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攻殻機動隊 -S.A.Cシリーズ-

攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man 攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX Individual Eleven 攻殻機動隊 SOLID STATES SOCIETY
攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX
The Laughing Man
2010/1/5 視聴メディア*チャンネルNECO

2004年1月から半年間放映されたSACの総集編。
本編では笑い男には直接関係ない物語も多く含まれていた(銀メダリストや
皮剥ぎ人など)ため、このOVAは笑い男に関する事件をつなぎ合わせたもの。
しかしこれがまた面白いの何の。奇しくも笑い男がセラノ社長を誘拐してから
潜伏していた期間が6年だったように、私も本当に6年ぶりに見ることになった。

毎週一回の放映では追いきれない、この壮大で鼻持ちならない事件の概要と、
トグサや少佐、課長の思惑や動き、そして大物を追い詰めたクライマックスと
公安9課のたどった運命がひっじょ〜にわかりやすく、ガッツリ理解できる。

物語は今更語ることはないほど完璧。
2004年の半年間、カビの生えた脳みそをフル回転させて考えたとおり、
集団の中で失われていく個、集団にいたいと思いながら個を保てない事に
ジレンマを感じる矛盾を描いたのが「スタンド・アローン・コンプレックス」

逆に集団の中から個としての「個性」を確立したタチコマたちに宿ったもの、
それこそがゴーストであり、それを育てたのが「好奇心」であるという結末。
長い時間をかけて進化した人の、恐らく一番の原動力は「好奇心」に違いない。

そして相変わらずこの事件で一番不可思議なのは、「我こそは笑い男」だと
本気で信じて疑わず、正義を成そうとした30人以上のコピーキャットたち。

電脳という共有装置を持ち、腕の立つハッカーにはインターセプトされて
しまう彼らには、確かにもともと「ネットの欠片」とでもいうべき共有感覚が
あったのかもしれない。でも今回見てて思ったんだけど、これって電脳がある
世界でだけ起きることじゃないんじゃないか。今だってアイドルが自殺すれば
連鎖自殺が起きたりするし、何か事件が起きれば稚拙で迷惑な模倣犯が現れる。

たとえばその昔だったら「神の啓示を受けた」と予言とやらを話し出したり、
トランス状態に陥ったりするように、何か電波ではないけど、感覚の鋭い人、
ストレス状態に置かれた人、神経が鋭敏な人、他の影響を受けやすい人など、
多かれ少なかれ、集団行動・集団暴走に走りやすいファクターを持っている
人というのはいるのかもしれない。すぐにパニックに陥りやすい人とかね。

飛び飛びだとなかなか全貌がつかみづらかった厚生省と薬事委員会の関係や、
今来栖や薬島の動き、当時の首相と課長の取引などもわかりやすくていい。
麻取、海自の介入なども流れがよくわかるし、笑い男の動きも全貌を知って
見るとなるほどと思えるものばかり。それにしても民法放映ではなかった
授産所の話は放映しなきゃいかんよ。あれがなきゃ絶対わからないもん。

笑い男はどこにも存在しない。
もともとは名もなき人が書いたマイクロマシンと村井ワクチンの比較対照を
数値化したメールから始まった。けれど彼の義侠心に富んだ行動は利用され、
セラノをはじめ多くの企業を脅迫対象にする「企業テロ」を起こしただけ。

しかもその企業テロをさらに利用して私服を肥やした人間がいたとなっては、
世間知らずの正義漢・笑い男は失望し、目も耳も口も閉じて引きこもった。
「しかし、それでいいのか?」と自問し続けた彼は、全てを少佐に託して
許すべからざる「悪」を白日の下に晒させた。命を失った人たちのために…

集団からはぐれたスタンドの無力さを思い知るこの事件。
計算されつくしたチームプレーではなく、プロたちのスタンドプレーに
基づくチームワークを重視する9課にしか成しえなかったことは明白だ。

けれど真のスタンドである彼の好奇心がこの事件を起こしたことも事実。
集団や組織の中では硬直しがちなもの…それに対する皮肉ともとれて面白い。
人は社会を求め、組織に所属したがり、そのくせ自分という個を保ちたがる。
一方で個を保つことを放棄し、集団に完全に溶け込みたいという願望もある。
脳みそのサビ落しにはこれほどもってこいのインテリアニメもないだろう。

それにしても何度見ても強制介入班・麻取はムカつくわー
そして何度見てもタチコマのラストバトルは泣くわー(つーかもう号泣ッス)
さらにバトー本人ではなく、バトーの物真似をしてからかうイシカワの
「モトコォォォ〜!」と、トグサのあまりの呆けっぷりが微笑ましい。

さて次はラッフィングマン以上に難しいインディビデュアル11だ!

