態)と思ったときも同様である。要するに、風が強くなりそうか、否かでコースが分かれるのである。

スタート直後に上位がキープできたようであれば、中間コースを考えてもよいが、風が大きく変わらない限り、第一上マークまではあまり差がつかないものである。できれば他艇の影響を受けにくい左右どちらかに決めて、突っ込んだほうが好結果を生むことが多い。スタートで大きな遅れをとった場合は、意外と中間コースが他艇に邪魔をされずに走れることもあるので、状況判断によることはいうまでもない。

第一マークで、トップから20艇身以内の10番以内であれば、トップが射程圏内と考えられる。といってもヨットで攻撃を仕掛ける戦法は、リーバウタックとブランケットしかない。ヨットレースは、与えられた情況の中で完璧な最高スピードを追求する減点法のスポーツ競技だから、相手のミスを待つ以外に勝つ方法はない。我慢できずに早く仕掛けた者が少しずつ除外されていくのである。仕掛けは、最終レグで、後続艇との差が広がり、差は詰められても順位を大幅に落とさないときに挑むものである。もし、それ以外の順位にいた場合は、一気に逆転を狙うにはクローズホールドのコースで、他の先行集団と別の一本コースによる博打しか打てない。博打は先行艇が良いと思っているコースと逆に行く訳だから当たる確立は低く、順位を下げるだけであることを肝に銘じておこう。

ブローがどこにあるか探しながら走らせよう。それが上るものか、落とされるものか、見極めておかなければならない。強い吹き出しがどこにあるかも探しながら走ろう。特に強い吹き出しを見つけた場合は、上り角度は無視して、そこに近づくことに全力を注ぐことが大切である。

風上から潮があたる場合は、絶対に上りすぎをしてはいけない。また、ヒールさせるとセンターが潮を拾って流されやすいことも注意しておいたほうが良い。少しでも潮に逆らわない角度でスピード重視を心がけるべきである。逆に風下から潮があたる場合は、落としてもスピードがつかない、セールを上れる状態にセット、トリムしなければならない。

第一マークへのアプローチは、これらの事前に描いたイメージを、他艇の状況、影響から柔軟に対処していかなければならない。



4.第一マーク回航

 

第一マークでは、通過する位置がほとんど一箇所に狭められるため、途中においては全然差がつかなかったとしても、参加艇数分の差ができることから、最も重要なアプローチであるといえる。つまり、戦術を駆使して数10センチの差を1艇身以上に広げられるチャンスであり、ピンチでもある。

第一マーク回航前に、後続艇との間隔、その後続艇とさらにその後の後続艇との間隔、第二マークの位置角度、上からくるブロー、ポートアプローチの船を考えておかなければならない。これらの状況を踏まえて、回航後の角度は、サイドマークに真っ直ぐ向けるか、幾分上に出すか、場合によってはやや下に向けるか、などを決めておかなければならない。回航直後の蛇行は非常にもったいないことであり、順位に直結する。後続艇とさらにその後の後続艇との間隔が詰まっていればラフィングは必至と考えてよい。このとき後続艇の様子を観察して、冷静さを失っている様であれば間違いなくラフィングマッチに発展する。こう判断したときは、後続との距離が3艇身であれば、やや下に向けて高さが3艇身開くまで我慢するのが良い。もし3艇身以上の開きがある場合は、真っ直ぐマークに向かってよい。2艇身以内の差であれば思い切って上に出ておこう。これは中途半端にやらず、思い切り相手が始めからラフィングをあきらめるぐらいにやろう。このことは、後続に抜かれないための対抗措置だが、先行する船からは、間違いなく差を広げられる行為であることを肝に銘じておこう。上位をあきらめて、後ろに抜かれないことだけを考える局面であればよいが、その局面とは次のマークがフィニッシュのときだけである。後続の船は3艇身以上はなれていて、自分が後続艇で先行する船に近い場合も、むやみにラフィングを仕掛けないようにしよう。相手にブランケットがかからないように回ることが、艇団として、最短コースのマーキングになるようである。

5、サイドマークへのレグ

01後続艇との差があるとき

02後続艇との差がないとき

03後続艇への注意

04後続艇のブランケット攻撃に対して

05先行艇に対する攻撃

06先行艇に対してオーバーラップする

07マークに近づいてからの後続艇のブランケット攻撃に対して

08マークに近づいてからの先行艇への風上突破

09マークに近づいてからの先行艇への攻撃

10上にブローが見えるときのコース取り


 一番大事なことはスピードを落とさず、ブローにあわせコースをとることである。次に、なるべく一直線上を走ることである。ブローが上から下りてくるときは、他艇よりも早く高い位置に出ると良い。そのブローに入ったら、スピードを失わない範囲でなるべく落として、長くブローを利用するようにしよう。サイドマークへのコースではあまりないことだが、風が右にシフトしている場合にはそのブローが届くことがある。下に向かうブローだけでなく、サイドに走るブローも少しだけ注意しておくと良い。上って良いかどうかの判断をする材料としては、第一マークまでのことを振り返ってみるのも一つである。特に最終アプローチで左が良かったときは、間違いなく上り気味のコースが良い。右が良かった場合は、このことだけで落とすコースが良いとは言い切れない、右に風がシフトし、かつ、強いブローが断続的に来ていると思われるときだけ、落とすコースが良いといえる。何故ならこの場合に限ってのみ、右海面の状況が左海面の上のふちに影響しているからである。

先行する船を上から追い抜くときは、サイドマークに向いた状態でオーバーラップが切れて、はじめて抜いたことになる。サイドマークの内側にオーバーラップされては、負けていることになるのだから。艇速の差を十分に見極めて仕掛けるべきである。ブランケットをかけている状態では、たやすく追いつくことができる。しかし、ブランケットが外れて、相手がスピードを回復して、オーバーラップが切れないことが良くある。これは結果として仕掛け損である。他の全ての競技者が大歓迎してくれる愚かな行為である。

たまに回り終えた第一マークを確認すると、自分のとってきたコースがはっきりする。特に潮があるときは流されている程度が判断できる。

6.サイドマーク回航

 サイドのマーキングは、ブームをマークにぶつけるように近づき、当たる寸前に逆ヒールをかけて返す動作が基本であるが、サイドで上りたい場合、落としたい場合は、マーキングの円弧の頂点をマークから離してよい。他のマーキングと比べてあまり差が出ないところである。

強風のジャィビングはプレーニングでスピードが出ているときに行うほうが安全である。プレーニングの入りたてはもったいないし、プレーニングが終わりかけるときは沈をしやすい。できれば最高スピードで、ジャイブの後もプレーニングが継続していればベストである。コツは、船を揺らさないようにして、スピードを落とさないことだ。タイミングは、プレーニング中でさらに加速感を生じる瞬間である。この一瞬は、セールがほとんど風圧なくフワッと返る。スピードになれないとこの瞬間が見つけにくいので、スピードになれることが重要である。沈をさせない工夫は、視線を前方に向け、バランス感が崩れないようにし、急な舵をきらないように心がけ、セールが開き切る瞬間の当て舵をうまく使い、やや後方に乗るように位置を変えてバウが引っかからないようにすることだ。沈をしてしまっては何にもならない。
01外側から水をもらいに行く

02内側で水をもらう

03ブローが下りてくるとき

04先行艇に対して攻撃

05後続艇同士が接近しているときのマーキング

06自艇も後続艇同士も接近しているときのマーキング


7.下マークへのレグ

サイドマークのアプローチと基本的な差異はない。ブローあるいは断続的ブローを利用することが肝要である。断続的ブローは、多艇より早く迎えにいった方が良い訳だから、このときは上らせたほうが良いことになる。違いがあるとすれば、上からの追い越しはオーバーラップをすればよいので艇差が1艇身少ないものと思えば良い。このように上よりのコースが平均的に良いから、勢い殆どの船が上り気味のコースをとる。風が安定して吹いていて、多艇の影響を受けそうもないときは真っ直ぐ走らせることが最善であることは言うまでもない。

8.下マーク回航

下のマーキングは、戦術的に大変重要である。左にコースをとりたい場合でも、即タックは避けたいものである。何故なら、下へのアプローチでコースを膨らんだ船、あるいはその航跡が邪魔になるからである。つまり、最初の段階でコース選択の余地がないので、高さを失わないように回れないと、先行する船に対してホープレスポジションとなってしまうのである。バックウインドを受けるような状況だと間違いなくそのままブランケットに入り、ますます遅れることになってしまう。素晴らしいテクニックを有していて、風下突破ができるなら良いが。意識しておきたいことの一つは、この高さを失わないようにクローズコースを詰めることだが、もう一つ重要なことは、フリーの慣性スピードを有効に活用しながら、セールを急激に詰めることによる加速を得るということである。このことは十分な練習経験を積まないと鋭敏な感覚は得られない。流れとしては減速されていくので非常に難しいことである。無駄な振動と揺れを抑えながら、頭が傾かないように、目は前方をしっかりと見て水平を意識する。切り上がりはなるべくゆっくりと練習するのが良い。風が弱ければ中腰で膝を緩めながら、強いようであればお尻をデッキより外に出して重心を低くし、体重移動を滑らかにすることを心がける。ただ回るだけで満足していたら素人さんと大して変わらない。レーサーを志すのであれば、練習に高い緊張が必要なのは言うまでもない。スピードの変化する場面は、スピード感覚を敏感にさせるうえで、非常に重要である。


