いろんな波長で宇宙を調べるのはなぜ?


 夜空を見上げると色々な星が見えますね。星が見えるということはどういうことかというと、星から出た光が遠路はるばる地球へやってきて、その光が私達の目の中に入ってきたということです。つまり、私達は光を通して星や銀河を見ているわけです。それでは、光とは一体なんでしょう?
 
光とは、実は電磁波という波なのです。以下の図を見てもらえれば分かるように、私達が目で見ることのできる普通の光(可視光)は、電磁波のごく一部でしかなく、お肌に悪い紫外線も、テレビのリモコンに使われている赤外線も、レントゲン写真でおなじみのX線も、携帯電話でお世話になっている電波も、全て目に見えないけれども、電磁波の仲間です。

 このように、私達が目で見ることのできる可視光は、電磁波の非常に狭い一部分だということが分かります。これは、地球の大気が可視光を非常に良く通すため、人間の目が進化の過程でその光に対応していったということです。一方、星や銀河は人間様のために光ってくれているわけではないので、可視光で光る筋合いはありません。赤外線でガンガン光ってるかも知れないし、紫外線でバシバシ光っているかもしれません。そんな星は、人間の目には見えない光で光っているので、人間の目には写りません。そこで、紫外線や赤外線で宇宙を見る必要があるのです。ここではまず、天文学にとって特に重要な、X線天文学・可視光天文学・赤外線天文学・電波天文学について、それぞれ紹介しましょう。


X線天文学

X線やγ線で宇宙を見ると、ブラックホールパルサーなどの高エネルギー天体を観測することができます(ブラックホールについては「ブラックホールって本当にあるの?」を、パルサーについては「パルサーって何」を参照)。そのため、しばしば「高エネルギー天文学」とも呼ばれます。
X線やγ線が放出されるメカニズムにはいくつかありますが、いずれも良く知られており、ブラックホールなど観測すれる対象が限定されるため、学問体系として比較的シンプルなものとなっています。
X線は大気を透過しにくいため、大気圏外での衛星による観測が必要です。以下の写真は、NASAのX線天文衛星チャンドラによる、
かに星雲の中心にあるパルサーとその周囲の様子です。


可視光天文学

「可視光天文学」なんて用語は実は聞いたことありません。というのも、つい最近まで天文学は可視光で行うのが当たり前だったからです。ですが、ここでは一応、他との対比のため、このように名前を付けておきます。
可視光は古くから観測できた唯一の波長帯なので、今までの
天文学の知識のほとんどが可視光からの観測からきているといっても過言では無いでしょう。全ての天文学の基盤をなしている最も重要な波長帯です。
可視光は大気の透過率が良いので、地上での観測が可能。そのため、すばる望遠鏡などの大型望遠鏡が地上に数多くあります(すばる望遠鏡については「望遠鏡にはどんな種類があるの?」を参照)
下の写真は、可視光で見た
天の川です(天の川については「天の川って何?」を参照)。


赤外線天文学

夕焼けが赤く見えるのは、青い光は大気によって散乱されてしまうけれども、赤い光は散乱されずに目まで届くからです。このように、赤外線はガス雲の中の可視光では隠されて見えない星を見ることができます。しかし、地球の大気そのものが赤外線で光っているなどの理由から、赤外線観測も大気圏外に出る必要があります。
その他、非常に遠くにあるため赤方偏移によって赤くなってしまった星や、系外惑星など、最近非常に注目されている天体を観測するのに非常に重要な波長であるといえます。
常温の物体は全て赤外線を放射しているため、望遠鏡や観測装置を極限にまで冷やす必要があること、中間赤外線やサブミリ波と呼ばれる波長帯ではまだ精度の良い検出器が無いなどの理由から、精度の良い精度の良い観測が非常に難しく、天文学に残された最後のフロンティアであるともいえます。
下の写真は、ハッブル宇宙望遠鏡でとらえた、オリオン星雲(M42)の中にある
トラペジウムという生まれたばかりの星達です


電波天文学

銀河の細かいところまで詳しく見ようと思えば、大きな望遠鏡を作る必要があります。現在、人類が手にしている最も大きな望遠鏡はKeck望遠鏡で口径が10mです。口径が30〜100mクラスの超大型望遠鏡を作ろうという計画もありますが、なかなか難しいようです。このように、天体観測で精度の良い観測を行おうと思えば、「大きな望遠鏡をつくる」ことが必要なのですが、電波天文学においては、VLBIという特殊な方法を用いて、実質的に大きな望遠鏡を作ることに成功しています。
VLBIとは、非常に離れた2地点で同じ天体を同時に観測し、その信号を特殊な方法で重ね合わせることで、非常に大きな望遠鏡で観測したのと同じ精度を出そうという技術です。したがって、電波観測では非常に細かい部分を詳しく調べるのに適しています。
ちなみに、電波望遠鏡というのは、私達が普通にイメージするような望遠鏡ではではなく、以下のようなパラボナアンテナです。
左下の写真はVLBIの概念図、右下の写真は宇宙科学研究本部(ISAS/JAXA)によって打ち上げられた観測衛星「はるか」を用いたすスペースVLBI「VSOP」による、ブラックホールからのジェットの詳細な様子です。
  



以上では、電磁波による天体観測について見てきましたが、最近は電磁波以外のもので宇宙を調べようという試みも始まっています。最後に、そのような試みを紹介しましょう


ニュートリノ天文学

ニュートリノとは素粒子の一種で、反応性が非常に弱く、どんなものでも突き抜けてしまいます。そのため、どんな検出器でも捕まえることが非常に難しいです。
星からの光は、星の表面から出たものなので、
光の観測では星の内部を知ることはできません。しかし、ニュートリノなら、星の中心でできたものが透過して宇宙空間に抜け出すことが可能なので、星の内部情報を知る手がかりを握っています。
ニュートリノは星の内部で作られるほか、超新星爆発などで大量に作られます。大マゼラン雲で起こった
SN1987Aという超新星爆発からの大量のニュートリノを、以下の写真にある日本のカミオカンデ
、東京大学名誉教授の小柴昌俊氏がノーベル賞を受賞したことで有名になりました。カミオカンデは、神岡鉱山跡を利用して作られた非常に大きな水槽で、この中の水とニュートリノの反応を捕まえるための装置です。


重力波天文学

重力波とは、一般相対性理論によってその存在が予言されており、間接的な存在の証拠はあるのですが、まだ直接観測に成功した例はありません。そのため、重力波検出に向け、色々な努力がなされている所です。未来の天文学は、重力波が主流になっているかもしれません。


 こんな感じで、一言で天体観測といっても、その目的に応じて、色々使い分けているということが分かってもらえたと思います。私達は、電磁波のほんのちょっとの領域でしか世界を見ることができません。ですが、実は目に見えない世界がこの宇宙に広がっている。そう思って夜空を見上げてみると、見えない星も見えるかもしれません。