
視聴感想・1クール・トップ 精霊の守り人 ・ 2
14 / 15 / 16 / 17 / 18 / 19 / 20 / 21 / 22 / 23 / 24 / 25 / 安藤麻吹インタビュー / 最終回
第十四話 結び目2007/7/7
「冗談じゃないわ!わしはまだ人生の半分も生きてないんだ!!」 ええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?いつまで生きる気だよ?! こんなところで死んでたまるかいと毒づくババァにはきっと何か秘策があるに 違いないと思ったら、ブタ尾モルモット風タレ耳ウサギのシロクロ勝手に命名を 「さぁ食うならコイツを先に!」 ええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?鬼かアンタは!? いやぁ、あのね、うちの隣の人は絶対怖がってると思う。 もう笑っちゃって笑っちゃって自分でも止められないんだもん。 しかしババァのRPGがこんなにクソ面白いとは思わなかったよ。 ババァ、なりふりかまわな過ぎ。もう少年少女が冒険する時代は終わったね。 いつもは水の中で息が続く限りだったから詳しく聞けず歯がゆかったけど、 結び目で水の民からゆっくり話を聞いてみれば、卵は実は水妖の物ではなく サグとナユグに水の恵みをもたらす水の精霊のものなのだとかやっと精霊確定だ トルガルは水の精霊の卵を宿した子供を殺したのではない… それはちょうどシュガもたどり着いていた「建国正史は偽物」という事実に 基づく考えと一致している。こっちはむしろあのトロガイですら疑わずに正史を 信じていたという方が驚きだよ。正史なんて大概はあってなきが如しの嘘だし。 何処からかホント、どこからだっつの海を越えてやってきたトルガルを迎えたヤクーが、 いきなりトルガルに水妖の退治を頼むなんてまさしく事実を曲げた神話らしい。 異国から攻め入ってきた部族に敗れ、ヤクーが長く守ってきた土着神への信仰を 「悪しき神」とされて塗り変えられ、統治の道具に使われたのが関の山だろう。 卵を宿した子供にはなんの害もないと判明したものの、その卵を狙う ラルンガという卵食いがいるために、その人間は命を落とす事になる… いつとも知れない春の日、どことも知れない宴の地で卵が孵るその日まで、 どうやらチャグムとバルサにはまだまだ過酷な運命が待っているようだ。 それにしても相変わらずらナユグの世界の恐ろしさは素晴らしい。 なんだあのエイのようなでっかい生き物は…イソギンチャクのようなもの、 大きくて不気味な形の魚たち。ワンピの翼まで生えた海王類も面白いけど、 まだ人間など欠片もいない太古の海のような、全く別の異世界のような このナユグの魅力はなかなかだ。行きたくないけど。だってむっちゃ怖い。 「置いてけ〜置いてけ〜」 水の民から色々と聞き出したトロガイは早速紙に書きつけようとしたものの、 それは突然燃え上がってしまう。追いかけてきたの激しく燃え盛る火の玉。 知識を置いていけ…即ち命を置いていけというその声は火の民のものだった。 「これは全部アイツらのウンコかいっ!」 いや、あの…せめてフンと… 水の流れはどこに行くのか…地下に沁みるか、河に流れ込むというチャグムの 言葉どおり、トロガイもまた水の流れに乗って脱出を試みる。こうもりの巣を 下に掘ってみればボコリと抜けたその下にはどうどうと流れる地下水脈。 リアルウォーターシューターで流されるトロガイを火の玉はしつこく追う。 しかし火の玉は水の中までは来ないだろうと思ったのに甘かったなぁ。 まさか水をぼこぼこ沸騰させながら追っかけてくるなんて思わんぞ! しかし服の中に入れてたシロクロもよく無事だったものだ。ナウシカの 胸の中で無事だったテトのようだ。ちょっと飼い主の水分量が違うけどね… 「こっち…」 絶体絶命のトロガイを呼ぶ声。こっちってどっちだと火の玉から逃げながら 飛び込んだのは青白く光る洞窟だった…その天井からは粘液がだらり… 天井からウネウネ出てきたナマコ状動物がキモい〜キモい〜!なんか先っぽに 触手みたいのがついて動いてるよ!透明なのがこれまたプリミティブ過ぎて キモい〜!こんなところで無駄に作画力使わないでくれよ!キモいんだよ! 「生まれ変わったら必ずサグに生まれてきてやるぅ!」 生贄にされそうになってギャーギャー大暴れしたシロクロをむんずと先に 差し出したまま、結局吸い込まれたトロガイはなぜかヨゴの墨油の中に出る。 そこにいたのはカルボを斬っていなかったことをあの先生から聞き、 首をかしげながら帰途に着くところだったバルサだった。 やはりバルサ自身もカルボを斬ったと思っていたらしい。 こんなクズは斬るしかないと決めて踏み込んだんだから無理はない。 けれど実際には斬っていない。血糊も返り血もない短槍を確かめながら 「斬ってないとあらばそれでいい。なるようになるさ」 とサバサバあっけらかんとしてるところがさすがはバルサ姐さんだ。 「RPG トロガイの大冒険」にあっはっはと笑うタンダ。 どうやらナマコには食われたものの、消化される前にサグに戻ったようだ。 キャストロールには「気の民」とあったから、それが助けてくれたのかな? 最後はウンコと共に押し出されるとはねぇとバルサウンコて バルサは臭い中から助けてくれてタンダのところまで運んだんだろうし、 多分2人がかりで体中洗ってくれたんだろう。でもそれなりに収穫はあった。 正史は捏造された神話になったとしても、事実が隠されているのは危険。 ニュンガロイムも事情を知っているはずの宮にいる皇子が一番安全だと 思ったろうに、まさか命を狙われなければならないとは思わなかったろう。 おまえの卵には何の害はないから安心するがいい…けれどさしもの猛者の トロガイももう1つの事をチャグム本人に告げる事は出来なかったようだ… 一方シュガも正史が間違っていること、かつて聖導師が彫り残した碑文から、 チャグムの卵が旱魃をもたらす水妖ではなく、水の恵みを与える水の精霊の卵で あることを読み解いていた。けれどこちらはこちらで、渇きの相が消えていない =精霊は死んだ=チャグムも死んだという三段論法で1人でヘコんでるけど。 ところが読むのに夢中になっていたシュガは、突然聖導師が帰ってきたために 書庫に閉じ込められてしまう。出口はふさがり、油が切れて闇が広がると、レミーラ手に持つ行灯だけが頼みの綱。上に逃げられないなら奥に行くしか ないのは洞窟と一緒…さて、こちらは果たして鬼が出るか蛇が出るか。 それにしてもシロクロもちゃんと一緒に助かってたのが嬉しい。 しかも薄情な飼い主のトロガイが木の実を置いてやったら「ぷん!」とソッポを 向きやがった!うほ、可愛い。しかもさらに鼻先に置いても「ぷん!!」だ。 あまりの可愛さに悶えていると、トロガイもご機嫌をとろうとして木の実を バラバラと山ほど落としたら、さすがに耳がぴょこん!何こいつ、可愛い過ぎ! 次回はすでにその残酷なサブタイを聞いただけで涙が出そうだ… △
第十五話 夭折2007/7/14
「あの小僧、死ぬよ…」 ヤマビメを獲って来いとチャグムを追い出し、語り始めたトロガイ。 ウンガロニュイムは自身の卵を宿した守り人には害を為さない。 けれど「ラルンガ」という卵喰いがチャグムと卵を狙ってくる。 タンダはチャグムをどこかに隠しておけばいいのではないかと言うけれど、 卵が孵るために「宴の地」に行かなければならないのは、逃げたいのに トロガイにがっつり足をつかまれて辟易していた水の民が言ったとおり。 それは春の等しき日…昼と夜が同じ時間になる春分だろうと推測される。 とりあえずこんな深刻な話の間、私が何を見てたかというと… シロクロウサネズミがちょろちょろ動きやがってよー! トロガイの薬草覗いたりとかよ〜!ヤマビメにも頭突っ込んで食ってるしよ〜! もう画面の端っこでちょこまか可愛いんだよ!可愛すぎるんだよもー!! 一方前回禁断の書庫に閉じ込められてしまったシュガはさらに奥の彫刻された 本の数々を読み解いていく。すげー視力だな…いや、触れて読んでるのか? もしかして博士たちはそういう訓練も受けてるのかも…と贔屓解釈しよう。 シュガはそれを読み、渇きの相はそもそも100年前に生まれた現在の水の精霊が 衰えた事によって現れた現象で、守り人の命が失われたからではないと知る。 しかし暗がりで陰気な男が本を読み、一つ一つ事実を確認していくだけなのに なんでこんなにもドラマティックなんだろう。固められた地盤があまりにも 固いこと、キャラたちが魅力的で、我々にもチャグムを救ってあげたいという 思いが強い事、そしてそれを必ずバルサ姐さんはやってのけると信じたくなる 期待感などがめちゃくちゃシンプルなストーリーを勝手に盛り上げる。 恐るべき演出力…まさに神山の見えざる手で踊らされている気になってくるよ… そしてさらに本は真実を告げる。 死に逝く水の精霊は、今でも梅雨が明ける時に夕立があって本格的な夏が やってくるように、生まれ来る我が子のために夏の終わりのある日、 乳房のような巨大な雲を沸き起こして大雨を降らすのだそうだ。 周りの雲を吸い取るが如く発達し、大地に乳を吸わせるように我が子のいる村に 降り注ぐ雨。その雨の下にこそチャグム皇子がいるはずだと確信するシュガ。 その日が今日だったというのはさすがに出来すぎだけど、夏が終わりかけた今、 いつまでもここにいては雨が降ってるのやら晴れてるのやらすらもわからない。 早く確かめるためにもそこを出たい旨意思を表示すると、番人たちは聖導師が かけてしまった書庫の鍵をなんとか取り戻すと言う。 聖導師の前でよろけてうまく鍵は奪ったものの、その直前、書庫から出た際に 慌てたか扉をきちんと締め切っていなかったという失態を気づかれてしまう… 名もなき無人の体がチャグムのために捧げた献身は、長年ミスもなく、 聖導師にも信頼されていた彼の人生を壊してしまう事になった。 それですら悔いはないと覚悟させるほど彼らを惹きつけるチャグムの器こそ、 サグムが言っていた「天神の恩寵」なんだろうか。 辺境にあるタンダの村のヤクーの語り部に話を聞きに行く事に なったため、バルサたちは旅支度を整えようと水車小屋に戻る。 その途中、にわかに掻き曇った空からは激しい雨が降り注いだ。 雨宿りするバルサ父さんとタンダ母さんとチャグムにとっては 少し雨脚は強いけれど、いつもと変わらない夏の雨に過ぎない。 けれどこれこそがシュガが求めていた乳房雲の雨! ってか乳房みたいな雲ってどんなんだろうと思ったら、 まさに東洋風のうりざねタイプの乳房だったなぁ。どこかで見たことあると思ったらローマのヴィラ・デステだった チャグムが生きていると悟ったシュガは狩人に見られていることにも気づかず その生死を確かめるために馬を走らせる。この人は眼のつけ所はいいんだが いかんせん詰めが甘いというか思い込んだら一直線というか直情バカというか… そんな事を知らないチャグムは泥で汚れた足を洗いながら、父さんと母さんに 日に焼けて少したくましくなったんじゃないかと言われてちょっと嬉しそう。 体も心も健やかで、夢も見なくなった。自由に生きていいと思うと、心が弾む。 チャグムの将来の夢は、人のためになって、何かを捜し求める職業。 チャグムは学者肌だから、在野の学者として子供たちに物事を教える人も いいななんてタンダが言えば、ならチャグムが読み書きできるように文机を 買おうかとバルサが言う。ホントになんという幸せ家族なんだ…家族萌え〜♪ けれどその頃、自由に飛び立つ翼を持たない兄サグムの命は絶えようとする。 張り詰めた生活と気丈に振舞う姿は、サグムの弱い体を蝕み、侵していた。 チャグムが死んでしまったからこそ自分はこうして踏ん張っていられると言う ひどくやつれた顔の皇子に、シュガは誰よりも喜ぶだろうと持ってきた報せを 握り潰す。けれど聡明なサグムは多分、シュガが何かを知ったと悟ったのだ。 この国を、未来を託せる相手がどこかで無事に生きていると確信したのだ。 サグムは幼い頃から教えを受けたガカイに礼を告げ、これからはシュガと 共にこの国を支えていくようにと言葉を残す。聖導師の不興を買って 失脚したシュガの名を挙げる皇子に頭を下げ、ガカイは皇子の白い鳥を 大空へと放つ。追いやられて戸惑う鳥に、サグムは弱弱しく微笑み、 そして美しい大空へと去った鳥とは違う世界へと旅立っていく。 チャグムには人を惹きつける何かがある…それは余にはないものだ… そんな事ない…そんな事ないよ皇子様… だってあなたの静かな死が、こんなにも哀しくせつないんだもの… △
