銀行への復讐

 ウィークリーマンションで有名な、株式会社ツカサの川又三智彦(かわまた・さちひこ)社長は、かつては日本を代表する大金持ちのひとりだった。ピーク時には3000億円の資産家と謳われ、『フォーブス』誌で「日本の大富豪63人」のひとりに選ばれたくらい。
 ところが、1991年の大蔵省通達で貸付金の総量規制が行われ、銀行がいっせいに貸付金の回収に乗り出したため、バブルが崩壊。一転して1400億円の債務を背負う立場になってしまった。大富豪から大貧民へと急降下。
 「バブル期にもぜいたくはしなかったから、プライベートな生活に変化はなかったけれど、それでもアタマにきましたね。特に許せないのは大蔵省の官僚や政治家。自分一人で首をつっても恨みは晴らせないから、“国会議事堂に自爆テロしてやる”なんて考えたこともありました」とは、川又社長自身の弁。
 景気のよいころは、「ぜひウチからも借りてください」と銀行マンが列をなして押しかけてきたのに、いったん形勢が変わると返せ返せの大合唱。銀行屋は血も涙もない人間ばかりと痛感したという。
 わかるな〜、その気持ち。オレもスケールこそ違え、まったく同じ仕打ちを受けたもん。「せめて、明日の朝まで待ってほしい」と懇願しても、「ダメです」の一点張り。それも、支店長クラスは姿をくらまして、自分の息子くらいの若造に対応させるんだ。ヤロー、絶対この恨みは晴らしてやるからなと誓ったね。
 川又さんとオレは歳も近いけど、考え方や価値観が重なる部分が多い。知的な興味の対象も、驚くほど似ている。だから、彼の講演を聴くと、結論を聞く前に、想像がつくことがよくある。
 川又さんもオレも、ようやく苦境を脱して上昇気流をつかもうとしている。そんな情況の中で、彼の講演を何年ぶりかに聞く機会があった。
 彼は、「ようやく、私は銀行に復讐できるようになりました」と切り出した。
 「どうやって復讐するのか、わかりますか」と聴衆に問いかけた。みんな首をひねっている。アンタにはわかる?オレはすぐわかったね。
 だれだって、ひどい目にあった銀行に対する復讐といえば、銀行を困らせる方法を考える。でも、社員に1円玉で10万円を預金してCD機をマヒさせるとかじゃ困る相手じゃないよ。
 回り回って、今銀行も大量解雇を余儀なくされている。だからズバリ正解は、取引していた銀行マンを社員として採用することなんだ。つまり、かつて自分を助けなかった銀行を助けること。恩をもって仇に報いるという、究極の復讐方法だ。
 すごいよね。かつて背中からばっさり斬りつけた相手に対して、その人が路頭に迷ったら、仕事を与えてあげるというんだから。
 オレも絶対そうしようと思ってる。ひどいことをされたから、ひどいことをして返すというのは簡単。親切にすることで、その人たちに自分のしたことの意味をわからせてあげることが究極の復讐なんだ。「ボクが生きていてよかったね」と言いながら。


冷たい仕打ちをした人への仕返しの方法とは。

(C) 2005 by Mitsuhiko Takeshita

ミッチャンのエセエッセー                        by 竹下光彦