01後続艇のブランケット攻撃に対して

02先行艇への攻撃

03後続艇のオーバーラップを切る

04後続艇の攻撃に対してマークの外側を通る

05マークの内側で水をもらう

9.第二上マークへのレグ

下回航直後のタックは避けたほうが良い。サイドからのアプローチでルームをもらうためのラフィングマッチがよく行われ、その艇を避けなければならないことが多いからである。戦術として相手を狙ってスターボーのクローズで邪魔しにいくのであれば、早めに声をかけて相手が大きくコース・ロスするように仕掛けなければならない。接触させてケースを起こすことは、自分も遅れることになるのであまりお勧めではない。ただチームレースの場合はルールを最大限に利用した戦術は十分考えられる。まあ、余分なケースには関わりたくないし、巻き込まれたくないのが普通である。そうでなくても海面が荒れていることが多い。左一本しかないという場合はまだしも、始めは左のコースをとりたいという程度であれば、下から10艇身以上は離れてからタックした方が良い。下回航後に、一回目の上り角度と、今の上り角度とにどんな変化があったか確認しなければならない。その上で、風向きが変わっているようであれば、さらにもっと変わるものか、振れ戻るものかを、あらかじめ観察しておいた風の振幅と総合的に判断しなければならない。そして、上のマーク位置を確認しておかなければならない。風が右に変わっているような場合は、マークの位置は、実際の風軸より左にある筈であるし、大きく変わっている場合はオーバーセーリングの可能性もある。左に変わっているようであればその逆ということである。このことがわかればマークを見つけやすい。コースの原則はまずマークに近づくコースを取れということである。風が右にシフトした場合は、マークの位置は風軸より左にある訳だから、帆走範囲は長方形に歪んでいる、その長いレグを先にとれということである。潮の場合のコースはスタートのところで述べたとおりで、コースが時間的に歪んでいると考えて対処することも考慮しておく。コースのとり方は、風がどちらかにシフトしていく場合は、そちらに一本突っ込むべきである。一本コースは大変なリスクを背負った選択だから、自分の位置が上位1/10であれば、自分ですすんでとるコースではない。少なくとも後続艇団の進行ラインより風上に位置するように心がけよう。そして下し気味にスピード重視のハンドリングとする。風が向かう方向に変わることを予想しているのだから当然であろう。リフトが入ってきても距離に変えるつもりでよいだろう。どちらにしてもロングレグでいまさら元には戻れないので自信を持って安定したセーリングを心がけることである。他艇の上り角度はあまり気にしなくても良い。そして、タックの位置は、早めに返して足らない程度で良い。タック後のレグは、まだ上るように振れるか、リフトが来る場合は、マークより上に上って走っても良い。ただ、風を掴んで十分に余裕を持って上マークを交わせると思ったら下とし始めなければならない。多くの場合は、始めのうちは足らなく感じ、徐々に風のシフトによって上マークが交わせるように見えてくる。つまり、タックを返した初めのうちは上り気味に走らせても良いことになる。振れきってしまったと思うか、コースミスかと思った場合は、下してスピードを心がける。リフトが来ても下していく、上マークを意識して上らないようにしたい。この位置にいては、もうこれ以上得をすることはなく、下手をすると負ける一方である、早く、コース軸に近づくよう心がけることが大切である。

風のシフトが5分程度で繰り返されている状況であれば、上っているコースを先にとる。5分程度の周期風と考えられる場合は、徐々に風の変化が現れ、乗り手は気づきにくいものなので、コンパスが有効であるが、徐々に上っていても、落ちていても、走り方を変える必要はない。大切なことは上れているレグを確実に走ることである。

風の息が大きくあり、風向がどちらに変わるとも予測ができない場合は、1分程度の振れタックを繰り返して上っていく、この場合マークまでの最終100〜150メートルのアプローチは、その3分前ぐらいに決断する必要がある。ショートレグの繰り返しで注意しておかなければならないことは、第一マークからの風軸をはずさないことである。振れタックを繰り返していたら、最後は気に食わないコースを長く走らなければならない破目になってしまったとか、最後のタックをしようとしたら上りだしてしまって、仕方なくタックしたら案の定下され、最後で落ちるレグを走らせられた、等ということは良く聞くことである。原則的に落ちたらタックを繰り返し、上り気味に走って良いのだが、艇速のないときのタックは避けるべきである。タックのスピードロスに回復の時間が2倍以上かかってしまうことが良くある。こんな場合は思い切って次のブローまでタックを見送ったほうが良い。もう一つの注意は、上り角度が良いからといって、勝っていると錯覚しないことである。上にいて自分だけ上に向ければ勝っているように見えるし、下で先行して自分だけ下してみればこれも勝っているように見えるから不思議である。止まっていても、である。

10.第二上マーク回航

      

二回目の上マークの回航はランニングコースになるので、330度程度の大きな回転となる。素早く次のコースに入れるように考えなければならない。特に風が強いときにヒールをさせたままだと下に落ちてくれない。セールを早めに出して、アンヒールを意識的にかけて、瞬時に元に戻る練習を積んでおきたい。強風でひるんでいるか、疲労がたまって気持ちだけが先行して、体が動かないことがある。精神的にも体力的にもタフでなければならない。また、ポートアプローチの船が邪魔にならないか、後続艇、先行艇との距離などいろいろ頭に入れておく必要がある。そして、クローズほどでないにしても、次の風の変化によってコースを選択しなければならない。即ジャイブの場合はより素早い動きが求められるのは言うまでもない。


11.ランニングコース


01先行艇に対する攻撃

02後続艇の攻撃に対して

03ブランケット攻撃

04ブランケット攻撃に対して

05風上突破に対して

06ブランケット攻撃に対して後続艇を利用する

07ブランケット攻撃に対して権利艇を利用する

08ブランケット攻撃に対して風下の権利艇を利用する

09ランニングのコースの取り方


 ランニングコースでは、後方の風を観察することがもっとも大切なことである。ランニングは、デッドランに近づけば近づくほど艇速が落ちるので、風の振れる方向にコースをとるのが良い。ブローが近づいてくるときはそのブローに近づくコースをとり、そのブローに入ったらその風道に沿って落としていくのが良い。ブローはクローズコースで利用した時間の倍以上利用できると思ってよい。風に乗れば乗るほど長く利用できる理屈である。風の振れが繰り返す場合はマークに近づくレグをとりながら、ジャイブを繰り返すコースが良い。なるべく直線上を離れず、風にあわせてタックを入れ替える方法である。

プレーニング速度があまり速くない艇種は、失っていく高さが、サーフィングによってほぼコースを直線状に走るのとの差があまり出てこない。もちろん高速のプレーニング艇は、状況によってどの程度の角度によるスピードが最善で、他艇、風の変化を組み合わせてコースを考えなければならないので、高度な技術と豊富な経験が求められている。どの角度のコースがマークに一番近づけているかという目安は、追い越されていく波の山がやってくる周期で感じとると良い。波を追い越していけるプレーニング・スピードがある場合は、追い越す波に当たる周期が早ければそれだけ良いコースということになる。そして波の速度を上回れない状況で、うねりがなく、風による波がマーク方向に向いてある場合は、以下のように心がければよい。まず、大体のコース角度をつかむ。次に、サーフィングを時間的に長くするようにハンドリングする。方法は、やってくる波のなるべく高く盛り上がってくるポイントを見つけ、そこにスターンを合わせる感じが良い。

