間抜けなネーミング

 編集者が本を作るときに苦労することのひとつは、本のタイトルを決めることだ。学術書みたいな固い内容の本なら、すぐタイトルが決まる。これが一般書や柔らかい内容のものだと、議論が百出して題名が簡単に決まらない。
 内容さえよければ、タイトルなんてどうでもいいようだけど、そうではない。タイトルひとつ間違えると、売れるはずの本が全然売れなくなっちゃう。
 逆に、タイトルがぴったと決まると、どうでもいい内容の本がバカ売れしたりする。「バカの壁」なんてタイトルは、その点実にうまいネーミングだ。
 本の題名ですら、それほど気を配って決めるのに、建物の名前なんかに、ひどい名前をつけて平気でいる人がいる。「国立劇場」っていうのがその例だ。だれがそんなトンマな名前つけたんだろう。責任者出てこーい!
 キミは、「国立劇場」っていうネーミング、ヘンだと思わない。だって、「国立」も「劇場」も普通名詞だろ。まったく一般的な普通名詞を固有名詞にしちゃうなんて、間抜けもいいとこだよ。
 どこがヘンだかわからない?じゃあ、箱根あたりの公園を単に「国立公園」って名づけたらどんな感じがする?おかしいだろ?そう、「国立〜」っていうのは、本来いくつもあるはずなのだから、固有名詞なんかになるはずがない。
 「国立劇場」って名づけてすましてるのは、もう国立の劇場は今後作りませんって宣言してるようなもの。いかに文化水準の低い国であるか、語るに落ちるということになる。「国立半蔵門劇場」とか、「国立初台劇場」とか名づけるからこそ、複数の国立劇場をイメージしていることになる。初台のオペラ劇場をいまだに「新国立劇場」なんて名づけてるんだから、まだ気づいていない。
 アメリカだってロシアだって、国立の劇場がひとつしかないなんて情況は考えられないから、間違っても特定の劇場に“National Theater”なんて名前はつけない。現に「国立劇場連盟」に当たる語句はあるけど、「国立劇場」という名称の劇場はひとつもない。
 昔、東北の某大学に電話したら、「はい、大学です」って交換手が出たのにびっくりしたことがある。大学っていえばその地方にはそこひとつしかないから、それですむのだろう。東京でそんな対応したら、大笑いだよ。
 「国立劇場です」ですんじゃうのも、国が文化のためにカネを出すことがほとんどない国だから、おかしいと思わないのだろう。まさに世界の田舎者だ。
 こんな恥さらしのネーミング、誰も気づかずに何十年も来ちゃったんだから、しょうがない。いまさら「国立劇場」の名称を変えるわけにはいかないだろうから、将来、国立(くにたち)市へ移転させて、「クニタチ劇場」っていうことにするしかないね。

名前には、名づけた人の価値観がすべて反映されるから、怖いね。