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職業訓練指導員が行う高次脳機能障害者の家族支援と企業支援
−DVDレターとプレゼンテーション資料の活用−

○上田 典之(国立職業リハビリテーションセンター職業訓練指導員)
岡谷 和典(国立職業リハビリテーションセンター主任職業訓練指導員)





はじめに
 高次脳機能障害は表1のように生活の場面での適応が難しいという特徴から「見えない障害」と言われている。この障害を有する本人を支える上で重要となる家族、企業、地域支援の具体的方策について本論文では取りあげる。
 本論文は国立職業リハビリテーションセンター(以下「当センター」という。)職域開発科における高次脳機能障害者に対する職業訓練(流れを図1に示す)において、自己理解を進めるための教材としてDVDレター、プレゼンテーション資料を職業訓練指導員と本人とで共同作成し、これを家族、企業への支援に役立てる方法を報告する。

図1 職域開発科での職業訓練の流れ

1 家族・企業への情報提供の必要性
 名倉(2002)1)らは地域障害者職業センターが復職支援した事例において企業への情報提供について、高次脳機能障害を有する脳血管障害者らは、一般に状態像の理解が得にくいと指摘している。これをふまえ、復職支援での第一段は支援者が専門的な知識を背景に、個別、具体的な対象者の状態像を適切に理解してもらえるよう情報提供を行うことにあると述べている。さらに、生川(2002)2)らは障害者職業センター宿泊棟における生活指導の実際について報告した際、家族支援・地域生活支援へのスムーズな移行が課題であるとし、生活指導の実施状況をわかりやすく情報提供することは、地域での生活におけるスムーズな支援につながると指摘している。

2 訓練場面での問題点
(1)アンケート
 当センターでは本人によりよい行動を促すためには、支援者が障害特性を十分に理解することが必要と考えている。家族の方に訓練場面で生じている問題点を知ってもらい、理解を促進するプログラムの一つとして家族を対象にアンケートを行っている。  アンケートは訓練開始6ヶ月後に行うが、この期間までには訓練場面でさまざまな問題が起きており、これについて電話、保護者相談会、見学会などを行って理解を進めている。実際に訓練場面であった支援者が困りやすいこと、困ったことを表1に示す。 表1 支援者が困りやすいこと困ったこと

 家族へのアンケートから日常場面でうまくいっていないと感じることについての回答を表2に示す。

表2 日常の場面で上手くいっていないと感じる点

 家族にどのように支援して欲しいかを質問したが、回答は白紙で出されており、先行きが見えないようであった。家族からの訓練への要望についても表3に示すように訓練の状況を受けての不安や心配がうかがえる。
表3 訓練への要望


(2)悪循環と問題発見志向型支援
 訓練場面では図2のように困ったことに対して、「がんばる」、「改善する」といった気持ちを育てていくが、一方で、成果が出てこないことから、理想と現実が食い違い悪循環になってしまう。

図2 指導と結果の悪循環
 悪循環を断ち切るために、職域開発科では問題予測3)を行いながらよりよい行動がとれるように具体的に代償手段を講じていく問題発見志向型の支援を行っている。図3に障害特性に関わるそれぞれの側面に対して支援ノウハウを開発する流れを示す。

図3 障害特性に対する支援

(3)DVDレター
 言葉による説明や状況を書面にまとめてしまうと抽象的になりすぎてしまうため、前に述べた困ったことを家族へ直接伝えていくことが困難である。いつも症状が出るわけでもなく見学してもらってもその場で伝えられることに限界があるため、この状況を解決するため職域開発科では図4DVDレター(ビデオレター)を作成し活用している。
 日頃から訓練場面を撮影し、場面によっては訓練生自らビデオカメラに向かって状況を説明してもらい、それを職業訓練指導員が編集している。
 実際に作成したDVDレターのタイトルを表4に示す。
表4 DVDレター(タイトルと対象)



図4 DVDレター
 DVDレターを作成した場合は、家族から感想を聞くようにしている。またあわせて、本人と家族で話し合ってもらうように指導する。図5のようにDVDレターを通じて本人と保護者と関係を作る道具としても活用している。

図5 本人と家族の関係を強化する
 このDVDレターをとおして、日頃、努力しているところを見てもらい、就職に向けての困難さと同時に可能性の具体化をねらっている。

3 地域の支援者・企業向け教材
(1)プレゼンテーション資料
 地域の障害者職業センターをはじめとした支援者、実習先、就職先の企業の方々への情報提供の教材を作成。図6のように地域、企業のいずれも同じ接し方で、同じ資料で障害を有する本人の口から説明ができるように支援している。

図6 本人と地域・企業との関係を強化する

(2)訓練報告を共同制作
 訓練場面を離れてしまうと、訓練で習得した技能や代償手段を活用できず、自分の障害特性をふまえた上での、よりよい行動がとれないという問題が生じた。これに対応するために、1年間の訓練を振り返って家族、企業、支援者を対象とした自己アピール教材を作成する。訓練場面での様々な支援ノウハウと、自己理解に基づく自分の障害特性について本人との共同作業で図7「訓練報告」を作成し、図や写真を豊富に取り込み理解しやすいプレゼンテーション資料として作り上げていく。この教材の内容は、図8の目次のとおり。

