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剣の世界の終焉1

 星は流れる。

 

 四方から降る光の筋は一つの点に向かっている。

 遠くから地を伝わって低い響きが伝わってくる。不快で不気味な音。

 それさえも記憶にとどめておこうと思う。

 

 世界は救われたのだ。

 

 王宮内では宴が開かれていた。貴族たちは華やかな衣装を身にまとい、杯を手に談笑している。

 変わり行く世界の中心で何を思うか。誰もが直接に口に出すことはない。しかし笑いあう言葉の端々には誇示と牽制が絡みあう。

 

 大きく開かれたホールの入り口からは、南の森で光が立ち上がるのが見えた。火柱。華やかな宴だ。

 森の妖精たちも今宵は禁忌を忘れたのだ。

 燃え盛る炎こそ、世界を救った情熱、繰り返される命の象徴でもあるのだから。

 永遠の命を誇る彼らもこの一夜は、情熱を謳歌するのだ。

 ここからでは見えないが、城の中庭にも数人の妖精が不死鳥を呼び出して立てた火柱が燃え盛っているはずだ。

 夜の火の力は妖精と人との垣根を低くする。交流、それがたとえ一夜限りだとしても悪くは無い。

 変わり行く世界では人の心も、少しずつ変わっていくのだ。

 

 遠くに煙るその炎を見ながら、英雄は祖国まで自分を連れ帰った赤い鱗の竜を思い返していた。

 世界を滅ぼす魔を封じるために、あらゆる精霊の理を無に返す場。誰も生きて戻ることは出来ないと思われた。

 しかし、かの竜は復讐という名の感情を溢れる炎として噴出しながら、その復讐の相手を連れ、その場を脱出したのだ。そして、精霊の力を放出し尽くすと、果てた。

 後に残った爪は同行していた竜司祭の少女が自らの肌に突き刺し、部落に持ち帰った。

 今、彼の心に残るのは脱力感のみだった。世界を救うというこれ以上無いほどのことを済ませた、今、俺は何を為せばよいのだろう。使命を共にした女性の従者達の注ぐ酒を飲み干しながら英雄は思った。

 いや、俺は何かを為したのだろうか。見えない壁に囲まれた通路を通らされてきただけのようだ。

 話しかける貴族の相手をそつなく務めながら、彼の心はそこには無かった。

 

 皆、吟遊詩人の歌に酔い、踊り狂う。世界最高の歌、音楽、踊り。

 この戦いに関わった者は位の貴賎を問わず、王宮に招待された。遠くは東方の大国や南の砂の王国からも。英雄の従者の一人は盗賊であるという身分を半ば公然と知られていたが、雑多な者たちが集うこの場での違和感はなかった。

 

 英雄の子は英雄。英雄の実父である王は、世界を救った英雄以上に讃えられた。

 歓喜の声が最高潮までになると初老の王は立ち上がる。

 剣の型を一振り。ゆっくりと鞘に剣を戻した。剣筋には、いささかの衰えも見られない。

 一瞬の静寂の後、天井が割れるかと思えるほどの大きな拍手が起こった。

 王は満足げな表情を浮かべ、宴の間から立ち去った。後は自由にやれ、ということなのだろう。王妃もそれに付き従う。

 正妃の子である皇太子が主人の役を引き継いだ。一昨年、伝統ある国の再建王に座った弟王子が脇で盛り立てる。宴は終わる気配がなかった。

 

 大きな月が登る頃、フロアの入り口に三人の人影が見えた。月明かりを背に見えるのは緩やかな衣装のシルエット。いずれも魔術師がよく身にまとっているものだ。

 一人は女。二人は男。

 彼らが星を降らせていたのだ。世界の危機を呼ぶ魔法装置を破壊するために。

 男のうち一人は東方の大国からの招待者だった。もう一人の男はこの国の魔術師ギルドの最高導師、そして残る一人の女性はこの国の宮廷魔術師だった。

 三人の実力は、共に大陸一の魔術師との称えられるべきものだ。君臨していた東方の最高導師の姿は既にこの大陸には無い。

 

 魔術師は万能だと思っている者も多いようだ。それゆえに怖れる者も多い。

 しかし、実際はさまざまな制約に阻まれ、魔術師の出来ることは限られている。

 遠く過ぎ去った魔法の時代ならともかく、現在の魔術師が出来ることは案外少ないものなのだ。

 それは有る意味、常識だった。

 技量を見抜く。相手が何を出来て、何が出来ないか瞬時に悟る。魔術師と相対する者は生き抜くために知らねばならないのだ。

 だが、ごく普通に暮らしている者が魔術師と係わり合いになることは少ない。

 それゆえに魔術師は奇異の目に晒され、怖れられ、一部では疎まれてもいる。

 

 貴族達はにこやかな笑顔で魔術師を迎える。グラスを手渡し、席に招きいれ、挨拶を交わす。

 だが、魔術師達との話を積極的に広げようとする者はいない。

 一人一人と貴族たちは席を離れる。三人の魔術師の一人、氷の目をした魔女も宮廷魔術師としての職責を果たすべく、席を立った。

 

 宴は夜を通して続けられるという。

 次第に人影はまばらになり、楽器の演奏も穏やかな曲になっていく。忙しく動いていた給仕たちも壁に立ったまま居眠りを始める者までいる。それでも一部の騎士達は競うかのように酒を酌み交わし談笑を続ける。

 

 夜が明けた。

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