タイムマシンは作れるの?

 
 「時間とは何であるかは、人から尋ねられるまでは知っているのだが、いざ尋ねられると分からなくなるものである。」というのは、古代ギリシャ時代の神学者アウグスティヌスが『告白』という本の中で述べた言葉です。時間の本質を見事に言い当てている言葉だと思います。
 タイムマシンという夢のマシンは、まだSFやアニメの中だけのもので、タイムマシンを作れるめどなんて全く立っていません。しかし、最近になってようやく
「タイムマシンは実現可能か?」
という事を真剣に考えられるようになってきました。この答えはまだ出ていませんが、両方の立場に立ってそれぞれの考えを紹介していこうと思います。

 タイムマシンが物理の世界で真剣に考えられるようになったのは、キップ・ソーンという物理学者が「タイムマシンは出来る」と発表してからのことでしょう(書籍紹介の『ブラックホールと時空のゆがみ』を参照してください)。彼は、相対性理論の「ウラシマ効果」「ワームホールがあればタイムマシンは作れると考えました。まずはこの考えを紹介しましょう。
 「ウラシマ効果」とは、その名のとおり「浦島太郎」がモデルになっています。まずはこの説明からです。特殊相対性理論によると、
速く動いている人の時間は、止まっている人の時間よりもゆっくり流れます。これは実験的にも確認されている事実です。すると、浦島太郎が玉手箱を開けたような事が起こります。
 話を分かりやすくするために例え話をしましょう。のび太君は、宇宙旅行がしたくなって、ドラえもんに宇宙船を出してもらいました。さすがドラえもんの道具です。この宇宙船はとても性能が良く、光速に非常に近い速度にまで加速できました(相対性理論によると、光速以上の速度を出すことは原理的に不可能なのです)。のび太君を乗せた宇宙船は、光速に限りなく近いスピードで宇宙を飛んで回り、のび太君の時計で1時間後に地球に帰ってきました。するとどうでしょう。のび太君を出迎えた静香ちゃんは30歳のおばさんになっているではありませんか!!そうです。非常に速い速度で動いている人の時間はゆっくりと流れるため、
のび太君の時間は地球にいる静香ちゃんの時間よりゆっくり流れたのです。つまり、静香ちゃんが10年以上の長い時間を体験している間に、のび太君はたった1時間しか経験していないのです。逆に言うと、のび太君が宇宙旅行していた1時間の間に、地球にいる静香ちゃんには10年以上の時間が流れたということです。
 これはでたらめに作り上げた物語ではありません。実際に起こりうる話です。現在の技術ではとてもではありませんが光速に近い速度で走れる乗り物を作ることは出来ませんが、素粒子(原子より小さな粒子)などの実験でこのようなことは実験的にも確かめられています。信じられなくてもそういうものだと受け入れてください。でも、これが事実だとすると、何となくタイムマシンに使えそうな気がしてきますね。どうやって使いましょうか? そこで「ワームホール」の登場です。
 ワームホールとは、時空のゆがみによって2地点間に出来たトンネルのようなものです。といってもなんか良く分かりませんね。でも私たちはワームホールに近いものを知っています。それは
「どこでもドア」
です。とりあえずここでは「ワームホールはどこでもドア」と思ってもらっていてOKです。
 ここで問題になってくるのは「本当にどこでもドアなんて作れるの?」ということです。それは分かりません。出来ないかもしれません。しかし、出来るかもしれません。出来ると考えている学者さんもいっぱいいます。とりあえずここでは、とてもとても科学技術が発展した未来でどこでもドアが作れたとして話を聞いて下さい。

 それでは、どこでもドアを使ってタイムマシンを作ってみましょう
 のび太君は再びさっきの宇宙船で宇宙旅行を計画しました。のび太君は静香ちゃん(小学生!まだ30歳になってません!)を家に招待し、自分の部屋からどこでもドアを使って庭においてあるロケットに乗り込みました。しかし、静香ちゃんは宇宙船に乗るのが怖いということで、2人はどこでもドアを挟んで手をつないでいます(のび太君はロケットの中、静香ちゃんは家の中にいます)。この状態でのび太君を乗せたロケットは出発しました。それでも2人はどこでもドアを挟んで手をつないでいます。そして1時間が過ぎました。その1時間の間に、のび太君を乗せた宇宙船は光速に近いスピードで宇宙を旅し、地球に帰ってきました。のび太君を乗せたロケットは地球到着を告げています。のび太君と静香ちゃんは1時間ずっとどこでもドアを挟んで手をつないでいたのです。静香ちゃんはのび太君が帰ってきたことを確認しようと庭を見ましたが、そこにはロケットはありません(なぜだか分かりますか?答えはこの後すぐ!)。
 時は流れ、静香ちゃんは30歳のおばさんになり、のび太君の家に遊びに行きました。。その時、突然庭にロケットが着陸しました。見覚えのあるロケットです。驚いた静香おばさんは着陸したロケットに乗り込んで中の様子を伺いました。するとそこにはまだ小学生ののび太君がいるではありませんか!しかも、のび太君の目の前にあるどこでもドアの向こうに立っているのは、若かりし日の自分、小学生の静香ちゃんじゃないですか!!静香おばさんは、どこでもドアをくぐって10年前の世界に入って行きました・・・

