題名 :『子連れ狼 死に風に向う乳母車』

登録日時 :03/04/13 21:51


1972年 製作:勝プロ 公開:東宝 監督:三隅研次 脚本:小池一夫

シリーズの中ではできのよい方。いつものような妙なネチっこさはなく、快調にサクサクと物語が進む。三隅監督のスタイリッシュな残虐シーンも連発するし、若山富三郎は殺陣シーンでの体のキレが抜群。裸になるシーンもあるが、キモーチ引き締まったようにも見える。



江戸時代には「渡り徒士」という連中がいた。貧乏な小藩が参勤交代をするとき、藩士だけではあまりに貧相なので、体面を保つために臨時に雇う大名行列のメンバーである。参勤交代が終われば用済みになって次の雇い先を探す、ようするにゴロツキ浪人である。

4人の渡り徒士が雇い先に向かって街道を進んでいた。山谷初男など3人は全くゴロツキそのもので、旅の母娘を襲って強姦してしまった。残る1人、妙に折り目正しい孫村官兵衛(加藤剛)は、事件を隠すため、母娘と連れの手代を一瞬で斬り殺した上、山谷初男をも葬る。
そこを通りかかったのは、元公儀介錯人、拝一刀(若山富三郎)と息子大五郎(富川晶宏)だった。孫村が止めるのも聞かず、一刀に切りかかった二人の渡り徒士は、これまた一刀に0.8秒ぐらいで殺される。いやー、本当に若山富三郎は絶好調。刀を抜いて対峙した一刀と孫村だが、一刀は孫村に「まことの武士」を感じて、戦いを避ける。

一刀親子が泊まった旅籠の別の部屋には、女衒の文句松(名和宏)と文句松に買われた少女、お松(加藤小夜子)が泊まっていた。お松の疲れた足を癒してやろうと塩もみマッサージをしていた文句松は、ムラムラと欲情して、お松に覆い被さり、その可憐な唇に自分の舌を捻じ込んだ。必死に抵抗するお松は文句松の舌先を噛み切ってしまった。悶絶して文句松は死亡。

半狂乱になったお松が一刀父子の部屋に逃げ込んでくる。一刀は捜査の役人を追っ払ったが、この地の亡八者(やくざ)が乗り込んでくる。亡八者の首領は女(浜木綿子)で、酉蔵と名乗った。この浜木綿子がいい。男勝りのキップと度胸、ドスの効いた、しかし唄うような台詞回し。そして何よりもあの目。一度も瞬きせず、一刀に挑むような力強いあの目線。私は一瞬でイカれてしまった。

お松の身代わりに、一刀は亡八者たちの拷問を自ら受ける。第一弾は水責め。裸になって逆さに吊られ、水桶に何度も頭を突っ込まれる。第二弾は「ブリブリ」。逆さ吊りの一刀を亡八者たちは「ブーリブリ、ブーリブリ」と唄いながら、棒で打つ。ここでは拷問を耐え切った一刀よりも、若山富三郎の体重を支えきったロープを用意したスタッフに、私の尊敬は払われる。
一刀が本物の侍であると確信した酉蔵は、隠し部屋に一刀を導く。そこには酉蔵の父、三浦帯刀(浜村純)が隻腕の体を病の床に伏せていた。帯刀の左腕を切り落としたのは、他ならぬ一刀だった。

かつて、掛川藩家老職の帯刀は藩主が発狂した事実を外に漏れぬよう必死に隠そうとしたが、ついに幕府に知れることとなり、殿様は切腹を申し渡され、公儀介錯人の一刀が乗り込んできた。切腹の場で逃げ惑う殿様を押さえつけた帯刀が請うまま、一刀は帯刀の左腕と殿様の首を一太刀で切断したのだった。藩主には嫡男もなく、掛川藩は取り潰しとなり、その領地は天領となった。その天領に現在代官として君臨している男、猿渡玄蕃(山形勲)こそは元側用人で掛川藩主発狂の秘密を幕府老中(水島道太郎)に漏らした張本人だった。
三浦と酉蔵は玄蕃の暗殺を一刀に依頼し、一刀はこれを引き受けた。ちなみに家老の娘の酉蔵がなんで亡八者の頭をやっているか、というと、それは小池一夫の脚本だから、ということではなく、双子の妹だった酉蔵は産まれてすぐに養女に出されたのだった。姉はすでに殺されたという。

一刀が天領に入ると、すぐに玄蕃が連絡をとってきた。幕府老中を殺してくれ、という玄蕃の頼みを一刀は断る。これはすでに老中が自分を暗殺するよう一刀に依頼済みなのか?と疑った玄蕃(半分正しくて半分間違いなのだが)は配下の手練、左門(和崎俊哉)と六兵衛(草野大吾)に一刀を討つよう命じる。

六兵衛が得意の拳銃の練習をしていると、見知らぬ子供が現れて拍手をする。根が子供好きな六兵衛は、ハッスルしてここぞとばかりに神業的に高度な拳銃技を披露する。ここは三隅監督お得意の(チープな)映像ギミック。子供の姿はいつの間にか消えていたが、六兵衛が川に行ってみると、さっきの子供が溺れていた。これはイカンと拳銃も手にせず子供を助けようと川に飛び込んだ六兵衛は、この子供が拝大五郎であることを知るよしもなかった。罠にかかった六兵衛の前に立ちふさがった一刀は、丸腰の六兵衛を水鴎流胴太貫で赤子の手を捻るように葬った。

ズルイぞ、一刀!子供をダシにして隙を突くとは!しかし「我等親子、冥府魔道を生きる者」だから、許されるのかな?

