トップページ>判例研究1

判例研究1


このページでは、弁護士の取扱い業務に関して、参考になる判例を紹介するページです。弁護士が所属の委員会で判例研究の担当になり、レジュメを作成して発表したのですが、「このままレジュメを放っておくのももったいないな」ということで、ホームページにアップすることにしました。第一回は、建築紛争に関する判例で、瑕疵ある物件を購入した買主が、自身とは契約関係にない設計業者や施工業者に対して、不法行為責任を追及できるかという点が大きな争点です。

福岡高裁平成24年1月10日判決 (平成19年、23年の二つの最高裁判決を受けて)
【事案の概要】
本件は、9階建ての建物をその建築主Cから購入した亡X1及び一審原告(審理中にX1を相続)が、本件建物にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があるとして、建築の設計・工事監理をした一審被告Y1社に対しては、不法行為に基づく損害賠償を請求し、施工をした一審被告Y2社に対しては、請負契約上の地位の譲受けを前提として瑕疵担保責任に基づく瑕疵修補費用又は損害賠償を請求するとともに、不法行為に基づく損害賠償を請求する事案である。なお、原審では、一審原告らは、本件建物の売買に宅地建物取引業者(売主の代理)として関わったZに対しても不法行為に基づく損害賠償請求を行っていた(原審で請求棄却、確定)。
 
【一審からの審理の経過】
1 原審(一審:大分地裁平成15年2月24日判決)
本件建物の瑕疵の一部につき、一審被告らの不法行為責任を認めた。
(1)建築請負人、設計・工事監理の委任・請負契約を締結した受任者又は設計・工事監理請負人は、当該契約に基づいて、請負人としての瑕疵担保責任や受任者としての債務不履行責任を負うが、同時に、これらの者の行為が一般不法行為の成立要件(違法性・故意又は過失・損害の発生・因果関係)を充たす限り、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生する。
(2)不法行為責任は、発生した損害の公平な分担を図る制度であり、契約の目的とは無関係係であるから、設計で決められた安全率の強度に達しない施工をして瑕疵に当たったとしても、建物の耐久性に支障がない程度の強度であったなら、被害者において補強をすることを余儀なくされるとはいえないので、不法行為上の損害は発生しない。

2 第1次控訴審(福岡高裁平成16年12月16日判決)
一審被告らの敗訴部分を取り消し、一審原告らの請求をいずれも棄却。
(1)一審被告Y2社の瑕疵担保責任について、Cから一審原告らへの注文者たる地位の移転はなく、また、本件売買契約により瑕疵担保責任履行請求権が譲渡されたとは認められないし、債権譲渡における通知又は承諾の対抗要件も欠いているので、一審被告Y2社の一審原告らに対する瑕疵担保責任は認められない。
(2)建物に瑕疵があるからといって、その請負人や設計・工事監理をした者について当然に不法行為の成立が問題になるわけではなく、その違法性が強度である場合、例えば、請負人が注文者等の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵ある目的物を製作した場合や瑕疵の内容が反社会性あるいは反倫理性を帯びる場合、瑕疵の程度・内容が重大で、目的物の存在自体が社会的に危険な状態である場合等に限って、不法行為責任が成立する余地がある。
一審被告らの不法行為責任が認められるためには、上記のような特別の要件を充足することが必要であるところ、一審被告らが本件建物の所有者の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵を生じさせたというような事情は認められない。また、本件建物には、瑕疵があることが認められるが、これらの瑕疵は、いずれも本件建物の構造耐力上の安全性を脅かすまでのものではなく、それによって本件建物が社会公共的にみて許容し難いような危険な建物になっているとは認められないし、瑕疵の内容が反社会性あるいは反倫理性を帯びているとはいえない。さらに、一審原告らが主張する本件建物のその余の瑕疵については、本件建物の基礎や構造く体に関わるものであるとは通常考えられないから、仮に瑕疵が存在するとしても不法行為責任が成立することはない。したがって、本件建物の瑕疵について強度の違法性があるとはいえないから、一審原告らの不法行為に基づく請求は理由がない。