 この話は理解できましたか?簡単に言うと、のび太君の時間の流れと静香ちゃんの時間の流れをどこでもドアでつなげてしまったのです。のび太君の時計では1年で地球に帰ってきているはずなんだけど、静香ちゃんの時計では、のび太君が出発してから10年以上してやっと地球に帰ってくるんでしたね。そんな二人の時間をどこでもドアでつなげちゃったんですね。きっとドラえもんはどこでもドアを使ってこうやってタイムマシンを作ったのでしょう。

 しかし、タイムマシンは作れないという学者もたくさんいます。その代表は、あの車椅子に乗った天才スティーブン・ホーキングです。彼は、「もしタイムマシンが作れるのなら、今の時代に未来から来た人がいるはずだ」と言っています。分かります?もしあなたがタイムマシンを手に入れたら過去に行きたくなるでしょ。でも、私たちの歴史上、「私は未来から来ました」って人とは一度も会っていないのだから、未来においてタイムマシンは作られていないはずだというのです。なるほど、説得力があります。
 もう一つ、タイムマシンは出来ないという強力な説明があります。それは
「父殺しのパラドックス」というものです。これを説明しましょう。ここでもまたまたのび太君に登場願いましょう。
 のび太君は悪いことをしてしまったため、お父さんにひどく怒られてしまいました。怒られたのび太君は、お父さんに仕返しを考えます。それは、タイムマシンに乗って子供時代のお父さんをいじめてやろうというものです。のび太君は早速タイムマシンでお父さんの子供時代へ行き、そこで子供時代のお父さんと遭遇しました。のび太君は子供時代のお父さんをいじめていましたが、勢いあまって子供時代のお父さんを殺してしまいました。するとどうなるでしょう?お父さんが子供時代に死んでしまったということは、のび太君は生まれてこないという事になります。という事は、お父さんはのび太君に殺されないという事になりますが(だってのび太君は生まれてこないんだから)、お父さんが殺されないのならのび太君は生まれるわけで、そののび太君はお父さんを殺して・・・・ となってしまいます。
矛盾していますね。この世界は自己無矛盾なはずだから、こんなことは起こりえない。という事は、(数学で言う背理法により)タイムマシンは出来ないはずだ!という事になります。というわけだから、みんなもお父さん・お母さんは大切にしましょう

 
のび太君は始めはジャイ子と結婚するはずでした。静香ちゃんは出来杉君と結婚するはずだったのです。でもそれではあまりにものび太君がかわいそうだからという事で未来からドラえもんがやってきました。そのおかげでのび太君はめでたく静香ちゃんと結婚できるようになりました。でも、ちょっと考えてみてください。もともとのび太君とジャイ子との間に生まれるはずだった子供はどうなったのでしょう?この世から消滅してしまったのでしょうか。それってあまりにもかわいそうじゃありませんか?

