こわい俳句

この句を怖いと読むかはその人次第

                             国比呂選

******

・一つすうと座敷を抜る蛍かな          夏目漱石

・ゆびきりの指が落ちてる春の空         坪内稔典

・耳につく童女の鈴の野辺送り         林田紀音夫

・揚羽より速し吉野の女学生           藤田湘子

・六つで死んでいまも押入で泣く弟        高柳重信

・髪長き蛍もあらむ夜はふけぬ          泉 鏡花

・すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる     阿部完市

・あんかう(鮟鱇)や孕み女の釣るし斬り     夏目漱石

・生前も死後も泉へ水飲みに           中村苑子

・貌(かお)が棲む芒の中の捨て鏡        中村苑子

・血を垂れて鳥の骨ゆくなかぞらに        高屋窓秋

・寒い月ああ貌がない貌がない         富沢赤黄男

・マスクして彼の目いつも笑へる目        京極紀陽

・スケートの濡れ刃携へ人妻よ          鷹羽狩行

・剃刀に蠅来て止まる情事かな          寺山修司

・血を喀いて目玉の乾く油照           石原八束

・油屋にむかしのあぶら買いにゆく        三橋敏雄

・目かくしの背後を冬の斧通る          寺山修司

・蝉の眼をはこんでゐたる秋の蟻        大木あまり

・ある日妻ぽとんと沈め水中花          山口青邨

・ひげを剃り百虫足を殺し外出す         西東三鬼

・太郎に見え次郎に見えぬ狐火や        上田五千石

・水晶の念珠つめたき大暑かな          日野草城

・毛虫焼く僧の貧乏ゆすりかな         長谷川双魚

・裸に取り巻かれ溺死者運ばるる         右城暮石

・赤ん坊を逆さまにして落ち葉掃く        西川徹郎

***