ゴジラの色


 我々怪獣モデラーにとって、悩みの種なのがゴジラの色だ。模型は模型、そのサイズ、魅せたい目的、自らのイメージ、どんな色で塗っても間違いはないのが模型の世界だ。
 だがそれでも気になるのが実際のゴジラはどんな色だったかだ。ここでは特に初期のゴジラについて、その色を再確認しておきたい。


初代ゴジラの色

 
炎を照り返した、ポスターの色合いから褐色のイメージが強い初代ゴジラ。実際はどうだったか。

渡辺明「色は灰色の濃いみたいな色。(中略)パートライトちゅうてね、ゴジラの顔に当てて、下を暗くしてそいで向こうを明るくすると、ゴジラがパーッと浮いてきて、目がギュッと光るだろう。(後略)」なお、口の中だけは生物感を出すために絵の具で赤く塗ってあった。
『円谷英二の映像世界』竹内博「『ゴジラ』の誕生」(1983)より

開米栄三「塗装はね、油性の塗料。黒に白入れて灰色にしたんだ。褐色じゃないよ。」
西村祐次・ヤマダマサミ『大ゴジラ図鑑』(1995)より

八木宏(※)「ゴムといっても油粘土みたいな白い素材で、熱を加える前は白いんですよ。それを窯に入れて熱を加えると焼けて固まるわけだよね。タイヤのゴムみたいな、ああいう黒っぽい色になる。」
特撮映画研究会編『怪獣とヒーローを創った男達』(2002)より

(※)八木宏氏:初代ゴジラで気ぐるみ製作の造型スタッフの一人、八木勘寿の孫。父八木正夫も初代ゴジラの造型作業に参加。

「色は茶系統の灰色に、緑の汚しがあったという。」
ヤマダマサミ『スーパージオラマシアター・ゴジラ』(1992)より

 開米氏の証言によると,、素材のゴムの色は焼いて固める前後ともに白色で、その後油性塗料で濃灰色に彩色してあったという。また、八木宏氏の証言では、焼きあげることで黒くなったとされる。どちらが正しいのか、読み取れる写真等の資料はないようだ。ただ焼きすぎて黒くこげる事はあったのだという。
 また茶系統の灰色に緑の汚しがあったという説明もされているが、詳細は不明。ただし、ここでいう茶系統の灰色というのは後述するキンゴジに近いものなのであろうか。
 なお上記、特殊美術の渡辺明の証言からは
口内は赤く、目に電飾は無かったことも判明する。


逆襲ゴジラの色

富岡素敬
「灰色と言うか黒っぽい色だったんじゃないですかねえ。」
有川貞昌
「赤黒い色ですよ。真っ黒じゃあないんですよね。やっぱし色は付いてましたよ。グレーじゃなかったですよね。」
富岡素敬「で、背中のヒレは少しやっぱし白。」
有川貞昌「ふちをね、ずーっと白くとって。」
東宝DVD『ゴジラの逆襲』オーディオコメンタリーより

八木正夫「ゴジラの皮膚の色というのは別に決まってなかったの。ただ、カメラに写る場合、あんまり黒いと細部がわかんないし、あんまり明るいと凄味がない。だから、そのへんは適当に、黒色のハダに少量の白色を塗って、白色を塗りすぎると重みがなくなる、と言って黒く塗り足したりと……。本当言うと、汚れた土色(笑)。」
特撮映画研究会編『怪獣とヒーローを創った男達』(2002)より

「ゴジラのタイル模様、アンギラスの市松模様にも微妙に彩色がなされている。」
西村祐次・ヤマダマサミ『大ゴジラ図鑑』(1995)より

 スチール写真は白黒なので明度の違いしかわからないが、体表のヒダに細かい彩色が施されているのがわかる。また上記有川氏の証言は、初代ゴジラに寄せられる証言とは食い違いがあることに注目したい。初代ゴジラは褐色のイメージを否定され濃灰色と証言され、一方、逆襲ゴジラは赤黒色だったと証言されている。どちらも白黒時代のゴジラで、製作時期も離れておらず、一部ブロップの流用もされている。両者の彩色は果たして・・・。
 ゴジラとアンギラスについてその体色を語った八木正夫氏の発言は、逆襲ゴジラだけのことなのか、初代ゴジラにも適応される証言なのか、そのへんは判断しがたいが、逆襲ゴジラ特有の「体表のヒダの細かい彩色」について言及しているとは捉えられないだろうか。

 利光貞三が中島春雄のために作ったといういうゴジラの人形がある。西村祐次・ヤマダマサミ『大ゴジラ図鑑2』(1995.12)では1950年代、ヤマダマサミ『絶対ゴジラ主義』(1995.10)では1960年代に製作されたとされる。『大ゴジラ図鑑2』にはカラー写真が掲載されており、赤みの強い褐色の肌と黄色味の強い背ビレを持つ。これは上記有川氏の証言による逆襲ゴジラの体色にも近い。
 余談だが、バンダイカプセルトイ「HG円谷英二セレクション」の逆襲ゴジラはこのゴジラ人形の塗装を模していると思われる。また同シリーズのアンギラスはグレーグリーンの彩色が施されており、実際のアンギラスが「グリーン系」(村瀬継蔵氏談。ヤマダマサミ『スーパージオラマシアター・ゴジラ』(1992)所収インタビューより)であったという証言に基づいていると思われる。後に刊行された『怪獣とヒーローを創った男達』(2002)の中でも、八木正夫氏が「アンギラスに関しては全体的にエメラルドグリーンというかブルー系」と証言しており、円谷英二セレクションのアンギラスの彩色はしっかりした考証のもとに行われていたようだ。
 