 こんな話をきいてると、タイムマシンはやっぱりできないのかなぁ、なんて思ってしまいます。しかし、それではあまりにも夢がないので、さいごに、やっぱりタイムマシンは出来るかも、という話で終わらせましょう。
 「タイムマシンが出来る」と言うからには、上に挙げた2つの反論を論破しなければなりません。それを可能にしてくれるのが
「並行宇宙論(多世界解釈)」というものです。
 並行宇宙論とは、その名のとおり、
宇宙が並行して存在するというものです。これは、量子力学波動関数におけるコペンハーゲン解釈に対する別の解釈である「多世界解釈」から導かれます。ってぜんぜん分からないですね。ここでも分かりやすく例えを使いましょう。
 あなたはコイン投げをしています。コインを上に投げ、落ちてきたところを手で隠します。この時、コインは表でしょうか?裏でしょうか?確率は50%です。そこで、手を開いてコインを見てみました。するとコインは表だったとします。この状態では、表である確率は100%で、裏である確率が0%ですね。という事は、
あなたがコインを見たという行為によって、コインが表であるか裏であるかという確率が変化したという事になります。これは、人間の行為(コインを見るという事)が世界(コインの確率)を変えたという事になりませんか?
 量子力学の世界では、こういう事は常に起こっています。人間が観察するたびに量子状態(確率)が変化するのです。でも、なんか納得いかない。「見る」だけで確率が変化するなんて・・・。という事で誕生したのが「多世界解釈」です。多世界解釈によると、
見るという行為によって、宇宙が二つに分裂します
。片方の宇宙ではコインは表で、もう片方の宇宙ではコインは裏になっています。するとめでたく確率は両方50%のままですね。

 え?余計に分かりにくくなった?確かにそんな気がします。量子力学とは原子より小さなものを扱う学問なので、私たちは常に量子を見ていることになります。すると、多世界解釈を量子力学に適用すると、この宇宙は常に分裂し続けていることになります。そんなことはあるはずがない!!と普通は思います。でも、多世界解釈がいけない理由はありません。間違っていると誰も証明できないのです。更に、多世界解釈を適用すると、上に挙げた反論を論破する事が出来て、再びタイムマシンはできるかもしれないという事になります。この事をちょっと考えてみます。

 皆さんは『ドラゴンボール』は知っていますか?私が小学生〜中学生のころに一世を風靡した漫画です。さすがに知ってるよね。復刻版も出てるし。ドラゴンボールの中の世界は、まさに多世界解釈を採用した世界なのです。次の場面を思い出してください。

 フリーザが地球にやってきました。まだ悟空は地球に到着していません。本来ならフリーザは地球で悟空がやっつけるはずでした。しかし、未来から来たトランクスがフリーザをやっつけてしまいました。そしてトランクスは悟空に心臓病の薬を渡します。未来では悟空は心臓病で死んでしまうのです。そのため、人造人間に勝てる戦士がいなくなってしまい、未来は人造人間によってめちゃくちゃに破壊されてしまっているのです。トランクスはそんな未来を変えるために過去にやって来て悟空を助けました。そのおかげで、悟空たちは無事に人造人間を倒すことができ、平和な世界が戻りました。しかし一方、もともとトランクスがいた未来はどうなのでしょう?こちらの世界は変わりません。トランクスが平和な世界を取り戻しましたが、悟空たちは死んだままです。ここに、全く別の歴史が2つ並んで存在します。1つは悟空が心臓病で死んでしまう世界、もう1つはトランクスによって悟空が助けられる世界です。トランクスが過去にやって来て、本来は悟空が倒すはずだったフリーザを倒してしっまた事で、世界が2つに分裂したのです。これはまさに、多世界解釈による並行宇宙ではないですか!
 
多世界解釈を採用すると「父殺しのパラドックス」も解決できます。次郎君は子供時代のお父さんを殺してしまいました。ここで世界が分裂するのです。お父さんが殺されてしまったため、次郎君は生まれません。でもそれは新しく分裂して出来た世界での話であって、もともとあった世界では次郎君は生まれてきます。ドラゴンボールの世界と同じように、「次郎君が生まれてくる世界」と「生まれてこない世界」が並行して存在すると考えれば、何の矛盾もありません。
 また、
多世界解釈によると、この世界にまだ誰も未来から来ていないということも納得できます
。多世界解釈によると、宇宙は常に分裂しているという事は先にお話しました。という事は、宇宙は無数にあるということです。そんな無数の宇宙の中から、私たちが今いるこの宇宙が選ばれる可能性は限りなくゼロに近いはずです。だからこの世界にまだ誰も未来からやってきたいないのです。

 今回は文字ばっかりで大変長くなってしまいました。最後まで読んでくれた人、ありがとうございます。
タイムマシンが出来るか出来ないかという事は、結局のところまだ分かりません。でも、
わからないという事は出来るかもしれないということです。そして、それよりもっと大切なことは、今、私たちはまぎれもなくタイムトラベルをしているということです。私たちは未来に向かってタイムトラベルをしています。そして、少なくとも私たちが生きている間はタイムマシンは出来ないでしょうから、この時間は一度きりの時間です。その一度きりの時間を大切にすごして生きたいものですね。
 あなたはタイムマシンが手に入ったらどの時代に行きたいですか?