(2010/1/11記)
攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX
Individual Eleven
2010/1/6 視聴メディア*チャンネルNECO

2005年の4月から9月にかけて放映された「攻殻機動隊 S.A.C 2nd GIG」は、
今だからぶっちゃけてしまうと正直、血反吐を吐く思いでレビューしていた。

何しろレビュー時期が「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」と重なっており、
不眠不休で70〜80時間かけて書き上げるレビューと並行して書くには
あまりにも難しすぎ、毎回泣きたくなるほど辛いものだったからだ。

そもそもこれだけ難しい物語、寝不足の頭で正しいレビューを書くことが
できるはずがない。私はきっとこの超難解な物語を全然理解できていない…
間違いだらけで恥をさらしているに違いない…そう思うともう情けなくて
恥ずかしくて、正直、公開することもイヤなくらいであった(でも溜めると
すぐに種デスの放映日がきてしまうため、とにかく毎回必死に書き上げた)

だから今回、物語を通して見て、自分の書いたレビューがあまりにもダメな
間違いだらけだったら、初めて「これは下げよう…」と思うかもしれないと
思っていた。それくらいかつての自分の理解とレビューに自信がなかった。

しかし4年ぶりに「個別の11人」事件を見返してみて、自分の解釈がそれほど
間違っていなかったことを再確認した。今さらながら自分の拙いレビューを
読み返してみたところ、手前味噌であることは重々承知しているけれど、
あまりいいとはいえない頭のおかげで意外と「自分なりに噛み砕いてあり、
誰にでもわかりやすいレビュー」になっているような気がした。もちろん
誰かにそう褒めてもらった事もないし、逆に「ここがダメ」と言われた事も
ないのだけれど…今回見返してみて自分は間違ってはいないなと強く感じた。
感動すらした。難しすぎて理解をしようと躍起になるあまり、当時タチコマの
「完全なる死」に「笑い男」の時ほどは感情移入ができなかった苦い思い出が
あったのだけど、今回は彼らの姿にホロリと泣きそうになったので安心した。

「動機ある者たち」がカットされたため「童貞テロリストたち」の所業が
簡単にしか描かれず、「草迷宮」もなかったため回想でしかクゼと少佐の
関係が示されず、「潜在熱源」がなかったので「東京のプルトニウム」が
何なのか、本編を見ていない人にはサッパリであろう。そういえばクゼの
「顔」が鍵を握る「造顔作家」の話もなかったっけ。あれはパズの話が
メインだったせいかな?(パズVSパズ、同じ女とは二度と寝ない、ね)

「笑い男」の総集編はよくまとまっていたと感心したが、「個別の11人」は
「笑い男」ほどは各話が完全に独立していなかった事が証明されたな。
(これは本編放映中も感じていた。逆に全く無関係な話も多かったし。)

この物語のキモは、クゼという英雄を自らがプロデュースする事で自分の力を
誇示し、かつ官房長官と組んで現在の茅葺政権失脚を企んだゴーダの野心と、
ゴーダに全てを握られているかと思わせて(クゼが最初にゴーダが仕組んでいた
「個別の11人ウィルス」にあっけなく感染していたが故のミスリードである)、
実はバトーが言ったようにとても二流のハッカー(ゴーダ)の手には負えない、
「300万の難民の人格をネットと融合させ、出来うるなら個を保たせながら
より高次の意識体へと導」こうとする「真の革命家」としてのクゼの存在だ。

醜くなったことでスタンドアローンとなりえたゴーダと、ネットにいる方が
自由だと思うほど「心と体の乖離」を感じる全身義体のクゼ。一方が一方を
操っているかのように見えて、実は操っていると思っていた方がチンケな
世界に閉じ込められており、操られていると思われた方が遥かに高みにいた。