第十六話 ただひたすらに2007/7/21
バルササイドではトロガイが、帝サイドではシュガが動いた事で 物語が一気にクライマックスに向けて流れ出した感じがする。 それにしても青霧というのは毒霧のことだったのか。 二人の死体があった谷に向かったシュガは、豪雨の影響で毒の霧が 晴れている今こそ、チャグムが死んだのかを確かめる好機と見た。 なるほど、毒のせいで狩人ほどの手練れが下まで降りてバルサたちの 死を確認できなかったというのはなかなかうまい演出だなぁと思った。 よたよたと崖を降り始めたシュガを見て、おいおいきみは命綱もつけないで 行く気ですかいと呆れたけど、そこに現れた狩人のおかげで命拾いしたな。 まぁとはいえ彼らは聖導師の命によって後を追ってきて、捕縛された無人を 見せてシュガに覚悟を迫るわけだけど。もしもチャグムの生ではなく、死を 確認するだけだったら無人共々この谷に落とす…ジンの言葉に頷くシュガ。 バルサにこの世を生きていく賢い知恵を教えてもらいながら、代わりに 「まるで百舌の早贄だ」とおまえはムツゴロウさんかという例えを出してる その本人の与り知らぬところで勃発してるチャグム争奪戦に笑った。 相変わらずジンのチャグムへの強い思いはハンパではなく、 皇子の事を思ってるのはおまえだけじゃないんだとプンプン。 果たして、そこにあったのは馬の死体とバルサとチャグムの服だけ。 2人の泥人形に騙されたと知った一行はチャグム生存を確信する。 これでサグムにチャグムが生きているとお報せする事ができる… 嬉しそうなシュガの言葉に、狩人の顔は晴れない。 ひっそりとした皇太子の死に、母である妃、父である帝の哀しみ。 第二皇子の葬儀が終わったばかりで尚且つ帝には他に世継ぎがいない。 影響は出ていないとはいえ、渇きの相は未だ消失しない。国を思えば政を 優先せざるを得ない今、当然ながらサグムの死を公にする事はできない。 何より無人の体が静かに涙を流してるのがねぇ… これはいかんよ。ちょっときたわ。 シュガは、伝えたかったのに伝えられなかったことを悔やむ。 あの時ちゃんと言っていれば…それはサグムの決意を慮ってのシュガの 思いやりだったんだけど、私はサグムはうすうす感じていたと信じている。 シュガを見て「そなたがここに来るとは珍しい」と言ってたからね。 聡い人だからそれくらい「何か大事があった」と感じ取った事は間違いない。 でなければあんな風に安心して息をついて、安らかに逝けるはずがない。 そもそもそんな責任感のない人なら死ぬほどは頑張らないって。 シュガは狩人や聖導師に建国正史が間違いであった事、チャグムに宿った卵は サグとナユグに水の恵みをもたらす精霊のものであるという真実を語り明かす。 もしチャグムを殺していたら、サグには既に旱魃が始まっていた… 碑文を読み解き、その隠された真実を知る事こそが我ら星読みの真の仕事 だったのに、政を優先するあまり見誤ったと自らの怠慢を断罪するシュガ。 帝もまたその真実を知り、チャグムが生きているという希望を手にする。 しかもシュガは口には出さないものの、乳道雲の場所からチャグムがヨゴの どこかにいることがわかっている。となれば女用心棒の足取りを追う方が早い。 それにしても聖導師が自らの過ちを認めて謝罪するとは思わなかった… そしてシュガの正しさを認め、チャグム捜索の全権を委任させる助言まで… ごめんね聖導師様。悪い人じゃないとは思っても威厳がありすぎて怖かった。 いや〜、トーヤの店を訪れた棟梁を見て、あれ、私この人どっかで 見たことある…けど大工の棟梁なんかどこかで話に出てきたっけ? モンジンゼンの時だっけ…とちょっと考えちゃったじゃないか! シュガが希望したのは狩人の協力だった。 武人としてよりむしろ諜報に長けているという彼らはわずかな時間で 頼まれ屋として店を出したトーヤを見つけ出し、情報を奪い取る。 でも狩人の服装ではなくそれぞれ私服姿なのがなんだか可愛い。 ジンなんか後ろで髪結わえちゃってさ。 鼻を切られた浪人風のユンは、瞬間で見たものを記憶するという特技を持つ 人間コピー機だった!シュガも多分こいつを連れてあの秘蔵へ入ってれば 無人を巻き込む必要もなかったんじゃ…シュガなんか頭よさそうに見えても よく見えてなかったのかもしれないとはいえタンダの事完全に忘れてるのに。 店の顧客帳から手分けしてそれらしき女用心棒を探し出し、もし抵抗するなら バルサを殺してでもチャグムを奪還する作戦らしい。二の妃がシュガには 何も告げなかったことがここで生きてきちゃったなぁ…悪い意味でだけど。 遠い村まではかなりの長旅になるようだ。疲れてももうおんぶしてやらないよ なんてバルサにからかわれてむくれるチャグム。そのすぐ後でヘキムームでも 買っておいでとお小遣いをもらってやたら嬉しそうな表情といい、この可愛さ どうしてくれよう。でもそうか、値切って一杯買えるようになったんだねぇ… 旅という非日常への高揚感で買い物をするバルサの表情も明るく、 街の喧騒にもうすっかり溶け込んでいるチャグムも楽しそうだ。 けれど一方で狩人たちは動き出す。特殊能力もあることはあるけど、 相手の信頼を勝ち取る話術や足と知恵を使って調べ、探索する姿といい、 相変わらず緻密な設定がフィクションをリアリティあるものにしていくなぁ。 シュガはさらに碑文を読み進み、かつチャグムが戻ってくることへの お膳立てをするために宮に戻る。ところであのチャグムへの忠誠を 我が身を顧ず貫いた無人も情状酌量を認められてるといいんだけどね。 タンダからの依頼で何やら旅にでも出るような装備品を揃え、バルサと チャグムの元に自ら届けようと歩き出したトーヤ。それを密かに追うのは ゼンとユン。予告がやたら不吉だが、大丈夫、死亡フラグは立ってない…よね? △
第十七話 水車燃ゆ2007/7/28
「すまない、トーヤ…この恩は一生忘れないよ」 完全に追い詰められたかに見えたバルサが自らの機転と、自ら危機を 呼び込みながらも危険を顧みず火を放ったトーヤのおかげで逃げ遂せた。 終わってようやくぷはーっ、と息を吐いたよ。ヒヤヒヤさせるなよトーヤ! 街中でシュガとバルサとチャグムがニアミスしそうだよなと思ってたら ヘキムーム屋の親父に交渉するチャグムを見てひと目で王子とわかるシュガ。 いや、でも確信を得られないからとか言ってこのままやり過ごすのかも… と思ってたらいきなり本当にご対面! あるかもね〜と思ってた事が直球で起きると驚いてあたふたしてしまう。 「シュガ…」 その名を呼んだものの、シュガが手を伸ばしかけると後ろに後ずさるチャグム。 これまでのいきさつから思えば到底久闊を叙するというわけにもいかない。 最初、髪を切って背も伸び、日焼けしてたくましくなったチャグムを見て 言葉もなかったシュガは、裏通りに入ってようやく皇子にかしずく。 宮にお連れすると言う今までとは全く違うシュガの言葉に戸惑うチャグム。 「でも俺は…」という言葉にふと眉を曇らせるシュガの表情が細かい。 チャグムが父である帝に命を狙われ続けてきた身であるということと、 皇子たる者が「俺」などという街人言葉の一人称を使っていることの 両方について自分は不興であるということを描いてるんだろうね。 チャグムに産み付けられた卵は悪しきものではなく、水の精霊のものであり、 災いをもたらすものではないと帝も知った。皆チャグムの帰りを待っている。 でもそれは真実を知ったバルサには到底受け入れられない話。 チャグムがラルンガに狙われる事もなく、精霊の卵が自然に孵ってそのまま 無事になんでもない状態に戻れるならまだしも、トロガイの様子から見ても かなり深刻な状況である事は譲れない。しかもそれは当然軽々しくは話せない 内容だけに、チャグムに話していなかった事が裏目に出てしまう。 皇子を命がけで守ってくれた事には礼を言う…情が移ったのも無理はない。 皇子は宮に戻り、おまえには相応の褒美をとらせようというシュガの言葉を 毅然として拒否するバルサ。権力ある者に一歩も引かないこの姿は感動的だ。 バルサは情のない人間じゃない。かといって情だけで動く人間でもない。 ああ、これはよくよく考えるとすごく大事なことだなぁ… 自分への依頼を取り消せるのは一生涯チャグムを守れと依頼した二の妃だけ。 しかし今はたとえ二の妃がここに現れたとしてもそれを聞くわけにはいかない。 「サグム皇子が…亡くなられました」 短槍をつきつけられ、チャグムを連れて行かれそうになったシュガが 出したのは伝家の宝刀。これは隠しておくかと思ったんだけどな。 青ざめるチャグム。 皇太子としての激務が体の弱い兄を蝕み、眠るように逝ったのだという。 だから今チャグムが宮に戻らねばヨゴは大変な状態になろうとしている。 それ以上シュガに粘られてはチャグムの心は揺れるばかり。 賢く聡い彼の命を守るためにはやはり早く旅立たねばならない。 バルサは柄でシュガの鳩尾を直撃し、文官の哀しさ、シュガはその場に 崩れ落ちてまさに眼の前で求め続けたチャグムを連れ去られてしまう。 兄上の死以上の何があるって言うんだ! チャグムが感情の爆発をちゃんとこらえてるのがいじらしいのなんの… バルサにつかまれた手首の力のなさは「行きたくない」という意思の表れで、 でもとぼとぼと少し離れながらも駄々などこねず、ちゃんとついてくるなんて… 自分の身内、しかも仲がよかった優しい兄の死を告げられて心が乱れない はずなんかないのに、一生懸命耐えてるんだよなぁ…けなげだなぁ… そんなチャグムに事情は後で話すと強い語調で反論を許さないバルサは 旅支度無しでこのままトウミ村に向かう事にし、かつ単身で地図を取りに、 いまや狩人たちとトーヤが攻防を繰り広げている水車小屋に戻ることにする。 一方心配そうにチャグムを見守るタンダはそのまま何も言わずにチャグムと 合流地点に向かう。この時のタンダのお母さんぶりが可笑しくて仕方ない。 ここでもしタンダが本当に男役、つまりチャグムの父親役だったら、 チャグムに真実を話すのは当然タンダだと思うんだよね。 なのにしない。バルサ父さんの言うことは絶対なわけだ。 だって封建厳しき家長制時代なら、お父さんが「後で話す」っつってんのに お母さんがでしゃばって先に話しちゃうなんて絶対しないはずだもんね! あーもうタンダ可愛い!結構なおっさん28歳なのに可愛くて仕方ない。 さてトーヤは荷物を届けに水車小屋に赴いたものの、バルサたちは当然留守。 いつもは街っ子でもたまに来るならのどかな田園風景もいいものだ。 しばらくのんびりしたものの、いつまで経っても2人が帰る様子がない。 そこで勝手ながら中に入って待つ事に… その間にゼンとユンは周囲に聞き込み、水車小屋に住んでいるのが女と子供だと つきとめる。いやぁ、大工の棟梁姿のゼンはともかく(このあたりで修繕の依頼は ないかなんて言いながら世間話ができるもんね)ユンがあの傷も恐ろしい、こんな 田園風景には明らかに浮きまくる面相でどうやって聞き込んだのか知りたい。 ニコニコして聞いたのかしら…ああ、サイトーやパズがやると思…お、思えねぇ 見張られている事、しかもその1人が棟梁だった事を知り、動けないまま夜を 迎えてしまったトーヤ。またヘタを打った…その上その無駄な時間は、ユンが 頭領たち狩人全員に情報を伝える時間までも作ってしまうという失態まで。 それにしてもジンがチャグムの事になると熱くなるってのは狩人の中でも 有名な話だったのは微笑ましい。ユンなんかポンと肩まで叩いちゃって… あれ、もしかしてこの人、強面のくせに結構優しい人なんだろうかね? それにモンは何かとシュガに反発するジンに、シュガが考えの深い人物と 悟らせたかったのかもと思ったんだけど、それは完全に裏目っちゃったなぁ。 ジンはヘロヘロになったシュガがチャグムを見つけながら眼の前でみすみす 連れ去られたと知り「コイツ超使えねー!」という雰囲気アリアリで吹いた。 もう俺が探すからおまえは勝手に帰れと言わんばかりだったもんなぁ。 囲まれた水車小屋でトーヤが思うのはただ1つ、バルサに危機を知らせること。 遠目からわかるどでかい目印のため、トーヤがやったのは火を放つ事だった。 バルサとチャグムが過ごした水車小屋が燃え落ちる…恵みをもたらしてくれた 夏は終わり、穏やかな時を追え、激動の中へ転換していく現れなんだろうか。 燃える小屋から転がり出たトーヤはモンたちに囲まれて剣を突きつけられる。 駆けつけてきた村人たちに姿を見られないよう狩人たちはトーヤをさらうか 置いていくか詮議し、バルサがそんなヘマはしまいと買いかぶって置き去る。 ホントは地図が置きっ放しだったからトーヤは行き先を知ってたのにね。 命が助かった事よりも自分の失態が全てを悪い方へ向けてしまった事に 悔し涙を流すトーヤ。でも既に危機が迫っていたと知っていたバルサも 火事のおかげで身を隠せたし、今すぐに出発するという判断が間違いでは なかった事もわかったはず。何よりあのままトーヤが死んだりしたら 残されたサヤの悲しみは計り知れないんだから、これでよかったんだよ。 △
