山東の縦長銭荘票の図柄と中国の伝統文化
   三星福禄寿の図柄と花銭(吉祥銭)―2―


 (雑誌『収集』2012年6月号に掲載されたものに花銭を追加したものを、
                                        3回にわたってご紹介する。)
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                                                   加藤正宏
 福禄寿に関わる花銭(吉祥銭)を私の所持品から少し紹介しておこう。

 
 
 五子登科福寿双全と福、背は福禄寿喜と財

先ず「五子登科福寿双全と福、背は福禄寿喜と財」、背面の鹿は禄、寿星(寿老人)は寿で、花銭の中心にある字が財である。背面は近世の五福である。また、この花銭の形が蜜柑(橘子)であり、橘juと吉jiは諧音とされ、この花銭の姿自体が吉銭と考えられている。「五子登科」とは5人(多く)の息子を得て、息子たち全てが科挙に合格することを指す。
 



 
 
 五子登科福寿双全、背は福禄寿喜

上記と同じ文言だが孔銭になっているため、孔の部分の福と財が無く橘子の形もしていない、「五子登科福寿双全、背は福禄寿喜」の花銭である。『中国花銭』などには「喜」の部分に蜘蛛が刻まれている。蜘蛛は俗称で喜蛛と呼ばれていたので、漢字を図で表したものになる。
 





 

 
 
 
 
孔の周りに長命富貴金玉満堂の文字と外周に蝙蝠と連銭と花、背は鶴と鹿と松或いは桐と寿石   孔の周りに長命富貴金玉満堂の文字と外周に八宝の図柄 、背は桃の木と鹿と蝙蝠

 「孔の周りに長命富貴金玉満堂の文字と外周に蝙蝠と連銭と花、背は鶴と鹿と松或いは桐と寿石」の花銭、『中国花銭』では松でなく桃とし、「長命富貴金玉満堂背桃樹鹿形銭」とのみ解説しているが・・・。私の考えでは、二枚の孔銭による連銭には眼が二つできる。「金玉」と「長命」の外側にそれぞれに蝙蝠が刻まれ、その左(字の読める位置から)連銭が刻まれている。古銭の孔は眼と考えられ、「銭」と「前」は共にqianの3声で、眼のある銭即ち眼前になる。蝙蝠は福だから「福在眼前」(福は直ぐ近くに)との意味であろう。その福は長命富貴金玉満堂ということであり、背面の図柄の鶴の長寿、鹿の禄、或いは樹木が桐であれば、前述の「六合同春」をも指しているのであろう。
 上記と同じような文言と図柄の「孔の周りに長命富貴金玉満堂の文字と外周に八宝(如意・宝珠・玉磐・方勝・珊瑚・犀角・銀錠・古銭)の図柄 、背は桃の木と鹿と蝙蝠(鹿の足下)」の花銭、背の図柄は即ち福(蝙蝠)禄(鹿)寿(桃)の図柄である。八宝紋は日本にも伝来し、日本の焼き物などにも描かれている。
 

 
 
 
 八宝
(如意・宝珠・玉磐・方勝・珊瑚・犀角・銀錠・古銭)
 縁に八宝
丹波篠山の王地山焼

 八宝について、解説しておこう。地域においても異なるようだし、また、道教の八宝、仏教の八宝もあり、八宝の中身は固定していないようだ。今回のものは上記のが相当だと思われる。語句を少し解説すると、如意(読経や説法などのときに僧侶が手に持つ、先の曲がった棒状の仏具)、宝珠(菩薩や観音が手にしている珠、日本では一般に下部球形上部円錐の珠で表されている。仏塔の法輪の最上部、仏堂の頂上、橋の欄干などに擬宝珠はこれをまねたものだ。火炎に包まれた珠もある。)、玉磐(古代の石製の楽器)、方勝(菱形がずらして重ねられたような形の一種の首飾りで、心を同じくするとの意味がある。)となる。
 

 
 
 五行大布、背は亀蛇北斗剣

 
 その他に「長命富貴、背は阿弥陀佛」、「長命富貴」、「太平通宝、背は金玉満堂」、「延齢益寿」、「夫婦偕老」、「齊寿亀鶴」、「一本万利招財進宝」を所持している。これらは福禄寿の禄や寿を願った花銭と言える。「偕」は「揃って、一緒に、共に、連れ立って」の意味である。「齊寿亀鶴」は亀と鶴が図柄で表されている。「齊」は「同じ高さに達する、一致させる、揃える」の意味だから、亀や鶴と同じように長寿を得ることを祈願したものだ。『中国花銭』には図柄の花銭の記載はなく文言のみである。亀が図案化されている珍しい例ではなかろうか。なお、「五行大布、背は亀蛇北斗剣」などにも亀は見られるが・・・、これは北斗七星がらみの玄武(蛇と亀が一体化した生物)の故事によるようだ。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
長命富貴、
背は阿弥陀佛
 
 長命富貴  「太平通宝、
背は金玉満堂
一本万利招財進宝 
 
 
 
 
 
 
 
 
 延齢益寿  夫婦偕老  齊寿亀鶴
亀と鶴が図柄
 

  最後の「一本万利招財進宝」だが、「一本万利」は元手一両で万両の利益を得るということ、つまり「元銭小、利潤大」と言うところ、「招財進宝」は財宝を引き寄せ引き入れるというところだろう。これらの八文字だけの吉祥花銭もあり、『中国花銭』にはその図柄も紹介されている。この「招財進宝」への思いは現代の中国人にも深く根付いていて、春節などには門口に、「招財進宝」を一字で表した文字が張り出される。背面は桃の木と蝙蝠と劉海戯蟾の図である。勿論、桃は長寿、蝙蝠は福を表している。劉海の足元には蟾蜍(ヒキガエル)が、劉海の手には紐縄を通した銭刺しが見える。いろいろな説があるようだが、つまるところ、財神としての劉海を描いていたものだ。捕らえた三本足の金蟾の口からは絶えることなく金銭が吐き出され、金銭は尽きることが無い。図は蟾蜍の口から縄に通された金銭が引き出されているところである。正面の「一本万利招財進宝」のそれぞれの文字の外側は図案化された蝙蝠のようだ。禄を中心に据えた福禄寿の吉祥花銭と考えられる。

 
 
 
 
 一本万利招財進宝  招財進宝の漢字一字  劉海戯蟾の図

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