カネを使う人、使われる人

 さあ、今日はアンタの大好きな、おカネの話をしよう。
 オレの知っている人で、大儲けをした人がいる。たった半年間で14億円儲けたんだから、半端じゃないよ。元手はたったの1千万円。
 1千万くらいなら、カネという実感がある。でも、億の単位になると、カネというより印刷物という感じ。旅行かばん程度には入りきれない。
 どうやって儲けたかというと、株。銘柄は、例のソフトバンク。この人は、99年の夏に、約1万円でソフトバンクの株を1000株買った。これが半年後の2000年2月には19万8千円にまで値上がりした。約20倍になったわけだけど、その間に儲けをグロスで再投資していったから、半年間で株価の総額は約14億円になった。小さなビルなら、即金で買えちゃう。
 ここでこの人が株を全部売り払い、現金にしていたら、一生働かなくても食っていける億万長者になったことになる。ところが世の中、そうは問屋が卸さない。
 人間、予想もしなかったカネが転がり込んでくると、人生観が変わってしまう。汗水たらして働くのがバカバカしくなる。しかも周囲の人間が、「年末までには100万円まではいく」などと煽るものだから、さらに買い足して儲けようという心理になって当然。
 だからある日、株価が急落したという知らせを聞いても、まあ、調整局面だからと、おっとり構えていた。ところが、いったん下げだした株価の下げ足は止まらない。たった1か月間で17億円の損失を計上、差し引き3億円の借金を抱え込んでしまった。持ち家を処分してもカバーできない金額。あっという間に王様から乞食へ。
 こうなると人は冷たいもの。それまで高級車で迎えに来て温泉旅行や宴会の接待をしていた証券会社などは、手のひらを返したように、やっかい者あつかい。カネをせびりにすり寄ってきていた人もまったく寄りつかなくなってしまった。
 この人の場合、ラッキーなことに結果的には持ち家は手放さずにすんだ。しかし、資産はすべてゼロになり、手元に残ったカネは生活費程度。70歳を過ぎて、人生またやり直し。
 ここからがおもしろい話。この人が大もうけしているころ、オレはこの人に100万円ばかりの借金を申し入れたことがある。ところが、けんもホロロに断られてしまった。この人の預金通帳に億単位の残高があったころのこと。
 ところが、この人が大損してから1年半後、そんな状態とも知らずに再度借金を申し込んだところ、なんとだまって300万円をポンと貸してくれた。それは、その人の手持ち預金の全額に近かった。
 その人がこう語ってくれた。カネはたまればたまるほど、カネへの執着心がますもの。世の中のために使おうなどとは思わなくなる。今の自分は、年金生活者だから、食べていけるだけの余裕があれば十分。カネを有効に使ってくれるなら、その人に渡したほうがいいのだと。
 オレは心に誓った。カネを使う立場の人間になることはあっても、カネに使われるような人間にはなるまいと。カネの怖さもありがたさも、すべて人の心のなせるわざから生まれるものなのだから。



カネとハキダメは、たまればたまるほど汚くなる、とはよく言ったもの。