第十八話 いにしえの村2007/8/4
水の精霊が代替わりする時、旱魃の予兆が現れて水が失われる。 精霊の卵を宿した者は大切に守られ、春の等しき日、導かれるように1人旅立つ。 人々はその後を追い、そして彼がある泉のほとりで卵を孵す準備を始めるのを見た。 けれどその時、人の目には見えないラルンガが現れて、 その爪で精霊の守り人を真っ二つにしてしまうのだ… ニムカが語った100年前のニュンガロイムの代替わりに隠された秘密を知った チャグムは、まるでその身に宿した精霊と共に怯えたように恐怖に引きつり、 そしてバルサの元に倒れこむ。俺もそうなるのか…俺も死ぬのか… チャグムはこの旅の意味を、バルサにとってもタンダにとっても、 チャグムの兄の死よりもずっとずっと深刻で大切な目的を知る。 「あんたを背負ったら、タンダの荷物は誰が持つんだい?」 疲れきってよろけ、膝をついたチャグムに背中を差し出しておぶってやると 言うタンダ。おお、珍しくお父さんしてる!?…と思ったけど、やっぱり バルサ父さんの叱咤に、チャグムを庇って「そんな言い方しなくても…」 と言ってしまうめっちゃ優しいお母さんでした。ちなみにもしチャグムを おぶってもタンダの荷物はトロガイもバルサも持たなかったと思うなぁ。 この雰囲気をさりげなく変えたのがトロガイだったのはよかったなぁ… 道を間違えた、なんて唐突に言うから、さては休憩タイムを入れる気だなと 思ったら案の定。幼いチャグムの体力を慮って近道を探し、ついでに食い物を 獲ってきて流れは変わる。ちくしょうババァめ、やっぱすげぇよあんたは。 トウミ村にはタンダの祖父母が住んでいるという。 正確にはその村の出身は祖母だけらしいけど、チャグムより小さい頃、 爺さんに連れられて行ったきりなので道順が怪しいらしい。 バルサが自分たちの行き先を隠蔽するために地図を取りに戻ると言った時、 道順自体はなんとかなると思うがと言ってたけどそれも怪しいんじゃん! 疲れきって眠るチャグムを起こさないよう外に出た2人が静かに話をする シーンは、2人ともチャグムについて心底心配していることが伝わってきた。 宮に一度帰りたいと言うチャグムの訴えをバルサは有無を言わせず却下。 でも旅の途中で話すと言った約束を果たさず、内容を語ってくれないことに チャグムが苛立ち、怒りを抱え込んでいく気持ちもよくわかる。もちろん その内容はとてもじゃないけど厳しい旅の最中に「今日のご飯は何にする?」 なんて気軽さで話せるような内容じゃない。バルサもタンダも辛いところだ。 トロガイが近道を見つけた頃、それを追う狩人たちも動き出していた。 戻ってきたモンたちにシュガがチャグムを発見した事を説明していると 後を追ったジンが何の手掛かりも見出せずに戻ってくる。 「すまない、私がふがいないばかりに…」 まったくだとジンが言い出すんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、ジン自身も 街中駆けずり回って何の手掛かりも得られなかったのでここはイーブンかな。 ゼンが持ってきたトーヤがバルサに届ける予定だった旅支度から行き先を 推測するため、相変わらずああでもないこうでもないといたって冷静に 話し合うのがなんとも微笑ましい。旅の荷物から旅程は3日程度、青霧を 超えられるほどの重装備ではない。北はないとしてもまだ3方もある。 その時シュガが気づいたのは、自分以上に皇子の宿す卵について知識を 持っている様子だったバルサは、この地に古くから住むヤクーの知恵を 借りに行ったのではないかということ。潜伏先付近にもヤクーの村があり、 もともと彼らにはヤクーの協力者がいたのではないかという事だった。 不思議な業を使うヤクーの呪術師がついているなら、青霧の泥人形も 納得がいく…狩人たちは手分けして東を中心に各地の情報収集に当たる。 モンとジンは街道の始発点でバルサやチャグムらしき人影を見たと聞き、 東の道を進む。シュガは足手まといだから残ってろゼンたちが来るまで 待っているよう言われて体よく追いてきぼりになってて笑った。 近道はどうやら本当に近道だったようで、バルサがふと現れた気配を追うと、 それは色の浅黒いヤクーの少女だった。短槍を向けるバルサに怯えながら、 ふと「クンダさん?」と謎?の名を呼ぶ少女。彼女はタンダのじーさんの 知り合いだった様子で、タンダはクンダじーさんにソックリとか。 道切りの鳥の骨?の暖簾を思いっきり鳴らすチャグムの苛立ちは頂点に。 そりゃそうだ、結局何もわからないまま目的地に着いてしまったんだから。 今ならさながらテーマパークにでもなりそうな古いヤクーの村では、色の白い チャグムや、ヨゴ人ですらないカンバル人のバルサの姿は珍しいらしい。 もてなされ、旅の目的を語って語り部に会いたいと願ったものの、 語り部だった村長の母が一年前に亡くなってからは、それを継ぐ者は いなくなったのだとか。子供に一日中伝承を覚えさせるのは不憫だし、 今は一億総モンキー化を図るモンキー科学省の学習指導要領建国正史も ありますしと、どこぞのゆとり教育推奨者みたいな事を言ってトロガイを 嘆かせる村長。ニムカが語り部のところに通っているうちに自然と覚えて しまったというのは子供の記憶力は桁違いに驚異的だという皮肉だろうなぁ。 卵を孵すために旅立った精霊の守り人は帰ってこない… 真実を知ったチャグムはどうするのか。残された方法はもうないのか。 △
第十九話 逃亡2007/8/11
「親に刃物を向けるとはどういう了見だっ!」 えええええええ?行きたいなら私を倒していけって言ったじゃん! …な〜んて子供の理屈が通用しないのが親なんだよね。 親が子供を叱る時は絶対に感情で「怒って」はいけないと思う。 あくまでも「叱る」こと。それはしつけの1つだから。社会訓練の1つだから。 命に関わる危険を冒した時は叱る。ごまかすための嘘をついた時も叱る。 やるべき事を怠けた時も叱る。「叱られた理由」をちゃんとわからせる。 理不尽だと思ったって、親が子供を「きちんと叱る時」はやっぱり正しいし、 正しくあるべきだと思う。そうでないと子供には善悪のメリハリがつかない。 幼児・児童期にしっかり叱られて、思春期に入ったら少しずつ自分の価値観を 構築すればいい。親の常識=世間の常識とは限らないと修正するのもこの時期。 育つにつれて情報がたくさん入ってくるので、それを選別する能力を培うため たくさん学び、本を読み、考える事が大切とわかれば怠けてる暇なんかない。 大人になる段階はとても面白い。大人になってからも自力修正は十分利くし、 ある年齢に至ったら自分で自分を厳しくしつけなおすのもこれまた一興だ。 人生は楽しむ気持ちさえあればいつだって楽しいんだよ。 チャグムを寝かしつけ、何か対策はないのかと語り合うバルサたちだけど 知れば知るほど事態は深刻になっていくばかり…地面から何本もの爪とか、 産み落とされた卵をナユグの海まで運ぶサグの鳥が少なくなってるとか… 日本だって水の精霊の卵をトキが運ぶなんて話なら渇水間違いなしだよ。 目覚めたチャグムはおちおち眠ってもいられなかった様子。 聡い子ゆえに、自分が死ぬこともしっかりイメージできてしまうんだろう。 そして事態がどうやらにっちもさっちも行かない状況であることも… バカだったらここまで悩まない。なんとかなるだろうと最後まで思ってるよ。 決して非があるわけではないのに、自分の言葉がチャグムに死刑宣告を してしまったと罪の意識を感じるニムカは、チャグムの寝所を訪れる。 チャグムは宮へ帰ると言う… どうあがいても死からは逃れられないなら、いまや敵ではなくなった 懐かしい我が家で、父と語り、母に慈しまれて最期まで心穏やかに 暮らすのもありかも…だってチャグムはわずか10歳足らずなんだもの。 ニムカはチャグムのその言葉を聞いて連れて行ってあげると答える。 死んでしまう可哀想な皇子さまがやりたいと思うことで力になれるなら、 少しでも尽くしてあげたいという、彼女なりのささやかな贖罪でもある。 ヤクーしか知らない道を行く事で3日かかった道を2日で行く事が出来る… そしてもちろんそんな子供の浅知恵が海千山千のバルサ姐さんに見逃して もらえるはずもなく、静かに走る山猫のようにバルサは2人を追っていく。 一方狩人たちの方は足の遅いシュガを連れているとはいえすでにトウミ村の すぐ近くまで来ていた。ジンたちを斥候につかわし、村の様子を探らせる。 ジンやタガたちが様子を見て、朝になったら畑仕事に出る人に話を聞く… はずだったのに、全員出てきたので吹いた。ギャグ?なにそれギャグなの? 気もそぞろにニムカに手を引かれて走るチャグムは、まるで一番最初に 眠さで朦朧としながらバルサに手を引かれて逃げた時のチャグムそのもの。 認めがたい現実と、どうして俺がという怒りと不満、そして何より恐怖… それがいつもの賢いチャグムの心を曇らせてしまう。 チャグムが何かを見たというものを我々視聴者には見せない演出もいいね。 チャグムはいまやあの恐ろしい堂々たるナユグと、穏やかで優しいサグを繋ぐ 架け橋だから、その身に何が起こってもその眼に何が映っても不思議じゃない。 バルサはオレの親じゃないから、俺の苦しみなんかわからない! このセリフ、聞くバルサも辛かったろうけど、言うチャグムも辛かったろう。 この一言を言うことで関係が断ち切れるかもしれない…でもその最後の砦を 崩す言葉を口にしなければならない瞬間って、人生には何度もあるものだ。 それを経験すると、人との関係は脆く弱いと思い知る。だから試したくなる。 どんなに賢い子供でも、感情が未成熟で知能が発達しきってない以上、ひとたび 崩れてしまうと言いたい事がプリミティブに飛び出し、駆け引きがヘタクソだ。 子供が持つのは自分を大切に思って欲しい、一番愛して欲しいという願い。 子供は1人では生きられないので、本能的に庇護を求めるからだろう。 賢い子ほど大人びて見えるのは、大人はそんな事をしないし、そんな事を する事は恥ずかしくみっともないと知っているからであって、決して愛情を 必要としていないわけじゃない。だからこの願いを持たない子供なんかいない。 見ているこっちは年齢も立場もバルサに近いわけだから、子供にこういう 真っ直ぐな問いをぶつけられたら一体どう答えるのかと気が気じゃない。 精霊の卵の方がチャグムより大切ということはないけれど、卵がなければ 国は滅ぶわけだし、チャグムの親じゃないことも揺るぎない事実だし… バルサはチャグムと卵のどちらも大切だと答える。 でもそれは子供には納得できない。親にとって自分は命にも世界にも匹敵する、 それら全てを凌駕する大切で尊くて何物にも替えがたいものでなきゃいけない。 我がままで傲慢でエゴ剥き出しのこの原始的な欲望の素直さよ!! バルサは短槍を乱暴に投げる。手渡しなどしない。 それで私を突いていけ。私はおまえの願いを叶えない。行かせはしない。 私が絶対に退かないことはよく知っているだろう。だから自分でどかすがいい。 チャグムは震える手で短槍を持ち、そしてバルサの言うとおり刃を向ける。 宮へ帰れば優しい母君とシュガが守ってくれる…怖い思いをしなくてもいい… バルサがいくら強くても、見えない敵に勝てるわけがないじゃないか! それが本音か。本当はバルサを信じたい。けれど現実が立ちはだかる。 チャグムは定まらない切っ先をバルサに定め、眼を閉じて突進する。 チャグムに選択を任せながら、選ばせない。 道は初めから1つしかないのだから選ぶ必要などないのだ。 皆がおまえを守ろうとしているのに、おまえが逃げ出してどうする! バルサは短槍を脇で止め、チャグムが吹っ飛ぶほど平手で打つ。 バルサならグーで行くかと思ったけど、それでもあの威力だからなぁ… トロガイやタンダが眠ってしまっても、一睡もせず前を向いたままだった バルサの姿が、おまえを守るという言葉に心強さと温かさを加えてくれる。 チャグムはバルサがチャグムに何も言わなかった事に食いついて責めようと したけれど、それだって内容を知った今なら無理からぬことだったとわかる。 表情にも言葉にも出さないけれど、バルサがどれほど心を痛めていたか… そしていずれはそれを知ることになるチャグムのことを想っていたか… 麻吹さんの震える声、安達くんの泣き声と完成度の高い声の演技が加わり、 チャグムの打たれた頬、互いの心を引っかきあう痛みを感じるシーンだった。 トウミの村ではついにシュガとトロガイがあいまみえる瞬間が! タンダも目立つ風貌のシュガに気づいたし、さてここからどう動き出すのかな。 とりあえず帽子の中で動き回るシロクロが可愛すぎて相変わらず目が離せない。 △