クゼの考えは、プルトニウムを使って自爆を行うにしろ総攻撃を受けるにしろ、
難民を意識だけの存在にすること。それは「無責任な意識」への復讐でもある。
羊たちの、ゆるやかで形にすらならない、けれどあまりにも大量の制御されない
意識が、時に世論を動かし、暴発し、うまく利用され、そしてまた拡散する…
あまりにも無責任な「無意識下の意識」への怒りがクゼを突き動かしている。

HUB電脳を使ってまずは自らの意識に広く浅く同調させ、やがてそれを自らの
意思として固めさせ、ネットの海に溶けた後もクゼを感じ取れるようにする。
クゼはゴーダごときが支配できる器ではなく、もはや聖域にいるレベルなのだ。
(ただしこれは少佐の皮肉で「どうしようもなくバカになってる」ということなのだが)

「笑い男」がネットを介して「意識なき無意識」を図らずも操ってしまった事に
恐れを抱いたのに対し、クゼはHUB電脳を利用して驚異的な意識で繋がってくる
人々の意識を保ち続け、方向性を示し続ける。もはや「笑い男」の時代からも
一歩進んだといえるのかもしれない。ところが逆に原始的なことにも思える。

そう、今も世界に広まっている宗教は皆これではないか。
1人の宗教家が英雄として存在し、彼を支持する熱狂的な人々が集い、さらに
多くの無関心な人に伝播し、徐々に信者が増え、結束し、皆が「信仰」という
「誰にも見えない鎖」で繋がっていく。その鎖はゆるいが切れず、細いが長い。

クゼの言葉に、自分も常に義体を動かし続けねばならない「無意識下の意識」
を持つ少佐の心が揺れる。目の前にいるのは、自分同様ずっと孤独だった男。
誰かを導く事はできても、誰にも頼る事ができない男。そして、かつて少佐が
一番苦しかった時に、折鶴を折り続けて自分を励まし、支え続けてくれた男…
同時に彼にとっては目の前の女こそ、絶望の淵から彼を救ってくれた女なのだ。

少佐が「彼についていけたら…」と思ったとしても、誰が責められるだろう。
(イシカワはメスゴリラも結局ボスが欲しかったんだろうさとかなんとか皮肉を言い、
トグサと荒巻は渋い表情で黙りこみ、バトーはこの上なく不機嫌になるだろうね)

少佐がその誘惑に負けかけたその時、タチコマたちは決断する。
僕たちの仕事は難民たちの意識をサルベージする場所を確保するんじゃなく、
ゴーストのある彼らを、意識だけの存在にしないようにすることじゃない?
だから、僕は少佐の命令に背こうと思うんだ。その方が正しいと思うからさ。

「なんて事だ…きみたちにはきっと…ゴーストが宿ってたんだね…」

プロトくんの優しい言葉が涙を誘う。
部下の犠牲により核ミサイルの投下は回避されました…課長の言葉が胸を打つ。

けれどこの事件の顛末は胸が痛む。茅葺は米帝にも中国にも頼ることなく、
独立独歩・国連協調という茨の道を選び取り、難民問題は未解決のまま。
ゴーダは仕留めたが、同じ頃、クゼもまた刺客の手で永遠に眠らされた。

少佐は24時間の桜の観察をやめ、部下たちに再び戦場へ戻るよう指示する。
後から行くわ…いつだって少佐は誰かと距離をとり、誰をも受け入れない。
彼女と関わった人は皆彼女に魅了され、彼女を信じ彼女を頼っているのに。

放映当時も強く思ったけど、少佐とクゼが重なって仕方がない。
ゴーダというミスリーダーがいるために、どうしても最初はクゼとゴーダを
比べたくなるのだが、最後の方にいけばいくほど、チンケなゴーダなどより
クゼと少佐という似て非なる「カリスマ的存在」が強調されていく。

「笑い男」は事の真相の後に、意図的とはいえ「9課壊滅」という大きな
ヒネリが効いていた上に、まぁまぁハッピーエンドだったことに比べると、
「個別の11人」のラストはどうしてもほろ苦いと言わざるを得ないだろう。

とはいえ今回落ち着いて見てみたら、難解だと構えたわりにはすんなりと
理解できたし、とても面白かった。ただ初めて見る人にはお奨めはしない。
見るなら途中に色々なエピソードを挟みながらも全26話を通した方がいい。
ぜひ硬くなった脳みそをほぐし、ああ、なるほど!と膝を叩いて欲しい。

