
石野卓球
立東社『プリプロダクション』2001/5月号掲載
|
テクノならではのグルーヴだよね。 ニュー・アルバム『KARAOKE JACK』に迫る! |
前作『throbbing disco cat』から約2年、待望のソロ・アルバムを発表する石野卓 球。シンプルな構成の中に、ボコーダーをはじめとするボイス・サンプルや印象的なシン セ・ベース・サウンドでディスコ・ビートを生み出している。80'sの雰囲気さえも漂わ せるニュー・アルバムは、常に新しい試みを行ってきた彼のいわば原点回帰とも言える作 品だ。ベルリン〜日本と行われたレコーディング作業の内容を中心に、石野卓球の音楽 ルーツについて話しを聞いた。 |
|
No.1《トータル編》 しかし彼は同時にとても真面目な側面をも感じる。 『KARAOKE JACK』は彼独特のユーモアなのか、はたまた生真面目さの現われか。 ニュー・アルバムでは、冒頭から80'sエレクトロのシンプルな空気が流れ出す。 ここに込められた思いは何だろう? |
--久々のソロ・アルバムですね。 石野:約2年ぶりになりますね。ソロ・アルバムにしよう、と思って作業を始めたのは去 年の11月からで、11月にベルリンで曲を作り始めて12月と今年1月はモンターク・スタ ジオ(石野卓球のプライベート・スタジオ)で編集やミキシング中心に行いました。 --レコーディングをベルリンでスタートさせたのは何故ですか? 石野:昨年11月にヨーロッパのDJツアーがあったんですが、基本的にDJは週末なので ウィーク・デーはすることがないんですよ。その2ケ月前の9月にもツアーをやってて、 その時は本当にやることがなくて、持って行ったPower Bookで曲作りとかしてたんです が、どうせならちゃんとスタジオ借りてレコーディング作業をしようと思って11月はス タジオに入ったわけです。結局は9月に作った曲は使わずに全部一から作り直しました。 セッティングも変わたこともあって、その方が早かったし。日本に帰ってから作った曲も いくつかあります。今までに作り貯めしていた昔の曲を引っ張りだしたりして、古いもの だと2〜3年前に作った曲を練り直したりしました。でも、全体的な構成は11月のベル リンで固めました。 --先行シングル(stereo nights)を聴いた第一印象が「あ、日 本のテクノ・ポップ!」というものだったんです。もちろん、アルバムを聴くとまた印象 は変わってくるんですが、いわゆる80'sサウンドは意識したんですか? 石野:う〜ん、僕が日本人だ、という以外は日本のテクノ・ポップを意識したつもりはな いんけど(笑)。でも、80'sエレクトロは好きで聴いてたし、僕の音楽ルーツですから 自然に出てきますよね。日本だとYMOの『ソリッド・ステイト・サバイバー』のA面(テ クノポリス、ライディーンなど)が一番好きだったし、海外だとジョルジオ・モロダーと かのユーロ・ゲイ・ディスコの影響は強く受けてます。16分のシーケンスとかディスコ のビートとか、そういうシンセ・サウンドですね。そんな気分で作ったことは確かです。 --今回のアルバムは、音数がかなりそぎ落とされてますが、それも気分的なもの? 石野:正確に言うと「気分がそうだったので、意図的に音数を減らした」ということで す。シンプルな方が伝わりやすい気がするんですよ。例えば16個の音が入っている中 で、せっかくいいシンセ・ベースができても前に出てこなかったりするし。 --ひとつひとつの音を活かすために必要以上に音を入れたくなかった、と。 石野:そうですね。逆に少ない音数だけでも曲として成り立つならそれでいいと思って余 計な音はできるだけ削りました。電気グルーヴの『VOXXX』を作った時は、時間をかけ てとても情報量の多いアルバムにした結果、濃いものになってしまった。もちろんいい部 分もあるんだけど、失われてしまった部分も感じてたんです。今回は最初に思い浮かんだ アイデアをできるだけシンプルな形で完成に持っていけるように心掛けました。 --そのシンプルさが結果的に80'sの印象を強くしたのかもしれませんね。 石野:当時のドイツ独特のオシレーターが発振してるようなシンセ・サウンドは好きだか ら、手くせで作っていけば自然と好みが出てきますよね。もちろん、今までもその影響は あったと思うんですが、今回はより強く出てるかもしれないです。以前はそういう部分を 意識的にちょっとセーブしてたんだけど、今回は特に押さえることはしませんでした。 --そのせいか、リラックスした雰囲気が感じられますね。 