Strad 1717
Maestro "Shuichi Takahashi" anno2012 cremona


新入生の勧誘で賑わう大学のキャンパス。
ヘビーメタルをこよなく愛し、エレキギターの速弾きに憧れていたはずなのに、
たまたま軽音楽部が見つからずに何となく見学に入ってしまった部屋でバイオリンに出会い、
学生時代の4年間を管弦楽団で過ごす事になりました。

卒業前には先輩が使っていた楽器を譲ってもらい、
卒業してからも機会があるごとに楽器を弾いていたのですが、
もっと真剣に時間をかけてバイオリンと向き合いたいと思うようになり、
クレモナ在住のマエストロ、高橋修一氏にメールをしたのが2012年の1月の事です。
その高橋修一氏こそ、僕が楽器を譲っていただいた先輩でした。


楽器を製作してもらうにあたり、僕がお願いをした事が幾つかありました。


・ ストラディバリウスモデルであること
・ 裏板は1枚物であること
・ オールド風仕上げであること
・ ラベルに "To Ueno"と名前を入れてもらうこと
・ 楽器に名前を付けてもらうこと


当時注文を受けていた作品が出来上がり次第製作に取り掛かってくれるという事で、
完成は秋ごろの予定となりました。


< 製作開始 >


工程1


まず最初に、楓材から横板を手ノコで切り出します。
長い材料を均等に切りだすのは非常に集中力が必要で、同時に体力も必要とされます。


切り出した横板の厚みを鉋で1.2mmに揃えます。
薄い材料を均等な厚さに揃えるのには熟練の技が必要とされます。

( 2012/4/21 )


バイオリンの製作には木型を使うのですが、
クレモナでは内枠式という方法で製作するのが一般的なようです。
木型はプロバイオリニストの玉井菜摘さんがお使いの1717年製ストラディバリウスからとったものです。
昨年高橋氏が玉井さんにお会いして非常に強いインスピレーションを受けた楽器だそうで、
現在はそのモデルを精力的に作られているようです。



厚みが揃った横板を木型に接着します。
乾燥後に木型から取り外す必要があるので、接着にはニカワを使います。


横板が出来上がりました。


表板と裏板を製材し、出来上がった型の横板の線をベースに
2.5mm外側にデザインしたものが、ヴァイオリンのアウトラインになります。
これを糸鋸で切り出したのが画像正面のものです。


今回のバイオリンの材料は画像の物になります。
左側が表板で、右側が裏板となります。


前回切り出した表板と裏板を丸鑿で粗彫りしていきます。
粗彫りには丸ノミを使い、ゆるやかなアーチを描くように削っていきます。


平ノミとヤスリで縁の厚みを4mmに揃えて、アウトラインを成形します。
アウトラインに沿ってパフリングの溝を切り、象嵌をしています。
パフリングは木の割れを防ぐためのものですが、デザイン的にもアクセントになります。


パフリングが入ったらこうなりました。
一気に表情が出てきますね。


バイオリン鉋と呼ばれる豆鉋を使って裏板の隆起の成形中です。
画像右端に見えているダイヤルゲージを使い、
ポイントごとに厚みを変えていくという難しい作業です。


隆起の成形を終えた板材です。左が表板で右が裏板ですね。

裏板は一枚物で制作していただいているのがよく分かります。
豆鉋で成形した後、画像手前に見えるスクレーパーで仕上げてあります。
裏側も同じように、ノミ、鉋、スクレーパーの順に使い、厚み出しをしてあります。