第二十話 狩穴へ2007/8/18
トロガイ師とシュガの情報交換はトロガイのハッタリ勝ち。 こういう食えない「亀の甲より年の功」は、年食ってる側から見ると痛快だ。 まぁ精霊の真実に辿り着いたのも遅かった上に、実際に卵食いのことまでは 星読み博士たちは知らなかったので、隠蔽されていた膨大な量の書物より ヤクーの伝承の方が情報としての価値は実際には上だったんだけどね。 チャグムは卵が孵るその時、眼に見えず、どこから来るかも知れぬ卵食い ラルンガに引き裂かれて命を落とす…トロガイが語った衝撃の事実に シュガも狩人も言葉がない。特にこの事実をつかんでいなかったシュガは さりげなくところでおまえたちはどこまで知ってるんだ?と探るトロガイの 術中にはまり、結果的に何も知らないことをさらけ出すあたりは若いなぁ。 それでもジンにはこのままヤクーに皇子を預ける事が納得いかない様子。 力づくでもチャグムを連れ戻そうとするジンを諌めたのはシュガだった。 残された書物を急ぎ読み解き、皇子を救う手立てを考えなければならない。 ちゃっかりトロガイの手の内で転がされているとも知らず、一行は村を去る。 それにしてもシュガも律儀だなぁ。タンダのことをちゃんと覚えていて、 あの時のカマキリの話がなかったら今私はここにはいないなんてさ… それに眼の前でみすみすサグムの死を看取らねばならなかったガカイに 助けを求めるあたりも…当然その職務を解かれ、すっかり腐っていた ガカイは碑文読解という新たな使命を与えられて再生するんだろうか。 この時チャグムを連れたバルサが戻ってきたら台無しだったなと思うけど、 たとえ戻ってきてもバルサがそんな無防備にズカズカ入ってくるはずもないか。 村に戻ってきたバルサたちを、ロング視点のままで捉えるのが映画みたいで すごくよかった。台詞はない。でもその動きや構図からバルサがトロガイから 何があったのか聞いてるんだなとか、勝手な事をしたニムカを叱ろうとする 父親とそれを止める母親、そして叱らないでやってくれと頼むバルサ… 何も聞こえてこないのに状況がわかる。覗き見も読唇術も必要ないっつの。 ニムカはただ、集めた蜜をチャグムに渡して無事を祈るしかない。 そして村人たちは皆、重荷を背負って去っていく精霊の守り人に敬恭する。 でも孤独の中で悲しみと苦しみを抱きしめるチャグムには今は何も届かない… 馬で宮に駆け戻ったシュガの後ろに見える空が高くて確かに秋の雲で、 かつ山に分け入っていくバルサたちの眼の前には里よりも早くやってきた 秋の気配と美しい紅葉が拡がる光景が実に素晴らしい。秋はやっぱいいよねぇ。 狩穴というのは、トロガイとタンダが見つけて冬篭りのために手を加えた 洞窟のことだった。なんだか広すぎる「玄関」、入り込んで迷ったら戻って こられない迷路の洞窟の奥、泉、食糧を溜め込む部屋と居心地のいい住まい。 「大草原の小さな家」だとか自然の中に生きる物語でもそうだけど、 冬ごもりの支度のシーンというのはどうしてこんなに心が躍るんだろう。 華やかで明るくて何の心配もいらない夏よりも、暖かくなっていよいよすべてが 動き出す春よりも、これから暗く長い冬がくるから急いで支度をしなければ…と 慌しく時間と戦う秋のめまぐるしさを描かれると本当にたまらないものがある。 バルサとチャグムは川を上ってくる鮭を獲り、燻製にするために下ろしていく。 真っ白い霜が降りた森では仕掛けた罠にかかった大鹿の皮を剥いで解体する。 やり方は野うさぎと同じだという事は当然そのやり方を習ったって事だよね… 生き物が好きでその生態を邪魔してはいけないというチャグムだから、 人は彼らを殺して食うという行為についてもちゃんと理解してるんだろう。 魚の腹を裂いたり牛を殺すのはいいけど、ウサギやクジラを食べる食文化の 人たちにまでウサギは可愛いからダメ、クジラは賢いからダメという理論は、 まぁ感情論としてわからなくはないんだけど、やっぱりおかしいんだよね。 それにしても着物の裾をまくりあげて勇ましく河で鮭を罠に追いやるバルサと 干すために柿に縄をかけているタンダ、鮭のさばき方をチャグムに教える バルサと、それを見てお茶でも入れようかと立ち上がるタンダって… い い 嫁 だ … !(涙 以前のようにシャンと背筋の伸びえていたチャグムに戻してやらなきゃ… バルサは余計な事は言わないけど、常にチャグムの様子に心を配ってる。 トロガイもまた子供に甘い事など言わないけれど、注意深くチャグムを 観察しているようで、さらに気配りのタンダもまめに世話を焼いてるようだ。 「ジグロ…帰ってきたよ」 バルサがこの狩穴にやってきたのはジグロが死んで以来初めてなのだとか。 思い出があるのか、外の木の幹に手を当てて眼を閉じるバルサ。 チャグムはアカギレに薬を塗ってくれるバルサに問いかける。 ジグロというのは、バルサを育ててくれた人のことか…? そう、そして私の命の恩人でもある。 ジグロがいなければ、6歳のあの時、バルサは死んでいた… 「俺はなぜ、王の槍を捨てたのか」 うわぁ、予告ナレーションがジグロだったのか! これが今回一番鳥肌が立ったわ! △
第二十一話 ジグロ・ムサ2007/8/25
「おまえにも…守るべきものができたか」 カルナ・ヨンサが娘を託した相手は英雄ジグロだった。 貧しく厳しい気候のカンバルでも争いはやまず、人は人を傷つける。 早くに母を失くしたバルサは、王の主治医を務める父と二人暮しだった。 穏やかで優しそうな父のもと、バルサは母がいなくても幸せだったようだ。 けれどそんな父カルナに王弟ログサムは臥せった王を殺すように命じていた。 従わなければ娘を殺す…その脅しがどれほど彼の心をえぐるかを知り尽くし、 ログサムはカルナをのっぴきならない状況まで追い込んでいた。 大体こういう輩の約束が果たされる事なんてないと思ったほうがいい。 王が死ねばカルナに王殺しの罪をなすりつけて殺す事は間違いないし、 娘も遅かれ早かれ命を奪われる事は必然。カルナは愛する娘の顔を 見て抱きしめずにおられないほど憔悴し、それでも王に毒を盛る… カルナは王宮の中で最も信頼のおける友人であり、「王の槍」筆頭である ジグロに事情を話す。娘には何の罪もない…だから連れて逃げて欲しいと。 友人の頼みとはいえ、王を守るべきジグロがそれを聞くわけにはいかない。 ジグロは断り、カルナもそれ以上は何も言わずに重い足取りで去っていく。 バルサの語りがメインで、けれど重要な会話は各人に語らせるという王道的な 過去回想の物語。神山監督があちこちのインタで「ジグロという男をしっかり 描きたい」と言っていたように、全体的に重厚で丁寧な作りになっている。 「王の槍」というのはカンバルを構成する9つの種族から選ばれた精鋭から成る 近衛師団のようで、ジグロは中でも最も若くして選ばれた武術の天才だった。 ジグロは顎にヒゲを生やし、大柄で寡黙、眼光鋭いまさに武人らしい武人。 ただジグロは「王を守るべき者」なので、たとえ友人とはいえ「王を殺そうと する者」の話を聞いて黙ってるというのはちょっと不自然な気もしたけど… ログサムは確かに憎たらしいほど頭の切れるヤツらしく、カルナがそろそろ 最後の毒を盛れば王が死ぬことに感づいたのかバルサに刺客を放ってくる。 父が帰ってきたと勘違いして裸足で飛び出してきたバルサの眼の前には 覆面をした怪しげな兵士が2人…今のバルサならこの程度敵でもないけど この頃は何しろ無邪気で無力な可愛い女の子でしかない賢そうで可愛いよ そんな危険な局面に現れたのはジグロだった。 一度は断ったものの、単に様子を見に来ただけなのか、カルナの言葉に 心動かされたのか…とにかくジグロはバルサの手を引き、カンバルを出る。 裸足のまま、本当に着のみ着のまま…それは母に抱き締められて別れを告げ、 バルサより5歳も年かさだったチャグムよりずっと過酷な逃避行だったろう… 追っ手はすぐにやってきた。 その王の槍の1人は、前々からジグロと真剣勝負をしたがっていた。 もしかしたらそれはジグロとて同じだったのかもしれない… 武人としてどちらの力が上なのか、一度ハッキリと決着をつけてみたいと 心のどこかで突き動かされるものがあったのかもしれない… けれど一方でそれは、この闘いが自分のためではないと思いたいバルサの 勝手な願望だったのかもしれない。いつだって真実は推測しかできない。 どうやらジグロが自分を差し置いて筆頭に選ばれたことが気に食わなかった この最初の男だけど、バトルを見る限りではジグロの敵ではなかった。 ジグロはこの男が向かってきた瞬間、短槍を滑らせて刃先を短く持ち、 見事相手の右腹部に突き刺した。血管だらけの肝臓はまさしく急所。 バルサと刀鍛冶との出会いもこの頃だったようだ。 今よりは少し若かった彼はけれど頑固で、折れてしまった短槍の先を 打って欲しいと頼むジグロの言葉に、なかなか首を縦に振らなかった。 それは第8話で刀鍛冶自身がモンとジンに語ったことであり、もしかして バルサもあの時初めて聞いた事だったのかもしれない…この時のバルサは 2人の会話が耳に入らないように聞こえないふりをしていたようだから。 それにしてもこれまで武術しかなかったような喋らない無口な男と 暮らす日々は、バルサにとってもかなり大変なストレスだったろうな。 そんな風に事情がわからないままに次の追っ手が二人の前に姿を現し、 それがジグロの親しい友だったと知ったのは彼を殺してしまったジグロが うなだれて涙を流す姿を見たその時よりずっと後のことだったようだ。 第3話で早々と見せてもらった壮絶な超人的バトル、その相手だったのは ジグロが最も親しくしていたタグルという王の槍の1人だった。 穏やかで争いを好まぬ男が遠いヨゴまで二人を殺そうと追ってきたのは妻子を 人質に取られていたから。無言のまま襲い掛かるタグルとは闘いたくないと 思っても互いに守るべきものがある以上、引く事は出来ない。 最初の大口の男とは違い、恐らくはムダに力を誇示しようとしなかったであろう タグルの強さは凄まじい。雨、泥、夜…瀕死のバルサが思い出すほど、記憶に 深く刻まれたこの闘いは本当にすごい。切っ先をかわしたと同時にその一瞬の 隙を突いたのは、短槍の長所も短所も知り尽くしているからこそだろう。 「あの時、心に芽生えた憎しみは今も心の奥にしこりとなって残っている」 カンバルから来た商人から父が殺されたことを聞いたバルサは泣き崩れ、 ジグロもまるで大人に話すようにすべてを語って聞かせてくれたのだという。 武術を習いたい…いつかログサムに復讐するために…けれどそんなバルサの 願いは拒否され、バルサは独学でジグロの闘いを吸収していくことになる。 やがて隊商の用心棒をしながら金を稼ぎ、情報を仕入れる生活が始まり、 小さなバルサは男所帯では人気者で、ジグロの戦いぶりをトレースして 演舞として見せたりして明るい笑顔を取り戻しつつあった。 「どうしてそんな事をしたんだ?」 ところがその演舞に怒ったジグロにバルサが引っ叩かれたことについて、 チャグムがジグロは何で殴ったんだではなく、バルサがなぜそんな事を したのかと尋ねたのは驚いた。 教える事を拒否されたのに、こっそり練習し、しかも遊び半分の気持ちで 少し得意気に、結局はジグロを困らせてやろうとしたのかもしれない… チャグムにとってはバルサのその行為は子供っぽい顕示欲に満ちた、 親の気を惹こうとする幼い行動に思えたのかもしれないなぁ… 「なんせ何にも話してくれない人だったからね」 ここですごくよかったのは、チャグム自身が何も話してくれなかったバルサを 試そうとして引っ叩かれた頬の痛みをなぞるようにそっと左の頬をさすった事。 親に見て欲しい、大切にして欲しい、愛されたい気持ちは子供なら皆同じ。 そうして育ってきたバルサだからこそ、チャグムを我が子と思って育て、 優しく接し、厳しく叱ることに対して手を抜かないとわかったかな… 女が武術を覚えても大した力にはならないと言っていたジグロだけど、 本当はバルサには血塗られた修羅の道を歩かせたくなかったから。 けれどバルサに武術の才能があることと、やがて来る自分との別れの後も 身を立ててやっていけるように武術を教え込む事が大切だと思ったようだ。 それでもホントにジグロは慎重で用心深い男だったらしく、10年間は穏やかで 静かな暮らしが続いたんだね。けれどそれもついに終わりを告げる日が来た。 雪山でジグロを待ち構えていたのは残る6人の王の槍。王の槍をこんなに長く 放っていていいのかと思うけど、恐らく王になったであろうログサムはきっと もう自分の王の槍を組織してて、前王の王の槍なんかどうでもいいんだろう。 こんな不毛で意味のない戦いをする意味がないと語るジグロの言葉は彼らの 耳には入らず、バルサの眼の前で男たちは雪煙を上げて遠ざかっていく… 自分の子を守るためなら、多分ほとんどの親ならば全てを捨てて戦うことも やぶさかではないだろうけど、何しろジグロときたら武術バカのチョンガー。 それがいきなり国と地位を捨て、女の子の父親になって昔の仲間と闘うって… そういえば医師であるカルナ・ヨンサの穏やかで優しそうな雰囲気が、 今回チビの頃の姿も見せてくれたタンダに似ているのがなんとなく嬉しい。 あとトロガイ師はウサネズミ飼い過ぎだっつの!帽子一杯だっつの!!可愛すぎる △