石野:これまで2年間は電気グルーヴばっかりやっていたから、何かいいアイデアが浮か んでも「これを電気でやるには…」と手を加えてたんです。今回はソロなのでどう転んで も自分の責任だから、そういう面で楽にできましたね。 ●シンプルで際立つテクノならではの手法 --全般的にシンセ・ベースのサウンドとリズムが印象的ですね。 石野:やっぱりベースは一番プライオリティーが高いですよ。かっこいいベースとかリズ ムっていうのは、シカゴ・ハウスなんかそうなんですが、どこかすっとぼけていて、それ がとてもファンキーだったりして好きなんですよ。ためたベースよりも「ンパッ、ン パッ」っていうジャストなリズムの方が気持いい。「タン、タン、テト、テト」とか、口 で言うと恥ずかしいようなリズムなんだけど(笑)、それが気持よくて乗らされてしまっ て、結果的にグルーヴを作りだしている。こういうのはテクノでしかできない部分だと思 うし、シンプルな構成の方が際立ちますよ。前作はアルバム・タイトルに「ディスコ」っ て入れたけど、今回の方がディスコ色は強いかもしれないですね。 --曲作りの手法でこれまでと変わった点はありますか? 石野:特にはないです。もちろん、曲によっても大きく変わるし「今日はMIDIを使わな いようにしよう」とか、「今日はTR-808とTB-303をDIN SYNCでつなげてみよう」と か日によっても違うしケース・バイ・ケースです。Cubaseである程度全体を作ったもの を一度DATに2CHで録音して、それを再びCubaseに戻して新しいサンプルを加えたり、 他の曲を組合せたりもしましたし、MIDIを走らせていくつかのシーンを作って編集した ような曲もあるし、特にルールはないです。ただ、基本的にはループを作ってそれを発展 させていく、というやり方です。 |
|
No.2《機材編》 そこに対するこだわりやポイントも実に興味深いところ。 『KARAOKE JACK』で使った機材紹介をしてもらった。 |
--ベルリンでの機材を教えてください。 石野:Nord LeadとスタジオにあったコルグMS20、ヤマハSY77、EMSのVocoder 2000、 あとPower Bookですね。 --アナログ・シンセはあまり使わなかったんですね。 石野:重いしデカイし(笑)。もちろんローランドJupiter-6とか使ってますけど、それ は日本での作業ですね。ベルリンでは、出来るだけシンプルな機材構成にしました。機材 が多いと迷うんです。もちろん多ければ多いほどいろんな可能性が出てくるとは思うけど、 反面迷いも多くなる。その迷っている時間を曲作りに充てた方が合理的だと思って意図的 に減らしました。それと今回初めてコルグのELECTRIBEを使いました。サンプラーとドラ ム・マシンがすごくいい感じですね。安くて小さいし、発売された当初はそれほど注目し ていなかったんだけど、最近触ったらとても使いやすくて。 --録音はHDですか? 石野:HD以外にもベルリンではヤマハのAW4416を使いました。いつも問題になるのが、 DATの2CHで完パケするような曲ならいいんですが、マルチで持って行きたいとなると、 これまではアナログ・マルチに落とすかHDにマルチで録るかしかなかったんです。それが AW4416使うと手軽にマルチに録れるし、移動時も便利でした。でもAW4416本体でミキ シングすることはなく、純粋にレコーダーとしての使い方ですね。あとはとバックアップに 使いました。それと、必ずADT(All Deutsch Technology)というアナログ・ミキサーを 通して録音しました。 --本当にシンプルなシステムですね。 石野:はい。あとソフト・シンセは結構使いましたね。ウォルドルフのPPG WAVES2.Vと か、スタインバーグのNeon、LM・4あたりはよく使いました。 --ソフト・シンセは使ってみていかがでしたか? 石野:全部の設定を一度にセーブできたり、とても便利ですよね。クオリティーも高くて、 PPGとか、あとPro-52とかでも、よっぽど耳のいい人じゃないとビンテージと聞き分けら れないんじゃないかな。今までProphet-5買わなくてよかった(笑)。でも、必ず一度アナ ログの卓を通して録音しました。ソフト・シンセだけで作ったものとそうでないものとは、 決定的に何かが違うんです。全部ソフト・シンセだけだと通信カラオケみたいになってしま うので、大事な音は、必ず一度外に出すようにしてます。 --サウンドの質感を統一するためですか? 