平成ゴジラスーツの歴史

平成ゴジラのスーツ変遷模式図

 

 まず、図を見ていただきたい。四角い囲み一つが基本的に一体のスーツである。1984年の『ゴジラ』以降、いわゆる復活ゴジラシリーズでは計7体のスーツが製作されたことがわかると思う。スーツアクターは薩摩剣八郎氏。84年から95年まで11年にわたってゴジラを演じた。平成ゴジラの造形を考えるうえでも演じた薩摩氏の存在は切り離せない。
では作品ごとに見ていこう。
‘84『ゴジラ』84ゴジ
 
 ゴジラ初、全身型抜きで2体のスーツが新造された。1号(海・弾着用)2号(アップ用)の2体である。原型製作は安丸信行氏。先行して完成した1号は型抜き成形であるにも関わらず大幅にプロポーションが変更されており、巨大感を強調した末広がりの三角形のシルエットを持つ。撮影後半で使用された2号は1号とは違い原型に忠実なようで、アップ用としてギミックが足されている。1号と2号は背ビレの並びにも違いが見られ、1号の方が大きい背ビレが多く、重心が下がっている。

 一般には前記のように、用途によって使い分けるために2体製作されたといわれている。84ゴジ以降のゴジラシリーズ、あるいはそれ以前のシリーズを見ても、アップ用とアクション用(もしくは海用)の2体の使い分けは一般的だろう。だが、実際はこの作品ではそういう使い分けはされていない

 ホビーショップやおや店主の藤井俊宏氏
は、2号は1号から腕部と脚部を流用して新造されたのではないかと推察されている。整理すると、2号は胴体のみ新造であり、四肢は1号より流用、頭部にはギミックを加え、プロポーションの変更に伴い背ビレの配置を見直した、ということである。

 1号は中野昭慶特技監督特美の安丸氏の議論(かなり険悪なムードだったという)により、胸、肩中心に改良を重ねて作り上げられた。なのに何故、後に製作された2号には同様の改造を施さなかったのか。もっと言えば、パーツを流用するまでして何故2体目を製作する必要があったのか。それは当然改良後のプロポーションに問題があると考えることが出来る。ここらあたりは感覚的に言うしかないのだが、静的なポーズでは見栄えのする1号が「動いたらかっこ悪かった」ということなのだろう。特に腕を上げた際に、盛り上がった肩から首と比較して痩せた腕が目立ってしまうのであった。


 以上のように1号・2号という呼称は適切ではなく、また、プール撮影、弾着使用についても使い分けがされているわけでもないので、海用・アップ用という呼称も適切ではない。そこで藤井氏は「田舎ゴジラ」「都会ゴジラ」という呼び分けを提唱されている。真実は一つ、なのであるが、比較的最近の作である(といってももう20年近くたったのだな)『84ゴジラ』においてさえ謎は多い。平成作品も今のうちに整理しておく必要があるといえよう。

 なお84ゴジラの足裏には鉄板が仕込んであったという。これは薩摩氏にナイショで中野特技監督が仕込ませたもので、歩きにくくして擬人化を排する意味があったらしい。

(やおやホームページ「店長のお仕事」を参考にさせていただきました。また藤井さんには上記の説についてご教授いただきました。ありがとうございました。http://www.aa.alles.or.jp/~hobby808/index.html)
『ゴジラVSビオランテ』ビオゴジ

 
新世代ゴジラに意欲あふれる川北紘一特技監督によって新たなゴジラが誕生した。頭部は小林知己氏によって原型が起こされ(※)、今までになく小型化した。撮影には2体のスーツが使用された。

 先行して撮影に使用された通称「海ゴジ」は84ゴジラ2号スーツを流用して製作された。頭部は新造したものにすげ替えられ、背ビレは脱着式になり配列も変わった。大きな変更点は頭部、背ビレのみであるが、各部メンテナンスは行われているだろう。

 通称「陸ゴジ」は84ゴジラの型(背ビレ、手足、表皮など)と新型の頭部から新造された。当初は首が短い状態でお披露目されたが、後に首を長く改修し使用された。平成ゴジラの元祖にして最も美しいシルエットと顔を持つ。

 2体を通してのビオゴジの特徴は、小型化した頭部、擬人化を廃した黒眼、二重になった歯牙、上部に大きいものを配した背ビレ、筋肉質なボディ、脱着式の背ビレブロックである。84ゴジラ以上に新世代のゴジラを強烈に印象付け、以後のVSシリーズの基礎となった。また海ゴジと陸ゴジは歯並びと尻尾の長さに差異が見られる、という。

