人権市民会議
ユニークフェイス
20世紀最後のマイノリティ宣言から10年
抵抗運動の歴史がないマイノリティ運動

NPO法人ユニークフェイス代表
石井政之

石井政之さん
  報告レジュメのタイトルとして「20世紀最後のマイノリティ宣言から10年 抵抗運動の歴史がないマイノリティ運動」と書きました。これは、まさに20世紀の最後が近付いた1999年にユニークフェイスという市民団体が設立され、当事者運動を始めたという意味です。今まで、マイノリティとして認識されてこなかった顔の当事者がマイノリティとして頑張っていくぞという意味合いを込めて活動をスタートしました。

  「抵抗運動の歴史がないマイノリティ運動」とあるとおり、抵抗や抗議運動は一切やっていません。なぜその状況がずっと続いてきたのか、それから、団体を作って10年近く経って、今何が変わったのかをお話しします。

  まず「ユニークフェイス」という単語ですが、団体を設立したときに私と仲間で考えて作ったネーミングです。

  例えば、人権問題の中で非常に大きな位置を占めてきた身体障害者の問題があります。私も含め、ユニークフェイスという人たちは顔に大きな痣があります。これを身体障害と言っていいのかどうかという問題があります。いわゆる「五体満足」ですから、「健常者」だという見方もできます。しかし「普通の顔」ではない。その意味で、ユニークフェイスの人たちは、いわゆる「健常者」と身体に障害のある人たちの中間的存在だというのが特徴だと思います。

  それから、ユニークフェイス当事者の顔の状態は多岐にわたっています。私には生まれつき赤い痣がありますが、黒い痣の人もいます。交通事故などで頭蓋骨を骨折して大きな傷が残った、顔面マヒの人もいます。重症のアトピーで眉毛がなかったりして悩んでいる人もいます。このように、様々な顔の状態があります。

  医学部の学生の皮膚科の教科書を見れば、該当する項目があると思います。ただその中で、顔の問題全般について問題提起する際に、一言で説明できる言葉が日本語にありませんでした。著書の中で「顔に"障害"がある」と表現したこともあります。アメリカやイギリスの文献の英語表記を直接翻訳してみたらそのようになったというもので、日本語として正確ではありません。団体の名称を決めるときには「分かりやすい名称にしよう」ということで、「ユニークフェイス」になりました。それぞれ固有の顔を持っているという意味で、特徴ある名称の下で活動を開始しました。

  99年当時、外見問題を語るということはタブー視されていました。「日本は外見至上主義社会」だと書いたこともあります。美容整形について調べたことがありますが、日本では1980年代以降クリニック数が急増しています。それに併せて美容整形手術を受ける人、特に女性が増えており、年間何万件も行われています。明らかに需要を喚起した。クリニックが広告を増やし、お客様を増やしてきたのです。

  今「お客様」と言いましたが、美容整形にいく人たちは病気ではないのですから「患者さん」ではありません。顔に不満があって、それをちょっと直そうということで、「患者」とは言えません。

  美容整形クリニックは非常に儲かっています。著名な経営者は、ジェット機で世界中を飛び回ったり、支払期限のないクレジットカードを使って、ビジネスの成功を誇示しています。それを見て、若手の医師もどんどん美容整形の分野に参加するという現状があります。

  『ビューティーコロシアム』というテレビ番組がヒットしましたが、この影響が反映されています。「人の価値を見た目で決めていいんだ」という大衆心理がかなり一般化しました。

  私は出版業界で働いていましたが、やはり「外見で人を判断してよい」というメッセージを発する本がベストセラーになっています。ビジネスマナーとして外見をちゃんとしなければとか、服装、ヘアスタイル、スキンケアをちゃんとするのが仕事のできるキャリアウーマンでありビジネスマンであり、ここで失敗すると本当のビジネスまでたどり着けないという本が巷に溢れています。

  このような中で、顔にあざや火傷などの重い症状のある人たちが大変なストレスや生きづらさを抱えている現実があります。私自身、当事者のひとりとして、市民団体ユニークフェイスを設立しました。今はこうしてみなさんの前でお話ししていますが、設立当時、これほど注目されるとはまったく思っていませんでした。

  1999年、自伝『顔面漂流記』(かもがわ出版、後に『顔面バカ一代』(講談社文庫))という本を出版しました。初版3000部が書店に並びました。それから1〜2ヶ月後くらいから、毎日私の自宅宛に当事者から手紙が届きました。私と同じような痣を持っている人だけでなく、全身のやけどや重症の難病で顔に症状があったり、顔面マヒの人などからです。

  この状態を見て市民団体を設立したところ、20〜30人ほどの人が集まりました。お茶飲み会くらいのことができれば十分だと思っていたのですが、これは見込み違いで、手紙に加えてインターネットを通してもどんどん問い合わせが来るという状況になりました。