石野:う〜ん、質感を統一させるためというよりは、音に個性や奥行きを持たせるためです ね。そういうのは、後からプラグインでエフェクトかけたりしても絶対合わないんですよね。 --シンセ・サウンドはプラグインとかで加工する方ですか? それとも、機種固有のサウン ド・キャラクターを重要視します? 石野:シンセ・ベースに関しては絶対ローランドのSH-2やJupiter-6、シーケンシャル・サ ーキットPro-Oneじゃないと、というこだわりはありますが、上ものはこだわりはないです。 最終的にいい音であればいいので、シンセ自体にはこだわってません。 --出音がよければいいと。 石野:重要なのは音圧があるかどうか、とかそういう部分ですから。ベースでも、いい音が出 ればエフェクトやコンプをかけないでそのままで録りますよ。 ●アナログ卓のゲインをコンプ代わりに --コンプをかけないで録音するんですか? 石野:これまではコンプレッションにこだわってやってたんですが、最近はコンプをかけるこ とによって失われるダイナミックスを問題に感じていたんです。それで今回はキックを含めて トラックごとにコンプはかけないで、最終的な2CHのマスタリングでコンプをかけるようにし たんです。おかげでダイナミックを失わなずにすみました。 --コンプにより失われるダイナミックスについて、もう少し詳しく聞かせてください。 石野:コンプは使い方とかける量が重要ですが、僕の場合はこれまでコンプをかけすぎていた んですね。少々こだわり過ぎてたという反省があって。1つ1つのキックもソロで聴くと完成 度は高いのに全体で聴くとこじんまりしてしまったり、せっかくいいシンセ・ベースができて も線が細くなったりして。本来、音圧があったはずなのにコンプによって点になってしまって いた。例えば、4分打ちの909のキックに808が混ざってくると音像が「ガッ!」と広がるじ ゃないですか。でも、個々にコンプをかけ過ぎるとキックの音色が変わった、というだけで終 わってしまう。ぶっとい808がドーンと入ってこないと意味がないんです。音像とダイナミッ クスは広ければ広いほどいいわけですから、そこを失わないように気を付けたということです。 --なるほど。 石野:これができたのも今まで何度も出てきたADTのアナログ・ミキサーを使ったからなんで す。信号がクリップするぎりぎりまでゲインを上げると、卓独特のコンプ感が出るんです。あ まり上げると本当に歪んでしまうんだけど、歪むぎりぎりにするとナチュラル・コンプがかか ったような状態で、サンプルではちょっと耳に痛い音でもいい感じで丸くなりました。NEVEの 卓に似た感じの音でだけど、NEVEほど上品ではなくてちょうどよかった。デジタル・ミキサー だと、こういうことはできないですからね。 |
|
No.3《楽曲編》 アルバムに納められているひとつひとつの音はシンプルでありながらも |
--オープニング(electronik go go go)はもろシンセのオシレーター、という感じで始 まりすね。 石野:いや、実はこの曲はキックとスネア、ハット、あと声以外は全部AKAIのS3200だ けで作ったんです。しかも、808のコンガのサンプルだけです。 --シンセは使ってないんですか? 石野:そうなんです。808のコンガをオシレーター代わりにして、あとはエンベロープで フィルターのかかり具合を調整しました。面白いことに、808のコンガだけである程度の ことは全部できちゃうんですよ。これくらいパキッとした音だと加工もしやすいし、歪ま せた時も自己主張も強いので、いろんな音に変わりますね。上で「パッ、パッ、パッポー ン」って鳴っているのもコンガです。 --このアイデアは、何がきっかけで思い付いたんですか? 石野:他に楽器がなかったんです(笑)。この曲はレコーディング中盤の時期に作ったんで すが、楽器だけで音を作るのに飽きてサンプラーだけでどれだけのことができるか試したん です。そうしたらこれは行ける、と。10曲目の「piano klang」もほとんど同じプログラム です。 --ヘッドホンで聴くとよくわかりますが、細かく左右でずらしてたりしますよね。 石野:左右でピッチを変えているので、フィルターが開いても右と左で聞こえ方が速い方と 遅い方ができるので「もぉわぁん」と微妙に動くようになってます。これ以外にも位相をい じっている曲が結構多いですね。 --「turn over」も頭の中でぐるぐる音が回りますね。 石野:フランジャーとかコーラスのプラグインを使ってやりました。あとはリバースとか波 形編集ソフトとか。