第二十二話 目覚めの季2007/9/1
「別れよう…」 いくらなんでも他に言い方があるだろというストレートさがバルサらしい。 言ったバルサも言われたジグロも同じくらい寂しそうな表情なのが印象的。 バルサにとって自分がチャグムを守るように誓いを立てていたわけでもない ジグロが自分を守ってくれる事は、親友の頼みだったということ以外には 他に何も思い当たる節がない。むしろ過去の栄光を失い、逃亡者に身を落とし、 用心深く警戒しながら生きなければならない。自分はジグロの枷でしかない… そう思ってしまうのはバルサがちょうどそういう年頃だったからだろう。 不安定な思春期というのは厄介な自信とアホらしい不安で一杯だ。 新陳代謝が活発で垢まみれなのは体だけじゃなく、精神も心も臭くてたまらん。 朝起きた時は自分には世界に比類なき絶大な価値があると思って晴れ晴れとし、 夜眠る前には自分には虫けら並の価値すらないと布団の中で勝手に傷ついてる。 自分が確立されていないから相手の評価と相手を試す事でしか自分を測れない。 世間はそんなちっぽけなものなど気にかけもせずに流れているというのに。 ジグロはこの暮らしもバルサも気に入っていると呟く。 それは無骨で感情を面に表さないジグロの精一杯の愛情表現。 むしろこの年頃の子供に対して、親はこんな風にはっきり言えるだろうか。 そうは言われたものの、負い目を感じ続けたバルサはやがてジグロの 元を離れ、ジグロが病に倒れる日まで別々に暮らしていたようだ。 親の心子知らず。そしてやがて子を持って知る親の恩…かな。 雪の中、かつての仲間だった6人の王の槍を殺し、身も心も傷ついたジグロは 彼らと共に魂を失った。だからきっと、ろうそくの火が静かに消えるように その5年後に病に倒れ、息を引き取ったのだ。張り詰めた筋肉も、生命力に 溢れる武人のオーラも失い、まるで老いた父がひとり立ちする息子娘に 後を託すように、穏やかな笑顔を見せて… チャグムもまた若き日のバルサ同様、ジグロがどんな思いでバルサを守ったのか 知りたいと願い、そしてその短い彼の人生そのものをもって教えたことこそが バルサに息づいていると知り、かつ自分自身を奮い立たせる原動力になる。 バルサはジグロが殺した8人の命を弔うため、8人の命を救うと誓いを立てた。 バルサにとってはそれがジグロに捨てさせてしまった人生へのせめてもの 罪滅ぼしと思っての事だったけれど、肝心のジグロからは、そんな事をして おまえは英雄にでもなるつもりかと言われてしまう。英雄なんてものは、 たとえ祀り上げられようとも所詮は人々の生贄でしかない…WA2? 親にとっては子供がそんな胡散臭い英雄になることより、本当の幸せを 見つけてくれる方がいいに決まっている。 「人助けなんて気を張ってするもんじゃない」 眼の前で自分より弱いものが殺されかけていたから救っただけ。 同じ場面を見ても救うことが出来ずに悔しい思いをするもの、そして抗う事すら できずに踏みにじられるものもいるのに、自分にはそれを救うことができる。 ならば、ただ見ているだけではいられなかったというのが恐らくはジグロの 本心だったんだろう…そうバルサが気づいたのは、自分もまたチャグムを 守って生きる事を決意し、共に生活してきたからこそ。そして今は明らかに チャグムに深い愛情を感じ、死なせたくないと心から思っているからこそ。 母性だって父性だって、恐らくは元々人の中にあるものだけが全てじゃない。 小さなものをいとおしい、守りたいと思う心に自らが気づき、育てていくこと。 生きる事全てが努力だと思う。持っているから当たり前なんじゃないよ。 もし誓いがなかったならあの時、自分は二の妃の願いを断ったろうか… バルサがそう考えなかったはずはない。しかしそれは愚問中の愚問。 ジグロに育てられたバルサにそれができるはずはない。 そしてジグロにとって捨て去った過去に匹敵するのは、バルサとの 穏やかな日々の積み重ねだったということも今ならわかるだろう… だからタンダのぎこちないプロポーズに心揺れないはずがない。 それにしてもトロガイの気の利かせ方は反則じゃないのか!? 最悪の場合、チャグムにとってはこれが最後の日々になるかもしれない。 ならせめてお父さんバルサとお母さんタンダと、穏やかで優しい日々を 過ごさせてやりたいと思うまさしく老婆心…くそ、ミエミエなんだよババァめ! おまえなんか温泉でもっと元気になって寿命の残り半分生きればいいんだ! チャグムは短槍に見立てた杖でバルサに武術を習うという。 自分と精霊の卵を守るためにラルンガと戦う。それがかなわずたとえ 自分が死んでしまっても卵だけは無事に孵してやらなければならない。 だって俺は、精霊の守り人なんだから… もう迷いはない。自分に出来る事があるならやるだけ。 誰もが必ず誰かに守られてきたように、チャグムにも守るべきものがある。 それはとても残酷だけれど、今それができるのはチャグムだけなら仕方がない。 怯えて逃げても結果は同じならば、戦って抗って立ち向かう方がいい。 バルサは以前のようにチャグムを抱きしめ、必ず守ると約束する。 同じ事を言われても信じ切れなかったあの時は力なく抱かれるだけだった チャグムもまた、その意思を受け入れるようにバルサの体に腕を回す。 永遠に続けばいいと願うこの特別な冬も、やがて徐々に春めいてくる。 チャグムにはトロガイが言ったようにバルサほどの武術の才能はないようだけど 修行には毎日真面目に取り組んでいたようだ。 そしてまたトロガイがタンダを置いていったのは2人のおさんどんを させるためだったんだなぁとつくづく思うタンダの見事な嫁っぷり。 疲れて眠るチャグムを優しく見守るバルサを見て、ジグロみたいだと 言ってしまうあたりが「おまえ父親、俺母親」と認めたようで吹いた。 3人で暮らしたこの冬は、とても楽しかった… でも春は近づいてくる。春になれば卵は孵る。そしてラルンガがやってくる。 また修羅場になるね…槍を直すバルサは表情を曇らせ、薬草を作る手を止めた タンダは言葉を選んで言う。全部終わったら、このまま3人で暮らさないか… ああ、それは「俺を嫁にもらってくれ」ってことかな? ずっと待っていたけど、このままじゃおまえはちっとも気づかない。 修羅場が日常になってしまっているから穏やかな暮らしができないのかも しれない…けれど、こんな風に3人で静かに暮らすのも悪くないだろう? それは、とても難しい…何か、つける薬はないかい? バルサは何も答えられなかった。ようやく答えたのはまたそんな不器用な… その薬を俺だと思えないなら、待ってもムダだな…タンダはそのまま出ていき、 今はチャグムを守る事で心が一杯のバルサは悩ませるなと落ち込んでしまう。 1つの大事を抱えている時に限ってまた大事は起きたりするよねぇ… 寝たふりをしていたチャグムも2人の会話を聞きながら複雑そうだ。 でもそのチャグムにもいよいよ眼に見えた変化が起き始める。 ある朝叫び声を聞いて駆けつけたバルサは怯えたように立ちすくむチャグムを 見て思わず後ろから抱え込む。チャグムに触れたことでバルサにもどうやら チャグムが見たものが少しだけ見えたようで、そこにあるはずの地面がなく、 険しい谷底が拡がっていた。さらに襲い来る巨大なハチ。ここはナユグだ。 怯えて半狂乱のチャグムとどうすることもなく抱きしるだけのバルサに、 タンダは落ち着けと声をかける。ナユグに引っ張られているんだろう… タンダがナユグを知っている事がちゃんと伏線として生きてきた上に、 存在がこんなにも心強いとは。タンダはチャグムの耳元に静かに語り、 そこはナユグであること、チャグムの体はサグに、冬を過ごした狩穴に ちゃんとある事を説明する。そして触れているバルサの腕を感じ、 そこからゆっくりと意識をサグに戻してくるようにと。 まじないの言葉のように、優しく諭すようなタンダの言葉はチャグムを 落ち着かせ、意識をサグへと引き戻す。何かが始まった…気を失った チャグムを抱き、バルサもタンダもいよいよ本当に春が来たことを知る。 一方冬の間中星読みたちも大わらわだったようで、シュガの要請で 碑文の読み解きにかかったガカイは見事な速さで読み進めているようだ。 そういえばニュンガロイムの歌はインストならいつもBGMとして聞いてたし、 のどかな田園風景を背景に田植え歌としてもどこかで聞いてたっけなぁ… でも肝心の最後の碑文は水に漬かってしまっているとのことで、どうやら 最後まで果たして間に合うか否かとハラハラさせてくれるつもりらしい。 しかも寝不足のシュガの身を案じ、必ず使命を果たすから安心しろと断言する ガカイがまたいい人なんだよな〜。ホントに精霊ってのは憎まれ役がいないよ。 それにしても今回のバトルは多人数VS1人という圧倒的不利さだったのに ジグロの強さはすさまじかった。倒したと思った一人に槍を投げられて 傷ついた時はこれでジグロが死んだのかとヒヤリとし、その後腕で槍を受けて 骨折の痛みに顔を曇らせた時もヒヤリとし…も〜、何回も息を吸ったり吐いたり しちゃったじゃないか!そして止めを刺す時のなんともいえない表情… 最後の1人を殺したあれは、自分自身を殺した槍でもあったのかもしれない。 △
第二十三話 シグ・サルアを追って2007/9/8