最終下のマーキング順位は重要である。最後のレグをとれる方向が決定付けられるからである。対象相手もかなり絞られてきているようであれば、多少のロスはあったにせよ、内側で順位にこだわっても良い。ただし、ラフィングマッチはコース途中では避けるべきである。最終マークのせいぜい10艇身以内でのみ許されることである。先行艇団に仕掛けたいときはコース途中であっても面白い。自分はコースを大きくはずさないように早めに切り上げるタイミングを探しながら行うことが肝要である。まず、少し上に出る気配を示すと、その先行する船が次々にラフィングマッチに入り、艇団全体が遅れだすことがある。まんまと仕掛けが成功である。この場合は、このマークでの順位よりも、次の上りコースで勝負ができる局面が作れただけで大成功である。自分までそれに巻き込まれる愚を犯さないことである。艇団の切れ目がなく続いているところまでは射程圏内なので仕掛けてみると良い。ただ、レベルの高いレース、上位集団はこの仕掛けは通用しないと思って良い。墓穴を掘ることになるから要注意である。下し始める者がいたりしたら、そこから艇団が切れることも十分あるから他艇の観察も十分しなければならない。簡単に漁夫の利が得られるものではない。さて、後続が3艇身以内で続いていたらいずれ間違いなくラフィングを仕掛けてくることだろう。この場合、そのさらに後続が近いようであれば、後ろの仕掛けに応じて相手がラフィングする瞬間を見て下し、このマッチから離れよう。後続艇のさらに後続艇が離れている場合は1対1のラフィングマッチであるから、先ず、ブランケットを避けて下していくのがベターである。下しきれないで抜かれると思ったときは、後方約1艇身の水があるぐらいの間合いをみて、一気にラフィングして相手艇を自分の下側にオーバーラップさせよう。後続艇と2艇身以上の開きがあるうちは、下してブランケットを抜けるようにコースをとろう。ラフィングマッチをコース途中でやるときは、ダラダラとしないで一気に行うこと。1対1でなければやらないこと。そして何よりも大事なことは相手艇より、風の変化、波の状態を見てコースをとることである。マーク近くで気をつけておきたいことは、オーバーラップしたかどうかの判断は、マークに向けた状態でどうかを頭に入れておくことである。

12、最終上マークへのアプローチ

このレグになると各艇の間隔がかなり広がってくることになり、順位の変動幅も狭くなってくる。後続の船が勝つためには、上位艇と違うコースを選ばなければならないのでチャンスはますます減少する。先行する上位艇が良いと思って選択したコースの逆を走るからである。後続にいる場合は一攫千金を狙うことは禁物である。なぜなら、上位で順位を上げることより、下位で順位を上げることのほうが容易と考えられるからである。レースはシリーズで何レースかの集計でランキングされるのであるから、上位にいるときより下位での失点を最小限に抑える努力が肝心なのである。ここで集中力が発揮できない、精神的動揺から立ち直れないなどの状態であると上位進出は不可能である。下位にいる場合は、普通に黙っていても、他艇が自滅してくれることが良くある。トップ艇との距離が詰まらないのに順位が上がっていくことがあるが、中間にいる船が賭けに出て順位を下げてくれるのである。精神的に冷静に局面を見ることからはじめよう。アプローチは二上と原則的に変わりはない。後続を抑える戦法として、どの位置をとるかも考えておきたい。原則的には1/2戦法といって、高さと距離の両方で先行するのがベストである。これに風の変化の予想を加えて、右に振れそうなときポートのレグを走っているのであれば(下されるコース)、距離を高さより十分とることがより有効と考えられる。逆に上っていくレグを走っている場合は、距離より高さをとるような位置に置きたい。特に風の変化の激しいときは、マークとの中間点に位置する抑え方が安全である。これを状況によって使い分けるのである。追い上げる側としては、有利と考えられる側に向いているときは、できるだけ距離を先行させたい。風が振れているときは自分がそのタイミングにあわせタックし、相手のカバーのタイミングを風とずらせるようにして近づくことである。間際まで近づいたときは、擬似タック、ダブルタックでカバーから抜けることを考えたい。抜けたときは自分が良いコースに向いていることが鍵であるから気をつけたい。ダブルタックは艇速のリカバリーに時間がかかるから余程の場面(フィニッシュ間近で11)でない限り避けたい。タックのタイミングを早めて相手をダブルタック状態に落とし込めたら逆転も期待できる。フィニッシュに近づいたら、ラインのどちら側が近いか見ておく必要がある。インナーが近い場合はポートフィニッシュが有利であるので、ライン近くでミートしそうなスターボー艇を把握しておかなければならない。ミートしそうな場合は、フィニッシュラインからの距離と総合的に判断して、リーバウタックか、スターンをなめて交わすか決めておかなければならない。後ろを抜けると一時的に負けたように思えるが、インナー有利の場合はまず勝てると思ってよい。ラインが極端でない場合は判断に迷うところであろう。アウター有利の場合は、スターボーでフィニッシュが有利なので、自分がポートで相手がスターボーでジャストミートの場合はリーバウタックである。やや先行する場合はできるだけ近づいて相手の進行ラインに入らないでタック。十分に先行している場合は相手のライン上に入ってタック。上に出ようとすることは反って危険である。ただし相手のスターボー艇がマークを交わせないと判断したときは、後ろを通ってマークぎりぎりの見通しラインでスターボーへタックである。たまに反対のポイントにフィニッシュする方を見かけるが、こんな方はレースに出ないほうが良いのではとさえ思うことがある。集中力が途切れてしまったのでしょうが。

三角オリンピックコースを前提として話を進めてきたが、トラベゾイドコースの場合少し考え足しておくことがある。上りが2回しかないので最初のクローズコースが大切である。つまり、スタートが非常に重要であるということだ。それと、サイドが比較的タイトにセットされることがよくあるのでアビーム帆走を練習しておかなければならない。通常のコース設定だとサイドアプローチは上らせると早いがコースから外れるものである。ところがサイドアプローチがタイトであると上らせるよりおとしたほうが早いのである。マーク近くで上らせなくてはならない状況になってしまうミスを犯すことがよくあるから気をつけたい。また、サイドのマーキングが必ずしもジャィビングを要しないので、ランニングに向けての観察が重要である。下サイドマークでは内側をとりたいが、角度によってはタイトになっていて、おとしたほうが早いことがあるので注意しておこう。フィニッシュは流れ込みでどちら側が近いか早めに判断したい。


その4―走らせ方

1.クローズホールド

上らせて走る走り方と、おとして走る走り方の2つを練習しておきたい。波に当たるコースとそうでないコース、潮に逆らうコースと乗るコース、ヘッダーを捕まえに落としていくコース、リフト上にあって上っていて良いコースなど、基本的にポートタックとスターボータックは走らせ方が違うことがよくある。マークに早く到達するためには速いだけでは勝てないのである。コースと風の状況に応じて位置どることが重要なことである。

波の中では山に向けて上らせ、谷に向けて落とすことを繰り返さなければならないので、オーバーヒールは絶対に禁物である。山に向かうときは、前方に位置する足の裏側に加重しておき、バウの下あたりを通過する瞬間に、上体をハイクアウトしたまま後方に加重し、重心を後ろ足の太ももの外側に移動する。舵は風圧をマスト側で受け止めるようにリーヘルムを効かせやや下に向くように操作する。セールは多少開いた方がコントロールしやすいが、くれぐれもヒールは絶対禁物である。周期の短い波はコントロールが難しいので、波に当たらないようにバウを下に振って避けるのも有効である。上に向いて艇速が鈍ると元のスピードに戻すために下に向けなければならないし、艇速の落ちてる時間が長くなるので、下に向いても艇速を落とさないことの方が有効である。上を向くと自艇から他艇を見たとき、勝って見えるが錯覚である。また、三角波等の乱れた波の中を走らせるときは、進行方向より下側にある波の谷間をめがけて走らせるのが良い。前後の揺れ(ピッチング状態)を押さえて、海面に対してフラットな状態を維持して進行できることになり、スピードロスが少ない。

 
 
2.ランニング

シングルハンダーでは、バイザリーで走らせるのが速い。アンヒールをかけながら、風をセールにほぼ垂直に当てるが、リーチから風がラフに流れている状態を維持する。角度としては真ランより10度ぐらい下に向けて走る方法である。バングを緩めてリーチをルーズにし、アウトホールを緩めて、よりセールドラフトを深く中央にセットする。リーチから入れる風はリーチの一部がめくれる寸前でコントロールする。スピンネーカーのイメージと考えればよい。セールは半分以上開いて、風圧の力点中心を艇体抵抗より前方に位置づけることである。強風になるとローリングが激しくなるので、多少センターを降ろし、その分後方に乗り、艇体抵抗を下げてバランスをとるようにする。セールを引き込めばバランスがとりやすくなるがスピードは出なくなる。セールが出せてバランスがとれるよう十分練習しておきたい。特に、強風でバングを緩めるとかなり不安定になるのでバングの掛け具合も微妙になってくる。

強風で安定させて走らせるのにはハルの後方がフラットに海面に置かれるように体重移動し、ハルの前方が刺たり、センターが支えてラフするような状態をつくらない様にしたい。センターが引っかかるのは船のローリングによることが多い。前方が刺さる状態、ドッキングは、急激な風の変化をスピードに変えられないときに起こる。ブローをプレーニングに変えるのと、ドッキングに結びついてしまうのでは天国と地獄である。この分かれ目は後方荷重が瞬間的にできるか否かである。当然、バランスを崩すと上に切り上り沈となるか、そのまま逆ヒール沈となる。ラダーが半分以上浮いてしまっていてコントロール不能な状態となるのは35度ぐらいのヒールの崩れであるので、この前に対処したい。オーバーヒール沈は少しでも早やく起こす訓練をしておきたい。沈してから5秒以内に走り出せればダメージは最少と考えて良い。逆ヒール沈の場合は艇体から落とされてしまい、泳いでセンターに這い上がらなければならないので時間がかかってしまう。

