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障害者の就労支援を目的とした映像ツールの検討
―(車いす)―


○上田典之 栗田達弘 阿久澤 弓子
(国立職業リハビリテーションセンター、元国立職業リハビリテーションセンター)




1はじめに
 車いす利用者の就職活動では、職業能力や意欲が評価されつつも、障害者の常識と企業の常識の隔たりを課題としている。そこで、生活形態への認知と理解を引き出す為の道具として映像ツールを提案する。

2先行研究
2.1関係性について
社会学の視点から見てシステムの構成要素は人間ではなく行為やコミュニケーション(関係性)にある。
ソシュール1)やウィトゲンシュタイン2)、柄谷行人3)、等各氏が論述するような「対話」する人間にとって自己のシステムがすべてであり、対話者はまったく理解不能な「他者」としてまず現われることになる。
現段階において、各企業と障害者団体若しくはリハビリ医療間の相互な文化の理解は非常に困難を極めている。
このことから、今まで障害者雇用を行ったことのない企業に障害者の生活体系や文化を解して貰うには概して時間が掛かるようになる。その上、お互いの文化で互いに常識と思っているモノは見落とされがちにもなる。
上記のことを念頭に考えると、誰もが認知・理解が出来る障害者雇用の道具が必要ということになる。

2.2雇用のための手段の提供
 国立職業リハビリテーションセンターにおいて研究がなされ、1985年に車いす利用者等の雇用ハンドブック4)としてまとめられた。これは次のような特徴がある。


表1車いす利用者等の雇用ハンドブックの特徴


3車いすDVD(仮名)について
3.1試作品
 国立職業リハビリテーションセンターの訓練生の就職先向けにDVD形式の映像ツールを試作した。対象は一般企業の人事担当者でこれを支援者が活用して職場開拓、訓練生の説明に当たれる物とした。
 全部16シーンで、各シーンの選択画面は図1〜4のとおり。

図1 動作場面1

図2 動作場面2

図3 健康面

図4 その他
 それぞれのシーンでの実際の映像は図5〜8のとおり。

図5 車いすの目線の大切さのシーン

図6 各シーンのはじめ

図7 シーンの例(2画面構成)

図8 車へのトランスファーのシーン

3.2改良のためのアンケート調査
・目的
 改良のための調査として、質問紙による調査を実施した。 ・方法
 被験者は国立職業リハビリテーションセンターに勤務する職員で、協力者は5名であった。内訳は男性4名、女性1名、20〜60歳代であった。
 DVDが見られるように準備を行った後、被験者にDVDを操作してもらい、以下の質問に答えるとした。
表2 質問内容


・結果
○シーンの長さ
適切なシーンの長さについての結果を、図9に示す。

図9 シーンの長さ
 長さの限定は必要ないとの回答が多数であった。初めての方だと、丁寧に説明する必要があるとの意見があった。

○映像の満足度
 満足度については全員どちらでもないと回答。寄せられた意見を1.映像に対する不満、2.内容についての不満、に分けたものは表3のとおり。
表3 映像の満足度

 映像に対する不満では、字幕スーパーやイラストを入れると良いとの意見が、内容に対する不満ではリアリティを出すようにとの意見が寄せられている。
○印象深かったシーン
印象深かったシーンのうち複数意見が寄せられたシーンを、図10に示す。

図10 印象深かったシーン
 表4のような意見が寄せられた

表4 印象深かったシーンへの意見

○イメージ
イメージが深まったかの質問の結果を、図11に示す。

図11 イメージが深まったか
 物足りないとの意見は専門職に対してのアンケートのためと考えるが、DVDで、印象が深まったとの意見は、トイレなど普段では見られないシーンがあったためと思われる
表5のような意見が寄せられた
表5 イメージが深まったか


○どうようなDVDを見たいのか
どのような内容のDVDを見たいのかについては、表6のようなニーズがあった。

表6 DVDニーズ

 各障害でニーズがあることがわかった。特殊な事例を扱うことは有用ではないが、聴覚障害など広く認知されていると思われる事例でもニーズがあった。広く認知されていることであれば、使われる機会が望めるのではないかと思われる。頻度が高くなれば、製造コストがいっそう低下するのではないかと考える。

3.3改良点
 映像と内容の不満で二分した。それぞれについての対応は表7のとおり。
表7 改良点

 実際の現場の内容や意見を映像化して、本人の言葉で、書面よりリアリティがあるものにしていくことが必要と考えられる。

4考察
 アンケート結果から車いすの目線が印象深かったことから、従来から口頭説明していた内容でも映像で代用することができることを意味している。映像により説明の省力化が図れると思われる。
 DVDメディアは複製が簡単であり、ビデオに複製可能。このため、人的な支援よりも製造コストが安くなると思われる。
 書物での説明では個人差があるため、時間が掛かってしまうこともありうるが、説明の時間がDVD本編の長さがきまっており、映像は時間的区切りがあるために結果として短時間の説明ですむ。しかも、映像を取捨選択することができるため、説明時間が省け、映像で説明している状態と、対象者の状態を比較して説明できるなど理解しやすい工夫をする余地ができる。
 このことから、図のようにDVDは車いす障害者に対しての最低保障になり、企業の抱くイメージの水準を超えやすくなると思われる。当事者(企業・本人・支援者)主体に活用すれば効果的と考える。

図12 DVDによる最低保障
 いままで、個別の説明が大部分であったのが、この部分をDVDに置き換えることで、次のようなメリットが生まれる。
・ 説明の漏れが少なくなる。
・ 知識の最低保証となる。
・ 映像と比較できるのでより個別の説明に気を払うことができるようになる。
・ 説明時間あたりの理解度が向上する。
・ 限られた機会に効果的なプレゼンが可能。
・ 就職の可能性がひろがる。

5今後の課題
 企業の求める就業時の動作についての映像を盛り込んでいくこと、見落としがちになる障害者の日常的動作を盛り込んでいくことが今後の課題として考えられる。

6参考文献・参考サイト
1) Terrence Gordon:Saussure for Beginners, 1996.
2)Ludwig Josef Wittgenstein:Tractatus Logico-Philosophicus,1921.
3)柄谷行人:探究I,1986.
4)国立職業リハビリテーションセンター編:車いす利用者等の雇用ハンドブック,1985.

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