そしていかに今放映しているアニメたちが「…」か、実感していただきたい。

(2010/1/15記)
攻殻機動隊 SOLID STATES SOCIETY2007/12/03 視聴メディア*DVD

マイクロマシンによるテロ・SOLID STATES SOCIETY・傀儡廻…
難民をはじめ外国人の流入・高齢社会問題・少子化と虐待…

いくつもの要素が絡み合うこの事件が起きたのは、
少佐が公安9課を去って2年が過ぎた頃だった。

次々と自殺という名の変死を遂げていく、手に刺青をしたシアク共和国の
テロリストたち。ある者は空港に立てこもり、ある者は入院先の医療施設で
そしてテロを指揮していたはずのカルマ将軍自身も、自ら生命維持装置を
外して死んでいた。首謀者たちが死ぬ事がテロ開始のサインかと思われたが
どうやらそれも違う様子…将軍の幽閉先で発見された子供たちには虐待の
跡を残してはいたが、テロ用の天然痘ウィルスを改造した凶悪なマイクロ
マシンはまだ植えつけられてはおらず、事件は混迷を深めていくばかり…
そう、バトーが、死ぬ前にマシャバが作業用ロボットに乗りこみ、
バトーより先に侵入してきた「ある人物」を襲っていた事も含めて。

この物語は前半と後半で大きく違っていて、両件は確かに繋がってはいるけど、
それはかなり細い糸という印象だった。終わってみると「あれ?じゃ最初の
シアク国テロ云々はさほどこの件に大きく関わってなくね?」という感じ。

「貴腐老人」というワインのような言葉には苦笑しかない。
資産を残せる相手を欲するんだから、これは金のある老人って事なんだろうな。
そもそもこの全自動介護システム自体が金がかかりそうだしなぁ…

深刻になりつつある後期高齢者が増加する高齢社会(わが国でも既に問題は前段階の
『高齢社会』レベルではない)と少子化問題が取り沙汰されているというのに、
年間千人レベルで子供が虐待を受け最悪の場合は死亡しているという矛盾…

どちらも「その世代に関係ない人間」が目をそむけがちであり、選挙権のない
子供の意見が政治に反映される事はなく、主体が問題が多い上に時と共に機能が
「衰えて」「死に至る」事が決定的な高齢者である事がネックになっている。

また、子供は選挙権がない事が弱者たる所以になっているが、高齢者は逆に
死ぬ瞬間まで選挙権…「清き一票」を持っている事が利用される根源になる。
たとえば「某政党」のように、甘い言葉や様々な方法で票を獲得する標的になり
だからといって彼らの意見が反映されているとは言い難い。あの連中は根本的な
解決をした事がない。やってる事といえば一時的な人気取りのためのくだらない
金品ばら撒き政策ばかり…それならまだ組織内の若いもんを精神修養のための
奉仕活動の一環として派遣し、ハンドサービスを行ってくれる方がマシである。

パーンって音が鳴ったら、走るんだ。運動会の時みたいに…
止まっちゃいけない。振り返ってもいけない。できるね?

「ごめんな」

父親として覚悟を決めたトグサは本当にカッコよくて、そして哀しかった。
なるほど、確かに「子を守る父親」を描いたから、次は「子を守る強い母」
つまりバルサを描こうと思ったというのはこれ見るとわかる気がするわ〜。

トグサが娘を連れて病院に向かうシーンは以前録画し損ねたビデオがちょうど
ここで切れたので見た事があるけど、切れたのがよりによって引き金を引いて
バトーが頭を抱えたシーンだったので「ぎゃあぁ!どうなったんじゃぁ!」と
気が狂いそうだったので、今回見られてよかった…少佐〜、ありがとう!!!
いや〜、本当にとんでもないところで録画が切れたものだと今さらながら思う。

トグサが右腕だけが自由になったのは、隊長就任に伴ってそれ以外は全て
義体化したという事なんだろうか?生身である事がトグサの欠点であり、
最大の強みでもあり、ある意味魅力でもあったのでなんだか淋しいもんだ。

でも少佐を「大先輩」とちょっとバカにしたように言ってたクソ生意気な
新人にマテバへのこだわりは捨てたのかと言われて「捨てたわけじゃない」と
言った通り、セブロを使うようになってもちゃんと持ってるのが彼らしい。

