本名荘太郎(1866〜1938)鳥取生まれ

父の移動で七歳で上州へ移り終焉まで過ごす


<あ>
赤く塗って馬車新しき吹雪かな
暑き夜や百姓町の真くらがり
秋立つと出て見る門(かど)やうすら闇
秋の暮れ水のやうなる酒ニ合
秋雨やよごれて歩く盲犬
暖かく西日に住めり小舎の者
<い>
稲つむや痩馬あはれふんばりぬ
石の上にほむらをさます井守かな
生きかはり死にかはりして打つ田かな
<う>
牛曳くや角にひつかけ菖蒲縄
移されてさびしく藤の咲きにけり
うとゝと生死の外や日向ぼこ
<え>
越後路へをれまがる道や秋の風
<お>
大寺や松の木の間の時雨月
大空をあふちて桐の一葉かな
送り火やいつかは死んで後絶えん
大石や二つに割れて冬ざるゝ
おとなしくかざらせてゐぬ初荷馬
己が影を慕うて這へる地虫かな
<か>
傘(からかさ)にいつか月夜や時鳥
街道や大樫垣の北おろし
かりがねの帰りつくして闇夜かな
川底に蝌蚪の大国ありにけり
川普請石を投げこむ焚火かな
蚊遣して馬を愛する土豪かな
<き>
雉子おりて長き尾をひく岩の上
祇園会や万灯たてて草の中
<く>
草紅葉へくそかつらもねみどせり
鍬始浅間ヶ岳に雲かゝる
熊蜂の烈日に飛ぶ唸りかな
葛水の冷たう澄みてすヾろ淋し
<け>
けふの月馬も夜道を好みけり
けさ秋や見入る鏡に親の顔
<こ>
小春日や石を噛み居る赤蜻蛉
凩や妙義が嶽にうすづく日
凩や手にして塗りたる窓の泥
小鳥このごろ音もさせずに来て居りぬ
新米を食うて養う和魂かな
小鳥ゐて朝日たのしむ冬木かな
殺さるる夢でも見むや石布團
<さ>
五月雨や起き上りたる根無草
桜餅蓮掘りの見事な蓮をひき出しぬ
早乙女や泥手にはさむ額髪
寒き夜や折れ曲がりたる北斗星
残雪やごうごうとして松の風
<し>
白菊やうすべにさして狂い咲き
十五夜やすゝきかざして童達
出水や牛引出づる真暗闇
白魚舟娼家の沖にかゝりけり
<す>
相撲とりおとがひ長く老いにけり
砂原を蛇のすり行く秋日かな
<せ>
先祖代々打ち枯らしたる畑かな
<た>
鷹老いてあはれ烏と飼はれけり
田草取蛇うちすてて去(い)ににけり
たらたらと老のふり出す新茶かな
紙鳶(たこ)二つちらちら雪にあがりけり
鷹のつらきびしく老いて哀れかな
大門に閂(かんぬき)落す朧(おぼろ)かな
<ち>
仲秋や夕日の岡の鱗雲
<つ>
月さして一間の家でありにけり
つめたかりし布団に死にもせざりけり
露涼し形あるもの皆生ける
<て>
寺ともりて死ぬる人あり大三十日(おおみそか)
<と>
闘鶏の眼つぶれて飼はれけり
闘鶏や花の下影こきところ
土用の日浅間ヶ嶽に落こんだり
<な>
夏夕べ蝮を売って通りけり
長き夜や生死の間にうつらゝ
<ね>
念力のゆるめば死ぬる大暑かな
<は>
榛名山大霞して真昼かな
蛤に雀の斑あり哀れかな
茨の實を食うて遊ぶ子あはれなり
蓮剪って畳の上に横倒し
花散るや耳ふつて馬のおとなしさ
春寒やぶつかり歩く盲犬
春の雲一つになりて横長し
春雨や塩屋々の煙り出し
<ひ>
晝顔にレールを磨く男かな
雹晴れてかつ然とある山河かな
春の夜や灯を囲み居る盲者達
日傘して女牛飼通りけり
小百姓の飯の遅さよ春の宵
<ふ>
冬蜂の死にどころなく歩きけり
冬山の日当るところ人家かな
冬の日や前に塞がる己が影
冬の田の秩父おろしに濁りけり
<ま>
松立てて大百姓の門二つ
<み>
みづすまし水に跳ねて水鉄の如し
水草生ひぬ流れ去らしむることなかれ
短夜や枕上なる小蝋燭
<や>
山畑に朝日大きや鍬始
山畑に石垣を積む遅日かな
痩馬のあはれ機嫌や秋高し
<ゆ>
夕焼けのはたと消えけり秋の川
夕霞烏のかへる國遠し花散るや
行く春や親になりたる盲犬
ゆさゆさと大枝ゆるゝ桜かな
<よ>
世を恋うて人を恐るる余寒かな
<ろ>
老鷹の芋で飼はれて死ににけり
老鷹のむさぼり食へる生餌かな
<わ>
綿入れや妬心もなくて妻哀れ
わうゝと蜂と戦ふ小百姓


村上鬼城の詳しいことを知りたい方は、高崎市(群馬)の鬼城草庵(並榎村舎)へぜひ行ってみてください。
場所は 群馬県高崎市並榎町288 〒370-0802 TEL 0273-23-0894



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