3  第1次上告審(最高裁平成19年7月6日判決)
(1)上告審は、上告人ら(一審原告ら)は瑕疵担保責任を追及し得る契約上の地位を譲り受けていないという部分については是認したが、一審原告らの不法行為に基づく損害賠償請求に関する部分は破棄し、同部分につき、福岡高等裁判所に差し戻した。
(2)建物は、建物利用者や隣人、通行人等の生命、身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである。建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解する。そして、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない。

4 第2次控訴審(福岡高裁21年2月6日判決)
第1次控訴審同様、一審被告らの敗訴部分を取り消し、一審原告らの請求をいずれも棄却。
第1次上告審が判示する「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、建物の瑕疵の中でも、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものと解され、建物の一部の剥落や崩落による事故が生じるおそれがある場合などにも、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」が存するものと解される。本件建物は、平成14年6月17日、競売により一審原告らから第三者に売却されているところ、一審原告らに対する不法行為責任が発生するためには、少なくとも、同日までに、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」が存在していることを必要とすべきである。
本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害されたものということはできないから、一審被告らの不法行為責任は認められない。

5 第2次上告審(最高裁平成23年7月21日判決)
上告審は、福岡高等裁判所に差し戻した。
(1)第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する。
(2)当該瑕疵を放置した場合に、鉄筋の腐食、劣化、コンクリートの耐力低下等を引き起こし、建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵はもとより、建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても、これを放置した場合に、例えば、外壁が剥落して通行人の上に落下したり、開口部、ベランダ、階段等の瑕疵により建物の利用者が転落するなどして人身被害につながる危険があるときや漏水、有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが、建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は該当しない。
(3)建物の所有者は、自らが取得した建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には、第1次上告審判決にいう特段の事情がない限り、設計・施工者等に対し、当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができる。上記所有者が、当該建物を第三者に売却するなどして、その所有権を失った場合であっても、修補費用相当額の補填を受けたなど特段の事情がない限り、一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない。

