「ピチモ林間学校殺人事件シリーズ」本編(福原遥編)


はるんの夜の出来事






  ≪ガタガタガタ≫


そのハッキリした音を、遥が聞いたのは、深夜だった。

中2ピチモ林間学校1日目の夜、ベッドの中。

まどろんでいた遥は、突然耳にした、異様な音に、すっかり目を覚ました。

宿泊施設であるロッジの明り取りの窓から、月の光が差し込んできていて、ぼんやりとではあるが部屋の中の様子が浮かび上がっている。

壁にかかる時計を見ると、深夜の2時をちょっとすぎたところだということがわかった。

「こんな時間に、何だろう?」

女の子らしくて、いかにもおとなしそうな見かけと異なり、実は人一倍好奇心の強い遥。

ベッドから抜け出すと、カーテンのかかった出窓に顔を近づけ、音のしたほうの庭を確認する。






すると、そこで遥が目にしたのは、2人の少女の姿だった。

遥は思わず息をのんだ。

なにしろ、よく知った、ちょっとした因縁のある2人なのである。

愛と莉子。

どちらも、普段の私服である、ピンクや白といったガーリー系の服ではなく、なぜか真っ黒の、それこそ玲のような服を着ている。

しかも、両者ともに、深く帽子までかぶって。

「また、うちのこと、いじめにきたのかな?」

一瞬、”5月号表紙撮影動画ハイタッチ事件”の、苦い記憶が頭をよぎるが、すぐに思い直して。

「いやいや。莉子は、林間学校のメンバーだから、ここにいるのはいいとして、なんで愛ちゃんも?」

そうなのである。

今は、中2ピチモ林間学校の最中で、ここは、マザー牧場にある宿泊施設のロッジ。

中2ピチモの参加者6人と、引率のピチ編やスタッフさんしか、いないはずなのだ。







遥がそうこう考えをめぐらしていると、やがて窓の外の2人に動きがあった。

おもむろに、愛が、そこにある松の木にしがみついたのである。

「あっ!?」

と思った次の瞬間。

愛は、するすると木を登り始めた。

「いくら、ラブベリー時代の愛称が『アイアイ』だからとっいても、こりゃすごいわ。サーカスみたい」

遥は、感動を覚えつつ見守ることしかできなかった。

一方、残された莉子はというと、しばらく愛が登る様子を下から眺めていたのであるが、やがて、なにかを思い出したように、どこかに歩き去ってしまった。

こうして、いま、遥の視界からは、愛の姿も、莉子の姿も消えた。






それからどれくらいの時が過ぎたのであろうか。

誰もいなくなった庭を、遥がぼんやりと眺めていると、ふいに、莉子が再び、視界に入ってきた。

その手で、ピンクの自転車、いわゆる「りったんサイクル」を押しながら、ゆっくりと、先ほどの松の木の下にもどってきた。

自転車のかごには、なぜか大きなスコップと、愛用のマイメロのポーチが入っている。

やがて莉子は、自転車をスタンドで止め、かごからスコップを取り出す。

そして、おもむろに、木の根元に穴を掘り始めた。

≪ザクザクザク≫

莉子は、深夜だというのに、周りに一切気を配る様子もなく、一心不乱に穴掘りに集中している。

一見、細くて華奢で非力にみえるが、実は握力が40近くあり、毎年のピチモ運動会「うでずもう部門」で負けなしを誇るだけはある。

シャベルの動きに無駄がなく、規則正しい。

みるみるうちに穴は大きく深くなっていく。

「わぁ〜。こりゃすごいわ。自衛隊みたい」

遥は、これまた感動を覚えつつ見守ることしかできなかった。








やがて、出来上がった穴に満足したのか、莉子はスコップを置く。

そして、自転車のかごにあるポーチをつかむと、中から、白い布で包まれた、小さな物体を取り出す。

莉子の手つきから、その物体は、やわらかく、ぐにゃぐにゃしたものであることが見て取れた。

しかも、白い布のところどころに、赤い色がにじんでいる。

「血? まさか、臓器かなんか?」

さらに目を凝らすと、どうやらその物体は、トクントクンと、収縮を繰り返しているようだ。

「もしかして、だれかの心臓だったりして。フフフ」

そう思うと、遥の小さな胸はドキドキした。

そんな遥の思いなど関係なく、やがて莉子は、その物体を、身をかがめて、慎重に穴の底に置くと、あとは再び、シャベルを手に、穴を埋め戻す。

そして、完全に穴がふさがると、莉子は自転車を押して、ゆっくりと去って行った。






それからしばらくの間、庭を眺めていたが、もはや何も起こる様子もなく、あきらめて、ベッドに戻る遥。

時計を見ると、針は2時半を指していた。

遥は、部屋の中を見回す。

しかし、さきほどまでの月明かりが雲に隠れ、今は真っ暗で何もみえなかった。

あやめと由梨愛、咲月、ありさは、相変わらず静かな寝息を立てているのであろうか。

もしかして、この中のだれが1人だけ、いなくなっているのではないか?

遥には、その場で電気をつけて、確認する勇気も、気力もなくなっていた。

「うん、明日の朝になれば、すべて分かるさ」

そう自分に言い聞かせ、静かに目を閉じた。



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