 以上が『大ゴジラ図鑑』が出版されて以来の公式見解といっていいと思う。この写真集以前には「海ゴジ」が84ゴジの流用という事実はあまり知られていなかったのではないだろうか(筆者はこれで知った)。実際『ゴジラVSビオランテ』公開当時のムックでもそのことにはふれられていない。当時の特美安丸氏のインタビューでも「海ゴジラはプール撮影用に軽量で、尻尾も半分くらいの長さにカットしてある」と、新造したものともとれる発言をされている(三原山のシーンのビハインドでは普通の長さの尻尾が付いていたのだが)。当時発売された朝日ソノラマの『宇宙船文庫ゴジラVSビオランテ』ではビオゴジの頭部と84ゴジの頭部を並べた写真が掲載されている。この84ゴジ頭部が海ゴジ製作のために切り取られたものなのかもしれない。流用といっても表皮は張り替えているはずで、外見から証拠を見つけることは困難だ。ただプロポーションはかなり似通っている。『大ゴジラ図鑑』の小林知己氏のインタビューでは「一体は流用」と断言しておられるので、間違いはないのだろうが。

 余談だが、ビオゴジ製作前に雛型が作られている。といっても新造ではなく、84ゴジの雛型の首を挿げ替えたものだ。東京のどこやら(田舎もんなので知らない)に立ってる銅像の原型はこのときの雛型じゃなかろうか。


(※)この作品でビオランテの造型を担当した品田冬樹氏の著作によると頭部の原型を製作したのは小林氏ではなく、安丸氏だという。『ずっと怪獣が好きだった』(2005年刊行)より
『ゴジラVSキングギドラ』ギドゴジ
 前作の2体のスーツが流用された。陸ゴジ流用の新宿戦スーツと海ゴジ流用の北海道戦スーツである。2体ともビオゴジのデザインを踏襲するが、虹彩の色調がやや明るくなった印象がある。

 先に撮影された新宿戦で用いられたスーツは、前作の陸ゴジの肩から上をすげ替えたものである。残念ながらビオゴジほどの完成度は持たず、全体にくたびれた印象は否めない(筆者は好きだ)。前作クライマックスの雨やら、ビオランテの樹液やらで劣化がすすんだのだろう。首は前から見るとやや末広がりに太く、シワが入ってしまっている。前面はなだらかで表皮のモールドが目立たないのが特徴であろうか(ややキンゴジ風か。クチビルがあるのもキンゴジに通じるな)。尻尾も劣化が進んでいるようで、裏面にウレタンか表皮かを張り合わせた継ぎ目が浮きあがっている。撮影後腰で分割され、上半身はプール及びアップ用に使用された。釧路沖での出現シーン、北海道上陸の際のアップなど、なかなかの2枚目ぶりだ。海用スーツの下半身を切断するのは、プール撮影の危険性から川北特技監督が提案した方法だそうだが、実際は最初の『ゴジラ』で使われていた方法なのであった。確かに、プール専用のものが用意できるのなら下半身は必要ないわけだ。

 撮影後半で使用された北海道戦スーツは前作の海ゴジ流用であるが、上半身を中心に大規模な改修が施されており印象はかなり違う。例によって首は新造され、胸は大幅にボリュームアップしているが、反面腹部はシワがより背ビレがややずり落ちるなど劣化は隠せない。顔はかなり荒々しく強暴な面構えだが、口を閉じた横顔は美しい。また、太モモ付け根の帯状の肉取りが強調されている。背ビレは新宿戦(陸ゴジ)とほぼ同じ配列だが、全体に下がり気味で、その分を埋める背ビレ(につながるヒダ)が追加されている。尻尾は新宿戦ゴジの流用なのか、同様に尻尾裏面に継ぎ目が見えている。全体のバランスはかなり微妙に崩れているのだがなのだが、魅力的なスーツには違いない。ファンも多いようだ。
『ゴジラVSモスラ』バトゴジ
 
 2体のスーツが新造され、前作の北海道戦スーツが流用された。新造されたうち、1体はプール撮影用のヒザから下が無いもの。余ったパーツを利用して急造されたものだ(ボンドが乾ききってなくて中に入る薩摩剣八郎氏が大変だったそうだ)。顔は平成ゴジラの中でも異質な顔立ちで余りカッコ良くない(原型には一番忠実かも)。眼は前作までを踏襲した黒眼だ。

