アル中という緩慢な自殺

 女性のアル中、つまりキッチンドリンカーがふえているらしい。「らしい」というのは、薬物中毒なんかと違って、アル中患者の実数は、統計では把握できないからだ。でも確実にふえていることは間違いない。
 働く女性が多くなるにつれて、ストレス解消をアルコールにゆだねる人がふえるのは当然だ。電車の中で見かける女性でも、昼間から赤ら顔の人がけっこういる。
 特に出版関係で働く女性は、仕事がエンドレスにつづくから、酒以外にウサを晴らす手段が見つからない。どうしても酒量が増えちゃうんだろうな。アルコール依存症あるいは、それに近い人が多い。編集プロダクションなんかでは、アル中で消えていった人が数限りなくいる。
 オレの親父はアル中で、若干54歳の若さで死んでしまった。末期のアル中患者は、本人もその家族も悲惨だよ。麻薬中毒と何も変わることがないんだから。家の中のものを持ち出して売り、酒に代えてしまう。夜中に刃物を研いで、一家心中をすると言い出したり。挙げ句の果てに酔ってドブに落ち、救急車で運ばれる。生き地獄とはこのことだ。
 酒が切れたときは、まったくふつうの人。当時の男としては巨漢の部類で、身長180p以上あった。ふだんはどっしり物静かな文人で、やさしい父親。何でそれほど豹変するのか不思議なくらい。酒の魔力だ。
 思うに酒に走る人は、性格的には正直でやさしい人が多い。でも内向的だから、ストレスを外に向かって晴らすのでなく、内側にため込んじゃう。唯一、酒がそれを開放してくれるんだろう。
 アル中の場合、麻薬もそうだろうけど、いったんそのサイクルに入っちゃうと、抜け出すのは至難の業。まさに緩やかな自殺への旅立ちだ。それを食い止めるには、本人の自覚だけじゃなく、周囲の人がストレスを外側に開放してあげなくてはいけない。半端な愛情だけでは難しい。もう一種の病気なんだから。
 気質や体質は遺伝するから、アル中になりやすいのは家系にもよる。親族にアル中がいる人は注意したほうがいい。
 アル中を防止するには、酒を飲んだら、陽気に騒ぐこと。愚痴をこぼしながら飲んだり、ひとりで飲むのはやめたほうがいい。どうせ飲むなら男同士、女同士じゃなくて、この世で巡り会った喜びを分かち合いながら、男女で楽しく飲みたいね。これがアル中という緩慢な自殺を防ぐ最善の方法だ。

アル中になる人は「意志の弱い人」と言ってしまえばそれだけのことだが…。

(C) 2005 by Mitsuhiko Takeshita

ミッチャンのエセエッセー                      by 竹下光彦