<本判決〜福岡高裁平成24年1月10日判決>
1 本判決の考え方
本判決は、設計・施工者等が不法行為責任を負う場合があることを前提とし、第2次上告審の判断枠組みを用いて、本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるか否か、ある場合にはそれにより一審原告らの被った損害があるかなど一審被告らの不法行為責任の有無を判断した。
2 本件建物の瑕疵及びこれに対する一審被告らの責任の有無について
(1) 本件における一審原告の請求は、瑕疵担保ではなく不法行為を理由とする請求であるから、瑕疵のほか、これを生じるに至った一審被告らの故意過失についても立証が必要であり、過失については、損害の原因である瑕疵を回避するための具体的注意義務及びこれを怠ったことについて立証がなされる必要がある。
(2) 不法行為責任を認めた部分
@903号室及び906号室の床スラブのひび割れ
各室の床スラブについて、中心部に向かってのたわみと、相当数のひび割れが生じており、その幅は最大で1.2mmであるところ、そのうち戸境壁下ばり端部のひび割れは荷重により生じる曲げモーメントを原因として発生したものであるが、他のひび割れは収縮によるものである。かぶり厚が60ないし70mmと過大であり、かぶり厚が65mmであるとした場合、必要な構造耐力が確保されていないことが認められる。
すると、構造耐力の不足が指摘されている上に、中心部に向かってのたわみ及び荷重によるひび割れが認められることからすれば、床スラブは、建物の基本的な安全性を欠いているものと認められる。そして、その原因については、上端筋の下がりが原因であると認められるところ、これについて一審被告Y2社において、施工時に計測を行うなどして設計どおりのかぶり厚とすることを怠った過失があるものと認められる。
また、一審被告Y1社については、同人は本件建物施工の監理を行っており、監理とは、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいい、本件建物のかぶり厚が設計上の数値と大きく異なっていることが上記確認義務に反するものであることは明らかであるから、同人にも一審被告Y2社と同様の過失があるものと認められる。
AB棟配管スリーブの梁貫通による耐力不足について
配管が梁を横切る場合,梁に孔があると孔の周囲に応力集中が起こるから,これに対して補強が必要であり,孔のある梁について,中心間隔が孔径の3倍以下の場合は,孔と孔との間のコンクリートを無視して長方形の孔があるものとして耐力を検討しなければならない。
これら梁の構造耐力を計算すると,これらの梁の計算上のせん断強度は,設計上の強度を上回っているが,その前提条件である,開口部上下の横補強筋を設置しなければならないところ,そのような配筋がなされておらず,上下主筋の本数も1本から3本ずつ不足している。 以上を踏まえて検討するに,B棟2階の配管スリーブについて,上記のとおり構造の瑕疵があり,これは,一審被告Y1社において必要な構造耐力を確保するため構造計算により適切な構造設計がなされているかを確認すべき注意義務を怠ったことによるものであることが認められるが,一審被告Y2社については,構造計算の複雑性に鑑み設計図書の記載から上記瑕疵に気付くことが可能であったとは認められないから,同人について故意過失があるとは認められない。
BA棟各階室のバルコニー手すりのぐらつき
A棟各室のうち13室のバルコニーについて、手摺柱脚部アンカーの施工位置がコンクリートの端に偏り、ひび割れを起こしている箇所があり、その一部には鉄筋の腐食による爆裂がみられ、コンクリートの破壊が進んでいることが認められる。
また、これらの現象は、バルコニーのコンクリート厚さが150mmとして設計されていたにもかかわらず、施工段階でコンクリート厚さが縮小され、かつ、手すりの柱脚部アンカー取付位置がコンクリートの端の方にずれたことが原因となって、アンカー部分のコンクリートかぶり厚さが不足した結果、ひび割れが生じたものであり、このまま放置した場合にはひび割れが進行し、手すりが支持できなくなるおそれのあることが認められる。
すると、上記状態は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するものと認められ、これは、一審被告Y2社において、設計どおりの施工とせず、手すりの柱脚部アンカー取付位置をコンクリートの中心部分とするなどの施工上の注意義務を怠ったことが原因であり、過失が認められる。また、一審被告Y1社についても、設計どおりに施工されているかを確認する監理義務に違反したものであり、過失が認められる。
CB棟2階事務所床の鉄筋露出
B棟2階事務室床の北西角部に鉄筋が露出しており、露出部には錆が生じていることが認められる。上記状態は、そのまま放置すればコンクリート内部の鉄筋を腐食させ、当該部分の構造耐力を低下させるものであるから、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵に当たる。
当該状態は、一審被告Y2社及び同Y1社において、施工時及び監理時にかぶり厚の確認を怠ったことによるものと認められるから、同人らの過失が認められる。
D屋内立配管の漏れ、パイプスペース内の配管が垂直でないこと・立配管接続部の隙間
本件建物住戸内の排水管には、塩化ビニール管及び耐火材を被覆した2層管が使用されており、これらの管は鋼管に比べ膨張係数が大きいため、冬期において外気温が低いときに温度の高い排水を流すたびに伸縮を繰り返し、その伸縮を吸収するための伸縮継手を使用する必要があったのに、設計において、この伸縮に対する配慮がなされておらず施工されたため、継手部分に亀裂が生じたり、接続部に隙間が発生していることが認められる。また、本件建物の施工当時の技術基準においては、配管の伸縮により損傷が生じるおそれがある場合には伸縮継ぎ手を設ける等有効な措置を行うものとされていた。一方、本件建物の設計図には伸縮継ぎ手等の使用について記載がなかった。
一審被告Y1社については、設計に際し、必要な検討を怠り当時の一般的な設計規準とは異なる設計を行った過失が認められる。また、一審被告Y2社については、民法636条ただし書は請負者の専門性を踏まえたものであり、設計者の指示等に不備があった場合の施工者の過失の有無の判断についても適用するのが相当と解されるところ、同人において一審被告Y1社の指示が不適切であることを知りながらこれを告げなかったものと認めるのが相当であるから、一審被告Y2社についても過失が認められる。
EA棟廊下各階の自動火災報知器
風雨の吹き込む外廊下に防雨対策のない屋内仕様の一般型自動火災報知総合盤が設置され、これに錆が発生しており、これを放置した場合、漏水による腐食により機能しなくなるおそれがあること、設計図には屋外型とは明記されていなかったことが認められる。
上記設置場所の状況に鑑みれば、屋外型機器による設計及び施工が行われるべきであったことは明らかであり、これに反した設計施工は、当該機器が保安機器であることに鑑み、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に当たることは明らかである。
一審被告Y1社において、屋外型の機器を設置するよう設計図において明記しなかったことについて過失が認められる。また、一審被告Y2社についても、上記設計上の不備について一審被告Y1社に対し確認しなかったことについて過失が認められる。
(3) 不法行為責任を認めなかった部分の理由
・建物の基本的な安全性を損なう瑕疵に当たるとは認められない。
〜屋上のエレベーター機械室のひさしの裏面の腐食(出入り予定されていない、剥落の 範囲限定)、外階段の手すりの高さ不足(一定の高さがあり通常の使用による居住者等 の落下の危険性ない)など
・建物の基本的な安全性を損なう瑕疵があったとしても一審被告の故意過失を認めるに 足る証拠がない、ないしが故意過失の内容が不明である。
〜天井スラブの構造上の瑕疵