 海底での対バトラ幼虫と富士山からの出現はギドゴジ北海道戦スーツが流用された。前作撮影後に盗難されたものの見事に現場復帰、といいたいところだが背ビレはさらにずり下がり、スタッフ間では「ボロゴジ」と呼ばれていたらしい。84ゴジ2号流用が事実とすれば、すでに最初の製作から10年以上経過しているのだから仕方ない。歴代ゴジラでもっとも長期間活躍したスーツといえる。


 メインのスーツがいわゆるバトゴジだ。頭部の上下動のギミックが組み込まれ、黒目が黄色と赤色を基調とした明るいものに変更された。背ビレも配列が変更されてやや重心は下がった。ビオゴジ系では見られない背ビレがあるが、これは84ゴジラ1号で使われ、2号では採用されなかった背ビレが復活したのだと考えられる。背ビレの配列はこの後デスゴジで変更になるが、平成ゴジラ3パターンの背ビレ配列はすべて84ゴジ2パターンの配列で使われた背ビレの原型が使用されており、シリーズ途中で新造した背ビレはないようだ。

 頭部は目線がはっきりしたためか、やんちゃなわんぱく小僧のような印象をうける。首はギミックが仕込まれたためか太くなり前面の蛇腹がはっきりした。ボディは前から見るとスリムな印象もあるのだが、横から見るとかなりのボリューム・厚みを持つ。太モモはヒザに向けて末広がりに広がる「巾着型」から「俵型」になり、スネ〜足首も細く、筋肉質なイメージが強調された。ヒザはブロックが前面だけでなく、後面まで帯状に回りこむ。くびれの強調された下半身だが、反面歩きにくいようで(特にヒザが曲げにくいように感じる)、その歩き方がやんちゃ度を高めている。

 ボディ製作の中心となったのは村上修一氏(72年生まれというから当時20歳!ホントなのかな)。後にラドゴジを手がけることになる。
『ゴジラVSメカゴジラ』ラドゴジ

 
メインのスーツが新造されたほか、前作のメイン・海用の2体が流用された。
 バトゴジは新造スーツ完成までのサブとして、アドノア島での対ラドン戦、四日市上陸で使用された。ほぼ無改造のようであるが、劣化のためか首がやわらかくなった印象を受ける。海用もほぼ無改造のまま流用されたが、胸から肩周りは表皮を張り替えている(補修途中の写真が残されている)。あいかわらずカッコ悪いのだが、アドノア島沖での出現時の月明かりに輝く海面を背景にしたシーンや、ベビーとともに海へ帰っていくシーンでは、美しいまでに深い表情を見せている。またアドノア島でラドンを踏みつける下半身のアップには、ギドゴジ新宿戦スーツの下半身が使われている。


  メインスーツ、ラドゴジはバトゴジの完成形といえるのではないだろうか。全体はバトゴジをシェイプアップしたようなイメージだ。製作者側にもその意識はあったようで、バトゴジのボディを手がけた造形助手村上修一氏は、ファンにウケの悪かったバトゴジに対する反省点をラドゴジに生かしたそうだ。首には、バトゴジ同様頭部の上下動のギミックを仕込んであるが細く前傾した。そのためか胸との間に段差が顕著に認められる。首の前傾により前から見た場合ややや首が短く感じられる。鎌首をもたげた蛇のような美しさを持つビオゴジ、スフィンクスのように堂々としたバトゴジに対して、ラドゴジはある意味恐竜的な前傾したシルエットを持つといえようか。

  脚部はマタが大きく切れ上がり、脚部(太モモ)を長く見せている。これにより腹部が細くなりスタッフからは「ハイレグゴジラ」と呼ばれていたそうだ。尻尾の取り付け位置も工夫され、従来の下向きからやや後ろ向きへ。これら脚部・尻尾の変更により、フロントビューはアグレッシブで、サイドビューは前傾した美しいラインを描き、平成ゴジラ中随一の躍動感を見せる。ただ、モモの後から腰へのつながりのラインがやや曖昧で、腰周りが太めなのが惜しい。
  材質は、歯がFRPからデンタルレジンに、手足の爪が軟質のビニールキャストに変更され、頭部の表皮がやわらかめの素材に変更されている。