3.サーフィング

プレーニングが余り期待できない状況ではサーフィングを利用すると良い。サーフィングは、波の高さを利用して波を滑りおりる技術である。波によって高い位置に押し上げられた瞬間に加速して艇体抵抗を少し減らすことができると斜面をサーフィングしながら滑ることができる。斜面は水なので船を揺らすと抵抗が増えて失速してしまう。加速の瞬間乗員の重量を前方に素早くかけてサーフィングの助けとしたり、パンピングを利用したりするのもルールの範囲で有効である。

ランニングで本当のプレーニング状態に持っていけるコンデション場面はほとんどないといってもよい艇種もある。そのポイントに艇をもって行き、トランサムに波の山が当たる瞬間に、波の斜面の最大傾斜線に向けるように舵を操作する。このとき艇のスピードが不足していればやや上らせて(ゆっくりと30度程度まで、これ以上振ると上るときも下すときも舵の抵抗がスピード低下を招く)スピードをつけておくとさらに良い。次の瞬間、バウが浮き上がるように感じる瞬間である、このとき乗員の体重を前方に振り出すようにかける。これでサーフィングが始まり、艇体抵抗が一気に軽く感じられる(ラダーがスカスカになったような感じ)。このとき大事なことは船のヒールを海面に対して一定に保ち、揺れと振動を与えないよう細心の注意を払うことである。さらにできれば、セールを引き込み、進行風と真の風の合成風(いわゆる見かけの風)にトリムする(実際には真追っ手といっても、風を流している筈だから、急な進行風によって、アビームになったのかと思うぐらいである)。乗員は滑走状態を維持するために後方に戻り、ハルの後方のフラットな部分が波の斜面に乗っている感じをつかもう。やがて、波の斜面の中腹より下るか、周期が短い波であると、先行する波の山に当たりそうになるときがある。エネルギーが十分あってサーフィングに移れるときは、バウを浮かせて波を直角に追い越すようにしよう。波を追い越せる状況でないときは、バウを軽く上に振って直角に当てないようにしよう。波の中腹から頂点に戻される気配を感じ取ったら、サーフィングが終了しかけている訳である。もう一度乗員がバウを下げて斜面を落とし込むように加重してみよう。これで乗り直せたら回復できたことになる。十分な風が吹いていて、早めに気がつけばこの方法は成功する。しかし、いずれは置いていかれる失敗を迎えることもある。あるいはサーフィングに移れず、風が足らないときは二度目の落とし込みはまず成功しない。このときは素直に波をあきらめて風のエネルギーを利用することに切り替えよう。少しでも艇速を維持するために軽く上に向ける(見掛けの風が真追っ手に近づくので舟の角度を合わせるのである)。これらがうまくできれば、他艇よりも長くその波に乗っていられることになり、波が去ったときに高さ的にマークに近いところに来ている筈である。しかし、できればといった意味はちゃんとある。ただでさえサーフィングは不安定な状態なので、セールの引き込みと体重移動によるバランスがとれず、ヒールが崩れて艇体抵抗が増し、補正の舵を使いブレーキをかけてしまうことがよくあるからである。そんなときは、セールがシバーしても船を揺らさないことに専念するべきである。完成されていない動作を行うことは、そちらに意識が分散し、本来一番注意していなければならないスピードの変化、艇体抵抗の変化を感じ取れないからである。練習は問題意識を明確に持って、考えなくてもできるまで繰り返し反復し、体の鋭敏なセンサーが変化を感じ取り、思考回路を通さず、条件反射としてできるまで行い、自分のものにすることである。練習したけど勝てない、何かのせいで負けたなどと言い訳を言いたくなったらこのことを思い起こして欲しい。

4.プレーニング

ヨットの場合は、艇体がクローズのことを考慮しているのでバウ部分が尖って浮力が少なく、プレーニングを継続させるには安定性に欠ける形状であるのは止むを得ない。そこでプレーニングを持続させるには、プレーニングに安定した形状のハル後部を利用するようにしなければならない。といって、ずっと後方にいれば良いというものではない。プレーニングが持続しないような条件下ではプレーニングに入るときと、プレーニングが終わりそうなときは水線長方向の推進抵抗を減少させるようにトランサムの切れ目に前後バランス水線がくるようにバランスしなければならない。 


その5−練習方法

(1)スタート練習

基本は一線スタートだが、上一点スタート、下一点スタート、ポートスタートなどの偏りをつけた練習もしておいたほうが良い。他に、わざと全員が出れないようにラインを狭めたショートラインスタートによる練習は、スタートでの混雑、シバーリングスタートなどの練習に良い。時間のタイミング、最高スピードなど基本のためには個人別スタートも良い。例外的ではあるが、フリースタート、ランニングスタートなども練習してみると面白い。リコールの際の復帰練習は、最も早く復帰できるところを一早く探す必要があるので、その意識練習を積んでおいたほうが良い。往々にして、精神的ショックのほうが大きくて立ち直れないことが多いが、戻るスピードも順位(特にシリーズのレースでの大きな失点)に大きく影響することを忘れないように。


(2)停止、横流れ練習

スタートを想定しての練習なので、すぐに走り出せることが重要だ。号令をかけてもらいながら集団でやると差がはっきりする。止まった位置を長い時間キープするのも練習しておきたい。横流れは微妙なポジションにいるとき非常に有効な手段である。二人乗りの船では瞬間的に、逆ジブ、センター上げ、ブームの持込をタイミングよくできればかなり優位に立てる。元に戻すのもタイミングが重要であることは言うまでもない。一人乗りの船では、割と簡単なので流れの程度を練習によってコントロールすることも可能だ。練習メニューに加えておきたい項目である。


(3)帆走練習

一斉にアビームで走り出し、距離が等間隔になったところでクローズにし、後は号令によって一斉にタックを繰り返して各レグの走り比べをする方法である。風が振れたりして差が出たら集まって再スタートさせる。あまり広がると場所による風が違って参考にならない。また、断続的なブローが入るときはあまり比較が出来ない。あまり多数でやるよりは、2艇間で行うほうが効果的である。チューニングあわせはこの方法が良い。一斉タックではなく、最も遅れた船の後ろを通って位置あわせする方法もある。ランニングは逆にすれば良いが、ブランケットしないのは当たり前である。フリーコースの走り比べは目標物を明確にしないと角度がばらばらになってしまうから注意が必要。


(4)競り合い

クローズで、上艇を上り殺す練習、下艇にブランケットをかける練習、相互に意識的に行う。ランニングで積極的にブランケット攻撃を仕掛けていく。防御としては、一気にセンターをおろしてラフイングなどしておくと良い。


(5)タック練習

タック・ジャイブ練習を単独で行うのと、集団で号令に合わせて行う方法がある。単独での練習はスピードが意識出来て良いし、集団での練習は、巧拙がわかりやすい。また、単独練習には、上からマークを10M間隔で10個ほど打ってそれをスラロームする練習があり、非常に有効である。

これは一種の動作練習かもしれないが、意味は非常に深いものがある。擬似タック、ダブルタック、リーバウタックなどレース上の競り合った場面で、タックの巧拙が順位を左右するのは間違いなく、動作として非常に重要である。また、軽風時のロールタック、強風のタックそれぞれ毎日確認しておきたい動作である。しかし、レースでタックする回数はどれほどあるのだろうかと考えると疑問を持つ人が多いのではないだろうか。だが他にもう一つ、この練習をしっかりやっておく必要性がある。タックは上り過ぎにより艇速が鈍った状態とそのリカバリーである。スピードの変化を意識できる局面である。鈍った艇速をどのようにして元に戻し、最高スピードに戻ったかどうか神経を鋭敏にしなければならないのである。動作、ヒールバランス、セールトリム以上に、この神経を研ぎ澄ますことに最大の意味がある。レースでクローズコースを走っている場面で常に意識していなければならないのはスピードの変化である。このことが凝縮された練習と考えられる。


(6)ジャィビング練習

軽風時のロールジャイブ、強風時のプレーニングジャイブ、ランニングジャイブとサイドマークジャイブも使い分けて練習しておきたい。特に重要なのはプレーニングジャイブで、最高スピードのときに波の位置を見極めバランスをとりながらセールを返すタイミングを見つけるのは多くの経験が必要で、非常に高度な技術といえる。タックを変えることだけと考えれば、バランスだけ気をつければよいのでそれほどのこともないが、プレーニングを続けるように考えると簡単にはマスターできるものではない。波の山から滑り降り始めた瞬間に、真ランを少し超える程度に舵を切り(軽風時のようなアンヒールは艇速を落として危険である)、加速感のあるときにセールを返して、ブームが反対側で開ききる瞬間に当て舵を入れて上に向かないようにしよう。バランスは、開き切る瞬間に新たな風上に座るように一度腰を落とすが、すぐに腰を浮かせて前方加重(プレーニング中とはいえ、動作によりスピードが落ちているので波の斜面を利用して再加速するため。)を意識しながらバランスをとる。波のピークが背中全体に感じるような位置取りで前足に加重できれば良い。