そしてそのトグサが義体化にあたって家族と折り合いをつけたり、隊長の重責に
苦労している事を、口には一切出さないのにバトーがちゃんとわかってる事が
攻殻のよさでもある。トグサもそんな事は口に出さないし…大人だなぁ…
今回少しトグサが遠く感じられたのも彼が責任を負う立場になったからだろう。
(少佐が戻ってきてからはむしろ昔のように生き生きとし出したのは皆と同じ)

本当は実力や経験から言えばバトーが隊長になるべきである事は課長も、
多分バトー自身もわかってる。でもバトーにはナリに似合わず変に繊細で
もろい部分があって、少佐が姿を消したことから未だに立ち直れていない。
どこからどう見てもヘタレに見えるトグサが実は最後まで踏ん張るタイプで、
大木に見えるバトーが実は若木のように細く弱いというのが面白いんだよね。

トグサの次に生身率の高かったサイトウもアフリカに行く前に心肺機能を
義体化したと言ってたので、拡大した9課の仕事は生身にはきついようだ。
このサイトウが同じ狙撃手のラジプートと一騎打ちになるシーンの緊迫感!
少佐によるサイトウの捕獲エピソードで、狙撃手の何たるかが語られたけど、
入念な準備、待機時間、集中力…そもそも狙撃は不測の突発事項に即応しうる
スキルじゃないからこそ、今回のような時間との勝負にはその腕の善し悪しが
モロに出るっぽい。狙撃場所の選択からしてサイトウは勝っていたということ。

「自分の腕を信じろよ」

相手もプロ、サイトウも傷は受けたけど、バトーの言葉は勝利を告げる。

総務省の住基登録と厚労省の電脳手術を受けた子供の数が合わない。
その数はカルマの元に幽閉されていた16人どころではなく、2万人超。
それにしてもボーマのハッキングは結構な率で反撃を蒙ってる気がする。

考えられるのは組織的な誘拐…けれど世間では何の騒ぎにもなっておらず、
「人間爆弾」として天然痘ウィルスを植えつけ、野に放つという卑劣な
バイオテロを企てたテロリストが準備するにはあまりに多すぎる数…

「ソリッド・ステイトには近づくな」

少佐が残した言葉と、トグサが貴腐老人の口を介して聞いた言葉から、
いくつかの事実が繋がり始める。子供たちはトグサが娘を連れて病院に
向かったように、傀儡廻に操られた親の手で電脳手術を受けるために
病院に連れてこられ、記憶を抹消されて貴腐老人の元に送り届けられる。
貴腐老人は死ねば「子」として登録されたその子供に財産を譲り、
財産を受け取った子供は今までの人生をリセットして成長すればいい。

全てがリサイクルされ、リユースされ、リデュースに繋がっていく…

社会の一番外側にある弱者同士を繋げ、両者を救済するシステムの構築。
それを自分勝手な正義感で作り上げる事のできる人間がいた。
たった一人、組織を離れ、自分の価値観と良心と正義感だけで…

行政には1人暮らしの老人が人知れず死んで静かに腐っていく事を止められず、
虐待され、貶められ、助けを求める事すらできずに、それでも親を信じて
痛みに耐え、泣きながら死んでいく子供たちを救い出すことも出来ない。

「手がない・金がない・策がない・力がない」

いや、何よりも

「 や る 気 が な い 」

このままでは財産も遺伝子も残す事ができない老人たちの、自分たちが
生きた証、意義、意味を求める貪欲さが生み出した「集団的無意識」が
1つの意思となったものが「SOLID STATES」だとしたら、活発な活動を続け
発達し続ける、より巨大なネットで起きる個を保ちつつも集団でありたい、
集団の中にありながらも個を保ちたいと願う「STAND ALONE COMPLEX」とは
相対する、「集団という名の個になりたがる無意識」とでも言おうか…

孤独を恐れながらもかつて属していた集団からは既に見捨てられ、
1人孤独に生きるしかない老人だからこそ、もう一度活発な社会と、
そして他人とリンクしたいという意識を持つといえるんじゃないか。

つか、これってめちゃくちゃ恐ろしい事だよね。

機械が看取ってくれるからミイラになって発見されないだけで、むしろ逆に
一人ぼっちでも生きていけるシステムに繋がれたまま貴腐ワインのように
熟成されていくだけなんて…医療の発達によって増える後期高齢者たち、
晩婚化・独身の増加で増える1人暮らしの高齢者…これら「3000万の孤独」が
もしもネットとつながったら?彼らは…いや、私たちは何を願うだろう?