  筆者が平成ゴジラ中もっとも好きなのがこのラドゴジだ。製作の中心となった村上氏の若さ、勢いが生んだ若々しいゴジラだと思う。
『ゴジラVSスペースゴジラ』モゲゴジ
 
 
メインのスーツが新造され、サブとしてラドゴジが、海用としてバトゴジが流用された。
  メインスーツは平成ゴジラの集大成である。リトルゴジラとの対比から(かつての息子ゴジラがそうであったように)大柄に作られている。その分頭部は小さく見える。肉付きは非常にバランスがよく、重厚感にあふれている。全体のイメージはまさにビオゴジからラドゴジまでの平成ゴジラのいいとこ取りだ。イメージとしては「ビオゴジにバトゴジのギミックを足した」そんな感じ。頭部は前2作の上下動に左右の動きを加えた。そのため、スーツ一体でかなりの撮影をこなせるようになり、前作までアップ用だったメカニカルの上半身モデルはほとんど使用されていない。

  モゲゴジは従来のゴジラに比べて、「体積で1.5倍、皮膚面積で2倍近く」大きいという。この差異は、足にゲタがはかせられていること、肩から上のボリュームを増してあること、その二つの変更にあわせて各部のバランスを変更していること、の3つの変更による。2番目の変更はようするにこれまでのスーツではゴジラの首にあった演技者の頭が、モゲゴジでは首の付け根あたりにあるということ。このため、ゴジラの肩はダミーのアンコで、演技者の腕がゴジラの上腕から生えていることになり、腕を上げるとスタイルが崩れてしまう。ここらへんは実は84ゴジ1号の問題点と同じだったりする。

  ラドゴジはほぼそのまま使われている(ちなみに、「大ゴジラ図鑑」でモゲゴジとして3面図が掲載されているものはラドゴジである)。海用のバトゴジは、海ゴジの慣例に従い膝下が切断されていると考えられる。そしてこのとき切断された脚部の片方が角田伸朗氏所蔵の「ゴジラの足」なのだろう。角田氏はTVに出演された際にも「モスラと戦ったゴジラの足」と発言されているし、足首のしまった形状もバトゴジのものに間違いない。

  個人的にモゲゴジは完成度が高すぎてかえって魅力を感じない。あくまで個人的な感想なのだけど。
『ゴジラVSデストロイア』デスゴジ
 

 死に向かって突き進む「紅き龍」ゴジラ。この作品ではモゲゴジ流用のメインスーツと、ラドゴジ流用の海用スーツの2体が使用されている。
  メインスーツはモゲゴジの胸部、腹部、上腕、大腿部を透明なポリ素材に置き換え、電飾が施されたものだ。電球の数は860個だという。かなりの重量を持ち、尻尾ほどの太さがある電源ケーブル及び噴出ガス用のホースをひきずっている。眼球にも電飾が施されるが、黒目が小さく丸くなり、初代ゴジラを彷彿とさせる。背ビレは前3体のスーツとは真中の列の配列が変更され、小さい背ビレのすぐ下に最も大きな背ビレが付く。一見してビオゴジ風の配列だ。

  海用はラドゴジの流用で、メインスーツとは若干発光部の入り方が異なっている。背ビレはメイン同様配列が変更されているが、もしかしたらメインスーツと背ビレブロックは共用なのかもしれない。
  そのインパクト、美しさは平成ゴジラの最後を彩るにふさわしい。
 復活ゴジラシリーズのゴジラスーツを概観してみた。シリーズ終了から数年が経ち、作品としての評価は賛否両論あるものの定まりつつある。そしてそれは概ね「駄作」という評価が与えられているようだ。だが忘れてはならないのは、復活ゴジラシリーズが新しいゴジラ像というものを鮮烈にアピールし、確実にそれに熱狂した人たちがいたということだ。その盛り上がりがあったからこそ、怪獣ガレージキットが飛躍的に発展、隆盛を極めたし(そして沈静化、トホホ)、平成ガメラ3部作、続いて『G×M』『GMK』『G×MG』という傑作群が生まれたのだから。
 
 なお『ゴジラ2000 ミレニアム』以降、ゴジラの造形は東宝特美の手をを離れ、外注に出されるようになった。ほぼ全身型抜きで製作され、いずれも作品内での揺れ幅は非常に小さい。VSシリーズほどスーツの違いによる個性が感じられず寂しい思いもあるが、作品の完成度としては違いが無いほうが良いだろうとも思う。いずれ考察してみたい。(2003.9.23改稿.2005.8.8追記)