伊豆大島でパチンコをする

 伊豆大島の民宿で夕食後、缶ビールを飲みながら本を読んでいたが、この日に限ってなんだか、このまま眠ってしまうのはもったいないような気がした。しかしこのあたりは元町港と岡田港のちょうど中間あたりで、繁華街どころか飲み屋も一軒もない。
 バス停の近くにパチンコ屋があったのを思いだした。昨夜も本を読んでいると、十時頃までパチンコ屋の音楽や店内放送がかすかにとどいていた。音が大きいというよりも、まわりが静かすぎるのだろう。
 そのパチンコ屋にいってみることにした。
 パチンコは久しぶりである。手動式の頃はかなりかよってそれなりの成果もあげていたが、自動式になってからはほとんど行っていない。
 店内は四分の一ぐらいの客の入りだった。まわりはヤブ椿の林や雑草のしげる空地だけの、およそ場違いなところにあるパチンコ屋にしては、繁盛しているといえるだろう。
 驚いたことに、台の横についた玉貸機はプリペイドカード専用である。プリペイドカード販売機には、一万円、五千円、三千円しかない。いきなりはじめての店で三千円を投資するというのは、いかがなものだろうか。
 列をあちこち見てまわると、隅の一列だけが硬貨もつかえる玉貸機だった。古い機種のようで飾りつけもシンプルで、ほかの列にくらべて人もぐっと少ない。
 ここの従業員は仕事熱心なのか、灰皿がきちんと掃除されていて、台の選択の基準にならない。しょうがないので、入口に一番近い台にすわる。
 玉貸機に五百円硬貨をいれる。ここでじつに驚くべきことがおこった。玉がジャラジャラと隣の受け皿に放出されたのだ。
 右側の玉貸機は、右隣のパチンコ台用であった。
 ここで二つの選択肢があった。ひとつは隣の受け皿の玉をこちらにもってくること、もうひとつはわたしが隣の台に移動すること。
 そして、このときとった選択(隣の台に移動したこと!)があとで非常に重大な意味をもってくる。
 玉をはじきだして二三分しかたっていなかっただろう。いきなりキュンキューンキュンキューンとどこかの国のパトカーか救急車のサイレンのような音がし、台の四隅についた赤、青、黄、緑のランプが一斉にチカチカしはじめた。
 従業員がきて、わたしの頭上のスタートとかかれた札を立てる。どうやら大当たりとか、フィーバーとかいう状態になったらしい。
 ところがどうしたことか、玉は増えないどころかなくなる一方で、あわてて五百円硬貨を追加する。それでも玉の減少はいっこうに止まらない。
 いったいどうなっているのか。頭の中がチンチンジャラジャラとパニックになりそうだ。
 考えてみれば(考えるまでもないが)、わたしはこのパチンコ台の仕組や機能をまったく知らない。いくばくかの楽しい時間をすごせればいいぐらいの軽い気持だったので、このような緊急事態への心がまえがまったくできていなかった。
 再び玉がなくなりそうになり、あわてて半ズボンのポケットをさぐる。やっと最後の百円玉を四つ見つけ、玉貸機に投入する。
 と、斜め後ろにいたおじさんが、こういう状態になったときは、こちら(台の右上隅でゆっくり回転している凹型のモノ)をねらっていれると、ここ(台の一番下の巨大なチューリップ)が開くから今度はこのチューリップをねらい、チューリップが閉じたらまた右上をねらう、と親切に教えてくれた。
 そして、
「はやくしないと玉がなくなってしまうよ」
 とあせらすのである。
 おじさんにお礼を言ってその通りにやると、玉はグングンたまり、上の皿がいっぱいになり、すぐに下の受け皿もいっぱいになった。追加のプラスチックの箱もみるみるいっぱいになる。
 あとで別のおじさんがおしえてくれたのだが、このようなフィーバー状態になるのは、中央の三つの数字がそろうだけでなく、その下の小さな窓の数字が3だか7だかにならなければならないのだそうだ。
 こんなことがいったい誰に推測できるだろうか。なぜこれほど複雑にしなければならないのだろうか。
 もしあの親切なおじさんたちがいなかったら、いったいどうなっていただろう。スタートの札が立ったのに、こそこそネズミのように逃げだした、不甲斐ない男第一号になっていただろう。
 中央の三つのドラムがそろう、右隅をねらう、中央のチューリップに玉をあつめる、ということを何度かくり返し、プラスチックの箱が三箱目になったところで、従業員がきて頭上のスタートの札をもどし、
「終了です」
 と言った。
 どうやら打ち止めらしい。三箱をもって景品交換所にむかう。打ち止めなど本当に久しぶりだ。自動式になってからははじめてである。
 パチンコ屋のすぐ裏で換金する。玉は五千発ちょっとで、一万三千円。
 東京都のはずれの大島のこれまたはずれのパチンコ屋で、このような輝かしい勝利をおさめるとは、ついさっき民宿をでるときには考えてもいなかった。
 パチンコをはじめてから、まだ三十分ちょっとしかたっていなかった。

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