「さっさと娶っちゃえばいいのに」 チャグムの思いもかけない俺様帝的発言に殺されるよ簡単に言うなよと 戸惑うタンダに手を叩いて喜ばなかった視聴者がいるだろうかいや、いない 雪の少なかった冬は着々と旱魃が近づいている事を示している。 春の息吹が聞こえ始める頃、髪が伸び、また少し大きくたくましくなった チャグムは感覚が鋭敏になったのかトロガイ師が帰ってきたことを察知した。 トロガイ師からヤクーの男の衣装を贈られ、バルサから短剣をもらうチャグム。 剣の重みは命の重み。その剣はそなたの命である… ゆえに剣を抜く時はその刃に自らの命を託したと覚悟せよというのはカンバルの ことわざなのだそうだ。もっともこれはひとり立ちする息子に剣を渡す時、 「父親が言うんだけどね」 大丈夫、ちゃんと父親が言ったじゃん!とまたまた誰もがツッコんだよ。 このセリフが原作にもあるのかアニメオリジナルか知らんが、絶対狙っただろ。 ヤクーの服を着て、カンバルの掟どおり父から短剣を託されたヨゴの皇子… 国は別々でもサグに生きる人々を救うためにひとつになる象徴のようで、 地味ながらもこの出立のシーンはよかったよ。チャグムも確かにたくましく なったしね。それに一度は雪山で別れたあのロバが再登場したのも嬉しい。 バルサたちが旅立ちを決めた頃、一足早く春がやってきた宮でも出立の日が きていた。惜しむらくは最後の碑文の引き上げと解読が間に合わなかった事… それでもラルンガの弱点がわかっただけでも大きな一歩といわねばならない。 「ホントですか!?」「そんな事で嘘をついてどうする!」 ウソにしか思えないから聞いてるんじゃないか! バルサも人の子だけど、それ以上にトロガイが人の子だったのはたまげた。 トロガイは3人の子供を生んだそうだ。でもその子供ってどうしたんだろう? もちろん立派に成人してそれぞれ自分の人生を歩んでるんだろうけど。 いや、そもそもトロガイにダンナがいたことが驚きか… もしチャグムが生き延びたらどうする気だ? それにしてもトロガイにまでタンダの気持ちがバレバレなのが可笑しくて。 ホントは皆にスルーされてたのに、誰も気づいてないと思ってるんだろうなぁ… 「最近…同じ夢をよく見ますよ」 それは恐らく、愛する人と共にひと所に落ち着いて、穏やかに日々を送る夢… 愛する人と愛する子、そしてやがて芽生えるだろう新しい命と共に生きる事… その頃チャグムはタンダにバルサからの返事はもらったのと聞いている。 12歳の子に嫁さんの心配される28歳チョンガーってなぁタンダ可愛いよタンダ 俺たちはあまりにも近過ぎて、ゆえに大人になって逆に遠くなってしまった… チャグムが男の顔になったと驚くトロガイに、ちょうど同じ頃タンダも 背が伸びて大人びていったねとバルサが言っていたのがその証拠。 「可愛い弟が急にでっかくなったみたいで」 そう、バルサにとってタンダは可愛い弟でしかなかったわけだ。 あの可愛くて賢そうなバルサに比べると冴えないもっさりタンダを見たらそりゃあねぇ… 夏の日差しのように燃える情熱を持った時期もあったなんて詩的な事を 言ってたけど、何しろ相手は百戦錬磨のバルサ姐さんだもんなぁ… 腕づくで迫ろうものならその腕の一本や二本ボキボキ折られる事必至。 やりたい盛りを1人寂しく過ごす間に、すっかり枯れ果てて穏やかな秋に なっちゃったんだよと言うタンダに全 米 が 泣 い たおまえってヤツは… 「それくらいでカンベンしてくれよ」 今はこのままでいいと言うタンダの言葉が腑に落ちない様子のチャグム。 チャグムに大人らしい、かつ男らしい答えが出せない自分をやや恥じる気持ちも あったのか、タンダは一体なぜそんな事を気にするんだとチャグムに尋ねる。 ジグロの話を聞いて、たとえ自分が死んでも何かを残せるとわかったから… ジグロの思いはバルサの中に息づいている。 タンダもトロガイも、あの老刀鍛冶も彼を覚えている。 そして彼に会った事がないチャグムの中にも、いまやジグロは生きている。 チャグムがこう思えるようになるまでのヘコみきっていた時期、そしてそれを 勇気づけるだけのエピソードの積み重ねがあるからこそ、まだこんなに年若い チャグムが顔を上げ、真っ直ぐ運命を見据えて戦おうとしている姿勢に共感が できる。そしてそれを支えようと命がけで力を注ぐバルサやタンダ、シュガや 狩人たちを見れば、十分納得することができるし、応援したくもなるんだよね。 歩きながら右の手でバルサの手を、左の手でタンダの手を取るチャグム。 ただ静かに微笑むチャグムと、何も言わず視線を交わすバルサとタンダは 月明かりの道を3人で帰ったあの日のように、家族のように手を繋いで歩く。 チャグムが何かの囁きに導かれて糸に惹かれるように辿り着いた1つの泉で、 バルサたちはシュガや狩人たちと再会する。戦いの時は終わり、皇太子にして ヨゴを救った英雄として迎えると跪く彼らに、兄の死を実感するチャグム。 けれど英雄という言葉に隠された意味を知っているバルサは日和らない。 卵食いラルンガの弱点は火。という事はラルンガは土の精霊なのだという。 精霊は相克となっており、火は土に克つことに気づかなかったと嘆くトロガイ。 あんたも大概うっかりさん…私も8人の狩人と八武人が全然結びついてなくて 今回ああ、なるほどと膝を打ったのでドローってことで何がドローなんだ そういえばトロガイが結び目で水の民からの情報を「置いてけ」と言われて 追いかけられたのって火の精霊だったよね…あれも何か関わりがあるのかな? 突然鳥が飛び立ち、途端にチャグムは走り出して青の泉の真ん中へ向かう。 精霊の加護なのか水面を走るチャグムをバルサが浅い泉に腰までつかって追うと チャグムは泉の水面に浮かぶ花をすくって飲み込む。すると今度は泉に何やら あやしげな爪らしきものが飛び出してくる。あれがラルンガ?でも眼に見えてるけど… カチカチと火を起こして夏至祭りの松明ならぬ槍先の簡易火炎放射器で対抗する 兵士たち。とはいえ半分透き通ってるような連中にどうしたらいいかわからず、 結局は狩人が構えた大筒で爪を燃やす。確かに火が弱点ではあるようだけど、 どうにも手ごたえがないような…案の定、さらに爪は数を増す。 チャグムを突き飛ばして守るは我らがバルサ姐さん。 けれど爪に囲まれたその時、チャグムとバルサはかつて初めて出会った時、 河の中でそうだったように水の球に包まれ、爪から守られて弾かれる。 地に下りた2人だけど、今度はチャグムが何かに操られるように走り出す。 誰もニュンガロチャガを止める事はできないの… だけどバルサは諦めない。いや、あそこにいる誰一人諦めてなんかいない。 しかし最終回に向けて話はどんどんのっぴきならない方向へと走り出してるのに この期に及んでまだキャラを掘り下げていくのが精霊の素晴らしさだよなぁ。 皆がチャグムを追い、状況を把握する間もなく戦うしかないと思っており、 シュガですら観察眼を眩ませている間に、タンダだけは何かに気づいていて チャグムが飲み込んでいた白い花を一房手折って、火槍を手に後を追う。 「おまえたちは滅んだ国で星を読む気か!!」 そしてまた碑文の最後にこそ大いなる事実が隠されており、宴の地の場所が そこではないと悟ったガカイは8枚の碑文を1日に何度も潜らせるわけには いかない潜水夫に引き上げさせろと命じながら、なんと自らが水の中へと 潜っていったのには驚いたし、何よりめちゃくちゃ感動してしまった。 いや〜、ガカイがまさかここまでやるとは思ってなかったからさぁ… 言っちゃ悪いけどシュガだったらやらなかったんじゃないだろうか? そして狩人にすら内緒で何やらどこかに3人の手練れを配置させるシュガと、 それを伝えた黒子ってまさかあれ、ヒビトナンに罰せられたあの黒子では… 蟄居していた二の妃も無事に宮に戻されたようだし、全てにおいて伏線が 巡り巡ってくる快感に酔いながら、物語はさらに加速していく。 そして予告でジグロが言った「タンダの勇気が、希望を繋ぐ」の一言に、 まだ早いと思いつつもうっかり感動してしまったじゃないか。 「シグ・サルア」ってなんだったのと思ったらあの蓮っぽい花の名前か… そういえばタンダが飲んだ花酒もシグ・サルアの蜜から作ったんだったっけ? △
第二十四話 最後の希望2007/9/15
これから人を助けようって時に人の命を奪ってたんじゃ人助けの意味がない… 狩人とバルサ…いや、「短槍使い」の微かな緊張感が氷解した瞬間。 高い木の上に軽々と上っていく狩人の機動力や統率力など、能力のあまりの 高さに畏怖を感じつつも感心するタンダにバルサが同調したその時、その狩人 4人がかりでもバルサは倒せなかったという事実をつきつけるのはシビれるね。 狩人は確かにすごい。けれど彼らのようにオールマイティな能力もなく、 プロとしての訓練を受けたわけでもないバルサの武人としてのすごさを こういう何気ないシーンで描く事にかけては本当に物語の構成がうまい。 チャグムを追って走るバルサのシャープな動きとタンダの走り方がちゃんと 違うのも細かすぎて感心するよ。それでもタンダは男だから、バルサたちに なんとかついていける体力があるというのもいい。女ならお荷物になるだけだ。 ああ、でも多分トロガイは足手まといにはならんと思うけどね? 森の中へと逃げ去ったチャグムはジンが見たように木の上に上って狩人を 振り切り、ウルトラCで降りてきたり。どうやら全ては水の精霊がなした事の ようだけど、だからといってチャグムが意識の全てを支配されてしまっている わけではないようだ。精霊が何をしたいのか…自らの姿がいつもの自分では ない事をバルサにもらった剣に映して知ったチャグムは、その想いを聞き、 川を遡る事…やがて生まれ出ようとする精霊が目指す場所へと向かう。 一方置いてきぼりのシュガとトロガイは情報交換中。 シュガがガカイの尽力で読み解いた碑文には200年前の精霊の守り人の事が つぶさに描かれていた。ラルンガは火に弱い…それはわかったものの、 結果としてそのニュンガロチャガを救う事はできなかったことも。 彼の者はラルンガに引き裂かれて卵は飲み込まれ、やがて青く光って ラルンガの体内より出たそれはナージに運ばれていったのだという… ヤクーではないシュガにはナージが何かわからなかっただけで、情報は 「ラルンガは火に弱い」という以外はトロガイとさして変わらない内容。 しかもチャグムの行動がまるでラルンガをおびき出したようで、そのくせ 何処かへ逃げていったというのは、ここが真の宴の地なら不可解なこと… バルサたちもまた引くか進むかの選択を迫られ、戻る事が皇子の身を危険に 晒すと考えるジンと、明け方までラルンガは来ないならなぜ敢えて自分から おびき寄せるようなマネをしたのかと気づいたバルサの意見が合致し、 そのままチャグムを追うことになる。かつてはチャグムを巡って対立し、 今はチャグムを巡って協力する。モンがかつて鍛冶職人との話の中で 見せた武人としてのバルサへのリスペクトが生きてくるなぁ… 宮からの急使によってもたらされたのは、青池が宴の地ではないこと、 そしてチャグムは夜明けまでに北の地を目指しているというガカイからの 報せだった。そういえば碑文って点字みたいに触読するものだったっけ… 青池にチャグムが戻ると陣を敷いて待っていた火炎部隊は後から追わせ、 トロガイはちゃっかり若い男と馬にニケツで北の地を目指す。 タンダが気づいてバルサたちも北の地に着いていればめっけもの。 「タンダのボンクラがくっついて行ったことにまだ救いがありそうだ」 とはいえ水の民の言葉はマジで聞き取れんよ!! タンダさんですかってのは聞き取れたので、よし、ここで私も聞き取ろうと 思ったのにさっぱりだ。ただでさえヒアリング悪いのにごぼごぼ言われたら サッパリわからんわ。ダメ絶対音感にはかなり自信があるんだけどねぇ… やがてチャグムの足跡を見つけたバルサたちと時を同じくしてラルンガが再び 現れる。精鋭とはいえ何も出来なかった火炎部隊とは違い、さすが狩人たちは 動きからして違うし、チャグムの足跡を嗅ぎ、狂ったように突進してくる ラルンガの体にも炎の矢を命中させる。けれどそれは全く当たらない。 「ダメだ!ラルンガがサグに干渉しようとした時でないと!」 武人ではないがゆえ、そして野にある学者としてのタンダの眼は、青池で チャグムを追うラルンガがなぜかシグ・サルアの花や葉には実体として 触れる姿を見ていた。花酒に群がり、サグとナユグを行き来していた蝶、 そして何より花酒を媒介に自らもナユグへ渡った経験も役に立ったろう。 前回、シグ・サルアの花を摘み取ってバルサを追ったタンダは花の蜜を 飲むと、突進するラルンガから逃げた狩人やバルサを置いて走り出す。 そしてなんとこの時タンダが繰り出した槍は、これまで火も刃も 全く寄せ付けなかったラルンガの体に深々と刺さった! なんて勇ましいんだタンダ!まるでお父さんみたいだよ! 「タンダーッ!」 タンダが痛みに苦しみ怒って猛るラルンガに振り回されてどうにもこうにも デンジャラスだというのに、バルサのなりふり構わぬ叫び声にじーんとした。 タンダ、よかったね。やっぱりバルサはアンタの事が大切みたいだよ。 というかここからのバトル展開は息を呑んだね。 誰よりも、多分今までのどの時より速くつむじ風のように走り出したバルサが 体を持ち上げたラルンガを腹の下から突き上げて刺し、その痛みのためなのか ついにタンダをぶん回してふっ飛ばす。この時夜空にタンダの服が破れたのが 見えたので、まさか致命的な傷を負ったんじゃないかとヒヤリとしたよ。 タンダの下に駆け寄ったバルサの背後で狩人たちが間髪いれずにラルンガに 踊りかかるシーンは素晴らしいの一言。無駄な動きがなくてとてもカッコいい。 噴出す火炎放射器、その中でモンがタンダを食おうと不気味に開いていた口に 剣をぶちこんだものの、ラルンガがそれをいとも簡単に飲み込む。 やはりダメかと思ったその時、口の中で発射される炎。 いくらバルサが強くたって、大きな爪のバケモノを倒せるわけがない… そう言って泣きじゃくったチャグムを守ると約束したバルサ、皇子を心から 守ろうとする狩人、そして穏やかで優しいタンダが見事ラルンガを倒した。 このカタルシス。この盛り上がり。これまでの話の蓄積が結実していくよ。 シグ・サルアがあれば、あいつを倒すことができる。タンダは言う。 その代わり、自分の身も危なくなるけどな… 武人でもなく、戦う術も持たないタンダの勇気こそ、デッドエンドに見えた 事態を打開した。バルサがタンダを一度も邪険に扱わなかったのもよかった。 タンダとバルサはまさしく静と動、陰と陽。アクションも見所だったけど、 何より2人の絆の深さと、チャグムへの想いが感じられて感動的だったね。 「これでチャグムを救えるか?」「…ああ!」 あくまでも冷静なタンダの言葉に、力強く頷くバルサが頼もしい。 父と母、子…クライマックスに向けてテンションは上がりっぱなしだ。 △