  それで、99年の夏から月1回、ピアカウンセリングをしながら今に至っています。

  一点、私たちの団体設立に当たって、前例となった海外の団体や運動があったことを申し上げたいと思います。

  アメリカ、イギリス、カナダには、顔に痣や火傷のある人のための支援団体があります。ロンドン北部にある団体は「チェンジングフェイス(Changing Faces)」と言いますが、そこへ行ってきました。「チェンジングフェイス」は年間予算が約1億円、フルタイムやパートタイムのスタッフ数十名が働いていました。無料電話相談や、寄付金を集めるキャンペーン活動を行っていました。「なぜこれが日本でできないのだろう」と思い、帰国後に本を書きました。99年の市民団体ユニークフェイス設立は、このような団体を参考に、手探り状態の中で作られ、運営を始めました。

  レジュメに、ユニークフェイスという団体そして当事者個人の生き方を阻害する「ユニークフェイスを阻害する5つのパターン」(<凝視される><侮辱される><無遠慮な質問を受ける><差別される><理解者のいない孤独>)を書きました。

  まずひとつが、「凝視される」ということです。ユニークフェイスの人は、「気持ち悪い顔だ」と侮辱されることがあります。突然知らない人から「なぜそんな顔をしているのか?」と病気の原因を気軽に質問されることもあります。

  次に「差別される」ということ。就職において苦労している人が大変多くいます。知人に、顔のほぼすべてに赤い痣のある男性がいますが、彼は大学卒業後、就職試験を受けてもすべて落ち、4年間ほど定職に就けなかった。大学に入り直してスキルアップをし、またチャレンジしても仕事は見つからず、結局自分の家の仕事を手伝っています。こういう状況はよく見受けられます。

  「理解者のいない孤独」もあります。苦しい思いをしながらも、その思いを家族や友人に話すと、「あなたは五体満足なんだから頑張りなさい。顔なんかの悩みは甘えに過ぎない」という答えが返ってきます。これでは悩みをカミングアウトすることができなくなります。周りに理解者がいないのです。

  このような状況を何とか変えたいと、活動を続けています。

  国内にどれだけの当事者がいるのかについては、調査が行われておらず、統計データは一切ありません。ロンドンの団体のウェブサイトを見ると、イギリスには40万人ほどいるそうです。イギリスの人口は日本の約半分ですから、日本では80万人ほどいると推測できます。

  ユニークフェイスの人たちに関する英語の論文を読んできましたが、日本では、国際的水準の英語で書かれた日本の研究者による論文はまだないと思います。欧米では、1950年代から心理学や社会学をはじめとして戦後に研究がスタートしていますが、日本ではやっと始まったところです。

  今回のシンポジウムのテーマである「連帯」についてお話しして、私の話を締めくくります。

  ユニークフェイスは、顔の問題が非常にセンシティブなだけに、極めて連帯の難しいマイノリティです。私に会いに来るだけでも、当事者は大変な勇気を必要とします。ユニークフェイスのメンバーが喫茶店に入ったりすると、周囲の人が非常に驚くのがよく分かり落ち着きません。また、カミングアウトする当事者も非常に少ないです。

  現代はインターネット社会です。英語圏の情報を見ると、かなりの数の当事者が顔と実名を公表していますが、日本ではほとんどいません。日本でカミングアウトせずに済む要因として、痣や傷を隠すためのカモフラージュメイクアップがあります。メイクによって「普通」の顔で生きることが可能なのです。例えば女性の場合、苦労してメイクして就職、結婚、出産しているのに、わざわざカミングアウトしてどんなメリットがあるでしょうか? 恐らくないと思います。

  さまざまな当事者と話しをしてきましたが、社会を変えるというモチベーションを持った人はほとんどいません。「自分の人生をよりよくしたい」ということだけで精一杯です。私も、それはよく理解できます。

  「今後ユニークフェイスが変わっていくとしたら何がきっかけになるだろう」とずっと考えています。やはり、他のマイノリティ運動との連帯だと思います。関連するマイノリティ・グループとつながっていくこと。それから、当事者でも社会で活躍している、人生の前向きなロールモデル、成功事例を示すこと。私のように素顔のまま人生を楽しく暮らしている、成功しているというロールモデルにタイしては、「止めてほしい」という「寝た子を起こすな」という状況があることも現実ですが。

  最後に、欧米の先進的な取り組みがもっと日本で紹介されるべきだと思います。アメリカで成功した事例となれば、日本では、社会が耳を傾ける度合いが増えるような気がしてなりません。それらを含め、ありとあらゆる可能性を探りつつ、当事者の環境を変えていきたいと思っています。


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