題名 :『座頭市鉄火旅』 

登録日時 :01/08/11 20:28




仙造の職業は鍛冶屋。宿場町の町外れで一人暮しをしている。少し変人で、人付 き合いも少ないこの老人には、波乱の過去があった。

若い頃には、名匠と言われた刀鍛冶の元で修行に励んだ。その甲斐あって、五本 ばかりの刀を世に出すことができた。仙造の刀は大変評判がよく、師匠を超えた とさえ言われた。すっかり有頂天になった仙造は、博打と女で身を持ち崩し、師匠には破門され、 女房にも逃げられてしまった。残された娘と二人で流れ歩くうち、足利の親分、正太郎とめぐり合った。正太郎 はヤクザながら立派な人物で、娘を養女として引き取り、育ててくれると言う。 しかもカタギの娘さんだから、ということで自分の家には娘を入れず、足利の老 舗旅館、下野屋(しもつけや)に住み込ませてくれた。その上で、仙造に再起を するよう励ました。

仙造も目が覚めた。足利の近くの宿場町に住み、鍛冶屋を始めた。10年の流浪生 活の間に腕はすっかり錆びついてしまったが、なんとか正太郎の恩に報いたい。 そのために最高の刀を一振り打ち上げて、正太郎親分に差し上げたい。こうして心を入れ替えて必死に頑張ったが、満足の行く刀が完成できないまま、 また10年の歳月が流れた。 どこで噂を聞きつけたのか、安形の岩五郎一家の使いがやってきて、その刀がで きたら譲ってくれ、と言って来た。どうせ役人への賄賂にでもするつもりなんだ ろうが、追い返しても追い返しても、しつこくやってくる。まったくうざった い。そして先月、突然悲報がやってきた。日光へのお参りの途中で、正太郎親分が何 者かに殺された、という。ああ、とうとう恩返しができなかった。その上、例の 岩五郎一家が勢力をこの町に伸ばしてきて、町自体がすさんでしまっている。失 意の仙造は刀作りへの情熱もすっかり冷め、飲んだくれる毎日。

今日も屋台の飲み屋でへべれけになっていると、見知らぬ旅の按摩が隣にやって きた。博打で大儲けしたから一杯おごってくれる、と上機嫌の按摩は言った。こりゃありがたい、と按摩と二人で飲んでいると、突然ヤクザ者が3名、按摩に 切りかかってきたが、按摩は一瞬で刺客を全員倒してしまった。按摩の杖に仕込 まれた刀身が一瞬見えたが、この刀は...。按摩を急いで自宅に連れて行き、仕込杖を見せてもらった。思ったとおり、これ は師匠の打った一振りだ。20年前の初心に返ったようで、仙造に再び、刀作りへ の意欲が湧いて来る。

按摩の名は市と言った。その刀から察するに、市は相当の数の人を斬ってきたこ とは、仙造にはすぐわかった。しかし、この刀はすでに寿命が尽きようとしてい る。元から三寸のあたりに、目に見えない傷が入っていて、次にもう一人斬った ら、この刀は根元から折れてしまうだろう。仙造はそのことを市に告げ、これを機にカタギになるよう市を説得する。市も説 得を受け入れ、仕込杖を仙造に預けて、下野屋の専属マッサージ師として、住み 込みで働くことになった。新しい杖は、仙造の家のしんばり棒である。

再び情熱を取り戻した仙造は、必死に刀を打った。そして遂に納得のいく一振り が完成した。しかし、刀を捧げるべき正太郎親分は既に亡い。思案の結果仙造 は、市の仕込杖にこの刀を仕込んだ。せめて師匠の刀があった場所に、自分の最 高傑作を納めたい。師匠や正太郎親分への、わびと感謝の気持ちである。

そのとき岩五郎一家の手下がやってきて、仙造に深手を負わせ、別の刀を奪って いってしまった。市が駆けつけてくれたがもう遅かった。市に仕込杖の場所を示 しながら、仙造は息を引き取る。市が自分の打った仕込杖で、これから岩五郎一 家を壊滅させ、自分の仇をとってくれることを、知らないまま。(完)




さて、この仙造を演じたのが、東野英治郎。 悪役にせよ水戸黄門にせよ、権力を持った大物、という役柄が多いのですが、こ の映画では、権力とは無縁の落ちぶれた老人を、淡々と気張らず演じます。い い。これが実にいい。目が優しくて、語り口が味わい深くて、しかも波瀾の過去 を背負った重みがありまくり。私は圧倒的に引き込まれました。いやあ、今日は 素晴らしいものを見てしまった、と大感動。

そういうわけでこういう紹介となりました。

大映 製作。安田公義 監督。1967年のお正月映画。
出演は、東野英治郎のほかに、勝新太郎、水前寺清子、藤田まこと、藤村志保、 春川ますみ、遠藤辰雄など。
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