あやりこ物語シリーズ  
氷のエライザ 2013














その日、あやめは死体のある場所に、莉子を連れて行った。

あやめと莉子とは、それぞれピチモになった経緯が、かたや「ピチモオーディション出身」、かたや「ニコプチからの非オーデ」と全く異なるが、ピチ撮でいっしょになる機会も多く、年が一緒で、話も合って、意気投合。

なにより、お互い性格が似てるということで、すっかり仲良くなった。

とはいえ、それは「オモテ向き」の理由。

実際は、参加したピチモのほとんどが殺された、あの悪魔の合宿。

いわゆる「中2ピチモ林間学校殺人事件」から生還したのが、莉子とあやめだけだったことこそ、2人を結びつけた最大の理由とされる。

とにかく今や、あやめは、莉子の趣味・嗜好については、もはや亡き咲月をこえ、最大の理解者となっていた。

そう、莉子が好きなものは、ふんわり&女の子らしい外見&おっとり優しい性格とはウラハラに、びっくりするくらい変わったものを好むコなのである。

そして、そんな莉子にとって、「ニコモの死体」なんてものは、もう間違いなく、最も見たい部類に入るのではないかと、あやめは確信する。

だからこうして、深夜であるにもかかわらず、わざわざ莉子に電話し、ここまで呼び出したのだ。






田尻 「こんばんは」

関根 「おひさしぶりです。2月号『キャラ開発連載』のピチ撮以来ですかね?」

簡単な挨拶をかわすと、あやめは、莉子を、そこから程近い繁華街まで誘導する。

無言で歩く2人。

ややあって、前を行くあやめの足が止まり、密集するビルの間の奥まったところにある、汚いゴミ捨て場を紹介した。

そこは、青いビニール袋が無造作に重ねられ、ヒドイ悪臭が漂っていた。

そして、問題の死体は、自然に、それこそまるで眠るように、横たわっていた。

関根 「わぁ〜、女の子ですね」

莉子は、つぶやき、死体に顔を近づける。

関根 「でも、この子。眠っているみたいです。起こしましょうか?」

田尻 「フッ・・・・。死んでる人を起こせるならね」

ぶっきらぼうに、あやめ。

ここで初めて、目の前に横たわる少女が、実は死体であることに気づく莉子。

関根 「あら」

田尻 「ねぇ、首のとこ、見て。ほら、赤くこすれたような傷があるでしょ。きっと、ロープかなんかで、絞め殺されたんだと思う」

関根 「殺人・・・ですね。で、この子、いったい誰なんですか?」

あやめ、ここでちょっと考えるそぶりをみせつつ、答える。

田尻 「メークや服装、身長や年齢、顔立ちから見て、中学生雑誌のモデルさんかな」

ここでハッと、思い出したように莉子。

関根 「あっ、私、この子知ってます! ニコラのモデルさんですぅ!」

莉子は、かねがね「憧れは西内まりや」(ピチレ2011年8月号)と公言するだけあって、元ニコラの読者であり、ニコモについては、めっぽう詳しいのだった。






関根 「で、どんなふうに発見したんですか?」

田尻 「あのね、夜中にね、のど渇いちゃって。で、ジュースでも買おうと、ちょっと自販機のとこまで来たら、―――ここなんだけどね」

そう言うとあやめ、深夜でも、こうこうと輝く自動販売機を指差す。

田尻 「そしたらね、このゴミ捨て場でね、奇妙なものが目に付いて。最初はマネキンかな?って思った。ほら、長崎すーちゃんのうちにあるでしょ? あんな感じのトルソー。でも、近づいてよく見てみたら・・・本物だった」