図7 プレゼンテーション資料

図8 目次
 訓練場面で実際に訓練生が困ったこと、障害による困難な点が実際にどのような代償手段によって克服されていくかが伝わるように工夫している。リハビリテーションによる機能回復の限界から、後遺症は完全にはなくならない場合もある。修了後の自立を目指すため、訓練生はもちろん、支援者、企業の方々にもそれなりに準備と心構えをしてもらうことになる。
 職業自立には地域・企業の支えがなくては職場定着が難しいということを、地域の支援者、企業と一緒に考え支援していける内容を目指している。
(3)固有の特徴として伝える
 時々もの忘れしたり、うっかりミスをしたり、仕事がこなせなくなったり、体調を崩したりは誰にでもある。しかし、職域開発科に来る訓練生の記憶や注意の問題は誰にでもある水準よりはるかに多く、問題行動として表れている。この状況は訓練場面から職場に環境が変化しても同様と思われる。状況を理解してもらうためには、記憶の障害などの図を示しながら、問題事象を障害に起因するものとして伝えている。
 具体的な支援のノウハウについても図9に示すとおり一ページで見やすくしている。具体的なノウハウは表5のとおり。

図9 実際に仕事に取りかかるとき
表5 支援の具体的なノウハウ

4 訓練の結果
(1)修了後のメール等によるフォローアップ
 就労後も障害特性の自信を失いやすい点を支援者が理解し、現状を認めて励ます支援が必要になる。「よくやった」「つぎもやってみよう」そして「よりよくしていく」と言葉できちんと伝え本人を支える支援体制作りが大切である。訓練期間で築きあげた信頼関係を基礎とし、励ましあったり、近況を報告してもらったりしながら地域の支援者との接し方や職場での悩みなどを解決していく。支援者や企業には障害者への誤解やどう接したらいいかなどの不安がある。これは障害者本人の力だけでは解決できない問題である。この状況をふまえた上でこれを支える役割を支援者が自覚するようにメールを基本としたリアルタイムな支援を行う。
(2)修了時のアンケート結果
 家族に対して修了時に訓練6ヶ月目と同様のアンケートを実施。表6に日常生活で困っていること、表7に指導のポイントを示す。
表6 日常で困っていること

表7 指導のポイント

 6ヶ月目と修了時のアンケート結果を比べると障害特性としてどのような問題があり、それをどう解決したらよいのか具体的な回答がなされた。

5 考察
 修了生(現在就労中)からは「自分自身の思ったことを形にしていくことの大切さを教えていただいた」という肯定的な感想があった。一方で他の修了生(現在就労中)からは「高次脳機能障害というものがまだ世間によく理解されてない。職場では説明をしてもたぶん分かっていただけない雰囲気」という感想も寄せられている。前者の感想は教材作成をとおして自己理解が進んだと考えられる。一方で後者の感想や表6、表7の家族へのアンケート結果、職場定着が実現している結果を見ると、家族、支援者、企業の理解は高次脳機能障害を有する方の職業能力発揮に重要であると感じた。見えない障害の一因となっている生活上の不適応状況から、三者は相互に関係しながら障害特性に直面するが、そのとき、共通理解が連鎖的にうまく働くと、DVDレターやプレゼンテーション教材は適切な対処行動をとるための支援ノウハウとして受け入れられる。一方で、情報提供がなされず三者の共通理解がうまくいかない場合には、訓練場面で確認されたような問題行動を繰り返してしまうことが予測される。三者の共通理解を図る環境を作り上げることで高次脳機能障害を有する方の能力発揮の可能性が広がると同時に、職場定着という目標が実現できるものと思われる。


6 まとめ
 教材作成の過程では訓練生を主人公とし、その意志を尊重することが自己理解を図る上で重要である。そして、図10に示すよう自己理解に基づいたDVDレターで問題発生時の映像を提示したり、さらに、図表を使ったプレゼンテーション資料で分かりやすく情報提供したりしていく支援の有効性がわかった。

図10 三者への視聴覚教材の提供

おわりに
 修了生の4名中、就労3名、求職中1名。このうち、就職した3名は定着中である。情報提供は本人の同意を得た上で実施し、プライバシー保護を促す注意書きをしている。

参考文献
1) 名倉彰子:脳血管障害者の職場復帰支援について、「国際職業リハビリテーション研究大会発表論文集」、pp.166-169、(2002)
2) 生川奈津美:職業センター宿泊棟における生活指導の実際、「国際職業リハビリテーション研究大会発表論文集」、pp.298-301、(2002)
3) 上田典之:問題予測とよりよい行動への支援、「職業能力開発論文コンクール応募論文」、(2003)

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