第二十五話 宴2007/9/22
ナージ 飛べ飛べ ナージ 飛べ飛べ ナユグがサグに重なる時、いよいよ精霊の卵が生まれる宴の刻は近い。 目の前に広がる光景は寒々しい雪景色なのに、不思議なことに寒くないと呟く チャグム。ナユグでは猛々しい冬でもサグでは既に優しい春が来ているからだ。 そんなチャグムを狙って氷の下からラルンガがやってくる。 傷ついたタンダは残されたものの、タンダがまじないをかけたシグ・サルアの 花を食べたバルサと狩人はチャグムの後を追ってサーナンに辿り着いていた。 この時、事態を打開したタンダの勇気に敬意を表し、花を分けてくれるかと あくまでも頼む立場の狩人たちがよかったなぁ。そしてこちらこそそう頼む つもりだったというタンダもね。人と人の間に適度な敬意が払われているのを 見ているのはとても気持ちがいい。こうした美徳を子供に教えるべきだよね。 「でかした、弟子よ!」 タンダが伝言を受け取り、シグ・サルアの謎も解いた事を褒めるトロガイも シュガも、もうシグ・サルアがないのでナユグの物を見ることが出来ないの だけど、どうやらサグで死んだラルンガの死体は見ることが出来るようだ。 それにしても今回衝撃だったのは精霊の卵はこの世に1つじゃなかった事だよ! 騙された!まさか鮭や亀の卵みたいにあちこちに産みつけられていたとは!! 森の中から胸に青く光る卵を宿した子熊が現れたと思ったら、タンダたちの 目の前でラルンガに食べられてしまうというスプラッタなシーン。 ラルンガの口から出た青い光はナージに運ばれる事はなく、岩に吐きつけられて 死んでしまう…こうして精霊の卵は淘汰され、無事に生き延びたものだけが 水の精霊となってナユグとサグに恵みの水をもたらす事になる… それにしてもわしはニュンガロイムが生まれるところを見るのはさすがに 最後だがお前はもう一回見られるじゃろうと言うトロガイに吹き出した。 「俺だって最後ですよ!」 そりゃそうだよな。タンダが128歳まで生きるとはとても思えない。 ってかトロガイがホントに次の守り人を見る方がまだありえそうで怖い。 「バルサ…!」 それまでは気丈に精霊の卵を守ろうとしていたチャグムが、 バルサを見た途端に泣きべそをかいたのにホロリ。 いつしか同じ目標に向けてバルサに信頼を置いている狩人たちが、 自分たちが足止めになってバルサをチャグムの下に行かせるのも熱い。 信じてたよ…バルサ… 1人で全てを背負い込まなければならなかった。 ただ精霊の言うままに森を走りぬけ、宴の地で時を待つつもりだった。 ここで守り人が殺される事で卵は生まれ、精霊となることが出来る… それしかないのなら、自分の命は当然ここで尽きるものと思っていた。 でも、チャグムは自分を守ると約束したバルサを信じていた。 だから2人が抱き合ったシーンは実に感動的だったなぁ… 強くて、厳しくて、優しいバルサは、必ず約束を守るから。 父に殺されようとしていた自分がこうしてあるのもバルサがいたから。 泣きじゃくるチャグムがどれほど気を張っていたかと思うと心が痛いね。 やがてチャグムがそうだったようにサーナンに辿り着いたタンダは、そこが ナユグの水底である事に気づき、さらにはチャグムとバルサの姿を捉える。 普通の風景にしか見えていないシュガとトロガイの無力感はいかばかりか。 ホント、実際の風景だけでなく、人間が世界の中で見ているものなんか たかが半分、いやむしろ何分の一に過ぎないんだろうなぁ… ようやく1体を倒したと思ったら、さらにうようよと出てくるラルンガ。 この時の絶望感ったらなかったね。2体と思ってたのにそれどころじゃない。 ますます形ははっきりし、明らかにチャグムを狙って水底からやってくる。 救いだったのはラルンガの触手には毒性とか針がついているわけじゃないこと。 映画バイオハザードの網目レーザーミンチがトラウマになってる私には、 挑もうとした途端に絶対的で圧倒的な力を見せ付けられるのが一番怖いわ〜 「卵はここで産まれたがっている!」 ひとまずチャグムを安全な場所に移さなければと判断したバルサたちだけど、 肝心のチャグムは運命に怯えながら一方では精霊の強い想いを汲み取っている。 自分が逃げたら卵は産まれない。卵が産まれなければヨゴの国は旱魃に襲われ、 民たちが苦しむ…もう逃げない、運命に立ち向かうと決めたチャグムは、 たとえ助けに来てくれたバルサの命令でも聞こうとはしない。 バルサには手がなく、狩人たちも次々出てくるラルンガを防ぐ事だけで 精一杯…ってかホントに出て来過ぎだよラルンガ!うじゃうじゃキモいよ! 狩人たちの祖先である八武人はこの修羅場を三日三晩耐えしのいだという。 火矢が尽き、油がなくなり、爆薬も使いきってもなお、狩人は諦めない。 こうして触れることもできないはずのナユグの物と斬り結べるように してくれたタンダと約束した事をちゃんと覚えているモンに感動。 ホントに必要なものを入れ込んで、何ひとつムダがないんだよなぁ… そのタンダが馬を駆り、突然トロガイたちの前から姿を消す。 ナユグに入り、チャグムに何もしてやれないと戸惑うバルサに代わって 精霊の卵を取り出すことは可能だからここを離れようとチャグムを諭す。 「俺は、俺にしか出来ない事をやる!」 ここにきてバルサとタンダの役割は再びあるべき形(父バルサ母タンダ)へ! 頑固なのはタンダを信じ、チャグムを任せて戦いに赴いたバルサ父さん譲りか 脇を持って歩かせようとするタンダ母さんに逆らって踏ん張るチャグム。 ラルンガを殺してはダメだ…ラルンガが自分を殺さなければ卵は産まれない… 産まれない卵はチャグムの中で死んでしまう。そしてヨゴは干上がってしまう。 狩人が死ぬのも、ヨゴの人が死ぬのもイヤだ。でもきっと何よりバルサが死ねば チャグムは一生後悔と、深い悲しみと、重い罪を感じて苦しむのだろう… それならいっそ、自分が運命を受け入れて死ぬ方がまだマシだ。 けれどその時、何も見えないトロガイとシュガの眼に山々に明け染める朝陽が 映る。サグの夜が明ける…それはナユグにも宴の夜の終わりを告げていた。 いつの間にか湖一杯に集まっていたラルンガは動きを止め、サグの太陽に 照らされてその姿を失っていく。ニュンガロチャガは引き裂かれなかった… そしていよいよニュンガロイムのご出産 チャグムの腹をまさぐる手がなんだかやけにエロいような、でも痛いところを さすってあげてるお父さんとお母さんのような、「痛いよぅ、痛いよぅ」と 呻くチャグムにひるむバルサがよかったり、そんなバルサを大丈夫と励ます タンダがよかったり…半年間こんなにも愛してきたキャラクターたちには ついつい頑張れ頑張れと力が入るよ。とりあえず結婚したらバルサはタンダに 子供を産んでもらえばいいよ。きっと男でも子供が産めるよ、気合で!無理 やがて2人がそっと取り上げたのは青く輝く精霊の卵。 あの時、チャグムを助けたバルサも感じた守り人を守る強い意志は、 今こうして生まれ出てみればあまりにも儚くて美しい。 やっと、産まれて来られたね… チャグムはバルサが見せてくれた卵に微笑む。 生きたかったんだよね…あの日、バルサにおぶってもらった自分のように… 生き残った卵だけがこの地で産まれることが出来る。 ニュンガロチャガがこの地でラルンガに食べられるならば、吐き出される 卵はナージが持っていってくれるということで、ニュンガロチャガが 死ななければ卵は産まれないということではなかったんだろう。 あとこのシーンで流れる素朴なヤクーの田植え歌がものすごくよかったよ。 「大丈夫、気づくよ」 小さな群れをなしてやってきたナージは、やっぱりあの日チャグムが救った 白い鳥だった。やがて1羽が回頭し、バルサはチャグムに言われたとおりに 卵を豪快にぶん投げる…ああ、ナージの不思議な喉袋は、精霊の卵を運ぶ 揺り篭だったのだ…飛び去っていくナージは海へ向かい、卵は孵るだろう… 次のニュンガロイムのために、国を挙げてナージの保護に乗り出さないとね。 「終わったんだ…運命との戦いが」 チャグムの頬を流れた一筋の涙が美しい。海まで飛べば 雨降り 稲穂は すくすく育つ… △
安藤麻吹インタビュー2007/9/15&9/22
BSアニメのお楽しみといえば時々やってくる声優さんの生の声を聞ける事。 とはいえ彩雲国は頻度が高く、キートンにも来たしプラネテスだって来たのに 精霊は今回が最初で最後…というわけでバルサ役の安藤麻吹さんが登場。 第24話と第25話のダブル収録だったけど、24話の方ではやはりあのチャグムに 刃を向けられた第19話「逃亡」の体当たり演技について、思っていたよりも 冷静な表情だったバルサと自分の演技のギャップを語ってた。確かにバルサと チャグム、2人の熱い声の演技に比して表情は比較的動かなかったんだよね。 監督や音響監督と打ち合わせて、結果として好きにやらせてもらったとの事。 チャグム役の安達君もノってくれたそうなのであの迫真の演技になったのか。 中学2年生の安達君は安藤さん曰く大変大人でソツのない子役なのだとか。 安藤さんといえばなんたって「無人惑星サヴァイヴ」なわけだが、私も当時は まだ1話からのアニメの継続視聴というものを初めてやったり、レビュー自体も 始めたばっかりだったので色々大変だったけど、メノリは好きなキャラだった。 ただもともと舞台の方なので声も演技も非常に固かったので、バルサを演じると 聞いた時は作品が面白そうだっただけに一抹の不安があった。しかもチャグムは 少年が演じるのでこちらもやや不安が…もちろん今となっては全くの杞憂だった わけなんだけど。バルサは草薙素子とはまた違う、冷静沈着、判断能力が高くて 状況把握も的確な「強い女」「戦う女」なのだけど、少佐にはない泥臭さと 生活感に溢れ、何より「母親(実際は父親だけどー)」を感じさせる地母神的な 豊穣の香りも持っているとても魅力的なキャラになった。 第24話後半の似顔絵はコメントに困るようなイラストが多かったので気の毒… 最後の人はなかなか上手かったけど。 第25話ではタンダについて。安藤さんのバルサとタンダは心から信頼しあう 大人の恋愛だと言う言葉は、実は私はこのインタビューを聞く前にレビューを 書き上げてアップしてたんだけど、ちょうど24話でバルサとタンダの深い絆に 感動したところだったのでうひょ〜、ビンゴ!とめちゃめちゃ嬉しかった。 でも安藤さんが好きなのはジグロだとか。 まぁねぇ、ジグロは格好いいからね。戦う姿が美しいしね。 あそこまで喋らない人が実際にいたら困るけどね。 そして印象深い話はやはり第13話の「虎でなく、人でなく」だそうだ。 「うるせぇっ!私は虎だっ!近づくと食い殺すぞっ!」 ジグロにもできなかった、命ではなく業を斬る剣を振るったバルサ。 安藤さんもこのバルサの演技のためには、今日で喉が潰れても致し方なしと 覚悟を決めて演じたというこの言葉、本当に心に残っているよ。 カルボを久々に見たけど、やっぱり見れば見るほどバルサに入れ込んでて 気味の悪い男だね。ホント、バカな妄想ストーカー男って最っ低だよね。 そしてこの次の話が精霊最高の爆笑回「トロガイのミラクル☆アドベンチャー」 だったわけだ。11月からまたBSだけど再放送があるので見てない方はぜひ。 ちなみに一挙上映もあるようだけど…これは体力と財力に自信のある方向け? 次回、最終回の見所はバルサとチャグムが決断をし、道を選択する事だそう。 始まりがあれば終わりがある。もう今からわくわくして待たせてもらうよ。 △
最終話 旅立ち2007/9/29 視聴感想・1クール・トップ