けれどこのシステムそのものを利用して、別の方向に動き出したのが議員の
宗井だった。彼は虐待されていたピックアップされた子供たちをエリートに
育て上げる洗脳施設を作り出して養成を始めた。笑い男が利用されたように、
難民事件が利用されたように、最後には必ずこれを利用するものが現れるなぁ。

とにかく映画級の作画は相変わらずで、最初の空港での人質立てこもり事件の
緊迫感、医療施設での戦いの時の少佐の身のこなし、施設への突入シーンで
復活したタチコマ(泣!)に乗り込んだ9課の面々によるこなれた戦闘など、
何を見ても素晴らしくのめりこんで見てしまう。ホント、恐ろしい作画力だ。

強化サイボーグとタチコマのガチンコバトルはこれまた燃えた。
徐々に迫る追っ手に当然ビビることもなく、システムに入り込んで制圧を
かける少佐。辿り着いたバトーは「バックアップを」と言われて嬉しそう。
「いつだってそうしてきただろう」

初めは都合よく現場に現れたり、課長に犯人は超ウィザード級のハッカーと
言わせたりして、「傀儡廻はもしかして少佐なのだろうか?」とバトーや
トグサに疑念を抱かせ、けれど少佐は初めマイクロマシンについて別口で
動いていた事で疑いを晴れさせる。けれどそれは最後に意外な形で覆される。

システムを構築したのは自分だと名乗った官僚のコシキは自殺を図り、少佐は
その脳にダイブする。彼は優秀な人材だったが、登庁拒否になって義体出勤を
続けた。しかし皮肉にも義体が動いている事が仇となって、既に二年も前に
死んでいたことに誰も気づかなかったという、むしろ怖い孤独死の未来版。

つまり、このシステムを作り上げたのはコシキであるがコシキではない。
コシキはあくまでも義体、ただのゴーストのない容れ物に過ぎないのに、
そこには集団的意思と、「自分勝手で強い意思を持つ正義感」が入っている。

そんなものを持つ人間は世界に何人もいない…

並列化し、様々な意識を共有化するうちに一人歩きができるほどになった。
少佐を自分のフィールドに誘い込んだのは、いつしか生まれたキリストからの、
生んだ覚えのないマリアに敬意を表したはじめましての挨拶だったんだろうか…

2人の会話を中継した同じく「並列化」によって存在を為すタチコマは
会話の提供を拒否し、同じく中継地点だったバトーははぐらかす。
その代償は今回ドサクサに紛れて少佐の肩を抱く事だったのかしら。

孤独に、個人で仕事をしようと組織を離れた少佐は、その限界を悟って再び
9課へと戻ってくる。自分はトグサの成長を妨げないだろうかと心配したり、
皆なんだかんだ言いながらも本当にトグサのことを大切に思ってるんだなぁ…

そのトグサが妻子を愛する1人の普通の男として、救い出された子供たちが
そのまま元の家庭に戻されるという安直な結末に心を痛めているのもいい。
彼らが帰る家庭は、トグサが帰れるような暖かく健やかな家庭ではない。
そこにはまたすぐに繰り返される虐待という地獄が待っている事は明白だ。

そして結局貴腐老人の問題も何も解決しない。何しろ今回の件に関しては、
このシステムそのものは何の落ち度もないのだから改善などするわけがない。
改善するとしたら、せいぜいさらわれた子供の住基登録に寝たきり老人の
住基台帳が正規の手続きで使われてしまったという些細な問題程度だろう。
巨大な組織の前に、俺たちはなんのために…とぼやきたくなるのはいつもの事。

組織にいれば飲み込まれていく自分が息苦しくて自由になりたがり、
孤独になれば無意識下で社会を求め、繋がりを欲して足掻き始める。

社会性を持つ人間の心にともすれば巣食いやすい闇を描かせたら、今は
やっぱり攻殻に勝る作品はない。神山監督の神ぶりは本当にすげーや…
あまりのレベルの高さに、これだけ量産されているアニメのうち、クソは
半分に減らしてその予算とスタッフを優れた監督に委ねるべきだと思うね。

とにかく素晴らしい作品を見させてもらえて大満足。
スタッフ、キャストの皆さん、お疲れ様でした。


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