 なおこの利光作のゴジラ人形は、頬の肉取りがモスゴジ系そっくりで、60年代の製作と見たほうがいいかもしれないが、見ようによっては初ゴジ的にも見えなくないので、やはり判断は難しい。


キンゴジの色

「このときのゴジラの体色は茶褐色のかかったグレーである。」
西村祐次・ヤマダマサミ『大ゴジラ図鑑』(1995)より

 青味がかっていたり、緑系だったり、茶系だったり、劇中では場面ごとカットごとに異なる体色を見せるキンゴジ。『キングコング対ゴジラ』の作品自体、オリジナル原版の消失などの不運な出来事が重なったため、意図した発色とはなっておらず、劇中から色を読み取ることは困難である。

 そんな中、『キングコング対ゴジラ』のDVDのブックレットに「ゴジラの肌色が初めて判る、世界初公開の貴重な写真」というのが掲載された。DVD自体は高画質・高解像度だが復元したシーンとオリジナルのシーンの色調を合わせるために若干彩度が落ちている点が惜しい。
 さてその写真だが、ブックレットでは小さく、判別しにくかったものが2005年、DVD『ゴジラ ファイナル ウォーズ』スペシャルエディション特典ディスク『スピリット オブ ゴジラ 〜怪獣を演じた男たちの軌跡〜』にて大判の写真が掲載された。また、竹内博編『東宝特撮怪獣映画未公開写真集』(朝日ソノラマ2002)で若干退色したように見受けられた顔アップの写真も美麗なものが掲載された。
 
 この写真、ある意味これまでのキンゴジのイメージを覆すものだ。
 
 眉から眼下の縁取り、唇、鼻筋にかけて(おそらくラテックスで型抜きされた原型の部分)が赤褐色を呈し、凹部はやや青味がかったグレーで塗られている。口内は前述の赤褐色で、舌のほうがややピンクがかる。歯はくすんだアイボリー、白目は黄色のグラデーションがかかる。
 
 そしてもう一つ、見過ごされがちだが、キンゴジの頭頂部の3列のトサカのうち真ん中の1列は背ビレと同様に白っぽく彩色されているフシがある。

 『ゴジラ写真館 第二集』(大日本絵画1994)の写真を見てみると、常に中央のトサカの明度が高い。照明の関係かとも考えられるが、陰になっても、光が当たっても、左右列と比べると明度が高くなっている。前述のカラー写真でも明らかに彩色されている様子が読み取れる。
 劇中では彩色されているようなカットもあるし、体色と同じに見えるカットもある。キンゴジは撮影中に塗りなおされた可能性が高いため、トサカの彩色についても見直されたのかもしれない。

 キンゴジが塗りなおされた可能性についてであるが、確実に塗りなおされていることがわかるのが手足のツメである。出現シーンから北方軍事基地を襲うシーンまでは手のツメはクッキリと塗り分けられており、異様に目立つ。色はアイボリー。足のツメも同様にアイボリーで塗り分けられている。
 次に登場するシーン以降は手足のツメの色は体色と同じか、体色からやや明るめのグラデーションがかけられたような状態に見える(ただし、劇中のコマをよく見てみると、グラデをかけずにはっきりとした塗り分けがされているようだ)。

 背ビレはアイボリーぽくも、やや茶色が入ったグレーにも見える。特に富士山麓の決戦ではかなり黄味が強く見える。


モスゴジの色

 
村瀬継蔵
ゴジラだけは黒。着色には墨汁を使っています。」
ヤマダマサミ『スーパージオラマシアター・ゴジラ』(1992)より

 村瀬継蔵「(写真の)左奥に墨汁の1斗缶がある。ゴジラの大まかな塗装はこれでやっていた。」

 村瀬継蔵
「このときのFRPの手の爪には、塗装を施している。」
 
 「当時の背ビレは白で、ほんの少しブルーがかっていたそうだ。」
西村祐次・ヤマダマサミ『大ゴジラ図鑑』(1995)より

 モスゴジの色はキンゴジほどイメージにギャップがないだろう。
墨汁で塗られたという黒味の強い体色に眉のみ茶系〜カーキ系の色味が入れられている。眉の塗装は意図して塗られたものなのか、下地が透けたものなのか。
 モスゴジの素材であるウレタンとラテックスは、白っぽい色で、ラテックスに塗料を混入して着色するということは行っていないようだ。よって眉は透けたものというより、そういう彩色を施したということなのだろう。

 モスゴジは頬が震える初期のものと、震えない後期のものがあり、ナパーム弾炸裂のシーンの前後で補修されたものと言われている(補修後は首筋の右後に切開痕が残る)。その補修前後では特に背ビレの彩色が変更されている。
 初期版は背ビレの「枝部」と「板状部の凸部」に白が入れられている(「板状部の凸部」にはスポット状に白が入る)。後期版は「板状部の凸部」の彩色は目立たなくなり、板状部縁辺から枝部へグラデーションがかけれれている。

 なおキンゴジで触れた頭頂部のトサカの彩色だが、モスゴジでも同様に中央列のみ背ビレ同様の彩色が施されているとみられる。総進撃ゴジラでも頭頂部まで背ビレの銀色が塗られていたことを考えると、トサカの彩色は昭和ゴジラのスタンダードな意匠だったのかもしれない。


 スタッフの証言と写真資料の検討を元に初期4作品のゴジラの体色を考えてみた。初期のゴジラには不明な点が多い。今後も新たな証言、新資料が出てくることを期待したい。

TOP