
「うひゃー。これは無理だ!」
見ると遺跡に入った途端に入り口から飛び出す参加者が続出していた。
出てきても、すぐに警備員に追いやられ、すぐに彼らは遺跡に戻っていく。
そして、また戻ってきて追いやられるということの繰り返しだ。
高額な優勝賞金とコースの途中で得られるという副賞の魔法の品物に釣られて、多くの冒険者がこの街に大挙して来ていた。
冒険者とは、命を懸けて金を得る職業の者たち。危険の詰まった古代王国の遺跡にもぐりこんで、失われた前世代の遺物を引き上げて来る者たちだ。
甘い話は無い。冒険者たちは知っていたのだ。だが急に再開されることになったこのレース、その不自然さには何か訳がある。うわさに聞く街の状態からすると、悪いことではないだろう。彼らは内心そうだと思い込んでいたのだ。
この街の郊外には、古代遺跡の一つを模して作られた迷宮がある。街の太守はその遺跡を利用した客寄せのレースを行っているのだ。かつては毎年行われていたレースだったが、マンネリは進む。内容はどんどん過激になり、ついには完走者がゼロにまでなってしまった。
レースは開催の無期限停止を余儀なくされた。それから三年、ようやく再開されることになった。いや再開をも余儀なくされたというべきかも知れない。
レースの停止から街の観光収入は激減したまま。財政は破綻寸前だ。今まで、経済の力で維持してきたこの街が破綻することになれば隣の街に併合されてしまうのは目に見えている。あわただしくなった中央の政治と呼応するように、この地方でも活発な動きがあるのだ。
まだ余力のあるうちに太守の家に伝わる魔法の品物等を餌にして冒険者を呼び、継続的な観光収入を得る。あわよくば冒険者の中から優秀な人材を引き抜き、街の建て直しを図る、というのが今回のレースの目的だ、と噂は伝えていた。冒険者の意識の中には、この街への仕官の期待も少なからず含まれていた。
「それにしても、ふがいない奴が多いな」
「仕方がありませんよ。三年間の澱が溜まっているのですから」
この街の太守と側近が城の物見台でガラス球を覗き込みながら言う。
「ほおって置けば恨みも消えると思っていたが、周りから魔を呼びこんで手の付けられぬほど大きくなるとはな」
「だから、三年前に言ったではありませぬか。著名な司祭が隣街にいるのです。呼んで供養なされ、と。」
「それでは、面子が立たんではないか。隣街の太守の、あの小娘に頭を下げるなど虫が好かん」
「だからといって冒険者をだまして幽霊退治などということをしたことがばれたらどうするのです。それこそ面子が立ちませぬぞ」
「面子が立たんのはどちらに転んでも同じことだ。まあ何とかなるだろう。」
「また、無責任なことを。計画的にことを進めなければ街はすぐにつぶれますぞ。何度言ったらあなたはお分かりになるのですか」
「分かった、分かった。おっ、また冒険者が戻ってきたぞ。強そうな魔法使いじゃないか。今度は幽霊を一匹でも成仏させたかな。精霊の四大会いまみえ、不浄の者どもを清めたまえ。なんてな。はっはっは」
どこの国でも事情は同じである。
この文章は第六回雑文祭の参加要件の元で書いたものです。