バイスティックの原則
ソーシャルワーカーの対人援助技術の一つ。
もっともポピュラーであり、応用が利く物と言っていいだろう。
ここでは、各々の解説をしながら、リハビリの臨床での活用法を提案していきたい。


@個別化の原則
 利用者を個人としてとらえ、利用者の問題状況に応じて個別的な対応をすること
 →ある程度経験を積んで自分の型もできてくると、人間ではなく、身体や疾患に目が向きがちになるのかと思う。社会生活を営む人間としてのアセスメントがおざなりになりがちでは?
 一人一人のニーズを必ず確認していかないと、一方的なリハビリプログラムを作成してしまう事になるだろう。
 特に価値観は人それぞれであり、援助側の思い込みには注意しよう。
 「リハビリは辛いもの。」「入院生活は辛いもの。」なんて思い込みはありませんか?



A意図的な感情表出の原則
 援助者が利用者の考えや感情(肯定的な感情も否定的な感情も)を自由に表現できるように働きかけなければならない。そして、その利用者の感情表現を大切に扱わなければならない
 →障害の受容は障害の程度によらず、患者さんそれぞれにとって難しいもの。社会的な方ほど、他人であるリハビリテーションスタッフには弱音や本音は話しにくいものだろう。しかし、時に弱い自分を受け止めてもらう存在があればこそ、全力でリハビリに取り組むことができるのではないかと思う。
 患者さんからたとえ怒鳴られたり、泣き出されることがあっても、途中で遮る事があってはいけない。そういう時ほど問題を整理しながら、冷静に受け入れるようにしよう。
 誰にでも内に溜まっている物を吐き出したいという欲求がある。その機会を与えられ、その感情を善悪の価値判断を加えずに聞いてくれる人がいたら、患者はどんなに安心するだろう。
 すべて吐き出してすっきりした時から新しい出発が始まるのである。


B制御された情緒関与の原則
 援助者は自身の感情を自覚し吟味しながら、援助者が利用者の表出した感情を受容的・共感的に受け止めること
 →共感と同情の話を始めると長くなるが、同情が相手の立場にどっぷりはまり込み、問題が見えなくなるのに対し、共感は適切な距離を置いて相手の立場や感情に想いを馳せる。とでも言いましょうか。
 川でおぼれている人がいたとして、同情するのは同じ苦しみを自らも背負い、一緒に沈んでいくのに対し、共感は苦しみは苦しみで、その苦しみを想い、その苦しい気持ちを想い、だけど、一緒に沈まずに岸、もしくはぎりぎりの所から、綱や浮き輪を投げてあげる。そんな感じ?
 あんまり距離をとりすぎると、相手から冷たいと感じられるかもしれない。
 人は「自分の辛さを分かってもらいたい」欲求と同時に、「他人には分かりっこない」という矛盾する思いがあると思う。それゆえに、同情はどこまでいっても同情に過ぎず、相手の心を受け止めきれないと思う。共感のスタンスは「あなたの気持ちは分からないけど、分かろうと思うよ。分かろうと努力するよ。」となる。


 
患者さんがリハビリスタッフに抱く感情は、好意的だったり、敵意に満ちていたり、様々である。その感情は障害を負って、リハビリを始めるという特殊な環境に対して、患者さんそれぞれが持つ歴史などによって左右されると思われる。つまり、「あのリハビリの先生、なんかパパに似てるなぁ。きっと優しいんだろうな。」とか、「あのまゆげ、嫌いな人に似ている。厳しくされたりしないかなぁ。なんか嫌だなぁ」とか、直感にも似た、根拠のない無意識なものであろう。
 そういった感情は逆の立場のリハビリスタッフも持ちうるものである。自分が相手に対してどういった感情をどうして抱いたのか。自覚しようとしないと、気がつかない厄介なものだと思う。相手の感情と自分の感情。それぞれを理解し、制御する。すごく難しいね。


C非審判的態度の原則
 援助者は利用者の言動や行動を、一般の価値基準や援助者自身の価値基準から良いとか悪いとか評価する態度を慎まねばならない。利用者のあるがままを受け入れれるように努め、利用者を一方的に非難してはならない
 →患者さんはそれぞれ入院するまでの歴史があり、価値観がある。しかし、入院すると様々な喪失体験を経て、その価値観はそのたびに揺らがされる事になる。その過程はきっと不安に満ちたものであろう。そうであればあるほど、自らが持つ価値観を大切にしたくなるのではないかと思う。しがみつくように。
 
 患者さんの障害の受容が進まず、なかなか乗ってこないとき、イライラしませんか?もしそうなら、なんでそう思うのか考えてみてください。あなたの価値観の中に「障害を負ってしまったのはしょうがないから、前向きに頑張るしかない!」っていう思いが強ければ、後ろ向きな患者さんに対してはっぱをかけたくなることでしょう。患者さんへのアプローチはケースバイケースなので、どれがいいとかいう話ではないですが、まずは後ろ向きになる患者さんをそのまま受けれてあげてください。考える時間も必要ですし、見守る存在も必要ですから。その上でどうしたらいいのか、一緒に考えてあげてください。

 リハビリを受けるに至る過程は人それぞれで、中には人には話し辛い経緯を抱えている患者さんもいることだろう。そぉした秘密を話すとき、患者さんは我々を試している事があると思う。
 例えば「私、実は離婚しているんです。」そんな告白の中にはありのままの自分を分かって欲しい気持ちと、離婚者という社会的にまだ否定的なレッテルを貼られた自分に対する負の価値観とが入り混じって、そんな自分をどれ位受け止めてもらえるか。答えから敏感に察するものだろうと思う。この時には離婚そのものの価値には触れずに、そうなるに至った経緯や、相手が持つ負の感情に共感する事がいいのではないかと思う。
 離婚でなくても、リハビリに関する約束事を守れなかった時なども同様だろう。リハビリスタッフにとってはリハビリの効果・効率が優先されることでも、患者さんにとっては必ずしもそうではない場合がある。患者さんが何を大切にしているのか、受け止めた上で、選択枝を示し、一緒に考えていく作業があったほうが、動機付けもしっかりした物になると思う。

 自分の価値観を持つなと言う訳ではない事を断っておく。社会通念上、許容される範囲内での価値観は持つべきである。そうしないと、社会生活を営む患者さんの問題点が見えてこないからである。


D自己決定の原則
 援助者は利用者の意思に基づく決定ができるように援助していく。 問題解決の方策についてメリットとデメリットを検討しつつ自己決定に至る過程を一緒にたどったり、さまざまな選択肢を用意するなど自己決定の条件整備をすることも求められる。そして、その利用者の自己決定を促し尊重する

E秘密保持の原則
 利用者から信頼を得るためには、援助関係のなかで利用者の言動や状況を秘密(プライバシー)として守らねばならない。また秘密(プライバシー)が守られることが保証されることにより、はじめて「意図的な感情表出」も可能となる

F専門的援助関係の原則
 援助者は、個人的な関心・興味から利用者に関わってはならない。援助者は、常に専門職としての態度で臨まなければならない