(7)プレーニング練習

コースを考えず、プレーニング・スピードのみを追及する。波の頂点をキープしていくためのティラー操作、波の山にバウを深く当てないための体重移動、加速時のセールトリミングが重要だ。ボートのスピード感、ヒールバランス、目が開けていられない状態があってもスピードを失わないように練習しておきたい。プレーニング中に波をかぶって止めてしまったりすることもないようにオーバーヒールさせないように波をよけることも大切である。


(8)編隊帆走

4艇程度で高さと距離を等間隔でお互いにスピードをコントロールしながら編隊を組んで帆走するのであるが、意外とこれが難しい。ヨットレースでスピードを落とすことの必要性がレースであるとすれば、下マーク回航で外側になって水を与えなければならないときだけであろう。このときだけは内側艇を先に行かして自分は後ろにつきたいのでブレーキをかけるか、蛇行させて待つのである。編隊練習で身につくことは、船を思いのままにコントロールすることに対する自信である。このことは、他艇と接近したとき精神的に優位にたてる。


(9)マーキング練習

上マーキングはトラベゾイドコース、正三角形コース、直角三角形コース、ソーセージコースを。サイドは直角と60度。下マークは60度とクローズ、サイドアプローチ(60度と45度)とランニングアプローチ。このように分割してやる方法と、ショートコースで総合的に行う方法がある。どちらも各技術レベルに応じて必要な練習である。マーク回航は競り合った場面が多いので、ロスのない確実な動作が必要である。単独回航では基本に忠実に、複数の艇で競っている場面ではケースに応じた応用が必要である。

  

(10)360度、720度回転練習

あまりこの練習をしていない人が多い。しかし、レースでその場面がいつ起きるとも限らない。動作練習の極限状態といってもいいので、二人乗りの船でコンビの経験が浅い場合などは必須項目である。体を慣らしたりする意味もあるので、単独でもできるので海に出て最初にやっておく練習として良い練習である。これを毎日必ずやって置くだけで操船上の自信がつくはずである


(11)コース練習

 
多くの時間がこの練習にあてられると思うが、目標をしっかり持って参加することが大切である。コースの設定もいろいろな方法が考えられる。ショートコースは少数艇でやるには都合が良い。マーキング練習としてのショートコースは100M程度で良いだろう。スタートにポイントをおくならコースの長さを300M以上はとっておきたい。コースの長さで分ければ、ショートコース、ロングコースということになる。20艇以上が参加するのならショートというわけにはいかないから、当然長いコースが必要だ。レースに最も近い形を考えるなら大艇団の合同練習が理想的である。コースの形状で言うならば、直角三角形コース、正三角形コース、トラベゾイドコースということだが、トラベゾイドは複数のクラスを同じ海面で行うための方策で仕方がないが、あまりいいコースとは言えない。レースの参加は個人が普通だが、チームレースの場合はそれなりの戦術が必要である。特に、2チーム対抗で行う場合は、マッチレースに近い状況となろう。マッチレースはルールを最大限に駆使した戦術が有効なので試してみると良い。



その6−ヨットのための陸でできるトレーニング

1、精神力のトレーニング


(1)考える=やる気の育成

まず、精神力といわれる、どのようにトレーニングしたらよいか分からないものについて述べておこう。君は、スポーツを人生の中でどのように位置づけるか、考えていますか。
自分自身が社会にどのように貢献でき、人類の幸福に寄与できるか、ということが人生の課題であるならば、そのために自身がどのような人間になれるのか、考えていますか。
人間が精神的に肉体的に成長していく中で、スポーツというものがどのように役立っていくのか、また、人生の中で、学問は、仕事は、趣味は、それぞれどのように位置づけられているのか、考えていますか。あなたは今、何を目指していますか。過去に得たスポーツの栄光があったとしたら、それで満足していませんか。
その中でレースにおける勝利を目指したヨットライフはどういう意味を持っているのか、考えていますか。
ヨットが、君にとって、かけがえのない自分自身の精神的な財産の一つであると認識できていますか。
ヨットレースにおける勝利を一生涯にわたって、追い続けるためには、先ず精神的にタフになることが重要である。自分自身の哲学を持ち、考えながら精神的に成長すること、このことも陸でできるトレーニングの一つである。このことがレースへ向けてのトレーニングを継続させる大きな力になっていくことに気がつかれた方も多いだろう。また、レースの様々な局面で積極的な姿勢を持ち続けることのできる、強靭な精神力となりそうなこともお分かりいただけるだろう。つまり、いわゆる「やる気」という精神的な力のトレーニングは、このように考えるところから育まれる。


(2)知識の吸収+経験=判断力

 セーリング理論、ルール、戦術、海上気象などを勉強し、総合的に関連づけて整理した情報として蓄積しておくことは、判断力という精神的な力の基盤となる。さらに、海上練習の経験の蓄積と重ね合わせていくことによって、より有効な力=判断力となって育っていく。よく「頭でっかち」などと批評する向きもあるが、ヨットというスポーツは科学的な側面を多く持っていることも認識しておこう。ヨット競技は風の変化という予測のつけにくい要素を持ち、運によって左右されることが多いといわれる。しかし、レースの局面で迫られる判断を、多くの情報に基づいてできるのと、博打的に運に任せて、するのとでは、大きな差がある。ヨットは、失点を平均化して順位付けする減点法のスポーツである。また、この情報力は、物事に悩まないで済む安定した精神を維持できることとなり、持っているセーリング技術を最大限に発揮することにも役立つ。全力を尽くす、ということは、ただ単に満足感を満たすことだけではなく、持っている力を充分に発揮することでもある。また、即座の判断が戦略的に重要な局面では、躊躇することのない即座の判断となって戦術実行の優位性となっても発揮される。


(3)計画実行=集中力

「継続は力なり」、とよく言われるが、継続性は計画性に依存するところが大きい。もちろん、興味をつなぐこと、感動を得ることなど、トレーニングを継続することの工夫が必要であることは云うまでもない。では、短期間のトレーニングを考えてみよう。目標とするものは何か、その期間はいつまでか、その目標に向けて、陸でやるべきことは何か。これらを明確に持てたら、先ず、基礎的な体力トレーニングなどをどのように計画していくか、ということになろう。
仮に、秋に目標とするレースがあったとすると、そのために何月頃にどういうトレーニングを行うか計画して実行していかなければならない。最近は、年間を通して海上トレーニングをすることが可能となってきているが、1年の中で、基礎体力養成、知識吸収、技術訓練をどの時期に主眼とするか、練習比率に変化を持たせたほうが効果的である。冬のいわゆるOFFシーズンに体力の充実をはかり、春の基礎練習、夏の総合練習、秋のレースと大雑把に区分してみればよいだろう。それぞれの時期のトレーニングが充分にできなければ、レースに参加することに充実感も感じないだろうから、結果もついてこないのは当然だ。学生のレースの場合は、春と秋にインカレがあるが、多くの大学にとって、春のインカレはあくまでも、慣らし時期のレースに他ならない。いわゆる集中力はこのような計画の積み重ねによって育まれる。また、レースの結果によって、得られる充実感が新たなサイクル起動の動機づけとなっていく。
集中力として欠かせないことがある。勝とうとする戦闘意欲とそれを裏付ける自信だ。「勝利の女神は最も勝ちたい者に微笑む」。強い勝利への執念なしには勝利を呼び寄せることはできない。そして絶対に負けない自信を練習の中から築きあげることである。自分は多くのレースに出てきたが、勝ったレースを振り返ると、絶対に勝つという執念と自信があったと思う。レース前の相手の様子を見て自分の勝利を確信するようなものが出来上がっていたように思う。相手をのんでかかるような集中力がたゆみない練習の積み重ねの中から醸成されるのであろう。


