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一つだけ〜草妖精の独白

 「ティルトス。お前に言っておく事がある。」

 ティルトスはコルカの脇にしゃがんで耳をそばだてていた。コルカの声はかすれて聞こえにくかった。

 治癒の魔法を使えるボンジは、まだ遠くに居る。必死になって神聖魔法を唱える声は聞こえるが、その祈りはコルカに届いてはいない。

 「お前の父の仇の話だ。」

 「俺の父の仇? 奴らのことか!?」

 彼の父の名を付けた伝書鳩が、その声に反応して一声挙げた。サミーの精霊魔法はその鳩にも及んでいるようだ。ティルトスは心の隅でサミーの心遣いに感謝する。

 ティルトスは父の仇を追うためにガルガライスのブーリア村を出立した。そして目の前にいる者たちこそが、その仇であると半ば信じていたのだ。少年にとって、父の仇を取る事は人生の目的になっていた。

 「お前の父の仇はもう居ない。」

 「なんだって。そんなはずは」

 コルカはティルトスの言葉をさえぎって続けた。

 「仇討ちを人生の目的にするなんてことはくだらないことだ、とオレは思った。」

 ティルトスはその言葉を聞いて、幾分鼻白む。

 「だからオレはお前の仇を調べた。」

 ティルトスはベルダインでのコルカの奇妙な行動を思いだしていた。コルカはサミーと一緒に行動していたが、いつも一緒、というのはいかにも奇妙だった。恐らくコルカは合間を見て単独行動を取っていたのだろう。ティルトスは真意を確かめるかのようにコルカの目を見つめた。

 「オレは、父の仇がもう居ない、という事をお前に知られるのを心配した。人生の目的をなくしたお前が何をするのか、オレには想像出来なかったからだ。」

 コルカの目はどこか遠くのほうを見ているようだった。

 「旅の間にお前は伸び伸びとした心を取り戻しつつあるようだったな。」

 ティルトスは再びコルカから目を逸らした。

 「オレの心配は無用だったのかもしれない。最初から真実を話していたほうがよかったのかもしれない。しかし、最初に黙っていると決めてしまった以上、後から何を言えただろう?」

 コルカの話はそこで止まった。

 皆が近づいてきていたのだ。仲間達の心配そうな顔の他に、精霊使いと盗賊風の男も笑みを浮かべながら近づいていた。ティルトスの心は、その笑みを見て、再び沸騰した。

 「何を笑っているんだ。」

 かすれる声で小さく言葉を吐き捨てる。その感情は理不尽なものだと分かっていはいたが、少年には混乱した心を制御出来なかった。

 ティルトスはコルカを床に横たえると剣を手に取り、男たちのほうに駆け出した。

 男たちは不意を撃たれて、大きく飛びのいた。

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