ここまで喋り、黙り込むあやめ。その視線は死体に向けられている。

そこで莉子は、さらに質問を続ける。

関根 「なんで、私を呼んだんですか?」

田尻 「りったん、こういうの、好きだと思って」

あやめは、死体を見つめたまま答える。

すると、これまで無表情だった莉子の口元が、一瞬笑ったように、つり上がった。

おもむろに、死体の顔に自分の顔をピッタリ近づけ、凝視する莉子。

関根 「それにしても、キレイな子ですぅ☆」

田尻 「ホント、かなりの美人さん。オトナっぽくて、スタイルもよくて、それでいて、おっぱいもめっちゃ大きい。うん、ピチモには、絶対いないタイプ」

と、ここで、莉子が、思いもかけないことを言い出した。

関根 「私、これ、持って帰りたいっ!!」








田尻 「はぁ? じょ・・・冗談でしょ?」

基本、冷静で、何ごとにもあまり動じないあやめが、珍しくうろたえる。

関根 「私は、ホンキです」

田尻 「持ってかえって、どうするんの?」

関根 「いっしょに暮らします。おうち帰ると、死体があるなんて、そりゃ素敵じゃないですか☆ それも、こんな美しい死体さん」

莉子、うっとりした表情で。

田尻 「でも、どやって保管するの?」

関根 「はい。私の部屋に、ミニ冷蔵庫があります。去年の夏、パパにおねだりして買ってもらいまたぁ☆」

田尻 「じゃあ、どうやってそこまで運ぶの?」

関根 「それは・・・あやめさん。あなたが―――」








あやめは、走った。

自分の家まで着くと、押入れから、お仕事で宿泊するときに使うスーツケースを引っぱり出す。

そして、再び外に出て、スーツケースをかかえ、来た道を戻る。

なんだかワクワクする。これから死体を運ぶのだ。

そう考えると、まるで初めてのデートのように(実際、あやめはまだ男の子と付き合ったことすらないのだが・・・)心が弾み、自然と足も速まった。

そして、息を切らしつつ、莉子の待つゴミ捨て場に着いたあやめは、一瞬、自分の目を疑った。

―――莉子がいない!?







≪ガサガサガサ≫

その場で呆然と立ちすくむあやめの耳に、ふと、やや先にあるゴミ捨て場から、音が聞こえてくる。

あわてて、ゴミ捨て場の奥まで見渡せるところまでくると、あやめの足が止まった。

ゴミが詰まったいくつものビニール袋をベッドにして、2人の少女が並んで寝そべっている。

なんと、莉子は死体に添い寝し、両目を閉じたまま、右手で死者の頬をなでてるのだ。

並んで眠る美しい少女たち。

こうしてみると、たとえそこがゴミ捨て場であっても、なんともいえぬ神々しささえ、ただよっていた。

一瞬、見惚れるあやめ。

しかし、すぐに気を取り直すと、こう言わずにはいられなかった。

田尻 「こらっ! あんた、バカ?」

この声に、いかにも邪魔されたといった感じで、めんどくさそうに莉子がうっすらと目を開く。

関根 「ふわぁ〜」

手を口もとにあて、伸びをしながら、大あくびする莉子。

田尻 「起きなさいってば!」

莉子は、いま目覚めたかのように、ぼんやりとした口調で。

関根 「フフフ。死体といしょ寝るのって、気持ちいいと思いませんかぁ?」

田尻 「あのねぇ。人が通りかかったらどうする気?」

関根 「でも、立ってたって、見つかるときは見つかります。だったら、同じじゃないですか」

莉子、妙に理屈っぽく。

田尻 「そういう問題じゃないわっ!」

そういうと、あやめ。

持ってきたスーツケースを開く。

田尻 「さっさと、つめるよ。手伝って」





≪ゴロゴロゴロ≫

死体の入ったスーツケースを押すあやめと、並んで歩く莉子。

力仕事は、あやめの担当であり、もちろん莉子は手ぶらである。

やがて街並みを抜け、橋が見えるころに来て、ふと、あやめは寂しさのようなものにおそわれた。

それは、悲しみにも似た感情だった。

―――なんで、こんなことをしてるんだろう? 真夜中に、会話も無く、仲良しのピチモと歩く。

それも、死体を運びながら。。。

ふとここで、莉子が何か思いついたように、つぶやく。

関根 「死体は、『エライザ』と名づけましょう」

田尻 「はぁ? 名前、付けるの?」

関根 「はい。人格を与えたいんです」

こうして、その死体は、エライザと名づけられたのだった。





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