2、感覚のトレーニング


(1)スピード感

 精神力と体力の中間的な存在として、感覚、神経、センサーのトレーニングの必要性を指摘しておきたい。今まで、海上で技術と一緒に感覚的なトレーニングをあまり意識しないで積んできた人が多いと思われるが、感覚のトレーニングは非常に重要である。できれば、少年期にこのことを主眼において訓練すると大いに効果を発揮するものと思っている。スピード、バランスなどの感覚訓練は、音楽、言語などと同様にその発達期が効果的なのであろう。海上では長く乗ることに尽きると思うが、意識的に乗るとその効果はより大きい。ヒールが変化したとか、スピードが変化したとか、ヘルムが変化したとかの感覚である。このことを人より早く感じ取ることができる者が、次の手を早く打つことができる。スピードが鈍ったから、セールを少しだそう、という感じである。レース練習ばかりやっていて、一人で走るとうまく走れない。他人ののぼりスピードが視野に入らないと走れない。こんなタイプの人は、このトレーニングができていない。当然、トップで走っていても自滅していくタイプである。精神的要素もあるが、少なからず思い当たる経験を多くの方が持っているはずである。このことを意識して練習するとしたら、基礎、総合、レースの各時期において少し時間を割くことで足りよう。では、このトレーニングを陸でどうすればよいのだろうか。スピードの変化は、目と耳と皮膚で感じ取ることができる。スピード感は、この風の圧力を受けたらこれぐらいのスピードという記憶に基づく経験で感じとることができるものと、それぞれの感覚器で感じ取る直前のイメージとの変化にわけることができる。前者は、知識の部分もあるが、多くは経験の積み重ねである。ただし、後者は、陸でも磨くことができる。風の音に耳をそばだてると、変化を感じ取ることができる。首筋に意識を集中すると風の変化を感じとることができる。目線を固定する、あるいは自分の体の動きと一緒のスピードで視点を流していく、変化を感じとることができよう。自転車で筋力トレーニングをするとき、こんな意識を持ってトレーニングしたら、練習も充実しよう。通勤電車でも目をあけてスピード感覚を意識することもできる。目を閉じて音だけによってスピード感を意識することもできる。感覚を研ぎ澄ますということは、センサーと脳との連動を意識することで磨かれよう。訓練すれば、数百メートル離れた船と自分の船との微妙なスピードの差が分かるようになる。

(2)バランス感

 バランス感を養ううえで大切なことはフォームを安定させて頭を垂直に保持することである。ゆれる、動く、変化する状況の中で、頭を立てて、目線を遠くに置く工夫をすることによって感覚が鋭敏になる。筋と間接の柔軟性と連動するが、柔軟性を増すようなトレーニングは、バランス感を磨く訓練にもなる。目線、頭の置き方以外にも、重心、腰の位置、体幹、膝の緩みなどもバランスを保持するうえで考えに入れておく要素である。接地点と重心を結ぶ線から、腰の位置がずれると、いわゆるへっぴり腰になり、バランスの崩れを修正しにくい体勢となる。このことを意識さえすれば、ほとんどのスポーツでトレーニングが可能なのではないだろうか。バレエ、スケートのスピンを見ると目のおき方が共通していることがよく分かる。ヨットのトレーニングとして代表的なものの一つとして腹筋運動があるが、腹筋をやるとき、頭を常に垂直に保ち、目線を遠くに置くことによってバランスも意識したトレーニングとなろう。訓練すると1度のヒールの違いが波の中の揺れた海面で分かるようになる。バランス感の良い選手は、オーバーヒールを人より早く感じることができるから、リカバリーへの対応も早くなる。沈しそうになったときでも、早くバランスの崩れを感じとることができるので、少ない体力で俊敏に動くことができる。バランス感の良い選手は沈することも少ない。

(3)集中力

 ここで云う集中力は、射撃競技、弓、ボウリングなどの短期的な感覚的な集中力だが、ヨットのスタートへの集中が同じ要素であると思われる。もちろんどちらも、そこに至るまでの入念な準備があってこそ発揮できるものであるが、静止しているようで静止していない一連の動作の中に、安定があるように思える。



3、体力トレーニング

心肺機能、循環器系機能のトレーニングは、高地トレーニングなどの心肺機能への直接的負荷による方法と、サーキットトレーニング、有酸素トレーニングなどによる、筋の持久力と心肺機能を総合的に強化する方法がある。以下、筋力トレーニングを中心に説明を加える。筋力というと、集中的な力のみを連想するが、筋の持久力、柔軟性も同じ基礎的体力であることは云うまでもない。ヨット競技の場合は、求められる筋力の多くは、瞬発力よりも持続性が求められることが多い。私が心がけている筋力トレーニングの工夫は、持久力を養うことが主なので呼吸を止めないこと。トレーニングの最後は、負荷の少ないウエイトで仕上げること。運動の多くはねじれ動作なので直線的なものだけとしないこと。また、人間のサイクルは1年という季節に左右されること、1日という単位の中に栄養補給と休息が絶対に必要であること、1週間という生活習慣を抜きには考えにくいこと、などを考慮したトレーニング計画とすることである。特に、筋力の強化は、体力的ダメージを与え、栄養補給、休養によって、筋再生が行われるという、再生のメカニズムを考え、中2日以上は常識である。では、部位のトレーニングを紹介しよう。トレーニングの基本は大きい筋肉から小さい筋肉らしい。トレーニングの前後には、ウオーミングアップ、クールダウン、ストレッチは当然である。このときは、心臓から離れたところから起動するのがよい。ヨットのトレーニングは次の部位を鍛えることで良い。もちろん使わない筋肉、大胸筋、上腕三頭筋などもバランスよく鍛えることは重要である。ヨットで求められる筋の瞬発力、持久力は、何キロを動かす力が必要だとか、何分耐えられれば良いというものではない。同じ10分耐えられても、余裕があるかどうかが、気象変化を読み取ることができる、戦術を駆使できる、などの考察力として働く、トレーニングの最後を軽いもので仕上げる意味がここにある。同じ力を発揮しても最大パワーを使ってしまっては、頭が働かないのである。試しに、200Mぐらいの全力疾走をしながら2桁の掛け算を暗算でできるかやってみると良い。

(1)大腿筋

 ヨット用の腹筋練習台を作成してトレーニングするのが一番効果的である。トレーニングジムでは以下のような器具が用意されている。自転車によるトレーニングも良い。


(2)広背筋

 この機械でトレーニングする際には、背中を伸ばして、背中の筋肉を使うことを意識して行うと効果的である。引ききったときに背中を絞るように引きつける。


(3)上腕二頭筋

 ダンベルを持って、使っている筋肉を意識して行う。縮めるときより伸ばすときにゆっくりすることを心がけよう。


(4)腹筋

 側腹筋、ねじれ動作もとり入れて行うと良い。腹筋も上部、下部に分けてやると良い。


(5)背筋

腹筋を重視して鍛えるあまり、疎かになりがちであるが、腰痛防止のためにもランニングと同様にしっかり鍛えなければならない。側部、ねじれ動作もやっておく。


4、イメージ・トレーニング

 さあ、いよいよスタート準備信号が上がった。風向は200度、風速は8M、波は1。5M程度、油断すると沈艇もでるようなスリリングなコンディション。まだ、皆動いている。ラインはほぼフラット。予想の振れは190ぐらいまで触れると予想する。位置取りは下に決めた。上マークは真上約1キロ。波でほとんど確認できない。ライバル艇が自分より右で流している。本部船上の動きからも緊張が伝わってくる。初めのタックの位置、2回目のタックの位置をイメージする。右海面の動きを確認する。左と決めたが、右に変化の兆候はないか。左から変化の様子はまだ見えないか。変化が見えたらそこがタックポイント。見えなかったらスターボーのレグを150Mぐらい残してタックか。アウター周辺の様子は分かった。インナーを目指す。インナーの上には20艇以上の艇がシバーリングで待機し始めた。まだ止めるのは早い。シバーリングの艇団の中に入ってみる。この中に下を目指すやつはどれだけいるか。動きから読み取る。自分が下を狙っている気配は見せないように。遠くのアウターの周辺を観察する。アウタースタートと決め付けている奴が二人いる。レイラインより上にくるか見極める必要がある。自分の下に切り上げられるとやばい艇が2艇いる。いよいよ後2分だ。自分はラインの中央にいる。下までは1分で行ける。自分の下にはまだ10艇以上いる。先頭に出たいがまだ早い。後続艇で前に出ようとしている船はまだいない。下から切り上げられそうな船に対して、センターを上げて横流れをさせながら前に出る。まだ後1分ある。自分の後ろは空いている。ジャイブして戻る余地があるが、タックはできそうにない。ジャイブは風が強いのでコース・ロスが大きそうだ。コースを確認しようとしても、スタートラインのフラッグが見えない。自分は予想以上に下に流れている。上の艇団はラインの上に出ているようだ。タックだ。止めている艇の前まで行ってリーバウタック、後、丁度30秒、ベストポジションにいる。下からの突き上げに対してはスピードで交わせる。時間の流れが遅い。まだ。まだ、走り出すのは早い。下が動き出した。あせるな。まだ早い。よし今だ。7秒前だ。上に向けるのはまだだ。2秒前クローズ。スタート。ラインには余裕がありそうだが。リコール艇でラインが確認できない。上の集団が速い。このままではかぶされる。落としてスピードだ。幸い下の集団は艇速がなくブランケできそうだ。上り過ぎないように。セールの引き過ぎがないように自分に冷静になるよう言い聞かせる。え、ゼネリコ。自分を信じてフラッグを確認するまでは気を抜かない。あ、三角の第一代表旗が見えた。うーん、緊張から解き放された、なんともいえない瞬間である。スタートのタイミングは1秒ぐらい遅かったか。30秒前にタックできなかったら完全に死んでいた。反省をしながら次のスタートに気持ちを切り替える。ああ、疲れた。時々に起きる判断のタイミングと艇の動きが一致するように、こんなイメージ・トレーニングを床に入って寝る前にでもやってみたらいかがでしょう。布団に入ったらすぐいびきをかくほど寝つきの良い人は無理ですが。