次に一刀を襲ってきたのは、裏柳生配下の黒鍬衆の残党4名だった。戦いは熾烈を極めたが、ここの殺陣は非常にテンポがいい。黒鍬衆の1人が一刀に抱きつき「今だ、やれ!」と叫ぶのに間髪おかず、残りの黒鍬衆が仲間の体もろとも突いて来る。ここで突然場面が変わるのは、意図的編集なのか、フィルムが切れた上映事故なのかは、わからない。
なにしろ突然画面は馬を駆る左門の映像に変わる。左門が駆けつけた現場には、黒鍬衆の無残な屍骸が血にまみれて打ち捨てられていた。馬で一刀を追った左門は一刀を見つけ、なんとか流と名乗って鋭い居合いで斬りかかるが、一刀はひらりと仮面ライダーのように宙に身を躍らせ、無防備の左門の頭上から脳天に胴太貫を投げつける。居合いで抜刀した刀を鞘に収めかけていた左門は、倒れながらカチンと鯉口を閉めて絶命した。

頼りの六兵衛と左門を失った玄蕃は、領内の丘に一刀を誘い込み、兵力を頼んで一気に決着をつけようとする。しかしここで子連れ狼最終兵器の乳母車が大活躍する。射掛けられた大量の矢を、盾モードになった乳母車で遮断し、鉄砲隊に対しては仕込み機関銃で先手を制する。まるで戦争だ。そしてキレのいい若山富三郎の殺陣が展開。最初は薙刀みたいな柄の長い刀で、途中で柄が二つに折れ二刀流短型薙刀へ、そして胴太貫を抜いてのチャンバラざんまい。ゾンビと戦うミラ・ジョヴォヴィッチもかくや、という凄まじい斬り合いで返り血を全身に浴びながら、一刀は敵軍を撃破し、残るは玄蕃だけとなった。

玄蕃は六兵衛の残した拳銃で一刀を追い詰める。勝利を確信した玄蕃が丸腰のように見える一刀に近づくと、突然一刀は隠し持っていた二挺拳銃を抜いて乱射し、玄蕃を撃ち殺した。なぜ拳銃なのか、という点は時代劇ファンとしては気になるところだが、実は若山富三郎はマカロニ・ウェスタンが大好きで、チャンバラの殺陣に銃を是非取り入れたかったらしい。余談だがあの中村錦之助もガン・マニアで相当な数のモデルガンをコレクションしていた、という話を聞いたことがある。どうもチャンバラ・スター達に、拳銃は特別な意味を持つらしい。(『ボウリング・フォー・コロンバイン』見ました?)

一刀の壮絶な突破を見ていた柳生の手勢(中谷一郎など)は、戦うことなく捨て台詞を吐いて去った。しかし隣国挙母(ころも)藩の渡り徒士だった孫村が現れる。陰流を極めた孫村の挑戦を、一刀は拳銃を捨て胴田貫を手にして、受けて立った。お、いいぞ。この対決が最後に配置されることで、一段と映画は引き締まる。加藤剛は体が硬くて実はチャンバラは二流である、と個人的には思っているのだが、ピタリと動きを止めるときの構えは、それを全然感じさせないぐらい決まっている。細い腕も着物でうまく隠している。

ジリジリと緊張したにらみ合いから激しい攻防が始まる。体重を刀にかけた激しい切り結び。ちょっと若山富三郎が本気になったものだから、一瞬加藤剛は押されるけど、気合のこもった踏み込みで押し返す。引いた一刀は胴太貫を投げて孫村の腹を突き刺し、致命傷を与えた。瀕死の孫村は、自分の過去を話す。かつて主君を守るために道中の刺客達を討った孫村は、駕籠の護衛を離れたことが「武士にあるまじき不忠」とされてクビになってしまった。自分の行為は武士として間違っていたのだろうか?教えてくだされ、拝殿。一刀は「死中に生を見出すことこそ、武士の本分」と孫村の行為を讃える。こういう会話をしている間にも、孫村の傷口からはダラダラと血が流れる。この辺は三隅トーンが快調なのだが、その爆発まではちょっと待て。

これで思い残すことはない、という孫村は一刀に介錯を頼む。介錯のための胴太貫を一刀が孫村の腹から引き抜くと、ブッシャーと迸る鮮血。そして自分の小刀で切腹した孫村の首に向かって振り下ろされる、一刀の胴太貫。ここで、遂に三隅トーンが大爆発!なんとキャメラが孫村の目線になってしまうのだ。クルクルと回りながら空と地面を見て、着地した首が見るのは、己の切り口も生々しい屍骸と傍らに立つ拝一刀の姿。(『鬼が来た!』見ました?)

一件が終わり旅立つ子連れ狼を、岩陰から見ていた酉蔵が追おうとするが、子分に止められる。
「いけません。あれは化け物です。」(完)



物足りないところはいろいろある。今回は裏柳生があんまり出てこないし、特に柳生烈堂が一瞬も姿を現さないのは、約束違反だ。拳銃の達人をまともに迎え撃たず、拳銃を持たせないようにして倒してしまうのも、卑怯。前半は乳首も露な女性のエロチック・シーンが連発するのにそれが物語全体として活きていないのはいかがなものか。
けれども、加藤剛の使い方はよい。おおよそ『子連れ狼』のようなB級作品には、あんまりふさわしくない人だが、逆にそのストイシズムと美学にあふれたキャラクターが、まことに新鮮、かつ作品の格調がちょっと上がった気がする。
--------------------------------------------------------------------------------

時代劇映画感想文集トップへ