「バルサ…俺の事、チャグムって呼んで…さようならチャグムって言って」 「………ああ。さようなら、チャグム」 振り向かず、2人は別れていく。ありがとう…ありがとう…さようなら… 帝にもたらされたのはこの上ない吉報だった。 厄災かと思われたニュンガロチャガとしての使命は国を救うための試練であり、 数々の困難、そして命の危険を賭しての使命は成し遂げられ、「英雄」として 迎え入れられる事になるチャグム。旅はもうじき終わる。終わってしまう… 「許されよ…女用心棒」 そういえばシュガが数話前に伏せさせていた兵がいたっけなぁ… それは帝の命によってバルサを始末するための伏龍だった。 でもここでモンとジンが止めに入る。尊敬すべき武人である彼女と共に戦った 2人はバルサがチャグムに道を踏み外させるような人物ではない事を確信し、 何よりそんな不実極まりない事をすればチャグムがどれほど哀しむかを説く。 モンとジンに止められたシュガが刺客を下がらせた時、バルサもまた短槍を そっと置き、事態に気づいていたことと収まったことを知った事がわかる。 相変わらずバルサのすごさをさりげなく見せるのが心憎いじゃないか。 ナージはもう卵を海まで連れて行っただろうか… 他にも囮となるべきニュンガロチャガがいた事を知ったチャグムは、 誰かの、何かの犠牲の上に全てが成り立っている事を見せつけられる。 その最たる生贄が「英雄」である事を、ジグロは語り、バルサも語った。 輿に乗ろうとせず、普通に父親を助ける息子のように、バルサと共に怪我をした タンダを支えて歩くチャグム。恐らくチャグムはシュガにタンダを輿に乗せろと 頼んだのにそれはダメだって断られたんだろうなと薄々わかるのが可笑しい。 バルサが育てたこの子は、頑固で強くて、そしてとても優しい… 「まずはおっかさんに元気な姿を見せてやったらどうだい?」 迎え入れられた宮で、不安そうに振り向いたチャグムの背中をバルサは押す。 もう会えないかもしれない…大きな河の向こうへ渡っていった子を見るように バルサだけが遠い眼で静かに走り出したチャグムを見送るのが印象的。 一瞬、母親にさえわからないほどたくましく元気な姿で現れたチャグムは 母の胸に飛び込み、母もまた生きて会えるかわからなかった我が子を抱く。 「うん。バルサのおかげだ」 あの夜、必死の思いで託した命をバルサは守り抜き、返してくれたのだ。 第1話の寝屋での妃とバルサの会話の緊迫感を思い出すと本当に感無量だよ… 同じく第1話のように風呂に入り、歓待を受けるバルサやトロガイたち。 相変わらず入浴衣がえろい。ただ描いてないだけで実際は濡れた布が体に 張り付いて透けてると思うので、むしろ丸見えよりえろいと思うよ。 いや、トロガイのは見えなくていいけど…むしろ描きこまないで欲しいけど… 心ここにあらずのバルサは、これからどうするんだいというトロガイの問いにも 上の空。トロガイはそれを見て、実はタンダに嫁の話が来ているなんてカマを かけてもやっぱり、いい話じゃないですかなんて気のない返事。 もちろん彼女が「わしに似てなかなかの器量よし」 ならばそんなのバルサの敵ではないと思ったのかもしれないけどね。 でもこの話はウソじゃないと思うんだ。物腰が柔らかくて知的で優しいタンダに 惚れる田舎娘は結構いると思う。ただタンダは一途なヤツなのでバルサ以外の 女を好きになる事ができないし、好きでもない女を娶る事もできないんだろう。 で、そのタンダは、こんなに食べきれないからまずは先に傷みそうなものから 食べようかと呟いてたのにはもうあまりの素朴な可愛さに悶えてしまったよ。 お母さんお母さん、バイキングに来るならタッパー持って来なきゃダメじゃん! いや〜、タンダは最高だね。ホントに君はいい嫁になるよ。 タンダは祝いの膳についても浮かない顔のバルサに、チャグムにはきっとまた 会えるさと慰める。あのままお別れって事もないだろう…でもやはり、あの時 走っていく背中がチャグムとの別れだと知っていたバルサは、きっとチャグムも バルサに会いたがっているさというタンダの言葉にもそうだねと答えるだけ。 短く切った髪はまだ結えないけれど、皇太子の衣装をつけたチャグムは本当に 立派だ。母との再会のあと、チャグムが訪れたのは片付けられた兄・サグムの 部屋だった。その死すら伏せられ、誰にも弔われない優しかった兄の部屋で、 チャグムはガカイの心の呟きのような感謝の言葉を聞く。チャグムが無事に 生きて戻る事こそ、幸薄く聡明だったサグムの最期の願いだったから… 異例なほど近くに寄らせてチャグムをねぎらう帝は、バルサの事は忘れ、 国を救った英雄としてこの国を治めていくようチャグムに命じていた。 最初は殺そうとしてたくらいなんだから、シュガや狩人の尽力でバルサが 殺されなかっただけ儲けものなんだろうけど、哀しい事を言ってくれるよ。 「チャグムよ…英雄を生きよ!」 英雄…その言葉に込められた犠牲の重さと諦めなければならないものを再び 感じるチャグム。自分ひとりでは決して成し遂げられなかった厳しい試練。 感謝してもしたりないバルサやタンダやトロガイ師を忘れ、恩義より大義、 個人への愛情より大勢への慈愛、感情より理性を優先することが求められる。 再会は、顔に垂らされた小さなベールのような御簾越しに。 天上人たる帝の一家が、市井の人間たち、ましてや異民族のカンバル人や 少数民族のヤクーの前に姿を現すこと自体、破格の扱いである事はわかる。 シュガが言ったように相応以上の褒美を受け取ったものの、お互いを見詰め合う バルサとチャグム。チャグムが握り締めた手を見た二の妃もまた、自分が選んだ 用心棒に心の中で礼を言う。8人目の命は救われ、全ての魂は弔われたのだ… モンとジンが最後まで憎たらしいほどいい男だったのが悔しいじゃないか。 そのまま門を出ようとする一行に、下々のものは右の小径より出て行けと 邪険に追い払う。タンダはこのひどい扱いに憤慨するけど、「行け…」と 言うモンの眼を見たバルサは、言うとおりにしようじゃないかと踵を返す。 「バルサーッ!!」 わかってはいても、そこにシュガとチャグムが待っていた事に涙。 子供の顔に戻って駆け寄ってきたチャグムはバルサの胸に顔を埋め、 別れたくない、もっとバルサと一緒に旅がしたいと泣きじゃくる。 しばらく立ちすくんでいたバルサは、チャグムの頭を撫で、やがて褒美を 取り落としてチャグムを抱き締める。私が必ず守るからと約束した時の強い 抱擁ではなく、二度と会えないけれど、ずっと幸せを願っているという想い。 「チャグム…私と逃げるかい?」 けれどバルサの意外な言葉にシュガもチャグムもタンダもビックリ。 「え?ひと暴れしてやろうか?」 この時の少しいたずらっぽそうに、穏やかに優しく微笑むバルサの美しい事。 きょとんとしていたチャグムはその表情を見つめていたけれど、やがて微笑んで ううん、暴れなくていいよと答える。暴れるのは他の子のためにとっておいて… ああ、バルサが次に暴れるのは「タンダとバルサの子供」のためだったりして、 なんて大人をからかう言葉まで飛び出しちゃって、タンダも形無しだなぁ… 今こそ、チャグムの本当の子供時代は終わった。 子供らしさを捨てざるを得ない教育を受けていたチャグムは、おぶわれ、お腹が すくという感覚を覚え、街で色々な人に出会い、村では子供たちと走り回った。 自分の事を俺といい、インチキを見破ったり相撲勝負を受けたり、ヘキムームの 買い方や獣の皮の剥ぎ方を覚え、人々の息吹を感じながら真っ直ぐ成長した。 怖い事、いやな事からは逃げようとし、殴られて諭され、最後には立ち向かって 見事成果を手に入れることもできた。全て誰かのおかげと感謝する事ができた。 英雄は、見も知らぬ人々の犠牲になるだけじゃない。 皆必死に生きていた。日々の糧を得るために一人一人がたくましく生きていた。 チャグムは誰よりも彼らを知るからこそ、彼らを導く賢く強い王になるだろう。 彼らのためなら、生きられる。バルサたちのためなら、英雄にだってなれる。 「戻るよ」 たとえ道は分かれても、あなたの事は忘れない。本当にありがとう。 チャグムはバルサに何も返せないと思っているかもしれないけれど、健やかな 親子関係が築けていれば、親は子供が元気に生きていてくれれば幸せだと思う。 だから2人は振り返らない。さようなら…愛しいひとよ… 夢のような半年間だった。 練りこまれた脚本とこだわり抜いた見事な作画、そしてスタッフの情熱と 演じる役者たちの熱意。監督を頂点に一丸となれば、こんなにいい作品が 作れるんだということをまざまざと見せつけてくれた作品だった。 原作がしっかりしている事が伝わってくる世界観や設定を、映像という手法で 見事に再現したんだろうと思えるビジュアルイメージの数々も素晴らしかった。 ことにナユグの姿は、人が例えば本能的に闇を恐れるように、プリミティブな 恐怖、畏怖のようなものを呼び覚ますような凄まじい猛々しさが出ていたし、 公式ページやProduction.I.GのHPに掲載されている細々した食べ物や衣装の 設定、イメージボードの完成度の高さなど、どれをとっても職人技だった。 ぽってりと肉厚の唇や、たくましい筋肉がついた腕、豊満ながら贅肉のない バルサや、なんとなく冴えないんだけど、人の良さが滲み出るタンダ、 最終回も様々なマイペース発言でタンダを困らせた妖怪ババァトロガイ、 そのトロガイが可愛がってる(でもピンチには生贄に差し出される)シロクロの可愛さなど どのキャラも魅力的だったよ。ジグロはもちろん、狩人たちもよかったし、 トーヤとサヤ、刀鍛冶やログサムやカルボたちゲストキャラも個性的だった。 何より最初は、きっと何も知らずに我がままで駄々っ子みたいな皇子がバルサと ぶつかりながら成長していくんだろうと勝手に思っていたチャグムの、大人びた 知的な性格、でも実際はそれを無理に抑えこんでいて、反動で見せたワイルドな 子供らしさ、それがゆえに本当の意味での成長を見せてくれた事には感動した。 26話の中には、今思えば精霊の卵には全く無関係な話がむしろ多いんだけど、 1つたりとも面白くない、ムダだろうと思える話がない事がすごすぎるよ。 ありえないだろと思うくらい、毎回毎回見せ場がちゃんとあって唸らせる。 (攻殻もこういう組み方だったけど、終わってみれば無駄がなかったもんね) 素晴らしい作画の中でも特に素晴らしかったのはやはり剣戟シーン。 もはや第3話は芸術とも呼べる域に達しているし、女性のバルサ以上に力強い 同じく第3話、そして第21話のジグロの重量級の戦いの素晴らしさは息を呑む。 第13話の鬼気迫る虎も必見。もちろん戦いではないのにモンジンゼンや相撲、 戻れなくなって困ってるタンダなどの息詰まるシーン、最後はウンコまみれの 泥まみれのトロガイアドベンチャーも最高。そしてサグムの静かな死は泣ける。 どこか懐かしさを感じさせるようなアジアチックなBGMも素晴らしかった。 太鼓や素朴な歌声など、人の原始の魂に響く音を使って盛り上げてくれた。 ナージが卵を持って飛んで行く第25話の田植え歌の素晴らしさったらない。 バルサがチャグムを連れて大きな世界へ飛び出す壮大で爽快なOP、そして あまりにもチャグムの想いとリンクするEDは、今はない、二人の水車小屋が 泣かせる。タイナカサチはあまり褒められない彩雲国でも内容とちゃんと リンクした素晴らしい歌詞を書いてくれたので、今後にもぜひ期待したい。 BSという放送媒体のおかげで見られない人も少なくないというハンデが あったものの、原作を大幅に変えているにも関わらず、好意的な視聴者が 多かったように思えて、この作品に高い評価を与える私としても嬉しい限り。 再放送、そして地上派放映への望みを繋いで、本日ここに精霊は完結。 ああ、もう褒めるところしかないからいつまでも褒めていたいよ。 スタッフ、キャストの皆さん、本当に本当にお疲れ様でした。 素晴らしい作品をありがとうございました。 バルサはカンバルへと旅立っていった。 あそこにはバルサにしか弔えない人がいるから… タンダはまた二年も待たされなきゃいいけどねぇと大人びた口を利くトーヤにも からかわれてたけど、ホント、先にトーヤとサヤの方が結婚しそうだよね。 気長に待つよ…自由で強い翼を持つ荒鷲のバルサには首輪も鎖も似合わない。 諦めたように、でも全てを終えた今、バルサの心にもクールダウンが必要だと ちゃんと理解しているタンダは通りに眼をやり、空が翳った事に気づく。 「雲だ」 からからに干上がりかけていたヨゴの空に雲が戻った。 ああ、ニュンガロイムが孵ったのだ…自分たちが命がけで守った精霊が… やがて雨が降り始める。 旅姿で故郷への道を急ぐバルサもまた、これで本当に全てが終わったと知る。 バルサはチャグムを救った。けれどそれだけでなく、精霊とジグロをも救った。 カルボも狩人も、帝と妃、シュガやタンダも救った。そして同じだけ救われた。 「タンダの山菜鍋…食ってから来るんだったねぇ…」 だけど帰るべきその日まで、今は歩き続けよう。 △(2007/9/29記)