5、チューニング

(1)艇体と心身

 トレーニングの範疇に入らないことかもしれないが、ヨットレースの勝利のためには、ヨット自体を最良の状態にしておかなければならない。風と波の状況によって、それぞれの最良の状態があり、乗り手の身長・体重・体力によっても微妙な違いが生じる。さらに、風の向きに対しても最良の状態は異なる。ここで考えることは、陸で行うことと、一部トリミング、ハンドリングには属さない範囲の海上でできることである。艇体については基本的にいじるところはないが、センターボード、ラダーが真下におりることと、遊びがないことは当然のことである。さらに強度の許される範囲で、軽量化、艇体重心への重量集中が重要ある。シャックル一つとってみても1グラムでも軽いものとし、少しでも艇体中心に近づける努力を惜しんではいけない。艇体にバラストを積むような船は、艇体のハルの凹み、捩れなどに対して補強できる要素があれば工夫をすべきである。艇体の凹み、捩れは確実に艇体摩擦を増加させている。ハルの摩擦抵抗を減少させる意味で艇体を磨き上げることも重要だ。表面の凹凸をなくすために、耐水ペーパーで磨き、ワックスなどのコーティングを施すことはやっておきたい。摩擦係数をおとすことと、撥水性の高い皮膜でコーティングすることにどれだけの効果があるかは疑問視する方も多い。しかし、陸でできる勝つことにつながる小さな努力を無駄と思う人はレーサーとして失格といえるのではなかろうか。スポーツは勝利を目指して競技する者が、持てる力を全て出し合って戦うところに、崇高なスポーツの精神が存在するものなのである。君はスポーツマンとして全力を尽くす姿勢を持っているか。このことに同感できる人は、少なくともそうでない人よりは精神的に優位に立っていることに気がつくだろう。陸でもレースは始まっているのでる。
 
(2)マスト・ベンド 

次に、リグのことを考えてみよう。マスト・ベンドのコントロールについては、全体の硬さ、ベンドの方向、ベンドの部位があげられる。昔は木のマストが主流だったのでマストを削ったりして調整したが、今は金属マストなので何を選択するかということになる。前後方向の曲がり、左右の曲がり、上部下部の曲がりがあるが、左右の曲がりはスロット調整に大きく影響する。金属を削って曲がりを大きくすることは大きな不安が残るので普通はやらない。できることは曲げたくないところにカーボンなどの補強材を貼ってセールカーブに合わせることである。マスト・ベンドの調整は、メインセールのラフの深さに大きく関係する。一方、全体の軟らかさが、リーチのゆるみになって表れるので、強風でウエザーヘルムを消すのに役立つ。しかし、必要以上に軟らかいと中風域でセールカーブを崩してしまう。曲がりの見極めは、自分の体重でヒールを起こせる限界あたりの風で、さらに強いブローを受けたときに、ウエザーヘルムが消えてコントロールしやすいか、という判断である。風上にもっていかれる感じがあるようだったら、マストを軟らかくする工夫をした方が良い。逆に風が逃げているように感じたらマストを硬くしたほうが良い。微妙な感触だが、風の強さを軽く感じ取るぐらいの状況であれば、おおむね良しと判断してよい。後は他のコントロール要素を工夫することでカバーできる。セールの一部に横方向に突っ張るようなしわができそうなところがあればそこはマストが曲がりすぎていることになる。また、ラフィングしたときに裏風が均一に入らないようであれば、裏風が初めに入るところの曲がりが少ないか、セールがツイストしていると考えられる。セールのツイストよる裏風は上部に表れるがマスト全体の硬さの問題といえる。曲がりが少ないところがあれば、それ以外のところを補強することしかできない。一般的にみてスループ型ディンギーのアルミのマストは軟らかくできているので、サイドステー、スプレッダーによって補強して使用している状態である。マスト自体が硬いと感じたら、以下にあげる、スプレッダー、レーカーなどで調整できる。さて次にできるディンギーのベンドコントロールはスプレッダーの長さ、スイング角である。取り付け位置の変更は強度の不安があるので普通はやらない。スプレッダーは風がないときに初期ベンドをもたせ、マストを硬く安定させる効果がある。風が強くなると、風上のサイドステーを軸にしたマスト中央部のスイングによって、ベンド量を抑えることと、サイドベンドを促しスロットを広げる効果がある。次にできる調整は、楔、レーキによるコントロールである。左右のレーキは基本的に遊びが少なくなるように固定することで良い。左右に倒したとしてもセールカーブが変わるわけではなく、セールが風下に倒れるだけで、ヒールしてヘルムが強くなるのと同じである。仮に、セールを風上に持ってくるようなことが可能であるならば、ヒールを相殺させているような効果があると考えられる。フォアレーカー、アフターレーカーはレーキのコントロールという意味もさることながら、固定することにより、ベンド量を抑えたり、ベンドの中心を上部に移動させる効果がある。つまり、中風でマストが曲がりすぎるときにアフターレーカーを働かせることによって、マストの腹が出るのを防ぎ、スロットなどを調整するのに役立つ。また、マスト下部を硬く固定させる効果によって、ツイストをマスト上部から発生させることになり、セールのパワーを有効に使いたいときに役立つ。次にブームであるが、ブームを曲げることはあまり考えない。硬いに越したことはないので、軟らかいと感じたら補強材を貼ること以外に調整することはない。これらのリグ調整はレーザーなどのシングルハンダーではコントロールの余地はないので、以下に述べるコントロールロープによることになる。

(3)セール・コントロール

 ダウンテンション、アウトテンション、ジブラフのテンション、ブームバングのコントロールはセーリング中にできるが、セールカーブへの影響がヘルムを左右することになるので解説を加える。ダウンテンションを強くすることはセールのドラフトを浅くする。ドラフトの位置はあまり変わらないようだが、セール全体が浅くなるので、強風時にセール中央に感じる風圧をかなり軽減できるので船の操作性を失わない。引き過ぎることは、セールの縦じわをつくり良くないが、横じわは空気の流れと平行なので無視できる。セールから剥がれる部分の空気の流れは乱流を生むことになるが、横じわの存在は渦を小さくし、空気抵抗を減らす効果があると考えられる。アウトテンションは、セールのドラフトに大きく影響する。海面がフラットなときは浅くセットし、海が荒れているときは深めにセットするのが基本である。しかし、強風の場合は海が荒れているのが普通で、深くしてパワーをつけてもコントロールが難しくなるだけである。普通、クローズホールドではCLRよりCEが後ろにある状態となるので、セールパワーがあることはウエザーヘルムを増長させることになる。ジブのラフのテンションがフォアステー(ジブにラフワイヤーが内蔵されている場合はそのワイヤー)のテンションより硬くなってないかはチエックが必要だ。よくワイヤー伸びてしまっていたりするセールがあるが、レースをするには交換が必要だ。ブームバングを強く張ることは、一義的にはセールのツイスト防止である。しかし、シングルハンダーでは、マスト・ベンドをコントロールする役目が大きい。クローズの軽風ではラフ部分のセールを浅くして、のぼり角度を向上させる。セールのリーチが突っ張って、セールの裏側に乱流を多くすることになるが、無視してよい。ラフ部が深いままで走らせる場合は、セールに裏風を入れながら走るぐらいの開き具合がベストポジションになる。しかし、ラフ部分が必要以上に深い状態なので、クローズホールドのように風を流すことを重視する場合のセール形状ではなく、ランニング用の形状と思えば良い。注意しておくことは、バングを働かせることによって、まずい問題が一つ残されてしまう。それは過度のアフターレーキによるウエザーヘルムである。特に走り出しが非常に悪くなる。タック直後は要注意で、止まってしまって走り出さないことが良くある。強風の中で起きることなので、そのことに気がつかない人が多い。強風で荒れた海面では、タックによるロスが大きいので、タックの回数は注意しておこう。さらに重要なことがある。それは、スタート前に強くバングを引いておかないことである。スタートの出足の微妙なタイミングが求められるときに、走り出しが遅れることになっては優位に立てない。走り出してからバングを強めるのはシングルハンダーでは常識だ。おっと、チューニングから脱線してしまった。