<参考>
この後、更に上告されたが、最高裁は上告棄却、上告不受理の決定を行った(平成25年1月29日決定)。

法律相談のご予約を承っております。

武蔵小杉綜合法律事務所では、不動産に関するご相談(売買、相続、離婚、住宅特別条項付個人再生など)を幅広く承っております。お困りごとがございましたら、弁護士にご相談ください。 ご予約は、お電話か、またはホームページ上のフォームからもお申し込みが可能です。

お電話でのご予約はこちら。
川崎市の弁護士による不動産の相談

フォームメールはこちらをクリックして下さい。
不動産の相談@武蔵小杉綜合法律事務所








トップページに戻る。

法律相談のご予約法律相談の予約

弁護士への法律相談は、お電話
法律相談は弁護士@川崎
又はフォーム↓からご予約下さい。
川崎市民からのメールによる法律相談の予約


営業時間武蔵小杉綜合法律事務所の営業時間

平日:午前9:30〜午後5:30
休業日:土日祝日、夏季、年末年始
弁護士の土日法律相談 土日祝日の法律相談をご希望の方は、平日営業時間内にお問合せ下さい。


川崎フロンターレ武蔵小杉綜合法律事務所は川崎フロンターレを応援

武蔵小杉綜合法律事務所は、
川崎フロンターレ
を応援しています!
武蔵小杉綜合法律事務所は川崎フロンターレを応援
武蔵小杉綜合法律事務所は川崎のFC「川崎フロンターレ」のスポンサーカンパニーです。
川崎フロンターレHPのスポンサーズリストに掲載中


法律事務所概要弁護士事務所概要

〒211-0006 神奈川県川崎市中原区丸子通1丁目636番地4号
朝日多摩川マンション214号
武蔵小杉綜合法律事務所
TEL:044−430−6610


お取扱いエリア取扱いエリア

当法律事務所の弁護士は神奈川県弁護士会川崎支部所属ですが、お取扱い地域は川崎市内外を問いません。
これまで弁護士の法律相談をご利用されたお客様は、川崎市の北部(中原区、高津区宮前区多摩区麻生区)を始めとして、元住吉駅や日吉駅が最寄りの 川崎市幸区や、川崎区の方、東急線沿線に在住・在勤の方々が多いのですが、 ご相談にいらっしゃることが可能であれば、川崎以外の方も是非ご利用下さい。


弁護士ブログ弁護士のブログ「むさしこすぎの弁護士です」

川崎の弁護士ブログ「むさしこすぎの弁護士です」 弁護士が日々のあれこれを綴っています。どうぞよろしく。