裏板の厚み出し中。


表板は厚み出しを終えた時点でf字孔を切り出します。


表板のf字孔を開け終わりました。
同時に、裏板は横板に取り付ける作業をしています。


裏板と横板を接着したものから内枠を抜きました。


表板との接着部分に、ライニングという、いわばのりしろ部分を接着する行程です。
手作りっぽい洗濯バサミを大量に使い、均等に圧着されています。


表板は厚み出しを終えた後、バスバーという部品を接着します。
バスバーはテンションがかかる太い弦の下にあり、表板の強度を出すことに貢献しています。


ライニングが取り付けられました。


バスバーの成形が終わり、いよいよ箱閉じです。


さて、バイオリン作りもここからが佳境です。
バイオリン製作の最も複雑な工程(だと思う)のネック作りです。

ネックは無垢材に型を転写するところから始まり、地道に形にしていきます。
以下、ダイジェストで。


糸鋸などで大まかに形を切り出します。


横幅の成形


細かくノコを入れて行きます。


ノコを入れた部分をノミで飛ばします。


ヤスリで成形。


  ゴリゴリ . . .


大分なめらかになって来ました。


ネック完成。左斜めから。


後ろはグラマラス。


と、ここで一気にニス塗り工程まで進んでしまったので、ニスの乾燥の様子。
おしゃれな工房だなー。
( 画像の男性はバイオリン製作の巨匠でもあり修一さんの親方のステファノ・コニア氏!!)


僕の楽器は左から2番めだそうです。


しばらく間が開きましたが、ニス塗りを進めて行ってくださったようです。
表はこういう感じに。


裏はこういう感じ。
一枚板は見ているだけで嬉しいですね。


ここで一旦パーツのフィッティング。
黒檀、ローズウッド、柘植(ツゲ)が一般的で、画像のものは柘植になります。
これはこれで綺麗なのですが、楽器の色とのコントラストを考え、
ローズウッドにしてもらおうかと思います。


注文してから9ヶ月が経った2012年9月6日、
マエストロから「ヴァイオリンが完成しました」というメールをもらいました。
そのメールに添付してあったのが上の画像となります。
前回お願いした通り、各パーツはローズウッドにしてもらったので
前回の画像と比べると締まりが出てくるような気がします。


ネックは(僕が言うのもおこがましいですが)バランス良く仕上げてあります。
演奏時にこの角度から見ることはできませんが、
演奏時以外には良い表情を見せてくれることは間違いありません。


裏板はもちろん一枚で。
画像では分かりませんが、実際に手にしてみると画像以上に虎杢が映えると思います。


マエストロ曰く、「芯の強い、底力のある音色に仕上がったのではないかと思います」という事ですので
実際に弾いてみるのが非常に楽しみなのですが、
実はその前に、3年に一度クレモナで行われるコンクールに出品する事になっています。
コンクールでは公正を期す為に出品者の名前を隠してサブネームを付ける事になっているそうなので、
同時に、楽器に名前をつけるという案も進行させてもらうことにしました。

個人的にはオーディオルームの名前でもある"Il mare"(イタリア語で「海」)が浮かんだのですが、
オーディオルームと名前が被るのがどうも気になったので、
別案として"le diva"(オペラの女性歌手、あるいは歌姫)という案も提案しました。
どういう名前になるんでしょうか。


マエストロからバイオリンを受け取りました。

2013年1月7日に注文をし、受け取ったのが2013年11月3日。
受注生産なので製作に数ヶ月かかり、その後楽器フェアで帰国する際に持ってきていただきました。
最初に見た印象は「なんて美しい楽器だ」という感じでしたが、
鳴らしこんで行くうちにどんどんと楽器として成長していき、その懐の深さに驚いています。
マエストロ曰く、「いままで作った中で最高の出来だよ」だそうです。
本当に嬉しいですね。


f字孔から中を覗くとバイオリンのラベルがあるのですが、
この楽器のラベルにはこう書いてあります。


Per il mio caro amico Ueno "il MARE"
( 私の大切な友人であるUenoの為に "il MARE" )


イルマーレというのはイタリア語で「海」を表します。
僕が大好きな韓国映画の「イルマーレ」と、そこから名付けたオーディオルーム「イルマーレ」、
そしてそのオーディオルームで鳴らすバイオリン、"イルマーレ"。
きっと海のように広く、深い音で鳴ってくれる事でしょう。


マエストロに感謝!ですね。


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