でも、いわゆるターンテーブルのように操作できるようなソフトは使っ ていないです。使ったのは一般的なソフトばかりで、おそらくみなさんが考えてるよりは単 純に作ってますよ(笑)。 --ドラムはTR-909ですか? 石野:808や909本体は使いませんでした。AKAIのMPCとLM・4を多く使ったかな。サンプ リング音も加工してますので「コレ」という特定の機種の音ではないですね。レコードから サンプリングすると、その時点で808と909が混ざってたりするし。あと、最近はデジタル・ ドラムマシンの音も好きですね。 ●ボコーダーの魅力はニュートラルさ --ボイス・サンプルを多用してますが、これは『VOXXX』からの流れですか? 石野:そうですね。声は曲の表情をつけやすいし、例えば「rock da beat」っていう言葉にし ても、あれだけ繰り聴かされると、もう言葉の意味なんかどうでもよくて語感のパーカッシブ な部分に注目が行ってしまいますよね。意味を追っても仕方ないし。「rock da beat」や 「turn over」のように声が声でないようなパーカッション的な使い方は好きですね。これは MPCとS3200を使いました。 --ボコーダーはEMSのみですか? 石野:ほとんどそうですが、SeekersのVoiceSpectraも少し使いました。あとは、プラグイ ンですね。音程が外れてもあまり気にならないので(笑)ANTARESのAuto Tuneはあまり使 ってません。 --ボコーダーの魅力はどこでしょうか? 石野:いわゆるロボット・ボイスってどんな歌詞を歌ってもニュートラルに響くじゃないです か。例えば、同じ歌詞で同じメロディーでも、声が男性か女性か、若いか年配かで受ける印象 は異なるけど、ボコーダーを使うとそういった要素はなくなるし、聴く方も最初からそういう 部分を探ろうと思わない。余計な事を考えなくて済むところですね。 --「le peggi」のシンセ・ドラムは何で鳴らしてるんですか? 石野:ヤマハのA5000を使っています。デュアルのフィルターが不思議なかかり方をするので 気に入ってます。データ自体は電気グルーヴで使っていたもので、去年の6月頃に作った曲で す。 --「gimme some high energy」はクラフトワークっぽい雰囲気もありますね。 石野:これは、とあるコンピレーション・アルバムで七尾旅人くんと一緒にやったときに作っ た曲で、七尾くんが作ったパートとボーカルを抜いてロボ・ボイスを入れたものです。その時 に渡部高士くんがエンジニアを担当していたので、この曲だけミックスをしてもらってます。 これ以外はエンジニアの木島秀明くんとほとんど二人だけで作業しました。彼はいわゆる録音 したりミックスするというエンジニアの仕事よりはもっと広い範囲で関わってもらっていて、 Macintoshのセッティングやシステム構成まで任せてます。録音に関しては、DATやAW4416 などすべて彼がやってます。 --先行シングルの「stereo nights」はまさに「テクノ・ポップ」という感じですね。 石野:特に80'sテクノ・ポップをやるつもりはないけど、時代の流れはあると思うんですよ。 5年前に80'sと言っても誰も理解してくれなかっただろうし、3年後に80'sって言う人もいな いだろうし。ただ、その音がどうして気持いいか、という理由はあるし、流行り廃りではない 時代的な要素も強いでしょうね。おそらく、今はその要素がしっくり来ている時代なんだと思 います。ただ、80年代初めは「未来は明るい」っていう脳天気さがありますよね。僕の場合は 「未来は明るくない」という前提の、明らかに作為的な80'sテイストではありますけど(笑)。 |
《プロフィール》 いしのたっきゅう:1967年12月26日静岡生まれ。ピエール瀧らと「電気グルーヴ」を結成。 1995年に初のソロ・アルバム「DOVE LOVES DUB」をリリース、この頃から本格的にDJ活 動をスタートさせる。1997年にはヨーロッパ最大の屋内レイヴ「MAYDAY」に日本人として 初めて出演、その後も自らオーガナイズしたメガ・レイヴ「WIRE」や「Love Parade」など でプレイを行う。3月23日に先行シングル「stereo nights」、4月25日に2年ぶりのソロ・ アルバムを発表。4月30日の「MAYDAY」に電気グルーヴとしての出演も決定している。 石野卓球 『KARAOKE JACK』 Ki/oon Records KSC2-374 \3,059 4/25発売 |