「観人旅行」をしよう

 カネとヒマがあったら、だれでもやりたいのが海外旅行だろう。
 空間を移動するのは、時間を移動するのと同じ意味をもつ。まるで時間が止まってしまったような国や地域が世界中にたくさんある。そこに向かって数時間飛ぶだけで、何世紀も前の時代にタイムスリップすることができる。海外旅行はタイムマシンと同じだ。
 海外旅行というと、昔はパック旅行ばっかりだった。旗を立てた添乗員のあとをゾロゾロついていくというやつ。今は個人旅行が主体だからそういう光景は少なくなったけど、おきまりの観光スポットを見て、飲み食い、買い物というパターンは変わらない。
 オレはそんなものは海外旅行だと思わない。文字どおり「観光=光景を観る」旅行なんだから、3Dメガネをかけて劇場で景色を見ているのと何も変わらない。飲み食いや買い物場面だって簡単に再現できるのだから、限りなくバーチャルな世界だ。いい加減、そんな旅行に飽きないもんかね。そんなのはジイさん、バアさんや、税金使って遊び回る政治屋にまかせておけばよい。
 海外旅行の醍醐味は、何といっても人と出会うことに尽きる。世界中にはさまざまな価値観を持った人が生きている。その人たちに出会って語り合い、生活の一部を体験することによって、自分の感性や知識の幅に大きな変化が起きる。
 オレは海外に出ると、レンタカーを借りて、なるべく日本人や普通の観光客が行かないところを目指していく。その国を知るには、都会では無理。田舎へ行ってこそ、その国の文化や歴史の本質がすぐわかる。人々はみんな素朴で親切だ。外国人がめずらしいところへ行けば、歓待してくれる。
 ハワイに何回も行ったという人がいても、ハワイの土着の人と語り合った経験を持つ人は少ないだろう。それじゃあ、ハワイを知ったことにはならない。
 そういうふうに、人に出会い、語り合うことでその文化を知ることが海外旅行の本質なんだ。人を観る旅行、「観人旅行」こそおもしろい。
 でも、語学に自信がないので、人と交流するのはむずかしいと言うかもしれない。言葉は通じるに越したことはないけど、言葉が通じないからこそ、わかりあえるっていうこともある。言葉で「ありがとう」というより、両手で相手の手を握りしめ、目を見つめてにっこり笑うのでは、どちらが心が通うだろうか。
 昔、大学生ばかり10人を連れて全米を旅行したことがある。このとき、いちばんのびのびと交流し、いろいろな思い出を作ったのは、英語がほとんど話せない学生だった。
 何かを伝えよう、何かを吸収しようという、明確な意志や目的を持つことが大切。それがないのに、ただぺらぺらしゃべっても、何も残らないし、何も伝えられない。だから、言語に頼らないものを身につけておくことはとても大切。
 オレは合気道をやっておいて本当によかったと思う。世界中どこへ行っても、ちょっとした街には道場があり、飛び込みで稽古に参加できる。アンタも、海外に出る前に、ひとつくらい伝えられる日本の文化を身につけておいたらどう?海外旅行がまったく違う意味を持つものになるよ。

そろそろ「光を観る」だけの旅行は卒業したら?