(4)マスト・レーキ

 マストの位置、レーキ、フォアステーの位置、サイドステーの位置、ブーム・トラベラーの位置、振幅、ジブ・フェアリーダーの位置が残った要素である。
 マストは原則的に垂直に立てるのが基本である。垂直かどうかを目測で行うとき、ビーチやスロープの斜面になったところでやらないようにしよう、錯覚がおきるのでお奨めできない。また、マストトップから錘をたらして測定しても重力に対して平行であるということで、船に対して垂直であるということにはならない。適当な方法は、水線長と考えられるスターンとバウの切れ目を結んだ線とデッキ上の平行線を仮想して、そこにブームなどによって直線をつくる。ロープで作っても良い。その線を船を前後に動かすなどして地面と平行にする。それとマストの状態を直角の角を持った板切れなどで測ってみればマストの起立状態が良く分かる。この方法で、マニュアルによってレーキ角度に対するマストトップからスターン上部の長さが示されている場合は、マスト・レーキの建造上の理想値が逆に読み取れる。垂直が分かったら、そのときのフォアステーの長さを測っておく。マストステップを前後に移動したときは、その分だけフォアステーの長さを調節して垂直を維持する必要があるからである。マスト位置を前に置けばウエザーヘルムは減少するので強風で扱いやすくなる、また、スロットが狭くなるので強風ではメインのバックウインドを多くする。ヘルムはレーキ、ドラフトの位置、セールのツイストによっても大きく変わるが、陸でしかできないのはマストの位置調整ということになる。フォアレーカー、アフターレーカー、くさびでのコントロールは海上でできるので、風の変化などによって、マスト位置を変えたのと同じ効果を出したいと思ったら、それらで臨時的な措置をする。調整方法としては、前の位置から始めて、セールの深さ、マストの硬さによって、後ろに持ってくればよい。自分が思うには、軽風でも充分なスロット効果を生むことを第一に考え、一番前にセットするのが基本と考える。このことは、強風での対応も最大限に可能であるし、ランニングでの操船も容易になるからである。ただ、メインが深く、あるいはマストが硬く、スロットが狭すぎるのではないか、と感じたらマスト位置を下げることに躊躇することはない。入ってくる風のスロット調整はファオーステーの位置とマストの位置でしかできないからである。フォアステーの位置調整は、マストステップと理屈的に同じなので省略する。サイドステーの位置は、ヘルムに影響しないし、レーキ幅、ランニングのブーム角度に多少影響がある程度である。よって、可能な範囲で一番後ろに置くのが安全である。
 フォアステー、サイドステーの長さをコントロールすることによってレーキが変わる。レーキの変化によってヘルムが変わるのは承知のとおりであるが、スロットの点でも注目しておく必要がある。クローズホールドでマストが後傾することによって、前後方向のメイン、ジブのオーバーラップが増加し、メインの裏側の整流効果を生むことになる。セーリング中にテルテールなどの流れを観察して、充分なスロット効果が出ているか、風が弱いのにバックウインドが入り過ぎないか、などの観察が重要である。不具合があったら、海の上で、フェアリーダーの位置を変える、開きを調節するなどによって、メインのバックウインドをコントロールできる。仮にリーダーを前において良い結果がでたら、オーバーラップが不足していたと考えて、翌日にマストを少し傾けてセットしてみよう。それによって、ジブのリーダーをベストの位置(セールのドラフト中央部から真っ直ぐにシートが引ける角度、大体、ジブのラフの下から3分の1の位置とクリューを結んだ線の延長上)に戻せたなら、チューニングが一歩進んだことになる。マストの位置のところでマストは直立が基本であると述べたが、実際の帆走中はマスト・ベンドなどによってトップでやや後傾している、このことがセールトップで空気の乱流を少なくしている。この意味で、クローズホールドで、マストトップが後傾することは悪いことではない。

(5)ブーム・トラベラー

 ブーム・トラベラーの位置は、ブームのメインシート取り付け位置より前にあれば、マスト下部を前に押し出すことになりベンドを促す効果が生まれる。また逆に、後ろにあれば、マスト上部は多少曲がることになるが、全体の曲がりを押さえることになる。マストが硬いと感じていたら、トラベラーを前に置くと良い。曲がりすぎると感じていたら、トラベラーを後ろに置けばよい。同じマストでも、その効果の調整は多少できる。それで好結果がでるのなら、マストの硬さを前に述べた方法によって変えてみると良い。セールトラベラーの振幅は、セールのツイストに影響する。セールのツイストの調整は、ブームバングが主体であるが、微妙なところは、この振幅を調整し、メインシートの引き具合と共にコントロールできる。要は、横方向からのテンションとするか、縦方向からとするかで、横方向から引けばセールのリーチは緩みやすいのでツイストを助ける。逆に下にしっかりと引けば、リーチを硬くすると共に、マスト・ベンドを促してくれる。これらはチューニングというよりは、トリミングの問題である。注意しておきたいことは、マストをベンドさせてセールを浅く使っているときは、セールを内側に引き込み失速しないように振幅を大きくセットしたい。

(6)ジブ・フェアリーダー

 ジブ・フェアリーダーの位置もチューニングとは言わないが、前後左右にいろいろ位置を変えてみて、最良の位置を探す努力を惜しんではいけない。深いセールでも内側にセットすれば上り角度が良くなる。浅いセールでも前にセットすれば深めに使える。フラットな海面では、より上りたいし、波のある海面では、パワーをつけたい。リフトが予想されるレグでは上っておいて、ヘッダーが予想されるレグではスピード重視で走りたい。向かい潮のときはおとし、追い潮のときは上る。当然ながら、左右のリーダーの位置は違うことの方が多い。ジブの前後方向の理想角度は前述したが、どのくらい内側に置いたらよいかは、スロット効果との関係ということになる。海面の状態に左右されることではあるが、フラットな海面で上れるように内側でセットできるようにしておくことは、最低限必要なことだ。もちろん、リーチングでは外側にあまり深くならないようなトリムができるようになっている必要がある。
 セール、リグの総まとめとして、セールカーブを図解してみよう。

(7)セール・スロット


(8)その他

 フットベルト、トラピース、ハイクアウトパンツ
 忘れがちなこととして、自分の体力を最も効率的に発揮できる部品もチエックしておきたい。特にフットベルトの調整は重要だ。帆走中にコントロールすることが許されるクラスであれば、ぜひそのようにしておきたい。中風・強風での長さ、クローズ・リーチングでの長さは異なる。着衣もチューニングの一つだ。ルールで許される範囲の工夫をすることは重要だ。軽風では着衣が軽いに越したことはないし、強風では重く上部に集中した方が良い。ライフジャケットも動きやすい工夫ができるはずである。
 
 以上述べてきたが、チューニングはレースシーズン前に終わらせておきたい。レース中に船のチューニングに気が取られるようであっては勝利もおぼつかない。レースは戦術を駆使できる態勢で臨んでこそ意義のあるものである。最後に述べておきたいことが一つある。もし君がレーザーなどの完全均一タイプのヨットレーサーを目指すのであれば、チューニングの理屈は理解するとしても、そのことにこだわってはいけない。どの船に乗っても基本的に同じ条件で競い合うのだから、より性能の良い船にして勝とうという意識は捨てた方が良い。その場で船を乗り換えても勝てる力こそ必要な力だ。練習する時間が余っている人などいないはずだから、船を磨く時間があったら練習(広い意味で研究も、陸トレも含めたトレーニング)すべきだ。徹底的に勝ちにこだわるヨットレースを志すのであれば、ポリシーを明確にしておくこと、ゆるぎない信念で勝負に向かおうとすることも立派な精神力として君を勝利に導く。


 (編集後記)

 大学のヨットクラブには、合宿の座学などを通して、ヨットレース経験が蓄積されてきています。そしてそれらが代々伝承されてきています。しかし、それは必ずしも著作物として残されてきませんでした。いま、IT技術が進歩して、誰もが簡単に著作物を編集し、公開できる時代になりました。その技術は従来の紙面に限られたものではなく、動画までも組み入れることを可能にしたものとして進化しています。こんな背景から、自分の体験をより有効に後輩に伝える方法として、ホームページを立ち上げ、そこに戦術などを図解することを考えました。今後、より多くの人たちが、こんな形で情報を残していってくれることでしょう。そして、それらが有効な財産になるはずです。また、近い将来、海での練習の様子が、東京の大学に転送されて、現場にいないコーチ陣なども交えてミーティングが可能になるでしょう。私なんかが寝たきりになったとしても、自宅のあるいは病院のベッドからパソコンを眺めながら、「何やってんだ」、なんてコゴトが言える時代になるでしょう。後輩にとっては迷惑な話でしょうが。
 この戦術解説は、学問的な裏付けはほとんどなく、あくまでも自身の体験に基づいて編集したものです。もっと別の考え、視点、価値観などがあり、人によって様々かと思います。ヨットレースを志す方々が、これをご覧になって、思ったこと、感じたことなど、お寄せいただければ幸いです。また、ご質問、ご意見などありましたら、遠慮なくお問い合わせください。メールをお待ちしております。文章があまりうまくないので、分かりづらかったかと思います。そのうち、もっと写真を多くして分かりやすく解説していこうかと思っています。ご期待ください。といっても、時間を見て、少しずつの改訂ですが。
 では、また。